後継者

後継者にとって「やりたいこと」を見つけるための重要な過程

跡継ぎとなる後継者の方に、
「あなたのやりたいことは何?」
と聞いたとき、明確に答えられる方は意外と少ない。
それもそのはずで、後継者の方は、どうしても自分の気持ちを抑え込む傾向があります。
これは数年レベルで身についた傾向ではなく、今までの人生の長さ分かけて付けた癖です。
だから、やりたいことがわからない、というのは当たり前。
なにしろ、やりたいことを抑えて生きてきているのですから。

しかし、跡継ぎとして会社に入り、ある程度の経験を積んだとき再びこの問いが重要になってきます。
あなたのやりたいことは何ですか?

 

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やりたいことがわからない後継者

親離れ・子離れができない親子経営の当事者

親子経営での後継者というのは、なかなか厄介な立場です。
普通なら成人すれば、子は親元を離れます。
親とそりが合わなければ、言い訳を作って遠くに住めばいい。
大企業に勤めると、それがやりやすい。
なぜなら、転勤があるからです。

よくあるのは、盆・正月にさえ実家に寄り付かない人もいるでしょう。
年間数日の実家訪問さえ面倒な人が多いというのに、親子経営の後継者はそんな親と毎日対峙します。
そりゃあ、大変ですね。

こういった環境がもとで、双方の親離れ・子離れが進まないことがあります。
お互いがお互いに依存することで、親子関係はややこしくなる。
そしてそれは、会社の中を舞台に展開されるのだから、楽ではありません。

子供のころから変わらぬ関係性

その結果、親子の主従関係は、子どものころと変わらない状態が継続されます。
親は子を支配し、子は親に支配される。
さらに、仕事上の上司と部下、先輩と後輩という関係性がさらにその主従関係を強化します。

しかし、子である後継者はそんな中でも成長します。
ある程度仕事をおぼえ、会社の中のことを理解し始めると、自分なりのやり方を模索し始める。
親は自分なりの「正解」を持っていて、このそんな行動は多くの場合親にとっての正解からは外れている。
だから慌てて制止する。
「おいおい、それは間違っているぞ」と。
しかし、子は納得できない。
親の言うことを聞かないのは、子の日常。
そうやって、親子関係は悪化することが多い。

一方で、見えない部分でちがう感情も動いている。
親に本気で逆らうことはできない、ということ。
小さいころからの主従関係はそうそう逆転しないもののようです。

自分の中にいる「親の幻影」

このブログでは何度かお話ししていますが、あなたの物事の判断基準はどこにあるでしょうか?
あなたの持っている「常識」について少し考えてみてください。
たとえば、自分の立場においては、社員を残して先に退社するなどもってのほか。
そんな考え方があるとしましょう。
しかし、逆の考え方をすれば、あなたが帰らなければほかの社員は退社しづらいんじゃないでしょうか?

だからずるずると残業が増えている背景はないでしょうか。

些細なことかもしれませんが、親は盆休みは短めに、と設定するかもしれません。
それが仮に、8月13日~15日までだったとしましょう。
しかし、後継者のあなたとしては、16日に出社したところでたいした電話も仕事もない。
ならば、後継者自身のためにも、社員のためにも、ゆっくり休みをとればいいじゃないか、と考えて、8月12日~16日までにしよう!と思ったとしましょう。
だとすれば、そこに何かしら罪悪感など感じたりはしないでしょうか?

取引先との関係で問題があるかもしれない。
そう思っている時点で、あなたの思考は自分以外の誰かの幻影にさらされているかもしれません。
取引先は、16日に連絡がつかなければ、17日でも大丈夫なことは多いのではないでしょうか。
はじめは混乱があっても、何とかなることが多いし、そもそも事前にそういう告知をすることでたいていのことは防げます。

つまり、本当はゆっくり休みたいけど、休めないと決めつけてしまっている。
その時に一番意識するのはだれでしょうか?
たぶん、取引先というより、先代のことではないでしょうか。

やりたいこ=できないこと?

やりたいことがわからないけど探してみるとき起こっている事

世の中、「ヤリタイに向かって突き進め」的メッセージは多い。
だけど、やりたいことがわからないから困ってるんだ、と肩を落とす。
後継者の方って、けっこう器用に見える人が多い。
何をやってもそこそこデキる。
そこそこデキるから、逆に、何か一つにフォーカスすることって少ない。
意外と夢中になっていることがない方、多いんじゃないでしょうか。

だから、やりたいこと、と聞かれてもピンとこない人が多いのです。
じゃあ、ってことで、念仏のように唱えてみる。
「やりたいことは何?」
そう考えても浮かんでこないのには理由があります。

盆休みの話のように、やりたいと思った瞬間、自分の意見を打ち消しているからです。
やりたい気持ちが盛り上がる前に、火消しをしてるんですね。
やりたいという気持ちを盛り上げたところで、誰かに否定されることはわかってる。
だから、そんな思い、持たないほうがいいんだ、と自分で無意識に自己完結してるわけです。

うわぁ、オモシロソウ!と思う前に「いやいや、そんなことできないだろう」
これ、いけるんじゃない?と思う前に「そんなことやっちゃいかんだろう」
気づいてみるとびっくりするんですが、もぐらたたきの達人のように気持ちが燃える前に全部却下してますよ(苦笑)

自分にミスを許さない姿勢

これはどういうことかというと、自分にミスを許さない、という思考が前提にあります。
上手くいかなかったらかっこ悪いとか、できなかったらショックだとか。
とにかく周囲の人から、批判される、叱られる、笑われる、がっかりされるというの、大嫌いじゃないですか?
嫌いというより、怖いといったほうが正しいかもしれません。

その原因はたいてい、自身の成長過程にあります。
親子経営の後継者って、長男・長女が多いと思います。
長男・長女は、たいてい小さいころから、「早く大人になれ」と育てられます。
自分一人でやりなさい、しっかりしなさい、下の兄弟を見てあげて・・・などなど。
特に下に兄弟がいる家庭では、親としては早く子育て(弟や妹の世話)の戦力にしたいわけです。
一方で、当事者である子は、兄弟に親の注目を奪われた状況で、親の関心を高めるには親が言う通り「いい子」を演じなくてはならない。

「いい子」というのは、何事もそつなくこなし、失敗とか大きく道をそれることのない、無難な人格者であることです。
まさに、良くある後継者のタイプです。

だから、失敗のリスクのあること、上手くできない(可能性のある)ことは避けて通ります。

一方で、何かの楽しみを知るときに、うわべだけでわかる事なんてあるでしょうか?

できないことが楽しさ?

ところで、何かスポーツをされていたりするでしょうか?
スポーツの楽しさの基本って、できないことが楽しさじゃないか、といったら「なにそれ?」と思われるかもしれません。
しかし、よく考えてみてください。
はじめから完璧にできる人など当然いません。
だからちょっとでもいいショット、ちょっとでもいいスコアを目指して頑張る。
頑張ると成果が出てくる。
すると楽しくなってまた頑張る。

このサイクルが、なにかにハマる過程じゃないかと思います。
逆に、もう完ぺきにこなせて、何一つ成長の余地がないことに誰も夢中にはなれないでしょう。
つまり、できないことが楽しさのタネであって、そのできないことがクリアされていく、成長の過程こそが楽しさの根本にあるのではないでしょうか。

そこで後継者の行動パターンを振り返ってみてほしいのです。
失敗のリスクのあること、上手くできないことを避けているという行動パターン。
これで果たして夢中になれることが見つかるでしょうか?
恐らくそれは難しい。
後継者である私たちは、ハマるほどにはビジネスの深さを体感していない可能性がある、とは言えないでしょうか。

安定の中に「やりたいこと」は現れない

安定を目指すとおこること

後継者の行動パターンとして、失敗を回避する傾向があるといいました。
失敗、つまりできないことです。
できないことを回避し続けていると、幸か不幸かあるいみ周囲は平和です。
バランスを保ち、誰にも抗わないことで、見てくれの安定は確保できます。

だから傾向としては、ネガティブな「問題つぶし」をやる方向に動きがちです。
自分の安定を揺るがす要素を一つ一つつぶすわけです。
問題を起こす社員をしかりつけたり、場合によっては解雇する。
自分に反抗的な人間と距離をとる。
そして、自分を押さえつけようとする先代を何とかしたいと考える。

会社の中でもルールをたくさん作って、問題が起こらないようにし、
組織を自分のコントロール下に置こうとする。
もちろん、先代もその中の一人。

会社や周囲を、自動運転状態にしようという行動です。
しかし、これ、まったく楽しくないんですね。
たいていは自動運転状態は完成しないんですが、その完成をついつい目指す。
すると、その流れがどこかで止まってしまったとき、もうヤル気がうせてしまうんです。
流れが止まるきっかけは、例えば社員の謀反だったりもありますが、たいていは先代の強力な圧力が原因なんじゃないでしょうか。
すると、先代は敵となり、こんどは攻撃対象は先代にロックオン。
もう血みどろの争いとなるわけです。

なぜ安定の中に「やりたい」が見つからないのか?

会社や自分の周囲を安定させたい、という思いがあったとしたとき、それを成就したらちょっとした喜びが生まれそうです。
成就しなくとも、そういった状況を作るプロセスは、それなりに楽しくなってもいいはずです。
しかし、なぜか楽しくないことが多い。
それはなぜかというと、非常にシンプルです。
自分の成長を実感できないから。

スポーツが楽しいのは、日々成長する自分を感じ取れるからです。

こんなたとえがわかりやすいかもしれません。
たとえば、RPGゲーム。
これをやったからと言って、報酬もないし、あまり周囲から称賛を受けることもないでしょう。
やたらと時間がかかるし、しかも難しい。
それでも夢中になる人がたくさんいる。
その理由は、自分の操るキャラクターが成長するからです。
ゲームの主人公は、自分を投影したアバターです。
そのアバターが成長することで、自分が成長したかのように感じられる。
だから人は、ゲームに夢中になるのです。

そして、ゲームはたいてい、波乱万丈です。
なんの障害もなければ、誰もやりたがらないでしょう。
また、ゲームに「安定」を求める人などいない。
キャラクターが成長もせず、敵のキャラが常に同じなら、やっぱりそんなゲームは続けられない。
何も起こらない一本道をただ歩くだけのゲームに誰が関心を示すでしょうか。

後継者が「やりたい」ことを見つける方法

安定から飛び出す

もし、「やりたいこと」が見つからず、悶々としているなら、やるべきことはたった一つです。
安定した状態から飛び出す、ということです。

「何を言うんですか。安定どころか、問題山積みですよ」

そう言いたくなる人もいるかもしれません。
しかし、よく考えてみたときに、3年前も、5年前も似たような問題が山積みだったんじゃないでしょうか?
問題の種類は若干変わっているかもしれませんが、身動きが取れないのは今も昔もおんなじ。
だとすると、やっぱりそれは「安定」なんです。

そこから飛び出すには、思考パターンを変える必要があります。
その時に意識したいのは、自分が「やってはいけない」「できるはずがない」と思っていることをもう一度問い直すことです。
それは本当に「やってはいけないことなのか?」「できないことなのか?」と再度問うてください。
自分が常識と思っていることに疑いをかけることがスタート地点です。

そして、自分がやってはいけない、できないと感じる理由に反論し、できるとすればどうすれば?という問いに変えてみます。
それが良くも悪くも安定している状態から抜け出すヒントとなります。

「困難」があることを前提とする

スポーツだってゲームだって、必ず困難があります。
それなりに繰り返し練習したり、学んだりしたうえでチャレンジするから一段上に上がれるわけです。
それを困難と表現するなら、困難があるのは前提です。
楽をしたい、という気持ちはわからないでもないですが、楽をして夢中になれることというのは意外とないものです。

ただ、その困難の先にある「意義」を見極められると、困難は苦行ではなくなります。
たとえば、ゴルフがうまくなりたいと思っている人は、朝早くから、また夜仕事帰りに練習場に通う人はたくさんいます。
体を鍛えたい人は、私にとっては退屈で苦しいだけとしか思えない筋トレを毎日やっています。
この人は、苦行をやっているという認識をされているでしょうか?
たぶん、当たり前なんだと思います。
その先にある自分なりの「意義」を感じているからです。

じゃあその意義って何でしょう。
それが「やりたいこと」になるわけですが、私たちは困難を前にして、怖気づいてしまうことはよくあります。
ただそれも、一度は首を突っ込んでみなければその意義さえ見えません。
ゴルフをやったことがない人が、ゴルフに熱中することはなかなかないでしょう。
まずはやってみる、ということが大事です。
この「やってみる」を阻むのが、将来立ちはだかる「困難」です。
どうせ何をやっても困難はつきもの。
そういう前提を持つことで、多少なりとも「やってみる」を加速させることは可能でしょう。

得意なことを活かしてみる

それでも「やってみる」対象さえ見つからない時には、自分は何が得意かを考えてみてください。
この時、できるだけ抽象化して考えるのがコツです。
たとえば、「ギターを弾くのが得意」と考えていたとしましょう。
となると、ギターを弾ける事も重要ですが、ギターを弾ける練習の仕方を知っている、というのはビジネスにも応用できる強みかもしれません。

漫画を描ける人なら、デッサンができるでしょうし、物語を作ることができるかもしれません。
ということは、絵も描けるストーリーテラーと言えそうです。
こういった表現は、自己表現と同時に、見る人の感情をうまくつかむ必要があります。
これはまさにマーケティングの分野ではとても重要なことです。

楽器ができるとか、マンガがかけるとか、何かをできるということは様々なスキルや知識の総合力です。
趣味でも仕事でも、何か人より得意なことがあるとすれば、そこで学んだことは何かしら仕事の中で活かせるものがあるはずです。

いやいや、どれもこれも中途半端で・・・
そんな人もおそらくいるでしょう。
そういう人は、今まで人にどんなことで褒められたかを考えてみてください。

きっと、今までは他人の誉め言葉は「社交辞令だから」と真に受けてこなかったかもしれません。
しかしそれをいったん受け入れてみましょう。
自分ではそうとは思えなかったとしても、他人が「あなたはこんなところがすごい」「君はこんなことができるんだ!」なんて言う風に言われたことを振り返ってみてください。
たいてい、得意なことは自分では気づけないものです。
なぜなら、自分にとっては当たり前だからです。
しかし、自分にとって当たり前のことが、他人にとっては「スゴイ」となることがけっこうあります。

他人ができないことで、あなたはいとも簡単にやってのけられること、あるはずです。
それを探し、それを活かす、ということに集中してみましょう。
するとやっていくうちに、やりたいことが目の前に現れてくる。
・・・というか、気が付いたらそれに夢中になっている、という感じじゃないかと思います。

まとめ

またもや、長い長い記事になってしまいました(苦笑)
ポイントをまとめます。

まず、後継者はその成長の過程で、失敗ということへの拒否反応を持っていることが多いということ。
そして失敗を回避しようとする行動パターンが、夢中になる事を見つけられない理由になっている可能性が高い。
やりたくて仕方のない事の多くは、自分の成長を実感できることであり、自分の成長を実感するのは安定の中では難しい。
つまり、やりたいことを見つけるためには、安定志向から飛び出し、リスクを容認するということが重要。
そして、とにかく「これ」というものがあれば首を突っ込んでみる。
その時には、「困難」を避けるのではなく、それを前提として考えること。

それでもやりたいことが見えない場合は、得意なことは何かを考えてみる。
それを活かす事をひたすら考えていると、気が付けばリスクとか安定とかが見えなくなって、気が付けばどっぷりと成長の物語の中に浸かっている可能性もある。

この記事をここまで読んでくださったとすれば、長い文章にお付き合いありがとうございます。
ここで一つ、あなたに伺いたいことがあります。
この記事の内容を読んで、
「俺には(私には)無理かもしれない・・・」
「そんなことできるはずない」
「自分にはどうせ何もないから」
といった言葉が浮かんでいるとしたら、悪い癖が出ているかもしれませんね。

もしそうだとすれば、こう質問を変えてください。
もし、自分にできるとすれば・・・?

 

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