事業承継時に、創業者が手放すべきもう一つの権力

事業承継というと、会社の問題、と考えられることが多いようです。
しかし、現実においては、同族企業の場合はビジネスライクに事が進むわけではありません。
そこは、家族経営の良さであり、難しさでもあります。

大企業が、いとも簡単に社長交代を行えるのに、中小零細企業でそれが難しいのには、ある理由があります。
それは、ファミリービジネス特有のものと言えるかもしれません。
ここを無視して、事業承継を進めると、様々なバランスを崩してしまう事になってしまいます。
その理由とは、いかなるものなのでしょうか・・・。

 新陳代謝は下剋上でなりたつのか?

例えば大企業の社員として、二人の方が勤めておられたとします。
一人は、60歳。
一人は、30歳。

60歳の方は、これまでの経験や、実績に自負を持っています。
一方、30歳の方は、やっと実務の実力をつけてきて、これから・・・という所でしょう。
そこに辞令が出ました。

60歳の先輩は、現場にとどまり、30歳の若手は60歳の方の上司になりました。
60歳の方にしてみれば、30歳などまだまだ若造です。
経験も十分でなければ、技術も半人前。
そんな30歳の下で働くなんて・・・という屈辱の中で仕事をすることになるかもしれません。

30歳の上司にしてみれば、60歳のメンバーなど使いにくい事が多いでしょう。
職務では先輩かもしれませんが、年齢的な衰えを見て取っているかもしれません。
それ以上に、「柔軟性を欠いた考え方」に対して、鬱陶しく感じられるかもしれません。
そんな思いを知ってか知らずか、60歳の部下は、「仕事とはこういうものだ」という事を押し付けようとしているように見えて仕方がない。
そうやってできたわだかまりは、次第に大きくなるもので、チーム全体に不穏な空気が漂い出すわけです。

もちろん、極端な仮定のお話です。
しかし、組織が新陳代謝を起こすには、古いものと新しいものに入れ替えていく必要があります。
これを主観的に見ると、「下剋上」とも取れなくもないですが、大きな視点で俯瞰すると、それは組織の中で避けることができない事であることは、多くの人が賛同することではないでしょうか。

こっちでリーダー、こっちで部下?

事業承継は、こういった動きを会社単位で行うものです。
シンプルに言ってしまえば、創業者は後継者が代表になった瞬間、後継者の部下になる、という事です。
つまり、一人で何かを決断していた今までとは、まったく逆のプロセスに変化します。
創業者が勝手に物事を決めてはならないのです。

 そのあたりは、恐らく多くの方が理解されている部分かと思います。
しかし、もう一つ考えなければならないのは、家族という単位での考え方です。
冒頭、ファミリー経営は、「会社だけの問題ではない」というお話をしました。
ご承知の通り、ファミリー経営においては、会社と同じように家族の問題も連動して考える必要があります。

 例えば、会社は後継者にすべて任せた、という経営者がいたとしましょう。
その経営者が、家族で集ったときにいつまでも「家長」として、家庭内の事を差配していたとしたら、いかがでしょうか?

会社では、リーダー、
家に帰れば、子としていう事を聞かなければならないという関係。
少しバランスを欠いてしまう可能性がありそうです。
多くの場合、家庭とビジネスを明確に線引きするのは難しいのが、ファミリー経営。
会社の主権を譲り渡した時、「家」の主権も早めのタイミングで譲り渡すことが必要となります。

 新社長、新家長

こんなことを申し上げるには理由があります。
2つの意味で、重要な事だからです。

 1つ目は先ほどお話した通り、同じ人が方や上司で、シーンが変われば部下という器用な振る舞いはできない、という事です。
家長の状態を保てば、家族の話として会社の方針への見えない圧力が見え隠れします。
これに配慮しながら後継者が会社のハンドルさばきをするのは、至難の業です。

 もう一つの理由は、お金のお話です。
このホームページの趣旨として、お金の移転に関する話は主テーマではありませんが、避けることのできない話として概略だけお伝えしたいと思います。
将来、創業社長の資産を誰が引き継ぐかで、会社の存続を揺るがす問題にもなりかねません。
自社株であったり、事業用の不動産であったり。
これを、会社を継ぐ人間が引き継ぐのか、はたまた兄弟などで分割するのか。
また、相続税は誰がどれだけ負担し、その原資はどこで賄うのか。
こういった話は、何の対策も講じず、相続が発生した場合、その持ち主本人のいない場で議論される問題となります。

 しかし、それを生前から検討する方法として、遺言書があります。

また、その解決策の実行手段として重要なものの一つが、生命保険です。

それ以外にも、生前に贈与するとか、しないとか。
そんな対策は、早い段階から始める必要があります。
これを、個人的な感情でずるずると引き延ばすことで、会社の未来のともしびは少しずつその光を暗くしていることを知る必要があります。

 新たな世代にバトンタッチして、後継者がどのような体制で臨むのか。
この決定に、後継者が意見を表明する機会が必要だ、という事です。

 もちろん、創業者が納得のいかない財産の分割方法を後継者が提示したとしたら、そこに対する拒否権は当然持っていていいと思います。
全てを言いなりになれとは言いません。
しかし、そんな創業者の意向を反映させるには、元気な内からきちんと後継者と話し合いを持つ必要があるのです。
その際に、家長としてではなく、フラットなところでの意見交換が重要です。

感情をすべて捨てろとは言いませんが、ある程度論理的に、「会社が今後、発展するためにどうあるべきか?」を検討する場を設けて頂きたい、という事です。

 残念ながらそれができている事業承継は、ごく一部でしょう。
感覚的に気乗りがせず、ついつい後継者に対して「わしにはわしの考えがある」とはねのけていることはないでしょうか?
もし、事業承継の目的が、事業の継続であるとすればそれでは、残念ながら難しいと言わざるを得ません。
ビジネスとして割り切って、新家長を任命し、新家長を中心として、家族のあり方、会社のあり方を検討いただく機会がればこんなに素晴らしい事はないのではないでしょうか。

 すぐにとは難しいかもしれません。
しかし、頭の片隅で検討いただけると、事業承継がずいぶんスムーズになるのではないでしょうか。

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