私が20歳代の時、自分のミスでお客さんに50万円の損をさせたことがありました。
当時の私の収入からすると、50万円といえばとんでもない大金。
お客さんの怒りは、相当なものだと覚悟しました。
恐る恐るお客さんにそのことを切り出すと・・・
こんにちは。
中小企業二代目サポーター田村薫です。
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家業である保険代理店に入社した私。
そろそろ仕事にも慣れてきて、わずかばかりの自信もついてきた頃でした。
あるお客様から、少しマイナーな保険のお問い合わせを頂き、契約を頂きました。
そこからわずかな期間の間に、その保険の対象となるであろう事故が発生しました。
お客さんの損害額は約50万円。
「お役に立ててよかった。」
とばかりに、その事故報告を保険会社に入れました。
すると、保険会社の回答は、
「今の契約内容では、保険金はお支払いできません。」
というものでした。
「え。」
その瞬間、私は言葉を失い、背中に冷たい汗が流れるのを感じました。
まるで自分の周囲だけが時間が止まったかのような錯覚さえ感じたくらいです。
よくよく調べてみると、その事故を補償するための特約(オプション)がついていないのです。
もちろん、私も漫然と仕事をしていたわけではありません。
想定される事故についての保険の適用範囲を、メーカーである保険会社にも事前に確認してからの提案でした。
しかし、メーカーの回答は誤りだったのです。
お客さんに、
「保険会社が間違えていました。」
というわけにもいきません。
本来は、私がもう少し深く確認していれば、事前にその誤りを察知できたはずです。
そのひと手間をかけなかったことを、強く後悔したのを今でもはっきりと覚えています。
お客さんへの言い訳が頭の中をぐるぐる回るのを制止し、正直に謝りに行きました。
どれだけ罵倒されるか、と覚悟はしていましたが、意外なことにお客さんはすんなり事実を受け入れてくださいました。
「つぎはきをつけてね。」
この言葉に救われた反面、心苦しさがジワリとからだ中に広がる重さを感じました。
さて、当時の言い訳をいまさらするつもりはありません。
しかし、そのころ、私は非常に忙しくしていました。
普段ならもう少し慎重にリサーチするのですが、次から次へと押し寄せる仕事をこなすために、ついつい
「これだけ調べておけば大丈夫か。」「メーカーに確認とったから大丈夫か」
と気を抜いてしまったんですね。
この時感じたのは、忙しさは罪だということ。
本来、商品一つ一つ、お客さん一人一人にもっと時間をかけるべきなのに、仕事は次々と押し寄せます。
押し寄せる仕事を「こなす」ようになると、あるべき姿を見失います。
ゆとりのない仕事はミスを生み、誠実さを失います。
その次に何が起こるかと言うと、その状態を正当化し始めるのです。
ビジネスなんだから、ある程度割り切らにと仕方ないじゃないか…と。
しかし、私はその感覚に染まり切れなかったのです。
忙しさの原因は、「あれもこれも」やろうとするからです。
そこで、一大決心をしました。
もはや、何でも屋をやる時代ではない、と扱い商品の絞り込みを考えたのです。
どこの業界でもよくある話ですが、何でも屋は何にもできないことが多い。
どれもこれもが中途半端なんですね。
だったら、小さい分野の専門家になろう、と考えたわけです。
しかし、それもまた、なかなか厳しい道のりです。
まず、メーカーがそれをさせようとしません。
さらに先代も猛反発。
結局それを親から引き継いだ会社で行うのは断念しました。
しかし、小さなトライアルとしてやってみたのが空き家の保険というニッチなジャンル。
あまりに狭いジャンルですから、一気に経験値は高まるし、社員教育は短時間で業界経験10年以上の人間より詳しくなります。
お客さんの持つバックグラウンドは、パターン化されていますから初めてのコンタクトで、お客さんがなにを言うかから、何を心配しているかが手に取るようにわかります。
集客もしやすくなりますから、営業の無駄な訪問はほぼゼロです。
そんなに効率化をしてお客さんの不満が出ないのか?といえば今のところ全く問題はありません。
なぜなら、そのお客さんは必ずほかで、保険を断られたから当社に問い合わせていただけているのです。
難民のようにさまよい、途方に暮れていたところで私たちに出会うのです。
その感謝の思い、助かった!というお声を聞けば、それなりにご満足いただけている事と考えて間違いなさそうです。
さて、効率化の方法は、これだけではなく様々な方法が考えられると思います。
たまたま私どもの取り組みがうまくいった一例ではありますが、何を言いたいかというと、何でもやろうとすると何もできないということなのです。
そして、忙しい状態を放置することは、会社にとっては大きなリスクです。
仕事を「こなす」ようになってしまうと、ミスも起きやすく、本当にお客さんが望んでいることが見えなくなってきます。
いえ、見なくなるのです。
会社の中にある散らかった仕事は、目に見えないものも多いわけですが、その整理に手を付けることもまた後継者の役割なのかもしれません。
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