■誰も言わなかった 中小企業の事業承継が失敗する本当の理由【Inswatch Professional Report 2021.12.31 】

今回のブログは、2021年12月31日に「Inswatch Professional Report」に掲載頂いた記事をInswatch様のご厚意で共有させていただきます。
Inswatchというのは、保険業界向けの有料メールマガジンで、私自身、
二世経営者の会社改造計画
これからの代理店経営を考える3つの視点(2014-2015)
読書トライアスロン (2015-2020.2月現在連載中)
といった連載を継続させていただいています。

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はじめに ~なぜ企業は30年しか持たないのか?

企業の寿命30年説というのを聞いたことがある人も多いと思います。近年では企業の
寿命はもっと短いとさえ言われています。本来、永続性を求めて法人化されるのに、なぜ
一代で終わってしまうのでしょうか。
企業の寿命30年説は、誰かが適当に言ったことではなく根拠があります。しかもこれ
は、中小企業ではなく日本のトップ100社、つまり大企業を対象にした100年間に及
ぶ調査から導き出されたものです。そして、その調査は驚くべき示唆をしています。こう
なれば会社は衰退するという、会社を衰退させる条件がデータから導き出されているので
す。その話はおいおいさせていただきますが、本稿においては、事業承継という切り口か
ら、企業の役割について考えてみたいと思います。
本稿の想定読者は、中小規模の保険代理店の経営者並びに、後継者の方です。また、業
務を通じて親族間継承真っただ中の中小企業との関わりのある方については、事業を譲る
側と譲られる側のメンタリティに触れることで、良きアドバイザーとなり彼らをささえて
頂くヒントとなれば幸いです。

【1】消えゆく650万人の雇用と22兆円分のGDP

中小企業庁の『中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題』( https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hikitugigl/2019/191107hikitugigl03_1.pdf )というレポートによると、インパクトのある数字が踊っています。レポートでは、後継者不足のため約 650 万人の雇用と約 22 兆円分のGDPが、2025年までに喪失する可能性があると示唆しています。

なにしろ、日本全体の企業の数の内99.7%が中小企業で、雇用の2/3、製造業においては日本の付加価値総額の50%を叩きだしているのが中小企業です。当然この問題は国としても大きなテーマとして取り上げられています。様々な税制などの施策や啓蒙活動を行っておりますが現場の様子はどのような状況かを見てみましょう。

帝国データバンクによる、『全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)』( https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p211104.pdf )によると、後継者不在率はかなり改善されています。ただ、その実情はM&Aなどによる継承パターンが存在感を増している一方、一旦後継者候補とした人間が役員を退任して、事業承継計画が白紙に戻ったなどの事例も散見されることもレポートされています。どうも手放しで喜べる状況ではないようです。

ところで近年、小規模のM&Aがとても盛んに行われているようです。どうやら行政としてはもはや自然な形で社内から後継者を輩出するという事には限界を感じ、苦肉の策としてM&Aを推進し、廃業率という数値の改善をしたいように感じられます。おそらく企業数を減らしたくないのでしょう。

実は当社(保険代理店)にも「事業を売りませんか?」というダイレクトメールが届いたりします。ここからは想像ですが、そのお誘いに乗って会社を売ったとしたら、それは肌感覚として、事業承継と納得できるものなのか?というちょっとした違和感は無きにしも非ずです。買う側もいろんな理由があると思うのですが、創業者の思いを残したいというウェットな感情を尊重されるかどうかは微妙なところ。まったく別の会社になってしまうという印象を持ちます。マクロ的にはそれでも問題はないのでしょうが、当事者からすると少なからず思うところがあるようです。そういった見方は感傷的過ぎるかもしれませんが、どうしても日ごろ私が接するのは自分の会社に強い思いを持つ人が多いので、素直に喜べない一面があります。

【2】後継者難という事態を招いた3つの理由

ここまではマクロ的な視点で概観を見てきましたが、ここからはグッとミクロレベルにフォーカスしてみたいと思います。中小企業が個社レベルでなぜ後継者難に陥るかについて考察してみます。

かつて、家業を持つ家では、子どもが家業を継ぐ、というのが当たり前だった時代がありました。これは家督制度などとも密接なかかわりがあるように思います。長男が権利も責任も引き継ぐというところから、家業を継ぐのは長男長女の義務という空気が昭和の時代にはまだ色濃くありました。私もそんな「常識」の中で育ちましたから、小学校の高学年になるころにはおぼろげながら「家の事業を継ぐことになるんだろうなぁ」という思いを持っていました。その結果、私は大学卒業後すぐに家業の保険代理店に就職しました。そんな私を学生時代の友人たちは、非常にうらやましそうにしていました。何しろ彼らから見た家業の後継者は、たくさんのお金を使えて、社内で大事にされ、人に指図をして、楽していい思いをしているという印象しかなかったのでしょう。言うまでもなく、実態はそんないいものではないのですが。

世間に流れるニュースは、バカ息子のようなボンボンが会社のお金を使いこんで会社を窮地に陥れるような話が派手に報道されます。後継者が愚かなほど世間の耳目を集めるという現実があるようです。もしかしたらやっかみもあるのかもしれません。

しかしその陰で、悩みをだれにも打ち明けることができず、ひっそりと自ら人生に終止符を打つ人がいることはあまり知られていません。「ボンボンの弱さゆえ」と切り捨ててしまうのも一つの考え方でしょうが、こういった親族間の事業承継の闇を語る人がいなかったことが、同族企業の事業承継を難しくしている原因の一つではないかと思います。こういった後継者並びに譲る側の経営者のメンタリティに関しては、拙著『親の会社を継ぐ技術~親の会社を継ぐ技術~後継者のゆく手をはばむ5つの顔を持つ龍とのつきあい方~』( https://amzn.to/3JpkRb9 )に詳しいので関心のある方はぜひ手に取っていただければと思います。

今回はもう少し大きめのくくりで三点の課題をここで共有したいと思います。

一つ目は、ビジネスの賞味期限切れ問題。二つ目は、後継者自身の動機の問題。三つ目は、先代の覚悟の問題についてです。

世間で語られる事業承継の話はほとんどが、財産の移転や経営権に関する問題ばかりです。それはいわばハードウェアの部分ですが、それを動かすソフトウェアの部分を語る人はほとんどいません。なぜならば、ビジネスとしてお金がとりにくい分野だからです。そんな分野のお話がここからのテーマです。

理由その① ビジネスの賞味期限切れ問題

「はじめに」でお話ししたとおり、永続性を求めて法人組織にした日本トップ100社の平均寿命は30年という調査結果があります。これが中小企業なら、「社長の交代とともに会社が傾いた」という事になり、「やっぱり後継者は社長の器じゃなかった」という評価につながる事でしょう。しかし、冒頭にとりあげた調査は大企業が対象です。おそらく社長は数年ごとにかわっているでしょうから、経営者個人の資質の問題と言い切るには無理がありそうです。

じゃあなぜそうなるのか?という疑問に、この調査はハッキリと答えを出しています。

「どんな優良企業でも、本業比率が七割以上を占め、社員の平均年齢が三十歳を超えた時、明確に衰退の道をたどり始める」(『会社の寿命』日経ビジネス編)

一つ事例を挙げて説明します。有名な話では、写真フィルムで有名なコダック。彼らは自社でデジカメを他に先駆けて開発していたにもかかわらず、フィルム事業を圧迫するからとその発表・発売をせずにいました。本業を圧迫しないように、フィルムを使わないデジカメをひた隠しにしたのです。ところが、まもなく他社がデジカメ開発に成功しました。彼らはそれを発売し大成功を収めた一方で、コダックは経営が立ち行かなくなりました。本業を守ろうとコダックがひた隠しにしていたデジカメで一儲けしたのが、“フィルムメーカー”としてのライバルだった富士フィルムだったという皮肉な話。

富士フィルムがどんどん新しい事業を開発していく姿勢を見せていたのに対し、コダックは本業に固執したようです。その結果が時代の流れの中で二社の明暗を分けたと言えそうです。

商品にはライフサイクルがあり、一定年数を経ると必ずその商品は陳腐化します。その周期が多くの場合、だいたい30年を区切りであるというのが企業の寿命30年説の背景に動いているカラクリではないか、と私は考えています。だから、本業が陳腐化しないうちに次の柱が必要になる、ということがよくわかる事例だと思います。

この話を中小企業にそのまま適用するのは酷な気もします。なにしろ、人的・金銭的なリソースが限られるため、本業に集中したいところだと思います。しかし、中小企業といえど、起業時の事業そのままで同じ業種・業態にとどまった場合、その事業がすでに劣化を始めているケースは少なからずあるのではないでしょうか。たとえば、価格競争に巻き込まれるという事は、需要に対し供給過多であるという事です。それはすなわち、その事業の賞味期限がそろそろ切れかけている合図です。

ならば、今までの技術や経験、ノウハウをもとにした新しい価値創造が必要となります。しかし、中小企業が下手に副業的なことを始めると、失敗する事例がかなり多いです。リソースが少ない分、選択と集中を進めなければ競争を生き抜いていけないのでしょう。ここで大事なのが、後継者です。

大抵中小企業の社員は、先代経営者と近い年代の人が会社の中心にいます。つまり、イマドキな人の意見が社内に反映されることがほとんどありません。その中に、後継者(特に親族)が入ってきたら、そのこり固まった組織に、年齢や経験の隔たりを超えて意見できる存在になり得る希望の光になるはずです。そもそも新規事業開発というのは、上手くいくより失敗のほうが多く、利益を出すまでに時間がかかる関係上、その役割を担った人は社内では孤立し、強いプレッシャーにさらされがちです。その結果、後継者という希望の光は途中でついえてしまうこともしばしば。

こういった後継者の役割を明確にせず、先代社長のコピーを期待する風土が後継者の才能を閉ざし、組織の停滞を生むことになりがちです。結果として後継者は、会社を去ったり、分裂させたりするという結末を経験するか、もはやすべての思考をストップさせて言われたことに従うだけの操り人形のようになってしまうような事態が見受けられます。

理由その② 恐怖と不安に支配される後継者

試しに検索エンジンで「二代目社長」と検索してみると、興味深い検索候補が提案されます。二代目社長とセットで検索されがちな言葉は、たとえば、「ポンコツ」「無能」「クズ」「ボンクラ」とまあ目を覆いたくなるものばかりです。

これは実際に、会社のお金を使って遊び惚けているバカ息子が実際に存在する、ということの証左かもしれません。一方、私が出会う後継者、つまり社長のお子さんは大抵まじめで勉強熱心です。その勉強熱心さのモチベーションの源泉はどこにあるかというと、「無能とだけは言われたくない」「ボンクラとかバカ息子とだけは言われたくない」という恐怖心であることが多いのです。本人も気づいていないくらい奥深くにある強い信念です。

「こうだけはなりたくない」というモチベーションは、絶対に失敗したくない、という思いを強くします。結果として完璧主義に傾き、新しいことへのチャレンジが気軽にできない傾向を生み出します。会社の課題は「新たな価値創造」であるにもかかわらず、そこに向かって動き出せない後継者を生み出します。

また、恐怖から逃れるためのモチベーションで動き出すと、マネジメント上の問題も生み出します。マネジメントの順序を誤るのです。

具体的にお話ししましょう。まず、後継者が恐怖や不安から逃れたいモチベーションで動くと、まずは自分が一生懸命もがきます。そして、自分がこれだけやっているのだから、社員も当然同じようにすべきと考えます。そういった責め心から「みんな、ついてこい!」というのですが、社員はこう考えます。「後継者は次期社長なんだから頑張って当たり前。俺たちにも同じことを強要されても……」と。振り返ればだれもついてきていなかった、というのは後継者・二代目社長のあるあるです。

リーダーシップというのは基本的に、まずはメンバーとの信頼関係からスタートすべきです。しかし、なまじトップには意見できる人間であるだけに、信頼関係構築というステップを飛ばしてしまいがちなのです。結果として、社員の大量退職やクーデターを経験しながら学ぶことになるわけですが、そこで自分の問題を認められず、そのステップを乗り越えられない後継者も少なからずいます。

この時点で、精神を病んでしまったり、会社を飛び出してしまったり、先代を追い出そうと画策したりと、関係性がガタガタする事件が起こります。多くの後継者が引き起こすワイドショー的なニュースは、こういう環境の中で引き起こされます。

 

恐怖と不安のモチベーションで動いている後継者は、弱く見られないように力技で人を従わせようとするマネジメントを実践しがちですが、信頼関係も人間関係もないうえ、過去の実績のない後継者が先代経営者のモノマネをやっても所詮縮小コピーです。この事に気付かず、「親と同じ方法で親を追い越さなければ」という気持ちを持っているため、頑張れば頑張るほど、結果は悲惨な方向に行ってしまいます。しかしこのことを正しく把握し、アドバイスできる人は周囲には一人もいません。「先代を見習え」というアドバイスはもっともらしく見えるのですが、この時期の後継者にとってその言葉はむしろ道を惑わすことの方が多いのが現実です。

昭和の時代に親の会社を継いだ後継者は、その前の世代の事業の賞味期限がまだ残っていたため、親のコピーでもよかったのかもしれません。しかし、今のような時代が大きく、早く動いている時代において、従来の事業をそのまま引き継ぐというのはあまりに危険です。会社を変えなければならないけど、その思いを実現しようとすればするほど強い抵抗にあうという矛盾の中で、後継者はいつも迷っているのです。

 

理由その③ 一番大事な「先代の覚悟」

一般的には、事業承継においては「後継者に覚悟が必要」と言われます。それは正しいのですが、実はそれ以上に大事なのが「先代の覚悟」です。もし皆さんの身の回りに、「一度は後継者に代を譲ったけど、後継者はまだ未熟だったから自分が社長に戻った」という話は聞かないでしょうか?これでは、後継者のメンツは丸つぶれです。本来、だれかに代を譲ろうと決心したならば、一番やってはいけないことだと私は考えています。

合理的に考えるなら、後継者はいずれ独り立ちしなければならないのです。もし、その立て直しをするならば、わざわざ社長に返り咲く必要はなく、後方支援という形でかかわるほうが対外的にもスマートではないでしょうか。それをあえて、社外に知らしめるかのような形で返り咲くというのは自己顕示欲の表れとしか思えません。

実際にわたしが接した先代経営者の多くは、口では「早く代を譲りたい」と言いながらも、後継者の台頭を無意識に邪魔したり、後継者の手柄を自分のものにしようとしたりするケースが散見されます。

さて、ここで一つのクイズにチャレンジしてみてください。同族会社の事業承継で5年後の業績が最も上がったのはどれかわかりますか?

①「息子に継がせたとき」
②「娘に継がせたとき」
③「娘婿に継がせたとき」

この答えは、アメリカの論文に書かれていて、③の娘婿の場合だそうです。これを分析して星野リゾートの星野佳路氏はこう言います。「その理由は、先代とケンカが起こりにくいから」。親子だと遠慮がないから感情的になってケンカも起こりやすい。でも、娘婿だと一定の距離を保てるのでケンカになりにくく、先ほど言ったような「やらなくていい苦労」が軽減されるのです」(星野リゾート代表が語る、事業承継に必要な「潰してもいいからやってみろ」の覚悟(ダイヤモンドオンライン)( https://diamond.jp/articles/-/154609?page=2 )

つまり、先代が良かれと思って後継者に施す「指導」が時として会社全体を見てみると、バランスを欠いてしまう原因となる可能性さえはらむのです。実は海外では、こういったファミリービジネス(簡単に言うと同族会社)の事業承継の人間関係の研究もいろんな形で行われています。米国ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の教授らの研究では、後継者の学習ステップを「4Lフレームワーク」として以下のように推奨しています。

1.ビジネスを学ぶ(L1)
2.自社のビジネスを学ぶ(L2)
3.自社のビジネスを率いることを学ぶ(L3)
4.手放すことを学ぶ(L4)

経営においては、スタート時点から「手放す」というゴールを含めて学習すべきと言っているように、会社のその後のことを考えるなら去り際がとても大事です。信じて任せきる、という人としての器が必要になります。

昭和の時代から会社を続けてきた先代経営者は、とにかく無我夢中で働き、会社のために尽くしてきました。会社が全てだったと思います。だからこそ、事業を継承するならどこかのタイミングで自分の関心ごとを別の方向へ仕向ける準備が必要だと思われます。しかし、残念ながらそれを指導する人はおらず無責任に生涯現役を礼賛する風潮が、結果として後継者と会社の主導権の奪い合いという悲し結末を作り上げてしまうのではないでしょうか。

自分の人生をかけてきた会社を譲り渡す。これはとても苦しいことだと思います。だからこそ、本気の覚悟が必要となるのです。

3】中小企業の事業承継はどこを目指すべきか?

事業承継が上手くいかない3つの理由を克服する方法は、言葉にすれば簡単です。継がせる側も、継ぐ側も、双方人間的に成長すればいいだけなのです。フレデリック・ラル―が著書『ティール組織』の中でハッキリと言っていることは、リーダーの人間的レベルを超えた組織は存在しえない、ということです.。組織が成長するためには、スキルや組織だけではなく、人間的に成長したリーダーが不可欠なのです。人間的成長の一つの指標は「許容度」だと私は考えています。

後継者は、先代や世間のいう事を受入れつつも、それに惑わされることなく、淡々と自分のすべきことをする。言い換えれば他者評価に左右されない芯の強さを備える必要があります。先代は先代で、自分の思いどおりに物事を進めようとするのではなく、後継者の未熟さを含めて受け入れ、自分の役割を自覚する。それで会社がダメになるとしても、自分が選んだ後継者を信じ続けることが大事です。

双方がそういった思いを持つことは、会社はそれなりに前を向いて動き出すのではないかと思います。

 

一方、個別の事情とは別に、企業は社会の公器という考え方に基づくなら、社会的な視点からも見てみる必要がありそうです。以下の中小企業庁の資料をご覧ください。( https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/shokibo/b1_2_3.html )

何かとニュースで取り上げられるのは、廃業率の推移ですが、2019年時点では取り立てて高いといった感じは見受けられません。また、廃業がすべて悪というわけでもない、と私は考えています。これも新陳代謝ですから、社会で価値を発揮できない企業が消えていくのは残念ではありますが、それも自然の法則といえます。一方で問題なのは、開業率の低さではないでしょうか。

ここで後継者(に限らず若い経営者)が担っている社会的使命が見えてくるように思います。新しい会社が出てこないという事は、社会に対する新たな価値提案ができていない可能性が高いと考えられそうです。むしろそういった分野は海外のベンチャー企業ばかりが目立っています。この役割を担うのが中小企業の後継者、とは言えないでしょうか。だから私は後継者を「事業を継ぐ人」とは考えておらず、「志を継ぐ人」と捉えています。

たとえば、先代経営者が創業者だったとします。起業当初、まだ社会に普及してない商品を手に起業したのが創業者です。年齢的には30歳前後の方が多かったのではないでしょうか。まだまだ世の中に普及しない製品を一生懸命普及させ、40歳代ぐらいから会社が儲かるようになってきました。そしてその商品・製品は、バージョンアップを重ねながら売れ続け、経営者50歳代~60歳代で利益が出にくくなってきました。市場の飽和です。そこで入社してきたのがまだ若い後継者。後継者は肌感覚で、家業の商品やビジネスモデルの古さを感じていることが多い。この後継者を今の社会はみんなで、「親のようになれ」といって可能性を摘んでしまいがちですが、彼らが花を咲かせる環境を整える方向に行けたら素晴らしいことが起るのではないでしょうか。また、後継者も、親の後追いではない「自分のビジネス」を生み出すことにコミットしてほしいと思います。継ぐべき志は先代のフロンティア精神です。

社会として起業家を育てるのも大事ですが、既に経済基盤や顧客基盤を持った中小企業があるならば、それを利用しない手はありません。それをウェットな感情を残しつつ出来るのは、同族経営だからこそだと思います。

後継者は、新たな価値を作るために、親の会社を最大限利用してはいかがでしょうか。図で言うならば、先代が作ってきた赤い成長カーブに重ねるように、後継者の青いカーブを作り上げてほしいと思います。

4】おわりに

同族会社の事業承継の問題は、一般的には後継者の資質の問題とかたづけられがちです。確かにそういった側面もありますが、資質以前に後継者が伸び伸びと自分の実力を試すフィールドが整えられていないという側面もありそうです。これは自転車の練習に例えるとわかりやすいと思います。子どもが補助輪なしの自転車を練習するとき、親は自転車を支えますが、いずれ手を離さなければ子どもが自転車に乗れるようにはなりません。しかし多くの事業承継では、後継者の経営を手放しで見ることができる経営者は非常に限られているし、そうすべきだと指摘する人もあまりいないのが現実です。

そして後継者は、親の会社を「守る」という意識が強すぎて、自分の会社をつくる・産みだすといった意識が薄弱な部分も問題の一つです。事業承継のゴール設定が、「無事、親の会社を存続させること」というところであるうちは、やりがいも感じないし、わりの合わない役割と感じるのも無理もありません。

後継者の役割は先代の残した会社の有形無形の資産をつかって、社会に新たな価値を問うことだと私は考えています。後継者であるあなたの才能が花開くことを、世界は待っているのです。


今回のブログは、2021年12月31日に「Inswatch Professional Report」に掲載頂いた記事をInswatch様のご厚意で共有させていただきます。共有させていただきます。
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二世経営者の会社改造計画
これからの代理店経営を考える3つの視点(2014-2015)
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