マーケティング部門と、セールス部門は仲が悪いといいます。
なぜなら、マーケティング部門は、未来の数字を作る仕事。
セールス部門は、今の仕事を作る仕事だからです。
もう少し詳しく考えてみます。
マーケティングを「貴方の商品を買いたい、というお客様を集める」事だと定義したとき、
それは、今すぐできる事ではありません。
綿密な準備を行い、ホームページを整え、広告を打つ。
そこから見込み客が出てくるまでには、相応の時間が必要なこともあります。
一方、営業は、効果がすぐに見えます。
やることは、ターゲットを定めたらその顧客との一対一の接近戦。
極端な話、今日、結果が出る話でもあります。
「足で稼ぐ」「モーレツ営業マン」などという言葉がある通り、どちらかといえば「体を動かしてナンボ」
という感覚が強い。
この差は、実は、創業社長と後継者の溝によく似ています。
Contents
過去の実績を気にする創業者
創業者は、「すでに出てしまった結果」にフォーカスすることが多い、というイメージがありますがいかがでしょうか?
例えば、営業成績であれば、その月、その週に締まった数字をもとに営業会議が開かれるのではないでしょうか?
「そんなの当り前じゃないか」
とおっしゃるかもしれません。
しかし、すでに社内資料に刻まれた数字は、すでに過去のものです。
このことをあれこれこねくり回したところで、未来は変わりません。
確かに原因追及は必要でしょう。
しかしその分析結果は
「頑張りが足りなかった。」
といった、具体性を欠くことが多いのではないでしょうか?
この文章を見た時「それ以外にどんなことができるんだ?」と思われている方は、営業の古い慣習にとらわれていることを疑わなければなりません。
進捗管理は確かに重要です。
また、今の時代も「頑張る」という事が、成果を左右する重要な要素であることも事実です。
しかし、進捗結果をみることと、進捗管理することは別物です。
本来的には、月で締めた営業結果は芸術作品でいえば、完成品です。
「平成●年●月度」というタイトルの、作品です。
この時点で、完成した作品を変更することはもはやできないのです。
だから、毎月毎月同じことを繰り返してしまう傾向に陥ります。
繰り返しが有効だった時代
ところで、終了した期間の実績を「見る」ことにどんな意味があるのでしょうか。
これはかつては重要な意味を持っていました。
一つは、創業当初の資金ショートの恐怖です。
創業して間もないころは、潤沢な資金は会社にはありません。
常に、カツカツの状態でビジネスを継続していた方も少なくありません。
多くの場合は、仕事の結果が収入として反映されるには、1~2か月程度のタイムラグ(製造業の場合より長い)がありますから、
資金ショートしないような気づかいは非常に重要だったと思われます。
そういった、資金繰りの話と、営業スキームの改善をごっちゃ混ぜにしてしまっている、という事が考えられる原因です。
もう一つは、メーカーによる販売店の競争の推進です。
販売店においては、メーカーの影響を色濃く反映します。
我々の保険もそうですが、事務機、その他メーカー品の代理店をしているケースは、
「比較的低コストで起業できた」代表格です。
すると、そこには、商品を卸すメーカーの意向が大きく反映します。
そのセールスで身を立てた人にとっては、メーカーから褒められたい、という思いが頭の中を大きく占める事になります。
信じられない話かもしれませんが、自社の利益より、メーカーのキャンペーンを優先する方は相当多いと感じています。
もう一つは、かつては過去の延長線上に未来があったからです。
少しわかりやすく解説します。
例えば、製造業で見てみましょう。
30年、40年前、彼らのライバルは国内の企業でした。
特に、中小企業においては、商品の品質はもちろんですが、納期と値段が一つの勝負どころだったのではないでしょうか。
当時の製造業におけるイノベーションは、均等な品質のものを最短の時間で、安価に大量に作り出すことにフォーカスされていたように思います。
そこで、PDCAサイクルといわれるものが重視されるようになりました。
PDCAサイクルは、Plan(計画)→Do(行動)→Check(評価)→Act(改善)というサイクルです。
つまり、「C」の段階で過去の評価を行う必要があります。
金太郎あめ式に次々と大量生産を行うには、過去の操業におけるボトルネックを検討する必要があります。
営業も同じ流れをたどっているように思います。
今でも、ホワイトカラーの現場においても「PDCA」は生きています。
特に大企業においては、ことのほかPDCAが重視されていることも多いようです。
しかし、そのフレームを使いこなせている人は、決して多くはないでしょう。
なぜなら、過去の仕事を評価する語彙があまりにも脆弱だからです。
過去の資金繰りのトラウマ、メーカーからの圧力・バイアス、使いこなせないPDCA、
こういった問題が、実は問題とさえ認識されず、企業の中でくすぶっていることが非常に多いのではないでしょうか。
後継者は未来を作らなければならない
かつては、過去の延長線上に未来がありました。
しかし、今は残念ながら、そういうわけにもいかないようです。
なぜなら、これまで日本の人口は増え続けました。
終戦を迎えた1945年に約72百万人だった日本の人口は、
約50年前の1965年に、約98百万人
約40年前の1975年に、約112百万人。
約30年前の1985年に、約121百万人。
2012年では、約128百万人
1945年から67年間の間で、3000万人もの人口が増えています。
それだけ市場が拡大していた、という事にほかなりません。
戦後から急激なカーブを描いた人口は、1990年代半ばからその勢いを失い始め、
近く減少に転じるといわれています。
少し乱暴な表現ですが、これまでは普通に「頑張って」いれば、企業は伸びて当然だった時代なのです。
また、30年前、製造業のライバルは、国内の他社でした。
今は、海外から、より安価な製品が次々と送り込まれてきます。
一方、国内は社会全体のモラル向上とともに、各種法規制の厳格化が求められてきています。
市場は拡大から縮小へ転じ、「横並び」で同業者が存在できない時代になりました。
そこで必要なのが、戦略です。
国内外を含め数多くのライバルが、縮小する市場の中でひしめき合っています。
つまり、「体を使って頑張るだけでなく、頭を使っていかに差別化を図るかがとても重要」な時代に入っています。
しかし、頭を使う事は、古い体制の中では認められにくい、というジレンマが生じます。
努力の質が変われば、仕事が認められなくなる
冒頭のお話に戻りましょう。
営業に際して、営業のステップを分けてみます。
- お客様に興味・関心を持っていただく(もしくは、興味・関心を持った方を集める)
- そのお客様に対して商品説明を行う
- クロージング・契約手続き
大まかに分けると、こんな流れになります。
この中で、最も力量を必要とするのはどこだとお感じになられますか?
私の感覚でいえば、1.の段階で、セールスの8割は終わっている、と考えています。
なぜなら、当社の生命保険営業において、生命保険の診断という事をやっています。
すると、お客様が興味を持っていただき、「是非見てください」と現在加入の保険証券を出してきた場合、
上級者で9割、並みの営業担当者でも7割以上は、何らかのご契約をいただくという結果が出ています。
営業担当者の最大の悩みは、「話を聞いていただける先がない」
という事が大半です。
各種セールススキルを解説した本が、営業担当者のスキルアップに劇的な効果を表さないとすれば、
それは論点が間違っているからです。
「いや、ウチはルートセールスだから、話を聞いてくれる先はいくらでもある」
とおっしゃるかもしれません。
ルートセールスでも、同じ商品や消耗品だけを売っていては売り上げは限定的です。
そこの売り上げアップを図ろうとするなら、貴社が取り扱う別の商品に関心を持っていただく必要があります。
その「新しい商品に関心を持っていただく」行為こそが、もっともセールスで難しい部分です。
実は、便宜上「セールスで難しい部分」というお話をしていますが、冒頭の定義でいうと「マーケティング」という仕事になります。
そして、「マーケティング」は、営業担当者ではなく、会社の仕事です。
後継者の多くは、悩んだ末、このマーケティングについての力をつけようとします。
今まで、全てのステップが分化されず、ごチャットした形で営業社員に丸投げされていた営業を、
作業ごとに分解して、それぞれのパフォーマンスを上げて行こう、という考え方に目覚めます。
しかし、残念ながら、その努力は社内では評価されないのです。
後継者が孤立していくからくり
これまでの常識として、営業は足で稼ぐものだ、という考えがありました。
創業者の感覚は、まさにそこにあります。
営業の8割が「興味・関心を持った見込み客」を集めることにあるとしても、
結局は、足しげくクロージングに通った営業担当者の功績になります。
営業成績が生まれる仕組みを、創業者は知らないことが多い。
常に、感覚的なセンスでそれを成功させてきたからです。
だから、創業者の目には、
お客様のところを訪問せず、パソコンに向かってセールスレターを書いたり、
WEBサイトを触っている後継者に対しての評価は、残念ながら非常に低い。
これが、ある程度成果が出たとしても、そんな状態です。
試行錯誤の際中であれば、創業者は言います。
「パソコン触ってても、営業成績は上がらんぞ。」
と。
後継者は、初めは創業者を説得しようとするかもしれません。
しかし、どこまで行っても平行線な会話が続きます。
創業者は、「時代が変わった」という認識はあっても、どう変わったかを論理的に理解しているケースは少ないです。
なにしろ、これまで数十年、そういったことを考えずとも、業績を上げてきたからです。
そのようなことを考える習慣がないのです。
誰にも理解されず、成果も認められず、後継者はそれでも自分流の努力をします。
それが、いつかどこかのタイミングで爆発するかもしれません。
心を病んでしまうかもしれません。
その先にあるのは、家族の縁さえ切らんばかりの憎悪に変わってしまうかもしれません。
しかし、そんな後継者でなければ、会社の未来は描けない、というジレンマ。
多くの中小企業が、そんな中苦しんでいるのです。
解決策はあるのか?
まずは、対話を行う、という事です。
一つは、どんな目的で事業承継を行うか?です。
言葉で発するレベルでなく、一致した行動ができてるかを含めて、ここの対話を続けなくてはなりません。
以前も少し書きましたが、創業社長は「自身の無価値観から起業している」ケースが多いのです。
子供のころ、厳しく育てられたりした経験等から、深層心理では自分は取るに足らない存在だ、と思う気持ちが強い。
だから、お金や名誉を求めて起業していることが多い。
その根底には、「自分が価値ある人間と認められたい→誰かに頼られる存在でありたい」という強い気持ちが根付いています。
それは、高齢となった今でも求め続けている世界と思われます。
その気持ちをわずかでも癒すには、誰かが、創業者の話をまずは「無条件に受け入れる」事が必要です。
後継者にとっては、忙しい中昔話など聞きたくない、と思う気持ちもあるかもしれません。
それでも、きちんとお話を聞いてください。
過去の生い立ち、創業の過程、創業当初の苦労、今に至る思い。
まずは、創業者の思いをすべて吐き出す機会が必要なのです。
そうして、それをまずは承認してあげてください。
すべて吐き出してしまえば、後は、「貴方が必要です」といったメッセージを時折発してください。
孫の面倒を見てもらうとか、そんな事でもいいのです。
「大変だ」といいながら、心が満たされていくでしょう。
その上で、創業者の心をフラットなところへ持ってきたところからの対話が重要です。
まずは、何のための事業承継なのか。
創業者の心理としては、「今のままでは危うい」という主張が根底にあります。
後継者の努力の方向感が全く見えないのです。
だから、このまま任せられない、という言い分を持っていることでしょう。
そこは、そもそもの事業承継を目的について話し合う必要があります。
後継者がどれほど未熟であったとしても、創業者が会社にかかわれるのは数年~十数年ではないでしょうか。
つまり、いくら頑張っても、永遠に会社を見ることはできません。
であれば、早く経営に「なれる」事が必要です。
そのために、協力してほしい、後継者がお願いするような形になればよいかと思います。
但し、どれだけ濃密な話し合いを行っても、それですべて解決と行かないことが多いことは肝に銘じておいた方がいいかもしれません。
創業者は、考えるより行動が先に出るタイプの人が非常に多いのです。
つまり、わかってはいるけど、ついつい手が出てしまう。
社員に指示を出してしまう、という事が少なからずあります。
できれば、社員の皆さんにも、今の状態について事前にお話をしておき、了承を取り付けておいた方がのちの風通りがよくなるでしょう。
また、可能であれば、創業者と後継者が距離をとる事も一つのアイデアです。
私がお勧めするのは、創業者が、有り余った力と経験を、新たな事業を立ち上げるところへ向かわせること。
現在の仕事に関連したことで、まだまだ隙間産業はあるはずです。
これまでの仕事の中で、「こんなことができたらいいのに」と思うシーンもあるでしょう。
それをこの機会に、別会社あるいは部門として立ち上げて頂くこと。
これが、これまでの本業と相乗効果を生む形になれば非常に良いきっかけとなる事もあるかと思います。
いずれにしても断定できることはわずかで、創業者と後継者の性格で撮れる対応は若干違ってくるかもしれません。
ただ、一度、創業者を受け入れる、という状況は、作った方が良いかと思います。
私の著書です。
関心を持っていただいた方は、画像をクリック。
この記事へのコメントはありません。