営業社員の扱いにおける先代と後継者の大きな隔たり

ある日、非常に象徴的な出来事が起こりました。
そのきっかけは、その会社のある営業社員による、自動車事故でした。
件の営業社員が、この1年に営業車で自動車事故を起こすのは3度目です。
どれも軽微なものだったので事なきを得ましたが、その社員の処遇で先代である会長と、後継者である社長が真正面から対立することになりました。
少し具体的に見ていきましょう。

 

こんにちは。
田村薫です。

 

度重なり自動車事故を起こすこの営業社員、実は社内のトップセールスマンだそうです。
今回が3度目の事故になるのですが、後継者である社長は2度目の事故において、その社員には厳重注意を行っていました。
そこに来ての3回目ですから、もはや弁解の余地はない。
何らかの処分を下すべきだと考えて、私に相談をしてこられました。

後継社長の言い分は、こういったものです。
「営業社員は仕事においては非常に成績は良いし、良く働く。かといって、これだけ度々事故を起こすのを看過できない。会社としての姿勢の問題だ。」
つまり、仕事ができても、社会的に問題のある人間を放置することはできない、というものです。

 

私は後継社長に賛成でしたから、相応の処分もやむを得ないでしょうね。当面自動車の運転をさせないとかいう事も必要ではないか、とお答えしました。

 

その後数分して、今度は先代である会長からお電話をいただきました。
「なんという事を言ってくれたのだ。あいつは、稼ぎ頭だ。そいつに仕事をさせないとは何事か。」
と電話を通して唾が飛んできそうな勢いでお話をされていました。

 

皆さんならどう考えるでしょうか?

 

おそらく、この営業社員の活動を狭めてしまえば、会社としては一時的な売り上げダウンもあるかもしれません。
しかし、一方で、度重なる自動車事故を放置すれば、次は人を巻き込んだ事故を起こすかもしれません。
その費用は、自動車保険で支払われるかもしれませんが、それは会社にもっと大きな損害をもたらす可能性があるのではないでしょうか。

言うまでもありませんが、この会社は、
営業成績さえ上げていれば、社会的に認められない事でも容認される
と多くの社員が考えるのではないでしょうか。

そんな事を一生懸命説得しましたが、先方は納得のいかないご様子。

 

もちろん、だからと言って明日から自動車事故が増えるわけではないとは思います。
いきなり不正が行われるものでもないでしょう。
しかし、暗黙のルールというのでしょうか、数字さえ上げれば、大抵のことは許される、という状態が出来上がります。

割れ窓理論というのをご存知でしょうか?
Wikipediaから引用します。

 

割れ窓理論とは次のような説である。

治安が悪化するまでには次のような経過をたどる。

  1. 建物の窓が壊れているのを放置すると、それが「誰も当該地域に対し関心を払っていない」というサインとなり、犯罪を起こしやすい環境を作り出す。
  2. ゴミのポイ捨てなどの軽犯罪が起きるようになる。
  3. 住民のモラルが低下して、地域の振興、安全確保に協力しなくなる。それがさらに環境を悪化させる。
  4. 凶悪犯罪を含めた犯罪が多発するようになる。

したがって、治安を回復させるには、

  • 一見無害であったり、軽微な秩序違反行為でも取り締まる(ごみはきちんと分類して捨てるなど)。
  • 警察職員による徒歩パトロールや交通違反の取り締まりを強化する。
  • 地域社会は警察職員に協力し、秩序の維持に努力する。

などを行えばよい。

 

この割れ窓理論のように、企業のモラルも、小さなほころびからどんどん悪化する可能性があります。
私が、後継者に賛成した根拠でもあります。

 

さて、この一件は先代と後継者のものの見方を象徴的に見せてくれているのではないかと思います。
ここまであからさまに出てくるケースは決して多くはないと思うのですが、非常に象徴的なのが、

後継者は未来の事を重視するのに対し、先代は今を重視する

という事ではないでしょうか。

 

今回のケースでは、こういった問題を放置することで、社内の風紀の乱れであったり、会社の社会的な責任に優先順位を付けた後継者と、とにかく現在の営業成績を重視する会長というカラーの違いが明確に出たケースだと思います。

会長は、こんな営業社員はなかなかいないから、彼の活動を止めるな!と考える。
その会長の意見を受けて、後継者は営業を個人レベルのスキルのままにしておく危うさを強く感じたといいます。

 

この件に関して、最終的には話し合いの結果、相応の処分を営業担当者に行う事になりました。

こういった問題は、それぞれにそれぞれの信条があり、それが正しいと考えているために、結局合意に至らないケースがほとんどです。
先代には先代の言い分があるのでしょう。
とはいえ、後継者にとっても、ここで変な社風を容認してしまったら、未来永劫そのことで苦しむことがわかっているから、はいそうですか、と譲るわけにはいかないのです。
そこを話し合いで解決できればよいのでしょうが、それができないのが親子の経営継承においての難しいところでしょう。

この件に限って言うなら、発端は問題社員がトップセールスマンだった、という事になります。
個人の技量に頼る営業を、いかに仕組み化していくか、というのが後継者の前に突き付けられた問題なのではないでしょうか。


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  1. 2016年 12月 06日