事業承継

「悪魔」と呼ばれた娘

今回は、ど真ん中の事業承継の話ではありません。
ある父と娘の関係について、実際に起こった話です。
この話から、私たちが何を学ぶことができるのでしょうか。

 

こんにちは。
中小企業二代目サポーターの田村薫です。

 

今日は、実際に起こったある実話をお話しします。
彼らは、事業を引き継ぐとかいった関係にはない、ただの親子です。
まずは、エピソードからご紹介しましょう。

 

今回の主人公となる娘の家族構成は、父、兄、自分の3人。
兄と娘はそれぞれ結婚し、家庭も持っています。
父は、少し前に母と死別しており、今は一人暮らし。
年齢は70歳を少し過ぎたところです。

 

父本人は、寂しさは感じつつも、気ままな独り暮らしを楽しんでいたようです。
誰に何かを指図されるわけでもなく、好きなものを好きな時に食べ、
朝から晩まで近くの海で釣りにいそしんでいました。

 

しかし、ある時、娘が父の家に電話しても、つながらないことがありました。
何度かけても電話の応答はなく、さすがに心配になって家に見に行きました。
その時は、単に電話のベルに気付かなかっただけで、ほっと胸をなでおろしたわけですが、
やはり年齢から考えると、いつまでも一人で放置するわけにもいかない、と考え始めました。

 

娘も兄も、父に言います。
施設に入る事を検討しないか?と。

当の本人は、そんな子供たちの心配をよそに、
「誰にも迷惑をかけずに死ぬから放っておいてくれ。」
の一点張り。

実際は、誰にも迷惑をかけずに死ぬことなどできないのに。

 

その後、やはりまた父が体調不良を訴え始めました。
体調の事もあってか、父は施設を考えなきゃならないかも、という事を考え始めたようです。
その様子を見取り、娘はいくつかの施設にアポポイントを取り、見学に連れていきました。

軽費老人ホーム(介護の必要のない方が入ることができる老人ホーム)が一か所、たまたま空きがあったので、
そこへの入所を勧めるのですが、

「やっぱり、やめておく。」

という突然の方針変更。

 

娘は、この時を逃すと、次の機会はない、と考えました。
そもそも、このようなホームの空きがあること自体が奇跡的ですし、
次に父が介護が必要になってから老人ホームを探しても、
空きが見つかる保証はどこにもないからです。

 

そこで、父と娘は口論になります。
兄はといえば、
「本人が嫌がっているのだから、かわいそう。」
といいます。

 

娘はいいます。
「ならば、何かあったらお兄さんがお父さんと同居するの?」
実は、兄の妻と父は折り合いが悪いのです。

 

娘としては、兄も自分も父を引き取るのは非現実的。
ならば、最善の方法としてホームへの入所を勧めたわけです。
しかし、兄は自分の言葉に責任を取ろうとせず、
ただただ、父がかわいそうを繰り返すのみ。

当の父親は、実の娘に向かって
「(無理やり施設に入れるなんて)お前は、悪魔か!?」
となじられたそうです。

 

最終的に、父は施設に入りました。

父も、施設にいることで規則正しい食事を取ることができ、
施設内では同世代の友人もできたようです。
風邪をひけば、付き添って病院に連れて行っていただける。
プライベートも確保された個室ですから、
なんら困ることはないはずなのです。

 

しかし、やはり自分の家であったり、
自分を中心にした世界であったり、
何かを失う不安、
違った環境での生活への不安、
こういったものが、父を以前の自宅にとどめていたのかもしれません。
そうして、その自分の環境を守るため、
相手を最も傷つける言葉を無意識に選ぶ父。

親子での事業承継は難しい事が多いといいます。
しかし、実は経営の継承の難しさ以上に、
こういった父の感情への配慮のほうがよりハードルの高い事ではないかと思います。
なにしろ、このケースは事業の引継ぎなどなかったのに、
これだけの大騒ぎです。

父との対立、無責任に父を擁護する兄の存在。
そんな中で孤立する娘。
まさに、事業承継真っただ中の後継者の姿と被ってしまいますね。

ここに、経営の事、社員との関係、お客様との関係など、
登場人物が増えることでより複雑に見えてしまいます。
しかし、もとをただせば親子の感情問題がその中心にある、
と私は考えています。

 

ところで、今回お話しした事例、その後父は娘にこういったそうです。
「あの時は、ひどい事を言ったが、今は感謝してる。」

 

大変なことは少なからずありますが、
それでも進まねばならないときはあるのでしょう。
ハッピーエンドを信じて。

 

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