創業者

なぜ親は子に事業を譲りたがるのか?

創業社長の多くは、事業を子に譲ることを希望します。
事業承継の表向きの理由は、事業や会社を存続させるため、顧客を守るため、
そんな風に語られます。

しかし、私が見ている限り、それは本当の理由ではないと思っています。
では、なぜ事業を子に継承させたがる社長が多いのでしょうか?

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ある中小企業の事業承継

65歳社長が後継者に見切りをつけた理由

大阪市中央区にある、専門商社。
この会社では、7年ほど前、表向きは事業を後継者に譲り、代表を交代しました。
創業社長は、まだ65歳でバリバリの現役っぽい雰囲気を漂わせたので、立派だなぁと思いました。
その創業社長のお子さんは、2人いましたが2人とも会社を継ぎたくないと言って一般企業に就職しました。

そこで番頭格の一般社員を後継者に起用しました。
その方は、商品仕入れのセンスに長けていて、また通販部門の立ち上げを行った会社の功労者。
実際のところ、その会社が今も好調な理由は、その番頭社員が立ち上げた通販部門によるところが大きかったのです。

代表交代をして、1年たち、2年たったころ、ある違和感を感じました。
いつまでたっても、会長に退いた創業者が、新社長に相談なく重要な決定事項を決めているのです。
まあ1年程度なら引継ぎ期間と言えそうですが、3年たっても会長の名刺を持った創業者は変わらず陣頭指揮を執っています。
雲行きが怪しくなったのは、3年を過ぎたころ。

「ウチの社長(後継者)はやっぱり不適任だった」

それまでも後継者への愚痴は時々聞いていましたが、このとき創業者である会長はこういいました。
「私が社長に戻ろうと思う」

実は、その後継者と話す機会もありました。
彼は彼で一生懸命やっているのですが、自分がやろうとしていることに会長からのストップがかかるということを漏らしていました。

後継社長は、思う存分采配を振るうことなく、ほどなく社長の座を下ろされました。
そしてこのあまりの仕打ちに、会社を去ったそうです。
その会社の売り上げの柱となる通販部門を残して。
残った創業者はこういいました。
「あいつは、社長の器ではなかった」

親が子に会社を譲ろうとする「裏の目的」

創業者は今もその会社の社長に君臨しています。
70歳を過ぎたその方は、もはや会社を誰かに託すことは考えてはいないようです。
この後どうされるおつもりなのかを聞いても、言葉を濁すばかり。

 

後継者が親族であれ、そうでない場合であれ、割とよく見かけるシーンです。
あからさまに降格という措置をとるかどうかは別として、表向きの地位と実質的な権限が落とされることは日常茶飯事。

こういう事例を見るといつも思うのです。
たぶん、創業社長が守りたいものは、会社ではない、と。
多くの創業社長は、会社を自分の子供に託したい、と考えるようです。
それは二つの考えが同時にあるような気がしています。

1つは、自分が子どもに認められたかのような嬉しさ。
会社をやっていなかったとしても、例えば親が教師をしていて、子どもも「教師になりたい」と言ってくれると嬉しいものです。
自分のふるまいを、受け入れてくれた、認めてくれてるんだな、と。

しかし2つ目は、ちょっと雰囲気が違います。
それは、肉親に会社を譲ることで、会社への影響力を持ち続けることが目的なんじゃないかと思います。
よくある悩みで、中小企業において「社長が生涯実権を手放さない」というものがあります。
ずーーーっと社長をやり続けるパターンですね。
けど、肉親が後継者であれば、表向きは代替わりを果たしたうえで、実権を握り続けることができる。
そういう「裏の目的」が多かれ少なかれあるように思います。
たぶん、当の本人は無意識にやってることなので、そのことに気付いていないとおもいます。
他人から指摘されると、感情的に反論される可能性もあるかもしれません。

じゃじゃ馬を乗りこなす

父娘バトルの背景にあるもの

こういう裏の目的を持った創業者を会社から追い出そうとすると、一戦交えざるを得ないことが多いと思います。
某家具屋さんの父娘バトルをみると、その構図がわかりやすいと思います。
父はイエスマンを自分の手元に置こうとするし、娘はそれを排除しようとします。
娘が代表になって自分の支配下から会社が離れそうになれば、会社のブランドを失墜させてなおそこに居座ろうと考えました。
年齢的なことを考えると、会社を存続させることが目的とは到底思えません。

けどこれも、たぶん無意識にやってることなので、「しようがない」という結論にしかならないと思います。

 

総合的に考えて、会社に影響力を持ち続けようとする創業社長は会社を存続させることが目的ではないと思います。
意識の上では、会社を存続させようと考えているかもしれませんが、無意識にとる行動はそうではないのです。
親子で会社を引き継ぐ強みはたくさんあるのは事実ですが、それとは違った目的が創業者を突き動かします。

家族経営の会社における親子の関係

そういったときに最も過激な結論は、外科的処置になるわけです。
切り捨てる、ということ。
これは創業者にとっては、「ダメ出し」をされたことになります。
会社に関わることができなくなる現実と相まって、自分の価値をないがしろにされたかのような気持ちになります。
だから強力な反発が起こるのではないかと思います。

興味深いのは、星野リゾートの星野佳路氏も、ユニクロの柳井正氏も、親の会社を譲り受けたのですが、ある共通点があります。
それは、入社前に「すべてを任せてくれるならやる(そうでなければやらない)」という約束を親から取り付けていたようです。
入り口で親からの干渉をシャットアウトしていたのです。
会社を継ぐメリットもデメリットも、すべて受け入れようという覚悟と、やろうとする方向性が自分の中で固まっていたことが、あるいはこの二人の成功の要因かもしれません。
主体性を持った引継ぎだったのでしょう。

初めからこういう話ができればいいのですが、さすがにそこまで強い主張ができない事の方が多いでしょう。
こういうことを言えるのが、この人たちが成功できた要因なのかもしれません。

親を切り捨てることもできないし、
入社前に口出ししない約束を取り付けたわけでもない。
今も後継者という立場ではいるものの、やってることは中間管理職の域を出ない。
そうなると別の戦略が必要となってきます。

管理・強制で動かないじゃじゃ馬を動かすには?

親子の事業承継で、親子関係の問題を乗り越えようとするとき、ある言葉が浮かんできました。
それは、「じゃじゃ馬を乗りこなす」という言葉。
大変失礼な表現で申し訳ないことこの上ないのですが、承知のうえで書かせていただきました。
しかし、後継者から見たイメージとしてはピッタリじゃないでしょうか。
自分の思い通りにならない親をじゃじゃ馬とすると、飛んだり跳ねたりして管理のしようがない。

そこで発想の転換が必要になります。
管理しようとしたり、強制しようとしたりしても、たいてい失敗に終わります。
そして、じゃじゃ馬というのはたいてい、強い。
じゃあどうするかというと、乗り手の意志の通り動くような仕掛けを作ればいいんです。
じゃじゃ馬自身は自分の意志で動いているとおもっているけど、実はうまく手綱をひかれてた、という状況を作るわけです。

私たちの常識から考えると、力でねじ伏せる(ルール・強制・規制など)方法しか思いつかないかもしれません。
(シェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』なんてまさにそんな古い方法ですね)
しかし、私は「場」をコントロールしよう、とお勧めしています。
「場」というのは、その物理的な場に集う人たちで作る雰囲気みたいなもの、と理解しています。
強制ではなく、本人が自発的にふるまうのですが、その自発的なふるまいは「場」に影響されるんじゃないかと思っています。

たとえば、facebookで投票日に「あなたの友達の中で、すでに誰と誰が投票しましたよ」というメッセージを見せると、見せられたことにより投票へ行動が促された人はプラス34万人だったそうです。
周りの誰かの動きが、人を動かすのです。
であるなら、力強いじゃじゃ馬を直接動かすより、もう少し従順な馬を操ったほうが簡単じゃないですか?

急がば回れ

私はどちらかと言えば、回り道がキライなほうです。
たとえば、どこかへ行って迷子になった時、来た道を戻るのはなんだか悔しい。
だから違う道を通って帰ろうとして、余計に迷子になるという失敗を繰り返すような男です。

そんな私でも、どうやら世の中のには最短距離を行こうとするより、回り道とわかっていても遠回りをしたほうがうまくいくことが多いような気がしています。
最短距離にはたいて、かなり高いハードルが設置されていたりするものです。
だから早く解決したい時ほど、回り道をしたほうがいいこともあるんだな、と感じています。
親子の問題に関して、親との直接的な対話が最短距離だとしたら、その周囲への働き掛けは回り道。

ある程度バランスをとりながら、会社のコントロールを握っていこうとするなら、そんな回り道が意外と通りやすい道なのかもしれません。

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