後継者

ある二代目社長が起こした社内会議の大混乱(1)

ある二代目経営者からご相談を頂きました。
彼は開口一番こういいます。
「もう何が何だか分からなくなってきました・・・」

そこに対する私の回答は・・・
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件の二代目経営者は、保険代理店の経営者です。
仮に彼を、R社長と呼びます。
R社長は、ある考え方と出会ったことをきっかけに、
会社の事業モデルを根本から考え直すことが必要、
と考え始めたのです。

そこでR社長が目を付けたのが、「マーケティング」という考え方。
社員に課題本を渡し、本の中で気になった部分を会議で共有しよう。
彼はそう考えたそうです。
しかし、その結果、会議はまったくまとまりのないものになったそうです。
社内も混乱、R社長も混乱。
これからどうしていっていいかわからない、というのです。

組織学習の過程で起こる混乱

「混乱」こそが変化の証?

「田村さぁん。もうほとほと困り果ててるんですよ。この会議、どうまとめていっていいか・・・」
そういうR社長に対し、私はニタニタしながら(意地が悪いのです笑)こう答えました。
「それ、いい徴候じゃないですか」

個人であれ、組織であれ、新しい考え方ややり方を導入するには必ずと言っていいほど混乱が起こります。
新しいものが、過去の話の延長線上にあるものなら、さほど混乱は起こりません。
今までもっている常識や、思い込みを変えることなく調整できるからです。
しかし、今までもっている分厚い鉄板のような凝り固まった思い込みをもったまま、新しいものを受け入れることはできません。
一旦その思い込みは壊してしまわないといけない。
その過程で起こるのが混乱です。

何が何だかわからない。
どこへ行きつくか全く見えない。

つまり、想定外の状況を社内に持ち込んだわけです。
逆に言えば、混乱が起こらない程度の話であれば、大した変化は見込めない、といえます。

自分で考えることは難しい

ここですこし、R社長の属する業界についてお話ししましょう。
R社長の会社は保険代理店。
この仕事は、メーカー(保険会社)から委託を受けて仕事をしている関係で、すべてにおいてメーカーの考えがR社長の会社にも強く影響を及ぼします。
これまでR社長の会社は、基本的に保険会社が求めることを、求める形でやってきた。
メーカーが何を求めているかというと、まずは売上。
たくさん売ってくださいね、と。
次に、特定の商品について、重点的に扱ってください、という主張があります。
その重点商品は、数年ごとに変化するのが最近の傾向です。
そして、老若男女・法人個人とわず、バランスよく顧客に販売する事が大事、と指導していることが一般的です。

これらのメーカーの意図は、委託している代理店の報酬体系に反映されるとともに、
キャンペーンや、メーカーの営業社員などからの圧力もあり、その通り仕事をするのが普通の状態。
これが一般的な、地域の小規模保険代理店の姿です。

しかし、R社長は、それを続けていくことに小さな疑問を感じていました。
これまでは、それでうまくいったかもしれない。
ただ、これからはそういうわけにはいかないのではないか・・・と。
そこで会社をどうやっていけばいいのか?という情報を探し始めたのです。
そういう行動をし始めてわかったのは、自分はわからないことばかり。
いかに、メーカーの指導以外の世界を見ていなかったかに衝撃を受けているようです。
自分で会社の戦略を考えることがこんなに難しかったのか、と。

ライバルを見るということは横並びするということ

実はこれは、保険代理店に限ったことではないと思います。
この業種はたまたまメーカーが強い力を持つからそこに従う。
しかし、他の業界でも同業他社の動向を見ながら仕事をしているケースは非常に多い。
それはすなわち、他の会社と横並びすることを目指しているわけです。
わざわざ、同じコースを走り、その速さを競うようなもの。
結局、価格競争という分かりやすい戦略しか打ち出すことができません。
競争の中にわざわざ身を置いて、競争がしんどいと言っているわけです。

相談者の憂鬱

労働集約型産業のつらさ

R社長が気になっているのは、売り上げの伸びと経費の伸びの関係です。
保険という商品は、ある種特殊な特性を持っています。
ウォンツ(お客様が欲しい!と思う感情)もなければ、ニーズ(どうしても必要!と思う感情)もないのです。
正確に言えば、ある特定の時だけ、ニーズは高まる。

たとえば、車を買ったとき、家を買ったとき、近所で火事があった時、知り合いががんになった時、自分に病気の疑いが出たとき・・・などなど。
そんな時一瞬だけ、お客様の頭には「保険を検討しなきゃ」という思いがよぎる。
さすがに車を買ったり、家を買ったときには、面倒でも契約まではするでしょうが、それ以外の場合はたいてい、忘れてしまうものです。

つまり、お客様が保険屋さんに「今この保険が必要なんです!」と電話したり、来店するのは非常にまれ。
そういう意味で、ニーズがない、と言っています。

ですから、一般的な保険の販売の現場では、お客様にその必要性を感じていただくことから始めなければなりません。
早い話が、待っていてもお客様が寄ってきてくれる商品ではないわけです。
つまり、営業の人間がお客さんを”説得”するというステップが必要です。
一人の営業が対応できる客数は限界がありますから、一定以上に売り上げを伸ばしたければ社員を採らなければならない。
採用した社員がちゃんと営業できるか?といえば、たいていは自分の給料さえ稼ぐレベルには売れない。
営業社員を増やして、数字も増やそうとすると、売り上げは増えるかもしれませんが、利益率は非常に厳しくなる。
そこに、今のビジネスの限界を感じていたようです。

顧客の立場、専門家の意見

さらに言うなら、この業界は根本的に顧客の視点と専門家の視点が相いれないものであることが多いのです。
専門家としては、あんなリスクもあるし、こんなリスクもある、と主張します。
だからきちんと保険はやっておかなければならない、と。
しかし、お客様の潜在的な要望は、できるだけ負担を小さく抑えて安心を買いたい、というところにあります。
お客様は、買わずに済むならそのほうがハッピー。
専門家は、お客様が困ったことにならないためには、保険をたくさん買っていただかなければならない。
という対立した軸にいるわけです。

欲しくないと思っている人の考えを変えていただき、納得して契約していただく。
この流れは、「シャネルのバックが欲しい」と来店したお客様の対応をするのとは違う難しさがあるわけです。
それを教育するというのは至難の業。
なにしろ動かなければ、売り上げがあがらない。
しかも、扱う商品も、顧客層も種々雑多。
こうすれば、ああなる、という法則性も見いだせていないから教育もできない。
どう動けと指示も出せないから、経験則に頼らざるを得ない。
最後に言えるのは、「とにかくお客さんのところに行け」。
そういう以外、なかなか指導の手段を見いだせないでいる状況があります。

「マーケティング」は伝家の宝刀!?

そこで、マーケティングに関する講演を聞いたR社長は「これだ!」と思ったわけです。
その講師の本を社内で回し読みし、いざ、自分たちでどういう行動に落とし込むか会議だ!
意気揚々とスタートした会議ですが、冒頭の通り、まったく会話が折り合わない。
まさに混とんとした話し合いで、1回目の会議を終えたようです。

さて、こういった会議のファシリテーション。
難しいのは、先に言ったとおり、メーカーの考え方のコピーが全社員の頭に刷り込まれている状態でのスタートです。
そもそもはじめからうまくいくわけがないのです。
はじめからうまくいくなら、本を読んでいる時点でメンバーの中にブレイクスルーが起こっているはずです。
当然、会議を待つまでもなく、日々の会話の中でマーケティングにかかわるキーワードが社内に飛び交います。
しかし、そんな様子はなかったようですから、まだ彼らの脳内は従来のまま。
そこに上塗りしようとしても、やはりうまくいきません。
過去の癖が必ず出てくるからです。

逆に、こういった混乱が起こることで、さまざまな意見が飛び交い、自分も考えて発言していく中で、だんだんと会議の中の中心テーマが一人一人の頭の中に染み込んでいきます。
混乱は、一つの過程として不可欠。
まずはそこがスタートといえるでしょう。

(つづく)

次の記事はこちら。

ある二代目社長が起こした社内会議の大混乱(2)

 

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