後継者

二代目経営者・後継者・跡継ぎはどのように学び、学ばせればいいのか?

親子で会社を引き継ぐ場合、決定的に多いのが親子間のコミュニケーション不足です。
親は、会社をどのようにしたいのか、どのように子供に経営に携わってほしいのか、明確でないことがほとんどです。
子供の方も、自分がどうしたいのか、どういう学びを得たいのかを計画している人はあまりいらっしゃらないようです。

それもそのはずで、そういったステップを教えてくれる人はなかなかいません。
ここでは、どのタイミングで何を学ぶべきかを簡単にまとめてみたいと思います。


私の著書です。

関心を持っていただいた方は、画像をクリック。

親の会社を継ぐ技術

親の会社を継ぐ技術

 

 

 

 

 

 

 

 


「丸投げ」という無責任が横行する背景にあるもの

教育を人に任せることのリスク

冷静に考えれば恐ろしい話ですが、多くの場合、家族経営においては後継者の教育が赤の他人に丸投げされている背景があります。
少しうがった見方かもしれませんが、中小企業庁でさえそれを推奨してるととらえられるような資料さえ目にします。
それはどういう事かというと、
同業他社での経験を積む
という部分です。

確かに、自社以外の組織で働くことで学ぶことはたくさんあります。
いきなり親の会社に勤め始めると、良くない弊害がたくさんあるのも事実です。
しかし、なんの戦略もなく、ただ他社で経験を積ませよう、というのは非常にリスクも高い事なのです。

その趣旨が、双方で明確であればよいのですが、多くの場合は「オヤジに言われたからいった」という後継者の言葉であったり、
「自分の会社では、上手く指導できないので大手で預かっていただいて・・・」という先代の考えは、少し投げやりといわざるを得ないように思います。

なぜならば、後継者に刷り込み(インプリンティング)が起こるからです。

初めに見たものを基本とする習性

「刷り込み(インプリンティング)」という言葉を耳にしたことがありますか?
これは、鳥のヒナなどが生まれて初めて見た動くものを親だと思い込んでしまう、という現象を表したものです。
人間にもこの現象は起こるといわれていますが、一般的には赤ん坊の時期という風に考えられているようです。大人になって、そんなことが起こるのだろうか?と疑問に思う方もいらっしゃるようですが、私の経験上の感覚では大人でもあり得ると考えています。

例えば、初めての社会人を銀行マンとして過ごした友人は、転職した今も銀行での仕事の進め方をベースに今の仕事をしています。
彼だけでなく、どうも初めて覚えた職場の仕事が、その後の仕事の進め方の基準になる傾向は少なからずあるようです。

そういう事実があるという前提に立つと、後継者に家業を始める前にほかの企業に勤めさせるという事は、その企業での仕事の進め方が後継者における仕事の進め方の基本となる可能性が高いと思われます。
当然、学びのためにお世話になった会社と、家業の状況は相当な違いがあるでしょう。
そこで、仕事の進め方の違和感が出始めます。後継者は、「これが正しい」と主張することが、先代にとっては「ウチのやり方に従え」となって確執の火種にもなりがちです。

社外での修行自体は、私も基本的には賛成です。
後継者の立場に立つならば、出来る事なら同業他社よりも異業種を見たほうが良いでしょう。
しかし、その背景にはデメリットもあることも重々承知しておかなければなりません。

教育は会社の根幹をなす

社外での学びの良しあしを検討する前に、最も重要なことは、教育こそ会社の根幹をなすものという認識を十分持たなければなりません。
様々な業界で、はびこっているのが

実務を教えるために社外に出す

というパターン。
これは、非常に多いのですが、実務や業務知識を他の会社で学ぶって、私はちょっとおかしいと思うのです。

例えば、私は保険の販売会社を持っています。
保険は同じ保険会社の同じ商品であれば、どこで買ってもお客様にしてみれば同じ商品です。
簡単に考えれば、メーカーである保険会社にその知識を教えてもらえばいいはずなのですが、これが全く大きな間違いであることに気付きました。
なぜかというと、保険会社は保険を売るための情報を教えます。
保険会社は売りたい商品の情報を教えます。

我々が常日頃接するお客様の視点とは全く違うのです。

同じ商品でさえ、立場が変われば教え方も変わります。
ここにこそ、自社のポリシーがあるはずなのに、それを安易に人にゆだねることはかなり危険といわざるを得ません。

「そんな余裕がない」という価値観

教育を人に任せることのリスクを訴えたとしても、多くの方はやはり易きに流れます。
その時の常とう句は「余裕がないから仕方がない」という事です。
これは、裏を返せば優先順位が低い、という事にほかなりません。
この感覚が後に、先代と二代目の確執につながる感覚の違いでもあるのですが・・・

後継者の学習プランニング

自分のことは自分で考えよう

多くの場合、先代は教育という事を高い優先順位でとらえているわけではないケースが多いといえます。
であれば、後継者は自分で学ぶべきことを計画していかなければいけません。
では、後継者は何を学ぶべきなのでしょうか?後継者が不安に感じることとして、

  • お客様の継承について
  • 会社の経理について

といったことが比較的多いかと思います。

お客様の継承については、座学で学べるものでもありませんので経験とともにその不安は解消していきます。
会社の経理については、資金繰りなどの手法について知ることは大事かもしれませんが、決算書などは読めない社長が大半です。
いつでも取り戻すことが可能です。

では、何を学ぶべきなのでしょうか。
私の私見ではありますが、経営センスを磨く、という事です。

センスを磨くといっても、なんともぴんと来ないところがあるかと思いますが、センスはその分野に関する情報を大量に処理することで磨かれます。
身もふたもない表現になってしまいますが、経験を積む、という事になってしまいます。

現場での学び

そうなると、後継者の学びはどうやら机に座って講師の話を聞くようなものではないように思えます。
もちろん、きちんと勉強することは無駄ではありませんが、そこで学んだことが実際の会社の中でどう機能するかを体験するのが最も重要です。
経験を通じて学ぶことをまずは意識してみてください。
では、次の章で後継者の成長段階別の学びのコツを簡単にご紹介しましょう。

後継者の学びのステージ

現場を知るステージ(期間:3年~5年)

まずは、自分が引き継ぐ会社の実態を知る必要があります。財務諸表を分析するのもいいですが、まずは最前線の現場での経験があったほうが良いでしょう。
古参社員とともに、汗をかき、今会社が何をどのようにやっているのかを体で体験します。
大企業の御曹司の場合、現場を飛ばして海外でMBAを取得し、いきなりマネジメントにかかわるケースもあるようですが、中小企業でそれは少し問題があるケースが多いように思います。
顧客との距離が近いのが中小企業の強みです。現場で製造や営業を経験してください。

この事にはもう一つの意味があります。古参社員とともに汗をかくことで、一定の人間関係を築きます。このことは、後継者が社長になったとき、良い影響を与えてくれるでしょう。

注意しなければいけないことが二つあります。
一つは、周囲はあなたを特別扱いしようとします。そこに胡坐をかくのではなく、新米としての立場をわきまえた言動を行ってください。作業の改善提案なども、様子を見ながら少しずつ行ってください。
もう一つは、作業は新米として行う一方、第三者的視点で業務をしっかり見定めてください。その時重要なのは顧客視点です。
多くの場合、業界、会社ごとに根拠のないルールや規律があるものです。それは往々にして顧客視点から出たものではありません。そういった「おかしな点」をきちんとリストアップしてください。現場で起こる不都合や、顧客の要望とのギャップを知ることで、のちの経営に大きくいかせることが可能です。

マネジメントを知るステージ(期間:5年~10年)

このタイミングで、後継者は中間管理職的位置づけになるケースが多いでしょう。その時に「俺は部長だから」といった上から目線になってしまうケースがありますが、これは危険です。
部下を「強制力」でマネジメントするというより、部下のやる気や思いを引き出すことを常に意識してみてください。言ってみれば現場と経営層のパイプ役という形になることができれば理想的かもしれません。
この時期は、様々なビジネスノウハウやマネジメントスキルを一生懸命学んでいく時期です。セミナーに参加するのもよいですが、書籍などは貪欲に読んでいただくのが良いでしょう。
ビジネスセミナーのいい点は、前向きな経営者仲間と出会えるところにあります。
しかし、よくあるのは、セミナーばかり参加して二代目が社内いない、となると社内の分裂を加速しかねません。
このバランスが非常に重要で、常に会社にいなさい、とは言いませんが会社への関心を常に持っていただく努力が必要です。
セミナーであれ、書籍であれ、情報にたくさん触れることで、センスを磨いていくとともに、現場を知るステージでみつけた「おかしな点」を上手く作り変えるアイデアに触れられる機会が訪れる可能性が高いと思います。

この時期、徐々に先代との衝突が表面化しがちになります。先代の方針に疑問を呈し、そのことで議論になることも少なからずある時期といえます。
コミュニケーションが全く取れなくなってしまうと問題なので、定期的にコミュニケーションをとる機会を持てると理想的です。
この時期に、先代の居場所を検討する必要があります。それは会社を追い出すといったことではなく、先代がその技能を発揮できて専念できる場所を考えるという事になります。

可能であれば、先代の引退のストーリーを大まかにでも描いておけるとよいでしょう。もちろん本人の意思もありますが、その時に株やお金を動かす必要性が出てきます。
この時期にある程度話し合いができれば理想的です。(但し、残念ながら先代はそういった話に協力的ではないことが多々あります。その際には、無理強いするよりチャンスを待つほうが賢明でしょう。)

経営を知るステージ

恐らく、全段階で概ね、自分の進みたい先を見つけ始めているのではないでしょうか?
見つかっていなくとも、個々である程度の方向感を仮にでも作っておくのが良いでしょう。
そこでは、会社の規模の目標や売り上げ目標だけでなく、どういった事で会社が社会に(良い)影響を与えていくか?という視点を持つとよいと思われます。
今の会社の業態はいったん忘れて、今あるリソースで社会にどんな提案ができるか?という観点でビジョンを練り上げていきます。

その際には、以前のこの記事なども参考にしていただけるとよいかもしれません。→平面視点に高さを加えると生まれるもの~後継者にお勧めの立体思考

一旦、出来る出来ないはさておき、大きなビジョンを描き、それを具体化する方法を一つ一つ解決していく方法を考えていきます。
様々な雑務に忙殺する時期でもありますが、その仕事の整理も重要です。
あなたの時給に見合わない仕事は、すべて別の社員に引き渡せないか?外注化できないか?を考えていきます。

また、そろそろ自分の引退後のことも考え始めなければならない時期が近づいてきています。
自分がいなくなった時のことを常に念頭に置きながら経営のかじを切っていくことが重要でしょう。

自分プロデュース

こう考えていくと、後継者は自らをプロデュースする能力が必要となりそうです。
どの様な自分をどのタイミングで見せ、どのような情報と接する環境をどのタイミングで作るのか。
これは、学校のように体系化されたものではないだけに、自由な発想と自分の直感を信じて進めるしかありません。

後継者塾のようなものも随分ありますが、選択には注意を要します。
座学でできるレベルの勉強なら、いつでもできますが、経験を伴った学びはいつでもできるものではありません。
そういった事を意識しつつ、順序立てて経験値を上げて頂きたいと思います。


私の著書です。

関心を持っていただいた方は、画像をクリック。

親の会社を継ぐ技術

親の会社を継ぐ技術

 

 

 

 

 

 

 

 


関連記事

  1. 後継者に失敗は許されない!?~完璧を求められた先にあるもの

  2. 後継者・二代目社長が感情に溺れるとき

  3. 二代目社長は「白黒つけようとしてはいけない」!?

  4. いつもとの違いを振り返ってみよう

  5. 「24時間働けますか?」時代と、「断捨離」時代

  6. 後継者の事業改革では「すでに起こった未来」を検討してみよう!

  7. コロナ禍において後継者が考えたいもう一つの問題

  8. 派手なビジネス、地味なビジネス

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。