大塚家具問題にみる事業承継の難しさ

父娘の対決、といった雰囲気で報道される大塚家具。
今現在(2018年8月5日)の報道では、会社の売却や他社への支援要請が出されているようです。
これほど大きな企業でなくとも、近年事業承継対策としてのM&Aは当たり前のように行われています。
しかし、その目的は果たしてどこにあるのでしょうか。

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悪者探しに意味はない

悪いのは娘いじめの父か?娘の戦略か?

この問題が論じられるとき、よくあるのは「娘である久美子社長」派と、「父である勝久」派にわかれて意見が交わされるシーン。
やれ、久美子社長の戦略が悪いとか、器じゃないとか。
やれ、勝久氏のふるまいがおかしいとか、娘いじめだとか。
それぞれの主張はあると思います。
しかし、もし、本当の想いが、「大塚家具という会社を未来に残したい」という前提に立ち返ったとしたとき、どっちが正しかろうが誤りだろうが、悪者探しに意味はありません。
勝久派のいうことも正しいかもしれないし、久美子派のいうことも正しいかもしれない。
どちらが正しかろうが、結果として会社存続の危機という現状があるなら、その善悪を論じることにあまり意味は感じられません。

会社を残すための行動をしたのか?

事業承継を、会社の「魂」を未来に残すこと、と考えたとき重要なのはそのための努力をしたかどうかです。
戦略は当たるときもあれば、当たらない時もある。
そもそもあれだけのバトルでブランドイメージを毀損してしまったら、何をやっても当面は厳しい状況はあってあたりまえでしょう。

今回の大塚家具の事例は、あるおとぎ話を思い出させます。
一人の子どもをめぐって、二人の「私が母よ」と主張する女性が現れる話です。
二人の女性は子供を引っ張りあい、子どもは痛いと泣き叫ぶ。
けっきょく先に手放したのは、子どもへの愛を持った本当の母親だったという話。

大塚家具のケースもまた、会社が痛いと泣き叫ぶ中、父と娘が会社を引っ張りあってどちらも手を放さなかった。
もはや意地の張り合いであって、会社のことを第一に考えない振る舞いが事態をここまで複雑にした感は否めません。
消費者の目は、どうやら二人とも「本当の母親」ではなかった、という判断を下したようです。
結果として、離れた顧客の心は帰ってこなかった様子。

つまり、どちらも会社を存続させるための貢献というよりも、会社を窮地に追い込む行為をお互いが繰り広げていた現実があったのではないでしょうか。

会社の「魂」を残す

そもそも事業承継で何を引き継ぐのか?

事業承継においては、多くの場合その本来的な目的を見失うことがあります。
ある一面においては、モノや社員、顧客を守るという観点があります。
そしてもう一つは、会社が目指す価値や世界を継続して提供するという観点もあるでしょう。

たいていは前者が優先されます。
結果として、企業の売買が一つの解決手段と認知されている要因だと思います。
とはいえ、企業が売られてしまえば、買収前の会社なのか?というとはなはだアヤシイことが多い。
つまり、取りあえず形式は整えたよ、という言い訳はできる。
ただ、数年後この会社は別物になるかもしれないけど・・・、という感じですね。

それは会社が世の中での役目を終えたことに他ならないわけです。
そうならないための事業承継だと思うので、私はM&Aは仕方なく選択する道だと思っています。
後継者がいなくて仕方なくこういった道を選ぶわけです。

もし、そんなわりきりをするなら、誰かが会社を継ぐ必要なんてはなからないわけです。
大塚家具においても、結果から振り返ると、父娘でバトルをする必要はまったくなかったようにも思えます。

往々にして行われる事業承継を失敗させる行動

大塚家具問題は非常に象徴的なのですが、ドライに考えると結果として双方は事業承継を失敗に導く行動をしていたわけです。
勝久氏は、大きな気持ちで久美子社長を見守れば、もっと代替わりはスムーズだったでしょう。
久美子社長もまた、あれほどまでに勝久氏を痛めつけなくともできたことはあるんじゃないかと思います。
あれほどの激戦を交えた結果、会社のブランドの毀損を招くことは恐らく当事者である二人は十分認識していたのではないかと思います。
それでもなお、久美子社長は一刻も早く勝久氏を追い出さなければならない。
勝久氏は、自分の立場を危うくする久美子社長を叩きのめさなければならない。
そんな思いに駆られていたような気がします。

はじめは「会社のために」行われた行動だったと思います。
しかし最終的には、双方の生存競争となってしまった。
あれほどまでの血みどろの戦いを見せられた後は、久美子社社長であっても勝久氏であっても結果は大して変わりがなかったのではないでしょうか。
いえ、あるいは勝久氏なら何もなかったかのように大手取引先に取引を強要させ、もう少し会社を持たせることができたかもしれません。
しかし年齢を考えれば、そのやり方を継続している以上は、会社に未来はありません。

件のおとぎ話では、二人の母親が子供の手を離さなければ、子供の手は抜けてしまったでしょう。
今回のケースは、会社の手をお互いが最後まではなそうとしなかったことが最大の原因だと思います。
つまり、二人は、当初会社のために始めた戦争が、いつしか自分のための戦争にさし変わってしまっていたということなのでしょう。

やり方はいくらでもあった

ここで「たら」「れば」の話をするのもどうかとは思いますが、やり方はほかにもあったはずです。
誰でも思いつきそうなのが、コンフォートブランドの新設をすれば従来の大塚家具のビジネスモデルを崩さない前提で、パイロット店舗を作ることができた。
また、社内でのビジネスモデルのプレゼン、顧客を交えてのさまざまなヒアリングを行うことで、丁寧にビジネスモデルを作っていくことだってできた。
とどめを刺す前に、その権利を持つ交渉はできない話ではなかったと思います。
しかし、あの現場ではそんなことは我慢がならなかったのでしょう。
お互いのマウンティング合戦になってしまったのですから。

事業承継において技術的なことより大事なこと

有能な専門家ができなかったこと

今回のケースでは、プロキシーファイトなどを含めて恐らく相当能力の高い専門家が双方に関わっている事でしょう。
彼らの取り巻きは、それぞれが「勝つ」ために活躍し、結果を残した。
しかし、会社の「魂」を残すためのアドバイスをした人がいたようには思えません。

専門家は当事者の意志を力に変え、増幅する力を持っています。
そう考えたとき、そもそも当事者である父娘にどんな「意志」があったのかが重要になります。
双方が、「何が何でも会社は父(娘)にはわたさない」という意志が根底にあれば、会社を破壊しながらでもその権利を奪取しようとするわけです。

つまりこのケースも、専門家は正しく機能し、双方の意志に忠実だった。
しかし双方の意志は、会社を大事に育てていくというところから、ズレていっていた、というのが今回の事件の中心にあるのではないでしょうか。
今回の事業の売却が成立すれば、久美子社長は父からの呪いをとくきっかけにはなるでしょう。
ただし、劣等感や罪悪感はそれで癒されることはないような気もします。

あなたの「意志」はどこにある?

さて、ここで考えてほしいことがあります。
本稿の読者は、事業承継の真っただ中にいる後継者が中心だと想定しています。
そこで、あなたにもう一度問い直してほしい問いがあります。
それは「あなたは、この事業承継で何を望んでいるのか?」ということです。

会社というのは法律で囲まれた見えない枠組みです。
会社がもつ資産は、そこに紐づけられた物質。
顧客は契約に基づいて会社とつながる消費者。
そして社員は、会社と契約して会社に労働を提供する人たちです。

形式的に解せば、それ以上でも以下でもない。

しかし、会社の資産は場合によってはあなたの想いを加速してくれることもある。
顧客はあなたの会社のファンでいてくれるかもしれない。
そして社員は、あなたと同じ夢を見る仲間となるかもしれない人たち。

これらを使って、実現したいことは何だろう。
先代との関係をあれこれ考える前に、指し示す未来を明確にする必要があります。
実は会社を継ぐというのは、会社の中に培われた見えない「魂」のようなものを存続させることだと私は考えています。
それがなくなるなら、それを事業承継というのはどうかと思いますし、それが存続するなら形態はどんな形でもいいんじゃないかと思います。
輪廻転生があるとすれば、魂は身体を乗り換えて生き続けるといいます。
会社の事業承継もまた、そういった輪廻転生に近い考え方がしっくりくるのではないでしょうか。
会社なんて所詮肉体のようなもの。
形はどうであれ、魂が存続すれば、それはその会社そのものです。

 

冒頭にこう書きました。

ある一面においては、モノや社員、顧客を守るという観点があります。
そしてもう一つは、会社が目指す価値や世界を継続して提供するという観点もあるでしょう。

前者が形式的な事業承継だとすると、本質的な事業承継は後者にあるのではないかと思います。
伝統の技を継承するのは、技法そのものではなくその心。

だからこのブログのタイトルは、「親と子の”心”をつなぐ事業承継」なのです。

さて、あなたの事業承継は、何を引き継ぎ、何を残しますか?

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