後継者

私たちは常に言い訳を探している ~後継者が使いたい魔法の問い~

ある友人が青い顔をしてぼそりと告白しました。
「子供が、この春から大手銀行に勤めることになってしまって・・・」
一昔前なら自慢話か!?と思える話ですが、
彼の深刻さは単なるジェスチャーではなさそうです。

「私は間違っていたのかもしれない」

がっくりと肩をうなだれながら、こうつぶやきました。

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あまりお子さんのことを話したことはなかったのですが、
彼はお子さんの教育に対して非常に熱心だったようです。
いい学校を出て、いい会社に就職せよ。
常にお子さんにはそう言い聞かせてきたといいます。

その背景には、自分自身の苦労物語があったようです。
一流とは呼べない地方の大学を卒業し、
就職先はある製造業の会社。
しかし、その会社は業績不振から吸収合併され、
はじき出されるようにリストラされる。
その後、何とか中小企業で職を得るも、ここもまた倒産の憂き目にあう。
最後にたどり着いたベンチャー企業でいま、一生懸命頑張っています。

この苦労は、自分の学歴に問題があったからだ、と彼は考えたそうです。
だから子供には惜しみない教育を、と、有名大学を卒業させ、
大手金融機関への就職が決まった。
そんな矢先に、その金融機関では大量の人員削減計画が発表されました。
学歴を積み重ね、有名企業に就職させれば生涯安泰。
そう考えていた彼は、目の前でその価値観が崩壊するのを呆然と見ている事しかできなかった。

 

言うまでもなく、30年前なら大手金融機関と言えば勝ち組就職先でしょう。
私の学生時代もそういった就職先さえ確保できれば、
少なくとも収入に関して困ることはない。
そんな”常識”を持っていました。
しかし、それは今や打ち砕かれつつあります。

 

ちょうど、現在30歳代~50歳代前半に差し掛かる我々はそんな時代のはざまに育った世代です。
私たちの親世代においては、有名企業に就職することが人生を豊かにする最短距離でした。
そのためには学歴が必要で、し烈な受験戦争をかいくぐってきた世代でしょう。
そして仕事の現場で経験を積み、そろそろ責任ある地位につくころ。
こんなタイミングではしごを外されたかのように価値観が変わる。
そんな経験を私たちはしています。

 

ある同業者が集まる団体での研修会ではこんなことがありました。
彼らは保険の販売会社を経営している面々です。
当然、メーカーである保険会社は「ぜひ私たちの商品をたくさん売ってください」と言います。
しかし、最近はトーンが変わり始めています。
「ほかのことにはわき目も降らず、保険だけのことを考えてください」
と言っていたのがこれまで当たり前の風景でした。
しかし、その研修会において、保険会社の人は全く違う話をされました。
「これからの時代、保険だけを扱っていてもお客様の信頼を得られません。新たなサービスを皆さん自身で作り上げてください」
要約すると、そんな主張に変わり始めています。

その話を聞いて、ある経営者は呆然としていました。
「今まで、保険会社を信じてついてきたのに」
そんな風にうわごとのようにつぶやく販売会社の社長。
彼は保険会社を責めますが、保険会社だってそんなことは言いたくないはずです。
しかし、社会は変わってしまったのだからしょうがない。
これを隠すことなく話をしたのは、保険会社の善意と解釈するのが正しいのではないでしょうか。

 

私たちは、親から植え付けられた価値観に縛られています。
これから先、学歴がどの程度の意味をなすかは想像するしかありませんが、
少なくとも高学歴で有名企業へ就職することが幸せのパスポートということはもはや幻想でしかないというのは、多くの人の一致した意見ではないでしょうか。
しかし、それでも親は子供に学歴を求めます。
一度染みついた価値観はなかなかぬぐうことは難しいのです。

件の保険の販売会社の社長も、その時は一定の衝撃を受けたものの、
一夜明ければ昨日と同じ仕事を続けている事でしょう。
現場に戻れば、長年身体に染みついた価値観から抜け出すことは難しい。

 

さて、私たち後継者世代は、がっつり凝り固まった先代の価値観を引きずりがちです。
自分達の頭の中にも、先代世代の価値観がこびりついている世代です。
目の前に広がる世界は、明らかに変わっているはずです。
なのに、過去の価値観を持ち続けていたほうが安心なのです。
しかし、安心感があるからと言って、それがあなたにとって正しい道とは限りません。
冒頭の友人は、
「子どもをユートピアにいざなったつもりが、そこは戦場だった」
という状態だと表現していました。

 

ところで、友人の話には「子ども」の意志が出てきません。
保険の販売会社の話においても「呆然とする経営者」の意志の話もありません。
彼ら当事者が何をどう考えているかは、このエピソードから読み取ることは残念ながらできない。
しかし、このように価値観が大きく変わる中、その変化を他人の情報に頼るのは相当危険です。
ユートピアにいざなおうとした親も、保険販売会社のビジネスの発展のために情報提供した保険会社も、悪気があってやるわけではありません。
彼らは彼らなりに、その時々に”自分の考え”における最適であろう解を提示していると思います。
けど、それはその人の解であってあなたの解ではない。
なのにそこに吸い寄せられてしまうのは、「他人の意見で失敗したなら、自分のせいではない」という言い訳ができるからです。
言い訳できても、状況がよくなるわけではないんですけどね。

その行動パターンに気づいていない人は意外と多いものです。
かくいう私だって自分のことはわかっていないことも多いぐらいですから。
なにかを後悔することがあったとすれば、はしごを外されたと感じたら、それは気づきを得るとても重要な機会です。
そんな時に、「なぜ、後悔するのか」「なぜ、はしごを外されたと感じるのか」と問うてみる癖をつけることをお勧めします。
「なぜ?」という質問は、私たちの凝り固まった固定観念を打ち砕く魔法の問いです。

 

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