後継者

理念経営がうまく行かない5つの理由

多くの場合、創業社長と後継者では、
経営における考え方にギャップがあります。

過去の記事にもある通り、
創業社長は過去から現在を見ており、
後継者は現在から未来を見るからです。

その時に出てくる衝突の原因の一つとして、
経営理念に基づく経営というものがあるのではないでしょうか。

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創業社長はなぜ理念経営を認めないのか?

理念で飯は食えない

よく耳にするのが、「理念で飯は食えない」という言葉。
現場でたたき上げた、敏腕社長の言葉としては、ポピュラーな主張です。

創業社長の多くは、一人、もしくは奥様と二人で事業をスタートしています。
この時に切実に感じたのが、

●お金の問題

ではないでしょうか。

ギリギリの事業資金でスタートし、
設備を整え、仕入れをし、商品を作る。

あり得ないスピードで、手持ち資金は減っていきます。
しかし、買ってくれるお客様もなく、そのお客様の確保、売り上げの確保に奔走します。
恐らく、創業から数年は、そんな毎日だったのではないでしょうか。

明日の事を考えるより、今生き延びる事が最大のテーマ

この生活を何年も続けていると、今日の売り上げがどれだけ大事か?
という事が、体に沁みこんでる事は間違いないでしょう。

そんな状態で、「経営理念」等という浮ついた話は、
頭の中に浮かびさえもしないでしょう。
時代的にも、大企業でさえ、経営理念を作ってはいても、
社員はその存在すら知らないのがこの時代だったと想像します。

売上に直結する事だけが価値がある

そんな中にあって、当時の創業社長にとっては、
売り上げに直結する事やモノ以外には価値を感じられない
となるのは当然のことです。

余計な事に目を向ける暇などなかったのです。
そんな暇があれば、顧客の開拓や、商品開発、技術を磨くことに時間を費やすのが、
当時の正しい経営スタイルだったのかもしれません。

だから、創業社長は、後継者が経営理念などという言葉を持ち出すと、
世迷いごともほどほどにして、技術を磨け!
という事になってしまうのです。

組織としてのありよう

少し視点を変えて、組織としての企業を見ていきましょう。
前述のとおり、多くの中小企業は、創業当時は、
創業社長と奥様、という構成が多いようです。

すると、組織といったことを考える必要はほとんどありません。
その最小単位の組織に、
必要に応じて、必要な場所に、必要最小限の人を採用します。

単純化してお話しすると、
①仕事量が増えてきたので、これをこなすための人員が必要。

②とりあえず人員を採用して、必要な作業をこなしてもらう。

③決まった仕事をしてもらえばいいので、それ以上特に不都合もない。

といった感じでしょうか。

不都合がない以上、特段深く考える必要はなかった、
という事もあるでしょう。
離職率が高くても、社員が今一つやる気が無くても、
作業さえこなせれば、会社として成り立つわけです。

そうなれば、何か特別なきっかけでもなければ、組織について再考する機会は訪れない。
こんなからくりで現在に至っているのかもしれません。

なぜ後継者は理念を重視しようとするのか

売り上げ10億円の壁

世間でよく言われることですが、企業においては
売り上げ10億円の壁
というものが存在するようです。

売上が、10億円に近付くと、様々な事件がおこり、
一気に後退してしまう事が多いようです。
実際には10億円間近に起こるのではなく、
年間売上高が7億円~8億円程度のところで起こるようです。

なぜ、そんな事が起こるのでしょうか。
それにはいくつかの理由が考えられます。
主なものとして、次の2つの理由があるのではないでしょうか。
①ビジネスモデル転換のタイミングである

②本格的な組織化が必要なタイミングである

ビジネスモデルの転換

時代背景との絡みもありますが、
現在、ビジネスモデルの転換を必要といている業界は、
非常に多いと考えられます。

現在、どんな業界でも利益率は20年前と比べると、
大きく後退しているのではないでしょうか?

かつては、同じ売上でも、今までの倍以上の粗利率があったのに、
今となっては・・・という業種は少なくないように思います。

 

となると、例えば、売り上げをすべて営業社員に依存している場合、
今までと同じ活動では、どう考えてもビジネスが成り立ちにくくなってきています。
創業社長の時代には、営業社員の尻を叩けば業績は上がったかもしれません。
しかし、後継者の時代に尻たたきだけで生き残る事ができるのか?
という疑問は禁じ得ません。

そうなると、営業の方法を変えるか、商品を変えるか、サービスの提供方法を変えるか。
いずれにしても、尻たたきというカンフル剤ではなく、
ビジネスモデルの転換という大手術が必要となっているのが、まさに今の時代ではないでしょうか。

本格的な組織化が必要とされるタイミング

売上が10億円に近づいてくると、
業種にもよりますが、多くの場合少なくとも、
二桁の人数の社員を抱える規模になっている事でしょう。

これは、社長がすべての社員を見渡せる限界を超え始めている事を意味します。
多くの場合、創業社長は無意識に、人を自分に依存させる方向に誘導しがちです。
単に「現場に決めさせない」という行動ならわかりやすいのですが、
例えば、
「現場には自分で決めていい」と言っておきながら、
実際にその現場の判断に何らかの不満を漏らしたり、
口に出さなくとも、不快な表情をしたりします。

結果、現場の人間は、イヤな思いをしたくないから結局社長の決裁を仰ぐ、
という流れが深く根付いていくわけです。

こういった行動パターンを、創業社長は無意識で行っていることが多いので、
なかなか治すことができません。

こうやって、組織が膨れ上がってきても、
常に社長の判断を仰がなければ物事が進まない組織が出来上がり、
社長はてんてこ舞いなのに、現場は上手く動かない。

社長は現場の動きの悪さにイライラし、現場は社長の顔色をうかがうという、
だれも報われない組織となり、謀反が起こったりするわけです。
製造業のように、設備投資が必要な業界意外では、
実際に会社が分裂する事はよくある話です。

責任感ある後継者が立ち上がる

どこかボタンを掛け違えた感のある組織。
そこに最も問題意識を強く感じるのが、後継者です。
特に、同族の後継者は、逃げられない立場にいますから、
その思いはかなり強いはずです。

また、思った以上に後継者は勉強熱心です。
その勉強の中で出会うのが、「理念経営」という言葉です。
ただ単に、物を作り出荷するだけではいけない。
ただ単に、物を販売するだけではいけない。
ただ単に、決められたサービスをするだけではいけない。

その根底に流れるポリシーのようなものが必要だ、と。

そのポリシーは、組織をチームにまとめ上げ、
自発的に動く社員を作る。
そう信じて、経営理念を作り上げます。

しかし、現実は決して楽な道のりではありません。
そこには大きく立ちはだかる関門がいくつもあるのですから。

後継者の心理

先ほど、創業社長は人を依存させる癖がある、といったことを述べました。
実は、その傾向は後継者が、創業社長の子息・子女である場合、
やはりそれと似た癖を持っている可能性は高いようです。

人を依存させる癖は、ひも解けば、自分が他者から認められることが重要である、という価値観と言えます。

創業社長においては、登場人物は、顧客と自社の社員だけである事が多かったのと、自分がいかに仕事ができるかを知らしめることが大きな価値でした。
しかし、後継者の価値観は、自分が経営者としていかに優れているかをアピールする事が潜在意識の中にあるように思えます。

職人としてではなく、リーダーとして認められたいのです。

それは、後継者の資質として最も重要なものですから、とても大事なものです。
しかし問題は、
組織を自動操縦する事に価値を感じる後継者と、
自らが率先して中心でいようとする創業者で、
大きなギャップを生むことです。

率先して戦場に出る創業者(鬼軍曹?)にしてみれば、
後継者の理念は戯言でしかなく、
安全地帯から軍を動かす軟弱者(官僚?)に見えるのも、
この価値観のギャップを考えれば、
理解できなくもありません。

理念経営がうまく行かない5つの理由

鬼軍曹VS官僚

前段で少し極端な対比をしました。
鬼軍曹(創業者)VS官僚(後継者)
の対立構図です。

ハリウッド映画では、現場たたき上げの鬼軍曹と、
及び腰な官僚という構図はよく見かけますので、
イメージがわきやすいと思います。
(多くの映画では、鬼軍曹がヒーローとなる事が多いので、
官僚に例えられた後継者の方にとっては不快な思いがあるかもしれませんが
そこはご容赦を・・・笑)

この両者で、達成したい目的が全く違うものである場合は、
歩み寄りの余地が無いのはご想像の通りです。
例えば、宇宙人に地球を売り渡して自分だけ生き残ろうとする官僚と、
仲間を、地球を守りたい鬼軍曹、
というストーリーなら、何をやっても両者の対立は埋まる事はないでしょう。

しかし、両者ともに、自国を守りたい、という思いが共通なら、
対立のギャップを埋める事は可能な気がしますね。

実は、経営理念というものの役割は、そこにあるのではないでしょうか。
やり方は違えど、進む道が同じならば、歩み寄り出来るポイントはあるはずなのです。
上記の例であれば、「自国を守りたい」という思いですね。

ストーリー上、その思いが共有されていれば、
始めは対立した鬼軍曹と官僚が手を組んで、
目的を達成してハッピーエンドとなるわけです。

なぜ、「理念で飯が食えない」のか?

いろいろ学んで、経営理念を明文化し、
その浸透に様々な工夫をしました。
しかし、実際は理念があってもなくても、
売上も利益も上がらない。

そんな事も少なからずあります。

現場は、理念の実現のために社員は一生懸命に頑張ってくれるけど、
数字の方がおろそかになっている。

そんな不満を漏らす社長の声も、時折耳にします。

しかし、それっておかしいですね。
本来、理念の実現=会社の繁栄であるはずです。
場合によっては、経営理念の作り方の問題があるかもしれませんが、
ここではスペースの関係上、そのお話は割愛させて頂きます。

理念が正しく作られているという前提で、まずは、なぜうまく行かないか?を見ていきたいと思います。

理念経営がうまく行かない5つの理由

さて、いよいよ理念経営がうまく行かない理由を具体的に考えていきます。
あくまで、私の個人的な経験と、反省・考察によるものです。
私ごときが、経営理念に関して語る資格などない、と思われる方もいらっしゃるでしょう。
それはそれとして、使えるものなら使っていただければ幸いです。

チェックリスト的にご活用いただける程度のレベルではあると思いますので、参考にしてみてください。

なお、ここには、創業者が理念経営を受け入れられない理由も内包されています。
創業者がまったく理念経営を受け入れない場合には、
その原因が見えてくると思います。

①社長自身が心の奥底から理念にコミットしてない。

人の心理というものは、奥深いものです。
例えば、「お客様の繁栄を」なんて言う耳触りのいい言葉を並べることが多いのが経営理念です。
しかし、現実問題として、経営者(後継者)の方は、その内容に心の奥底からコミットできているでしょうか?

本当は、お客様の繁栄より、自分の車を買い替えたいとか、
いい暮らしをしたいとか、そんな思いで会社経営に携わっていないでしょうか?

それが悪いというわけではありません。
ただ、お客様や社員の方々は、そのギャップを敏感にかぎ取ります。
コミットできない経営理念は、場合によっては経営によくない影響を及ぼします。

②理念と業績を別物として捉えている。

理念の実現と、会社の業績は、リンクしているべきであると思います。
右手に夢を、左手にそろばんを、という有名な言葉がありますが、
それはあくまで経営者の心の中の話。
そのような二枚舌は、他人には通用しません。

夢に向けた行動が、そろばんを加算させように方向づけなければなりません。

また、夢のベクトルがそろばんを加算させる方向と、経営者の頭の中で一致したとしても、
それが社内に浸透していなければ、社員は動くことができません。
経営者の頭の中でそれがつながっていたとしても、
一人一人の社員がそれを理解していなければ意味がありません。

今、目の前にいるお客様に喜んでいただく事が、
次の来店を促す・・・という事であれば、その仕組みが社内に理解されていなければ、
理想と現実の二重経営から脱出する事はできません。

さらに言えば、理念のために行動すれば結果として業績に繋がっている。
この一致が必要になってきます。
業績が振るわなければ、営業をがんばる、ではやはり二重構造である事は否めません。

③数値化された業績に反して理念実現への行動が数値化されていなく、理念実現のための行動を評価する仕組みが無いか、圧倒的に低い評価しか行われない。

これは、社員が動かない原因の大きな部分でしょう。
売り上げ実績は、それがダイレクトに数字となり、
評価は明確になされることがほとんどです。

しかし、一方で、売り上げに直接的に関与しない活動は、
数値化されないため、Aさんががんばったのか、Bさんががんばったのか、
あいまいにされがちです。

例えば、お客様に感動のサービスを、とホスピタリティの向上を謳ったとします。
そのために、お客様の先回りをしてサービスした社員がいたとします。
彼は、理念の実現のために頑張ったわけですが、
「で、君の今月の成績は、ノルマに達ってないよね?どうすんの?」
なんて話が出たりします。

経営者は、「それは君の責任だ」
と社員の問題とします。

これでは、社員はどう考えるでしょう?
「どうせ評価されないなら、無駄な事をするより普通に営業してた方がいいや」
という事になってしまいます。

実は、②の問題点が解決していればこの問題は起こりえないのですが、
現実には良くある話です。
しかし、理念の実現に奔走した社員が、想定した営業成績を上げることができなかったとすれば、
それはリーダーの問題となります。

④年度単位の業績にとらわれている。

これは、中間管理職が実際に突き当たる壁でもあると思います。
理念経営の根本的な役割は、会社のDNAを組織に植え付ける事でしょう。
組織は、残念ながら一夜で変化することは稀ですし、
そういった活動がお客様の肌に感じられるまでのタイムラグがあります。

すると、単年度、単月でみると、むしろ経営状態が悪化する時期が出てくる可能性は大いにあります。
そこを乗り越える覚悟を経営者がしていなければ、待ちきれず、幹部を叱責します。
それを耐える覚悟と体力は必要である事は、意外と語られていないようにも思います。

⑤社長以外のステークホルダーいる場合、そのステークホルダーが信用できるに足る戦略が明示されていない。

事業承継期間中の後継者がリーダーだとすれば、そのステークホルダーはおそらく、
創業社長であることが多いでしょう。
他にも、古株の番頭さんであったり、株主だったり、税理士だったり、金融機関だったり。
会社によっては様々な登場人物がいます。

そこに、ある程度
「これならうまく行くかも」
と思わせる計画や戦略が提示できないと、
残念ながらその人たちを説得する事は難しいでしょう。

こういったことが事前にできていないと、
必ずと言っていいほど横やりが入ります。
やっていてさえ、横やりが入るのが経営ですから、
少しでもその抵抗を減らす工夫は欲しいものです。

理念経営の現実

こうやって見ていくと、
理念経営は志した瞬間から、
自動的に社員が動き、
会社に利益をもたらす
打出の小槌ではなさそうです。

考えようによっては、経営者の負担は独断経営と比べて大変かもしれません。
しかし、それが実現したときの成果はそれ以上に大きなものがあるのでしょう。
それが理念経営を目指す理由だと思います。

一方で、理念経営が企業のあり方の「絶対的な正解」か?
といえば、必ずしもそうとも言えないと思います。
そこを目指す社長もいれば、目指さない社長がいてもいいのではないかと思います。
それが社長の個性です。

皆が同じ方向を向く必要などないのです。
しかし、もし、楽をして経営できれば・・・
という思いで理念経営を目指すとすれば、それは大きな間違いという事に気づくには
さほど長い時間はかからない事でしょう。

まとめ

経営理念では、飯は食えない。
そういった言葉が、経営者の間で交わされることがあります。
しかし、事実は、経営理念で飯が食えないのではなく、
経営理念と売り上げを生むという二つの目的を融合する作業がなされていないから
経営理念が売り上げアップに貢献しないと言えそうです。

その二つの間を統合するのは、誰でもない経営者の仕事。
しかも、恐らく、高齢の創業社長よりむしろ、
社員の気持ちにも共感できる後継者の方が適任でしょう。

経営理念は、理念の明文化が一大事業というよりも、
それを現実の行動に落とし込むところがスタート地点です。
そこには、理念に沿って売り上げを生む仕組みづくりが不可欠です。

それを承知したうえで、理念経営の歩みを進める必要があります。
一方、違う選択肢もきっとあるでしょう。
それを決めるのは、まさに後継者。
自分は、どこにフォーカスして会社経営をしていくのでしょうか。
そんな自問自答が、必ず必要となってきます。

 

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