【5】事業承継冒険化計画～クルーとの身の上話～

【5】事業承継　冒険化計画　～クルーとの身の上話～

事業承継を冒険になぞらえて考えてみよう。
それが、このコラムのテーマです。
その狙いの一つは、あなたに”部外者”の目を持っていただくこと。

後継者は、とても精神的にきつい状況を経験します。
その渦中にあっては、吐きそうなくらいのストレスをお持ちでしょう。
しかし、リスクもなく、外野として、お気楽に事業承継を眺めてみる。
それが、本コラムの目指すところです。

Contents

前回は、嵐との遭遇。
冒険に出たら途端に嵐にあうもの。
そんなお話をしました。
（詳細は前回のコラムをご参照ください→【4】事業承継　冒険化計画　～嵐との遭遇～

皆さんが見た数々の冒険物語を思い出してください。
出発後の嵐を乗り越えて、傷だらけの船で波に揺られる。
その時に、何をすることもなく、ただ流れに身を任せる。

そんな時に、ふと、乗組員の一人と身の上話を始めるシーン、
よく見かけませんか？
私が覚えているものの一つは、「ジョーズ」のワンシーン。
学者先生と、たたき上げのサメハンターのおじさん。
そして主人公の刑事。
今まで話が合わなかったこの三人が、過去の自慢話に花が咲きます。

たいてい、この手のシーンでは、物語が始まるとき、
「こいつは敵ではないか？」
とか
「絶対怪しいよ、コイツ」
と思うクルーと、身の上話をきっかけに打ち解けたり、
相互理解が深まったり、
信頼関係ができたりするものです。

冒険の旅を始める際には、
協調性もなく、自分勝手なクルーに手を焼くこともあります。
何か問題が起きれば、アイツのせいに違いない。
そんな悪者キャラが必ずいるものです。

しかし、多くの場合、彼は純粋なだけ。
ただ自分の芯を通そうとしているだけのことが多い。
結果、彼は主人公のピンチの時には、
大いなる助けとなることも少なからずあります。
むしろ、最後の最後には、最も頼れるクルーだったりするわけです。

最後は命を賭して、目的への道を切り開く寡黙な勇者。
そんな登場人物、必ずと言っているんじゃないでしょうか？

さて、リアルな世界においても、寡黙な勇者はいるものです。
寡黙かどうかはわかりませんが、いざとなった時、あなたを助けてくれる存在。
日頃は反目しあったり、意見が合わなかったりします。
だから、あなたにとっては扱いにくい奴。
そんな印象しかないかもしれません。

そりゃあそうです。
自分の信念を持っているから、
あなたが奴を思い通り動かそうと思ったって、
テコでも動かない。

何かしらコミュニケーションを図ろうとしても、
いいたいことは伝わらず、
相手の意向も見えない。
なんとか、自分のチームから外したい。
そのほうがきっと楽に運営できるはず。
そんな扱いにくい人、きっといると思います。

しかも、ですよ。
ピンチになると、
奴は一見、理解に苦しむ行動をとる。
しかし、その行動は、あなたにとって、
そして会社にとってとても重要な行動であった。
後になってその価値がわかるということが結構あるものです。

一度周囲を見回してみてください。
あなたのピンチを救う人間は誰なのか。
多くの場合、奴はあなたのやり方と、
最も遠いところにいる人です。

はじめのピンチを何とか切り抜けたなら、
ここで寡黙な勇者を特定しよう。
あなたと対極にいて、
あなたの言うことを聞かず、
自分で勝手に動く存在。

そして、彼（彼女）の身の上話を聞いてみましょう。
ああ、仕事上の武勇伝とか、苦労話は今はどうでもいい。
彼らの子どもの頃の話を聞いてほしいのです。
どんな環境で育ち、
どんな思いで大人になったのか。
そしてどんな風に今の仕事、会社と出会い、
どんな思いで仕事をしているのか。

こういった人に、
「なぜ自分に従わないのか？」
と聞いたって、正しい答えは導かれることが少ない。
であれば、彼（彼女）の価値観をあなたが理解する必要がある。

寡黙な勇者は、番頭さんかもしれないし、
もしかしたら先代その人かもしれない。
さまざまなパターンはあるでしょう。
しかし、最後の最後、あなたが一人では切り抜けられそうもないピンチの時に、
身体を張って会社を守ってくれるはずです。

きっとその人は、これからあなたが会社を経営していく中で、
中心に据える価値観を気づかせてくれる存在となるでしょう。