古くから知る二代目経営者からの突然の電話。
通話ボタンを押すと、唐突にこんな問いかけをされました。
「田村さんの会社はどんな価値を提供しようとしていますか?」
彼は、仕事に対しては生真面目。
とにかく目標を定めて、そこに一直線。
そんな後継社長が、ふと、自分のやっている事に疑問を感じたようなのです。
それは、もっとも社歴の浅い社員の一言がきっかけでした。
私の著書です。
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売り上げ目標を掲げ、地域の○%のシェアをとろう。
そんな目標に向け、一歩、また一歩とまい進する後継経営者。
先代を亡くした後、先代の想いに報いるためにも自分の会社をより大きくすること。
どうやら、これがその後継経営者が自身に課した責務のようでした。
その歩みは時に問題を抱えつつも、順調に前に進んでいるかのように見えました。
様々な策を講じ、量的拡大に突き進む。
自分の見た目標にただひたすら努力をする。
なんとも美しい姿です。
しかし、そんななかで胸につかえる何かがあったようです。
ふと一人で考え事をしているときに浮かぶ思い。
このままでいいのだろうか・・・。
とはいえ、日々の動きは待ったなし。
そんな思いをかき消し、また量的拡大に走り出す。
色んな雑念を振り切り、走り続ける彼にある問いが発せられました。
その主は、社歴の最も短い女子社員。
「社長。私たち、数字だけを追いかけていていいんでしょうか」
この言葉に一瞬彼は背筋にゾクッとする感覚が走った。
数字のゲームの先にはゴールがない事に、自分でもうすうす感じていたのでしょう。
その女子社員は言います。
「私たちの軸って、どこに持てばいいのでしょうか」
その女子社員は、自分の勤める会社の存在意義を問いかけていました。
売上としての数字が10億、100億になって、何が変わるのだろうか、と。
そこに対する返答に、後継社長である彼は言葉に詰まったといいます。
彼は、どこかしっくりこない後継社長自身の胸の内を言い当てられたようでどんよりと考え込みました。
そこで、私に電話をしてきたようなのです。
彼は、自分なりに考えたメリットがあります。
地域のシェアを一定程度取得することにより、社員も働きたい会社になり、顧客にもそれなりの力を示すことができる会社になれる。
だから、数字が必要なのだ、と。
しかし、その考えにもしかしたらどこかしら疑問も感じていたのかもしれません。
じゃあ、どうすればいいのでしょう。
私は、企業というものは、社会の中で持つべき役割というのがあるんじゃないか、と思っています。
世の中の困りごとを解決する商品をつくったら、それを広める事が世の中を良くしていく行為になります。
起業家と言われる人は、肉食系でガツガツ営業するわけですが、それはそれで受け入れられる。
なぜならば、世の中が必要としている商品やサービスだからです。
しかし、そんな商品もある程度いきわたると、広めることが世の中の役割とは言い切れなくなります。
お客さまも「もうそんな話はいいよ」と門前払いする。
だから値段を安くしたり、あの手この手を使わなければ売れなくなる。
しばらくの間はお客さんも、安くなってラッキーなんて思っているわけですが、その時点ではその商品を「欲しい」と思うステージは終わっているわけです。
しょうがないから買う。
この時に、企業として、「その商品を広めるのが役割だ」と思い込んでると、お客さまからすれば迷惑になるわけです。
広めるステージの次に、改良し、安くなり、というステップをたどるとその頃には次の波がやってきます。
このスパンは、急成長した産業は短く、じわじわと広がった産業は長くなります。
つまり、伝統的な産業ほど、じわじわと普及してきた一方、不要となるのもじわじわとくる。
これが厄介で、動きが緩慢だから世間の変化を読みにくいのです。
この段階で直線的な量的拡大を志してしまうと、社会とのギャップを感じ始める事が起こり始めます。
本来、経済の低成長期に量的拡大を行い、間接費を増やさざるを得ないというのは微妙な選択です。
それが売れまくっている商品ならともかく、売るのに苦労する商品であればなおさらです。
もちろん、会社としての成長は止めてはいけないのですが、単なる営業努力での売上アップは危険と言えるかもしれません。
もしかしたら、その女子社員は、その事を敏感に感じ取ったのかもしれません。
今私たちは岐路に立っているように思います。
これまでは、会社の目的は、自分たちがもっている商品を普及させ、大量に供給することが大事でした。
しかし、いまや違った価値を提供する必要が出てきています。
それは、商品の利便性のその先にある、顧客の成功。
顧客が望んだあるべき姿に近づくためにサポートするのが我々の役目であり、商品やサービスはその手段です。
するとおのずと仕事の仕方、営業のやり方は変わってきます。
なにより、社員のモチベーションの持ち方も変わるはずです。
伝統的な会社を営むばあい、社内の価値観を根底から見直す必要が出てきます。
そのリーダーシップを誰がとるのか。
恐らく、それこそが後継者の役割でしょう。
私たちは、会社からでも、先代からでもなく、社会から求められてこの立場にいるのではないかと思うのです。
自分視点から、相手視点へ。
この切り替えから、後継者の未来が始まります。
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