あるお客様は、相当な不動産をお持ちで、そこから得た収入で生活はまかなわれています。
生活費をまかなうどころではなく、かなり贅沢ができる不労所得があります。
しかし、生活は質素で、しかも、普通にサラリーマンをしていたりします。
正直なところ、私には理解できなかったので、ぶしつけにもストレートに質問してみました。
なぜ、わざわざサラリーマンなんてされてるんですか?
ここに、働くモチベーションのヒントが隠されているのではないかと思ったのです。
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そのお金持ちは、私の問いにこんな風に答えました。
「働いてないと、人生が薄っぺらくなるからですよ」
私はてっきり、働きもせずブラブラしていたら、近所の心証が良くないから仕方なく、なんていう返事が来ると思っていました。
しかし、その方は働くのはけっこういい、と言います。
実は一時期、その人も、仕事をほとんど持たなかった期間があったそうです。
そうすると、時間のみならずお金もあるので、遊ぼうと思えば遊べます。
けど、それもだんだんと飽きてくる。
次第に朝起きたとき、今日やることがないと、言いようのない不安を感じたと言います。
その不安を埋めるために、そんなに楽しいと思わない予定を入れて、出かけてみる。
ブラブラ遊ぶと言っても、1年もするとすっかり何もかもがマンネリ化をしてきます。
すると、二つに分かれるそうです。
ひたすら刺激を求めて、わけのわからない遊びに手を出す人と、
何かしら夢中に打ち込めることを探す人に。
そして、その手っ取り早い選択の一つが仕事だ、と言います。
逆に、仕事となると、逃げられないことも多かったり、制約も多いと思います。
それでもいいのか?と聞くと、それがあるからそこそこ充実感があるのだと言います。
働く必要のない人は、ある程度逃げられない環境に自分を置くことで、人生に厚みを持たせているようです。
多くの後継者のスタートは恐らく逆じゃないでしょうか。
自分で選択する前に、親の会社を継ぐという選択肢が割と大きく目の前に提示されていて、他の選択は選びにくかった。
この時点で制約を感じるわけですが、会社に入ってからも何かと親の干渉やら、社員との軋轢やらがあったりするとさらなる制約が覆いかぶさってきます。
後継者の立場からすると、この制約やら逃げられない状況があるからこそ、ストレスフルであり、モチベーションがわかない可能性がかなりあると思います。
しかし、制約も自由もある資産家があえてそういった世界に飛び込むのも不思議な話です。
後継者である私たちは、働かないとか、負荷がかからない状況を経験していないからそれにあこがれるのも無理もありません。
ただ私自身、たとえば盆休みや正月休みでそこそこ長い休みがあると、レジャーの予定があればまだいいのですがそうでなければ退屈してしまいそうです。
なんだか変化の少ない日々を経験すると、それはそれでがっかりしてしまうかもしれません。
だから働く必要のないほどのお金持ちは、もっと、もっとと、刺激を求めて損でもない世界に行ってしまうのかもしれません。
さて、この辺りの心の動きを解き明かした心理学者がいます。
ミハイ・チクセントミハイ博士です。
彼は、幸福の研究を生涯をかけて行った人で、多くの人に「どんな時に幸せを感じるか?」とインタビューして回りました。
その結果、時間も忘れて没頭するときに、持続する満足感を感じる事を発見し、それをフロー状態と名付けました。
そんな彼が、フローに至るにはどうすればいいかを研究した結果、このようなチャートを創り出しました。
これを「お金持ち」の例をもとに解説すると、こんな感じでしょうか。
お金があるからブラブラしていたとき、当然スキルレベルは低いと言えるでしょう。
もちろん、挑戦レベルも低いわけです。
結果として、彼は『無感動』な状態を味わっていました。
そこから抜け出すために、仕事を始めました。
はじめのころは、スキルレベルが低いうえに、挑戦レベルが高めでしたので、心の中には『不安』や『心配』が去来したでしょう。
しかし、次第にスキルレベルが上がり、『覚醒』を体験します。
ちょうど仕事が楽しくなってくる状態と言えると思います。
では、一般的な後継者はどうでしょうか?
たぶん、親の会社に入ったところでは、スキルレベルが低く、挑戦レベルが高い『心配』『不安』モードだと思います。
ここからスキルレベルが上がっていくわけですが、すると『覚醒』を体験します。
そこそこ仕事を覚えて、良い感じのときかもしれません。
さて、ここで、この場にとどまっていると、スキルが高まるに従い、心は『退屈』モードに入ってしまいます。
この時期に、「自由にブラブラしたい」と心では思っていても、やはり『退屈』からは逃れられません。
だから、長期休暇などでは仕事が恋しくなったりもします。
つまり、今の環境を抜けたからと言って、心を充足させられるかどうかはアヤシイと思います。
一方、単なる実務者から、経営を意識し始めた瞬間、経営スキルという意味では振出しの低い状態に戻り、『不安』につつまれます。
これが後継者がよく訴える、「将来の不安」にあたるのでしょう。
これも自分の能力の高まりを自覚できるようになれば、『覚醒』そして『フロー』へと続く可能性が高いと思います。
恐らくですが、多くの人が自分の人生に求めていることは、「幸せ」ではないかと思います。
その幸せ≒フローという事が仮に成り立つとしたら、そこに向かう道は割とはっきりしています。
それは常に挑戦し続けること。
別に、エベレストにのぼれとか、大食い世界一になれとか、そういう話ではなく、今の自分にとって少し難しいことにチャレンジするという事です。
そして、やっていればスキルが上がりますし、スキルが上がればさらに上を目指す。
よく、「何もないことが幸せ」という話がありますが、それはどうも限定的かもしれません。
そしてそこに向かうコツは非常にシンプルです。
いつもはやらないことに手を出してみる。
今までやったことのないことをやってみる。
この程度で十分だと思います。
さて、話を元に戻しましょう。
後継者としてモチベーションがわかないという話。
ある側面においては、制約があったり、強制があるからモチベーションがわかないという考え方も成り立つと思います。
しかしそれを少し捉え直して、制約や強制をすり抜けて自己実現を行うというちょっと難易度をあげたゲームと考えると、挑戦レベルが上がり、フローに近づきそうです。
いつもより少し難易度の高いステージ、クリアにむけて歩んでみてはいかがでしょうか?
後継者のカタリ場
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