後継者

専門性の危うさ~時代の変化の中で後継者が気を付けたいこと

よく、セールスの世界ではこんなことが言われます。
医者にセールスするときは、彼らが使う用語を使おう、と。
業界で使う専門用語や、共通の話題。
これを業界の外の人間が知っていることで、やけに親近感を増すそうです。
それだけで相手は「お、こいつ、わかってるなぁ」となる。

一方、私たちの頭は自分の専門分野のことで埋め尽くされています。
専門的な学びを深めれば深めるほど、周囲との距離感が見えにくくなります。
「業界」というコミュニティの中に閉じこもり、そこのしきたりに同調する人は仲間。
そうでない人は、仲間ではない。
そういう線引きをして、独自の世界に引きこもっている可能性があります。

職業的ひきこもりが生むのは、世間との隔絶。
それはつまり、浦島太郎になってしまうかもしれない、というリスクです。

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冒頭のお話は、概念的過ぎて理解が難しいかもしれません。
もう少しかみ砕いてお話ししましょう。

多くの場合、業界とビジネスモデルはセットで存在することが多い。
たとえば、自動車ディーラー。
彼らは、車を顧客に販売して利益を得る。
目的は車を売ることです。

集客のためにネットを使うとか、折り込みチラシを使うとか、ポスティングをするとか、手段の違いはあれど車を直接顧客に販売してビジネスが成立することは、ほぼどことも同じでしょう。

一方で、今話題の、カーシェアリング。
お客さん側からすれば、「必要な時に手元に自動車があって、それが使えること」を求めているとすれば、選択肢は車を買うか、カーシェアリングを使うかという選択肢は同列にあります。
さすがにカーシェアがここまで普及すると、自動車ディーラーもライバル視しているのかもしれませんが、それまでは冷ややかな目で見ていたのではないでしょうか。
「自分達のビジネスを脅かすほどにはならないだろう」と。
なんてったって、
・自分の車庫に車がない不便さ
・わざわざ所定の場所に車を取りに行く面倒
・欲しい時に必ずシェアできるとは限らない不安
など、カーシェアのネガティブな面を数え上げて、「自分たちは大丈夫」と思い込もうとしていたかもしれません。

このカーシェアリング事業は、車の管理ができて、安く仕入れることができる自動車ディーラーが主導できるビジネスだったかもしれない。
しかし、自動車は所有すべきもの、という既成概念から逃れることができず、また、本業を圧迫する事業を始めることへのアレルギーもあったかもしれませんが、そこへの対応は出遅れた。
真相はわかりませんが、想像するにそんな感じじゃないかと思っています。

車の専門家であり、車を起点としたワンストップサービスを作ろうとしていたのが自動車ディーラーじゃないかと思います。
しかし、その方向性は今やガラガラと音を立てて崩れ始めているようにも見えます。
大前提となる、顧客は「車を所有したいと思っている」という考え方が崩れ始めているからです。

さて、ここで「専門性」という話について考えてみたいと思います。
これまで多くの自動車ディーラーは、自動車の専門家である、という表現をすることも多かったと思います。
車の販売から修理、車検、保険等も含めて車にまつわる事ならお任せください、というメッセージですね。
しかし、所有しないとなったら、もはや専門家は用なしです。
そういうのは見えないところで誰かがやってくれる。
お客さんである自分は、ただ、必要な時に安全に車に乗れればいい。
求めるのはそれだけです。

もちろん、専門性はあってしかるべき話です。
しかしもはやそれは、アピールできるポイントというより、あって当たり前の話。
世間一般に出回る情報を”勉強”したレベルでは専門性を高めているとはいいがたい状況だと思います。
知識を得るだけなら、今やだれでもできます。
複数の情報ソースの内容を独自に編み、工夫し、効果の検証をしたうえでの専門性以外は評価されにくくなるんじゃないかと思います。

 

さて、こういった動きは、業界というコミュニティの中では消化しきれない問題です。
業界というコミュニティは、業界を守ろうという方向性が働きます。
結果、誰かがカーシェアの発想を持っていたとしても、その業界から総スカンを食らうからやるのには勇気が必要。
つまり、業界がイノベーションを阻害するわけです。
だからイノベーションを起こすのは、よそ者やばか者、と言われるわけですね。

 

さて、ビジネスモデルの話です。
今まで多くの事業では、商品があり、それを顧客に販売しているのが一般的でした。
しかし現在では、そういった事業はかなり少数派になってきました。
たとえば、GoogleはGmailをはじめとする無料サービスで顧客を集め、自ら作り上げた場をメディアとして広告出稿企業を募りました。
そのおかげで私たちは、かなり質の高い無料サービスを受けることができています。
これ、ある意味日本の古い商売道をイメージさせるビジネスモデルで、近江商人の三方良しなビジネスを作ったなぁなんて感じています。

それをSNSという形で作ったのがFacebookですし、新しく起こる事業の多くは売って直接顧客から利益を得るビジネスとは一線を画すものが増えてきています。

こういったビジネスモデルというとらえ方。
これは業界という枠組みの中では、商品とセットで業界内に存在することが多いようです。
例えば複合機は、お手軽価格で複合機を納入し、カウンター料金で利益を得る。
携帯電話屋さんでは、赤字価格で携帯本体を販売し、月額の通信料金で利益を得る。
単一の業界の中で、ただその業界が推奨する専門性ばかりを追っていると、業界にあるビジネスモデルが当たり前になって、他のビジネスモデルの可能性を検討する意識が芽生えにくくなります。
深く深く・・・と意識する中で、視野が狭くなっている視界の外から「よそ者」がやってきて、自分たちのビジネスを根こそぎ奪っていく。
そういうことがだんだんと増えてくるんじゃないでしょうか。
そういったとき、業界で語られる話はたいてい決まっています。
「あんなのは邪道だ」と。

ま、邪道であったとしても、顧客の支持を受けていることは間違いがないのです。
ではだれにとって邪道なのでしょうか。

 

ところで、このブログ、いろんな読者の方がいらっしゃいます。
旅行業、カフェ、商社、ドクター、印刷業、その他各種製造業・・・
確認できているだけでもかなりバラエティに富みます。
それぞれがまったく違う専門分野を持っており、彼らが職業上必要となる知識は多種多様。
ある意味、まったく職業上の話題はないかのように見えます。

まず、彼らが同業者同士で会って話をしたとしましょう。
話はおのずと具体的になります。
たとえば、旅行業であれば、どんな看板にするか、店構えをどうするか、どんなチラシを作るか。
はたまた、旅のプランニングはどうあるべきか、顧客とのかかわりは・・・
つまり、「何を」するかということに話は終始しがちです。

しかし、異業種の人と話をすると、そんな話は通じません。
冒頭の話からすれば、話し相手は業界の外の人です。
たとえば、旅行業の人とカフェを経営する人では、店のつくり方も、有効な立地も全く違うでしょう。
それでも経営について、戦略について話をしなければならない。
そんなシチュエーションになった時に何が起こると思いますか?

話題のレイヤーを上げざるを得ません。
言い方を変えれば、抽象度を上げる必要が出てきます。
旅行業も、カフェも、顧客の来店を誘導して、そこでモノやサービスを販売していることには変わりありません。
それぞれに有効な立地は違うかもしれませんが、それぞれのニーズに即した人が集まる場所であったほうが有利であることはやはり変わりありません。
じゃあ、カフェでうまくいった方法が、旅行業でも形を変えれば応用できるかもしれませんしその逆もしかり。
そこに携帯屋さんが話に加わる。
彼らのビジネスモデルは、携帯を安く売って、月額料金で回収する。
じゃあ、これを旅行業で応用するなら、カフェで応用するならどんな方法があるだろう、と考える。

携帯屋さんは構造からすると、「利用を始めるハードルを下げて、毎月料金を頂く」というビジネスモデル。
じゃあ、旅行業においては、旅行ファンクラブ的な有料会員制度を始められないか?とか、カフェで毎週イベントを行えないか?とか発想も広がりやすくなります。
まあこの程度の話であれば、すでに業界内でも前例のある話でしょうが、もう少し大掛かりなものも発想できるかもしれません。

私は、そんな場を作る触媒になれたらいいな、と考えています。

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