親子の事業承継で起こる問題のうち、圧倒的多数が親子の確執ではないでしょうか。
本来、親子で事業を発展させようという思いからの事業承継のはずです。
基本的に前向きな思いがベースになるはずなのに、なぜ前向きな話し合いにならないのでしょうか?
私の著書です。
事業承継で起こりやすい親子の確執とは?
事業承継における親子の確執とは?
事業承継を親子で行う際に、どうしても親と子、つまり先代と後継者では強い口調で言い争うことがあります。
その内容については、経営の方針の違い、というのが圧倒的に多いと思われます。
そのほかには、社内でのイニシアチブ・主導権の取り合いであったりでしょう。
これを構図化すると、双方が、「自分が正しく、相手が間違えている」という前提で話を行うこと。
当たり前といえば当たり前なのですが、この思考を緩めることが、親子の確執を解くヒントになります。
事業承継における親子の確執の類型①経営方針の違い(経営環境の認識のずれ)
事業承継における親子の確執のうち、もっともよくみられるのが、経営方針の違いです。
そのうちの、経営環境の認識のずれ、というのが目立ったものの一つです。
具体的には、親である先代としては、「従来のビジネスの延長線上に自社の未来がある」と考えがちです。
しかし、後継者である子の認識としては、「今までのビジネスをそのままやっていても、未来はない」という考え方が代表的。
たとえば、受発注をFAXでやるとか、手形の取引をしてるとか。
後継者から見た先代である親は「無駄な顧客訪問やコミュニケーションをしている」と感じ、先代である親から見た後継者は、ITツールなどのコミュニケーションを推進することから「顧客をないがしろにしている」と考えがち。
そこから、相手を非難し、自分の考え通りの経営をしようという綱引きが起こるのです。
事業承継における親子の確執の類型②経営方針の違い(社会環境の認識のずれ)
事業承継の中で、時折強く出る課題が、先代と後継者における「社会環境の認識のずれ」です。
たとえば、親である先代の時代は、サービス残業は当たり前。
会社に毎日出勤し、遅くまで残っている社員が「頑張っている」と評価されやすかったと思います。
しかし、近年の傾向としては、やたらと仕事に時間がかかる人は仕事ができない人と評価されがち。
世代交代の中で、社会環境は正反対に変わっています。
事業承継における親子の確執の類型③経営方針の違い(価値観のずれ)
日本が高度経済成長期にある時、公害への配慮よりも、より多く作り、より多く販売する事でした。
しかし、今となっては、持続可能といったキーワードが踊るSDGsの世界。
高度経済成長期のビジネスが当たり前だった先代にとっては、どちらかというと社会の調和よりも現実的な売上や事業拡大が先だったのです。
しかし、現在に生きる後継者にとっては、売上や事業拡大のためには、社会に認められることが先に必要になります。
自社の発展→社会との調和という順序から、社会との調和が自社の発展の前提ということで、優先順位がまったく逆になっています。
事業承継における親子の確執の類型④マネジメントの違い
先代は強力な牽引力で社員を引っ張っていく、機関車経営であることが多い。
とにかく、強いリーダーシップがすべてである、という考えをお持ちです。
誰よりも強く、誰よりも優れたリーダーである社長が、従業員を抑え込んで力で動かすパワーゲーム。
これを後継者にも求めがちです。
しかし、親の会社を継ぐ後継者はどちらかといえば、繊細なタイプも多く、頭が切れます。
体育会系の先代とは違い、ボトムアップ組織を作りたいと考えがちです。
となると、高圧的な物言いはご法度。
後継者は、親の言葉を封じようとしがちです。
しかし、先代は悪気はないのですが、ついつい強い言葉で発言を行いがち。
そして社員にとって、先代の言葉はとても強く、ふるえあがってしまうのです。
親子の確執は正反対の意見のぶつかり合い
事業承継における親子の確執の本質
確執という言葉を調べると、
自分の意見を強く主張してゆずらないこと。またそこから起こる争い。
とあります。
これを分解すると、
・双方が違う意見を持っている
・双方が自分こそが正しいと思っている
・相手に自分の考えを承諾させようと強硬な態度をとる
といった感じでしょうか。
事業承継における親子の確執をシンプルに表現するなら、
相手を自分の考えに従わせようとした結果
ということになろうかと思います。
これは言い換えれば、
経営のイニシアチブを誰が握るか?の奪い合い
ということになります。
これはまさに、事業承継そのものといえます。
事業承継の親子の確執の結果起こる事
事業承継における親子の確執が起こる結果、こんなことが起こります。
・社内の雰囲気は悪くなる
・売上の減少
・社内での病欠の多発
・社内のメンタルヘルス問題の勃発
・自動車事故の増加
・不祥事の多発
・社員が派閥を創り出す(先代派・後継者派)
・社員の大量退職
・社内クーデター
・後継者のメンタルヘルス問題
・先代・後継者の家族内での様々な問題
・先代を追い出すような動き
・プロキシ―・ファイト
・会社のブランド棄損行為
早い話が、社内のみならず、先代・後継者の家族関係までガタガタすることがあります。
それくらい、大きな問題です。
事業承継で親子の確執を解くためにやってはいけない事
親子の話し合いは、親子の確執を深めていく!?
事業承継で大きな問題となる、親子の確執。
これを、現場を知らない人はこういいます。
「ちゃんと話し合ったほうがいい」と。
多くの場合は、「経営方針の違いなら、話し合うことですり合わせができる」と考えているからです。
しかし、現実はそれほど簡単ではありません。
なぜなら、この問題の本質は、経営方針の違いではなく、
経営のイニシアティブの取り合いだからです。
経営方針云々というのは、あくまで表面的な話。
大事なのは、
先代は自分の意見が社内で尊重されることであり、
後継者も自分の意見が社内で尊重されることなのです。
つまり、話し合いで「意見のすり合わせ」をしようとしても、上手くできない。
本人たちはその裏にある、イニシアチブの取り合いという本質に気付いていないのです。
だから、話し合いをしようとすれば、こうなります。
①先代は後継者を説得しようとする(先代はイニシアチブを持ち続けようとする)
②後継者は先代を説得しようとする(後継者は先代からイニシアチブを奪おうとする)
③双方相手の話は自分の立場を揺るがす行為に感じ、自分を守ろうという気持ちが湧きあがる
④相手を叩きのめして自分の正しさを守り通そうとする
⑤感情的になって話し合いは物別れになる
⑥結果として感情的な相手への印象はさらに悪化する
このようなバッドサイクルを生み出すのです。
後継者は先代を、先代は後継者を排除しようとする
後継者は先代から呼ばれて入社したにもかかわらず、数年で先代にクビにされた、という話をよく耳にします。
一方で、後継者が先代を追い出そうとしたケースは、大塚家具などに限らずときおりニュースにもなります。
ドライに合理性で考えるなら、会わない人は外せばいい、という話です。
むしろ、永い間の確執状態を放置するよりも、その方が建設的にも見えますし、社風に与える影響を考えても速く問題の種を排除したい気持ちはわかります。
しかし、確執を理由に後継者が先代を、先代が後継者を排除すると何が起こるかというと、双方が心に傷を負います。
後継者が先代を追い出せば、後継者は罪悪感を、先代は劣等感を持ち続けます。
逆に、先代が後継者を追い出せば、先代は罪悪感を、後継者は劣等感を持ち続けます。
そうなると家族関係はぐちゃぐちゃですし、そういった心の傷はいろんな形で悪い影響を現実に及ぼします。
もちろん、どうしてもそうせざるを得ないケースはあります。
ただ、できることなら、もう少し違う方法を選択できないものか、と感じるのは私だけではないでしょう。
「〇〇すべき」という正しさで相手をジャッジする
こういった対立構図ができる背景には、
自分が正しくて、相手は間違えている
という前提があるはずです。
「正しい」「間違い」を言い始めるなら、経営に正誤はない、といえるのではないでしょうか。
ネットで本を売るなんて、といわれながらここまで成功したAmazon
靴の通販なんてうまくいくはずがないと言われたザッポス
個人の宅配なんてビジネスになりえないと言われたクロネコヤマト
世の中の常識でビジネスを測ると、成功は難しくなるかもしれません。
経営者として未来を見るならば、正しい・誤りという判断は捨てる必要がありそうです。
そこで、相手を誤りとジャッジすることもやめてみると、もう少し話がしやすくなるのかもしれません。
事業承継で親子の確執を乗り越える方法
ここまでのまとめ
まずはここまでの内容をまとめてみましょう。
①親子の確執が起こる原因
経営環境の認識のずれ、社会環境の認識のズレ、価値観のズレ、マネジメントの違いなどが原因としてあります。
そして、それを双方が自分の正しさを疑わないので、相手を自分の意見に従わせようとすることで確執が起こります。
②親子の確執の本質
そもそもその背景には、相手をねじ伏せ、自分がイニシアチブを取りたい、という衝動が双方にあるからです。
③親子の確執を解くためにやってはいけない事
問題の本質を理解することなく行う表面的な話し合い、あるいは、相手を排除しようという行為。
正しさを求めることなど。
事業承継で親子の確執を乗り越える主人公はいったい誰なのか?
さて、親子の確執となると、双方の言い分もありますし、双方の課題もあります。
本来的には、事業承継での親子の確執は、親も子も、夫々が相手に配慮することがとても大事になります。
しかし現実は、「それを問題と思っている人」だけが改善のために動こうとするものです。
そうなると、多くの事業承継のシーンでは、親である先代はそのことに問題を感じてないことが多いです。
自分のやり方で社内が回っているなら、それが一番だからです。
表面的に怒っていることを見ると、事業承継が進んでないじゃないか、という問題はあります。
しかし、先代である親のホンネとしては、できる限り永い間会社に関わっていたい、というものです。
本音レベルで言うと、事業承継が完了してほしくない思いが心の片隅にある場合がほとんどです。
そこで、この確執を問題と考えている主人公は、後継者であると考えられそうです。
その後継者が主体的に動くと考えていきましょう。
後継者にとって大事な事
実は、後継者があるものを心の中に持つことができると、親子の確執は次第に緩んでいきます。
それは、あきらめです。
諦めというと、ネガティブなイメージがあるかもしれません。
しかしそもそも、諦めという言葉は仏教用語。
すべてを明らかにした先に、自分のこだわりが達成されなかったとしても、納得して断念するということ。
これは仏教の目的その物、という風に書かれていたりもします。
世の中自由自在に操れることばかりではないのです。
理不尽な世の中で幸せに暮らすには、「執着」を捨てることが一番なのです。
会社において、
・自分がイニシアチブをとらねば
・会社の方向性を自分の考え通りにしなければ
・自分のやり方で会社を変革しなければ
なんていう思いはある意味執着。
それが達成されるならそれもアリですが、それが難しいならその現状を受入れることが必要です。
だからといって投げ出せ、といっているわけではありません。
後継者が執着を捨てると、実は、先代も執着を捨てやすくなるのです。
確執は「譲る」ことで緩んでくる
事業承継の中での親子の確執。
これを解消する方法として、諦めよう、という提案をしました。
たとえば、後継者が事業承継に際して、会社のIT化を進めたいということで強硬に社内改革を進めようとしました。
しかし、先代からはストップがかかり、先代の言い分は、「古き良き環境を顧客に提供すべき」ということだったとしましょう。
そこでやるべきことは、その先代の言い分、まずは全部受入れましょう。
先代はそうやって、今までこのビジネスを発展させ、守ってこられたのです。
あなたの言うことはきっとごもっともだと思う。だからそこに従います。
ただ、そのうえで、少し自分らしいこういう工夫を加えたいんだけど…
今までの良さを損なわない範囲で、こんなことを試してみたいんだけど…
新しいお客様と出会うために、部分的にこういう事を実験したいんだけど…
という提案をして見てはいかがでしょうか。
まったく違う完成形を強要するのではなく、
今の状態を尊重したうえで、改善していくことで思うような形を作っていくということもできるでしょう。
確執の原因は、相手や相手の意見を受入れることなく、完全に反射させるかのように弾き飛ばすことにあります。
そうではなくて、まず受け入れる。
そして受入れた結果、すぐには自分の思い通りにできないことも出てきます。
そこは諦めたうえで、それでも、小さな改善を加えていけば、自然に一定程度の方向に動かすことは可能でしょう。
だから、自分の目で見れば不完全なことも容認していく、許していく、ということがとても大事になります。
そしてこれは、「人の器」そのものではないかと思います。
違った意見も、違った他人も、他人の失敗も、自分の失敗も、自分のメンツを傷つけられるような状態も、みんなマルっと受け入れる。
そういうことができると、実は徐々に変化を起こすことができるようになります。
親子の確執を乗り越えるための最も大切な事
まとめとして書かせていただくなら、人はだんだんと成長する生き物です。
その中で、たくさんの人と接するほどに、自分以外の人の異質な行動や考えを許さなければしんどくなってきます。
パートナーが出来て、結婚すれば、配偶者を「許す」ことが必要になります。
「妻とは」「夫とは」といったガチガチの固定観念通りに相手は動いてくれるはずがありません。
そんな相手を変えようと必死になればなるほど、相手は反発し、結婚生活はすさんできます。
だから、思いどおりではないけど、それも含めて、夫や妻を愛しなければ家庭はうまくいきません。
子どもができれば、ワガママも言うし、思ったように動いてくれない。
かと言って、無茶苦茶に厳しくしても、無視しても、子どもはすなおには成長してくれません。
大事なのは、子どもの個性を受入れて、親の期待を脇において、その個性を伸ばしてあげることが大事になるでしょう。
従業員を雇った場合も同じです。
思うように動かないし、思うように心が通じ合うとは限りません。
先代である親だって同じです。
私たちは成長し、様々な人間関係がひろがるごとに、
「自分の思った通り」ではないものを受入れる必要が出てきます。
後継者はまさに、親である先代と、社員という新たな枠組みの人間関係の中で、彼らを許し受入れることが最大の学びなのです。
私の著書です。