家業が嫌いな二世経営者の方へ

 

私、自分の家業が嫌いなんです。
正確に言うと、やり始めてキライになりました。

それでも、もう27年間も父の創業した会社でおり、
今や社長です。
正直、辞めようと思ったことも何度かありますけど、
今はそれなりに楽しくやってます。

その間に何があったのか。
少しお話しさせていただきたいと思います。

私の家業は、保険代理店です。
平たく言うと保険屋さん。
学校を卒業して、まずは大手の同業者さんで修業してました。
そこで何をやってたかというと、「飛び込み営業」です。

町の個人宅に、ピンポンならして、
「○○保険のご案内を・・・」
なんてやってたわけです。

 

反応は、ご想像通りひどいもんです。
水をかけられたり、バットを振り回しながら追いかけられたり。
「お、俺が何やったっていうんだ!?」
なんて思いながら必死で逃げたことを昨日のように思い出します。

もう、害虫扱いです。

さすがに、バットで追い回されると、次の訪問が怖くなります。
で、ちょっと心を落ち着けようと、公園のベンチで昼寝をする。
するとね、夜、家に帰ってワイシャツを脱ぐと、パラパラ黒いものが落ちるんです。
アリですよ、アリ。
もう、悲しくなっちゃいますよね。

知ってましたか?
毎日、埃っぽい街を一日中歩いていると、
まつ毛とか、鼻毛が濃くなるんです。

夜、一人暮らしのアパートで、シャツから出るアリを処分しながら、
鼻毛を抜くのが日課になった自分。
お先真っ暗です。
後継者としての第一段階でつまずいてるわけですから。

 

しかし、私が根っからの営業下手かというと、多分、そうではないと思います。
なにしろ、学生時代のアルバイトで、学習教材を飛び込み営業してた時は、優績者でしたから。

成績ゼロの記録を更新していたある日、いつもと同じように営業に出かけたとき、
ふと見上げると、そこには自動車ディーラーがありました。
日産のレッドステージだったと思います。
そこでは、セールスマンとお客さんが、空調の完備されたショールームで、
アイスコーヒーとかを飲みながら談笑してるわけです。

なんなんだ?この違いは?

こちらは汗だく、アリまみれで、まつ毛も鼻毛も濃くなっていく変化に泣きたい思いなのに
やつらは冷房の効いた部屋でコーヒー飲みながら、笑ってます。

その違いがどこにあるのか、真剣に考えました。
(その後、自動車ディーラーの営業も楽じゃないと知りましたが)

 

そうだ、自分が扱っている保険っていう商品が悪いんだ!

 

そう思ったんですね。
すると、この商品の悪い部分がどんどん見えてきます。
まぁ、完璧な商品なんて世の中にはありませんからね。
とはいえ、こんな商品を扱う家庭に生まれた自分は、なんて運が悪いんだ!?なんて思うわけです。
書いてて恥ずかしいくらい、駄々っ子モードなんですが、
当時は結構真剣にそんなことを考えてました。

逆に、世の中に出回る数々の営業本の最重要項目として、
「自分の扱う商品を好きになれ」
とあります。
悩みました。
商品を好きになれない→営業では成功しない→自分の未来は真っ暗
という図式が脳内に一瞬にして、描かれます。

どの本読んでも、「嫌いな商品を好きになる方法」なんて書いてませんから私の眼前は行き止まり。
そんなふうにも思えました。

 

 

しかし、転機が訪れます。
私が目指すのは、トップセールスマンじゃない、という事に気付いた瞬間です。
初めのうちは、「それって逃げてるんじゃないの?」なんて自問自答もありましたけど、
営業の失敗から何が学べるかを考えると、いろんなことが分かったんです。
この業界の問題、商品の問題、自社の在り方なんていうものが。
最近「起業」を扱った本がたくさん出版されていますが、例外なく言われているのが、
起業家は自分の商品と恋に落ちていることが多く、それは危険なことだという事です。

恋に落ちるべきは、商品とではなく、お客様とです、とその本は締めくくっています。

家業と恋に落ちなかった私は、
常に家業を批判的な目で見ています。
自分のいる業界にたいしても、商品に対しても常に批判的です。

恋は盲目、アバタもえくぼ。
今なら確信を持って言えます。
私の最大の強みは、家業に恋をしなかったことだと思っています。
嫌いだから疑問がわき、疑問がわくから問題が見えます。
そして、私にはほかの人に見えない問題が見える(ような気がする)からです。

多分、私は一介の営業マンとしての成功は絶望的でしょう。
もはやするつもりもありませんし。
しかし、別の道なら、それなりに可能性があるんじゃないかな、と思い始めました。

もし、家業が嫌いなあなたが目の前にいたとしたら、
家業が嫌いなんだけど、家業に従事しているあなたから相談を受けたとしたら、
私はきっとこういうでしょう。

「おめでとう。」

それは、後継者として素晴らしい才能を手にしているという事だと、
私は確信しています。

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  1. 2016年 9月 08日
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