時折耳にするのが、後継者があるときを境に「独裁」色を強める、という話。
●創業者の話を聞かないばかりか
●周囲の意見を取り入れる気配もない
●後継者が孤立してしまっているようにも見える。
といったことがあります。
時として、こういった事態が「突然」発生することがあります。
周囲の人たちからすれば、
「いったい何が起こっているの?」
と首をかしげるばかりでしょう。
しかし、多くの場合、その背景には明確な理由があります。
もしかすると、周囲からすれば非常に危うい状況に写るかもしれません。
また、後継者の乱心ではないか?と危惧する方もいらっしゃるでしょう。
私の知る限り、それが「最善の状況」であると考えている後継者はほとんどいません。
そんな状況は、早く脱したいのは後継者も同じです。
しかし、後継者にとって、その状況を避けるわけにはいかない、と考える理由があるのです。
以降、その後継者の心情についてみていきましょう。
Contents
第一段階:創業者と後継者の視点の違いが生む社内の混乱
後継者が、真面目に事業承継について真面目に向き合っている場合、後継者は孤独な状況に陥ることが多い、という事は以前にも書きました。
簡単におさらいをしてみると、
●今を見ている創業者と、未来を見る後継者の視点の違いから、意見の食い違いが発生。
●意見の食い違いが、他の社員にも波及し、社内は混乱状態に陥る。
という状況に陥ります。
実は、この混乱状態を、創業者は察知できない可能性があります。
なぜなら、この時点で目に見えて業績が下がるわけではないからです。
一日単位、週単位、年単位で会社の業績を見る傾向のある創業者にとっては、とりあえずは会社が回っていることについて、さほど危機感を感じません。
創業者が危機感を感じるのは、主に数字の悪化です。
だから、社内の雰囲気を感じていたとしても、数字が一定程度達成できれば、さほど重要な問題とは考えない傾向があります。
一方で、後継者は未来を見ているわけです。
今の数字が指標ではなく、未来に数字を生み続けられる状態なのか?
という観点で会社を見ます。
すると、現時点での組織の混乱は、未来の数字を生み出すことに対しては、非常に大きな問題。
今の混乱が、顧客に伝わり、いずれ組織が瓦解することに対して、非常に強い問題意識を持ちます。
まずは、このギャップが創業者と後継者をわかつきっかけの一つとなります。
第二段階:創業者と後継者のいさかいが生むモチベーションの悪化
視点の違いが、意見の食い違いを生みます。
創業者は、「もっと業績アップに貢献しろ」と後継者を叱責するかもしれません。
後継者は、「なんで親父は、いつまでも同じ失敗を繰り返すのか?」と憤るかもしれません。
残念なことに、親子の対話の多くは言葉足らずです。
きちんと説明できれば、分かり合えることでも、断片的な自己主張だけが行われることが多く、お互いがどこへ向かっているのかを知ることができないまま、協力しあえない状況が続きます。
時として、創業者の社内への号令は、後継者が考える組織の在り方をことごとく破壊することがあります。
最もわかりやすいのは、後継者がボトムアップの組織を目指している場合です。
社員一人一人が、自ら考え、意見を言い合える社風を作ろうとした時、社内で創業者のいつもの軍隊式号令が社内に響き渡ります。
何か月も、何年もかけて取り組もうとした組織の雰囲気は、その一たびの軍隊式号令で粉砕します。
また、創業者は自分が非常に有能であるため、社員にも同じレベル、同じやり方を求めます。
だから、社員が工夫してよくしよう、と思ってやったことを「いったい誰がこんなことをした!?」と怒鳴りつけることもあるでしょう。
すると、「何か提案をしよう」という社員の機運も下がります。
後継者は、社員に新たな提案を求め、創業者は、自分流を社員に求める。
ここでも、正反対の考え方が露呈します。
社員は、
「いったい誰に従えばいいのか!?」
と頭を抱えます。
そして、結論は新しい事はやらず、言われた事だけに注力しよう。
という状態に落ち着くわけです。
後継者にとっては、もっともあってほしくない状況になります。
第三段階:痛みを最小限にするために・・・
まだ、この世の中に「麻酔」というものがなかった時代、外科医が最も求められたのはその仕事の「速さ」だったそうです。
患者の痛みをできる限り短時間にとどめることで、体力の消耗を最小限にするためだそうです。
事業承継の中でも、同じことを後継者が考えます。
創業者との意見の食い違い、社員の混乱、といった痛み。
これは、避けては通れないものの、その痛みは最短であるべきだ、という結論に至るのです。
その決心をした後継者は、避けられないと考えた混乱状態を最短にしたいと考えます。
そうしたときに、妥協が許されなくなります。
特に、創業者に対して、非常に厳しい対応をするかもしれませんし、一切の口出しを拒むこともあるでしょう。
早く完成形の見えるところまで持っていきたいのです。
社員のためにも、会社のためにも。
そのためには、妥協は許されません。
一日も早く、今の状況を打破するためには、徹底的に自身が社内のイニシアチブを握るための活動が必要となってきます。
その過程で、創業者の発言の機会を奪い、
法的な自社株についての整理を行い、
周囲の声から耳を閉ざすことになってしまいます。
良くも悪くも、ゆとりのない状態といえるでしょう。
現在は未来へ続く
このような状態は、後継者自身にとっても大いなるストレスを強いることになります。
イライラしたり、ふさぎ込んだり、そんなこともあるでしょう。
では、解決方法はあるのでしょうか?
これは、一つは意思疎通が必要だという事。
当事者同士がコミュニケーションがとりにくい場合、双方が信頼できる人間が間を取り持つことができればよいのではないかと思います。
考えてもみてください。
今の事を創業者、未来の事を後継者、という分業ができれば本来的には理想的な形ができるはずなのです。
極論すれば、今の事を創業者に任せてしまえば、後継者は楽になるはずです。
しかし、そういう選択がなされることは限定的です。
なぜなら、問題は、現在が、未来に続いている、という事なのです。
未来を変えるためには、現在の軌道修正が必要なのです。
できるできないはともかくとして、現在の管理を創業者がやり、そこの軌道修正を後継者の将来ビジョンをもとに行っていく、事は理想的な形態の一つではないでしょうか。
創業者は、頭より先に手が出ることが多いのですが、それをほんの少し緩めて、手を出す前に後継者と話し合う。
そんな気遣いがあれば、後継者はこれ以上ないパートナーとして創業者を受け入れるでしょう。
後継者においては、「どうせ理解されない」という投げやりな姿勢を改め、
何度も何度も自分の考えについて、創業者に伝える努力をしなければなりません。
決して簡単なことではないでしょうが、
今すぐ創業者を社内から追い出すという荒療治を行う前に、
その努力をしてみてはいかがでしょうか。
そこから、本当の事業承継が始まるのかもしれません。
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