後継者

ある経営者の寂しい晩年

ある元経営者である方のお話をします。
この方は創業経営者ですが、後継者にとっても何かしらの気づきであったり先代を理解するキッカケをつかめるかもしれません。
その元経営者は、今一人、人生の終点が来るのを待っています。
その方の名前を仮に「Yさん」と呼ばせていただきます。

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Yさんはもともと小さな会社を共同経営していました。
もともと、仲が良かった友人が起業する際、その友人の誘いに乗って一緒に会社を興しました。
一時期、会社は順調で、Yさんもかなりはぶりは良かったようです。
しかし、バブル崩壊後、仕事は激減。
ここで会社を閉めていればよかったのですが、パートナーが「もう少し頑張ろう」というので、自分のお金も会社につぎ込みつつ、会社を維持していました。
Yさんは無収入で、どんどん預金残高は減っていきます。
正直なところ、「もうやめたい」と思ったものの、それを言い出すことができず、会社にどんどん資材をつぎ込みました。

あるとき、Yさんのビジネスパートナーは、「もう限界だから会社は解散しよう」という事になりました。
結果、ビジネスパートナーは残った資産を売り払い現金化。
これを山分けして終わりにしよう、と言われたのですがYさんは自分はいいから、そのお金をパートナーに持って行けと言いました。

一見、格好いい。
けど、どうやらYさんはいわゆる「いい格好しい」で、メンツを繕うためにいろんなものを犠牲にしてきたようです。
そもそも、会社を辞めたいと初めに思ったのはYさんの方。
その時点でやめていれば、羽振りの良かった時の貯蓄もそのまま残せたはずです。
しかしすべてをなげうって、結局会社はダメになり、Yさんの元には何も残りませんでした。

色々と聞いてみると、Yさんは若いころから、自分がお金に困っていても外にはそんなことを見せないように、見栄を張っていたようです。
高いお店で美味しいものを食べ、気前よく人におごり、頼まれれば義理でいろんなものを買ってあげたりもしました。
その負担をしっかり自分で辻褄を合わせるのならいざ知らず、そうやって実は借金を増やしていたのです。

 

その方は結局、奥様とも離婚し、一人暮らしになりました。
それを案じた子供から、半ば強制的に施設に入れられています。
そんな子供を悪魔呼ばわりし、施設でもワガママ三昧で、「自分はこんなところにいるべき人間じゃない」と大騒ぎをするのだとか。
結局誰も彼には近寄らなくなり、一人、人生が終わるのを待ちわびる日々。
たまに子供が顔を見に来ても、「どうせワシなんて」とすねるものだから子どもたちもうんざりです。

実は施設の人も優しく彼に接してくれているようなのですが、Yさんは変なメンツを捨てきれず、その環境に何年たっても馴染むことができません。
だんだんと施設の人からもうとまれ、もはや居場所がだんだんとなくなってくる。
口ぐせは「どうせワシなんて」です。

 

しかし、この状態を作ったのは、ビジネスパートナーでしょうか?
あるいは子供さんなのでしょうか?
それとも、逃げた奥様なのでしょうか?
たぶん違いますね。
Yさんは、自分の「いい格好しい」なところを自覚できず、今もずっとメンツだけを守ろうと必死になっています。
こういう生き方が、自分を不幸な境遇に陥れているのです。

 

実は経営者というのはこういうタイプの人がけっこう多いです。
現役時代は人が寄ってきますが、現役を退いたら一気に人は近くにいなくなりがちです。
そしてそんな状況を作っているのはその人本人なのですが、そのことになかなか気づかない。

私たち後継者が付き合うのは、多少の濃淡はあれどこのような気質を持った親ではないでしょうか。
そういった人と、プライベートのみならず仕事でも深くかかわる状況が長期的に続くのです。

実はYさんのような人でも、自分のことを見つめ直し、自分の振る舞いを変えればいつでも幸せな状態に変化できます。
しかし、このYさんはそれに気づかない。
これを周囲の人がYさんにいくら言って含めても、たぶん「はい」と素直に従うことはないでしょう。
自分の世界に頑固に閉じこもっているため、なかなかそこから出られなくなっているのです。

私たちの先代も、このような状態にあるとしたら、私たちが何を言っても先代は変わりません。
だから、そこに期待しても無駄です。
厳しいようですが、先代は先代が自分の人生を切り拓かねばなりませんし、
後継者である私たちもまた同じです。

さらに言うなら、私たち後継者も、親子である以上先代の頑固さを引き継いでいます。
誰かに何かを言われて、素直に「はい」と言えないシーンが思いのほか多くはないでしょうか?
物事は一旦素直に受け止めてみてください。
そのうえで判断する、という癖をつけてはいかがでしょうか。

人は生きてきたようにしか死ねないと言いますが、
どんな死に方をするかを考えることで、生き方を決められるという事もあるかもしれません。

 

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