ある勢いのある企業を訪問したとき、感心したことがありました。
目の前には入社3年に満たない二十代前半の女子社員。
その女性にちょっと意地悪(?)ともいえる質問をしたんです。
「で、御社は何を実現したいんですか?」
すると、驚いたことに彼女はその会社のホームページの代表メッセージを
自分の言葉として語り始めたんです。
まだ若い会社なのに、どんな社員教育をすればこんな社員が育つんだろう?
表向きは平静を保っていましたが、心の中の自分は思わずのけぞっていました。
しかし、どうやらそれは、さほど難しい事ではないようです。
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Contents
驚くべき若年社員のコトバ
会社の理念を自分の言葉で話す二十代社員
二十代の女子社員は、その会社の社長が話しそうな言葉を自分で語っています。
なぜそうだとわかるかというと、私はその会社を訪問する前に、当然その会社のホームページを見ていました。
そこで、社長の想いはある程度理解していたつもりで訪問を行ったわけです。
社長の想いとは、その会社の経営理念そのものである事が多いでしょう。
しかし、現場社員はその理念を意識するシーンは一般的には少ないものです。
むしろそれを実現するためにパーツ化された”作業”の話題に終始する事がほとんどでしょう。
中間管理職が育っていない会社ではその傾向が特に強い。
若い会社と、大企業は、多くの場合中間管理職がボトルネックです。
なぜなら、中間管理職の役割が明確ではない事が多いからです。
件の会社は、複数のメディアを運営する会社です。
ともすれば、個別のメディアの最適化(つまりアクセスアップ)に終始して、会社として目指す方向感を見失うことはよくある話です。
最近は、新聞やテレビといったマスメディアを信用しない人が増えたのは、まさにそれを物語っているのでしょう。
そんなこともあって、ちょっと意地悪な質問をぶつけてみたわけです。
「で、あなたの会社は、何をやりたいんですか?」
その結果が、冒頭のお話です。
いったいこの会社、どんな社員教育をしているのだろう・・・と内心ビックリしてしまったのです。
難しく考える必要はない
恐らく、彼女がそんな問いを受ける事は日常的にはあまりないシーンだと思います。
普通、取引先が「御社の目的は?」「理念は?」なんて聞くことはほとんど見かけません。
しかし、それを問われて、自分の言葉で語れることはすごい事に見えます。
ぎゃくに、それがすごい事に見えるというのは、私たちはそういった事を社内で語っていないという現実があるのではないでしょうか。
会社で交わされる会話の99%以上は実務的な話。
1%に満たない会話で、社員が会社の理念を理解できるか?と言えば難しい。
仮に頭で理解はできても、行動レベルで実現するのは夢のまた夢でしょう。
逆に言えば、繰り返しその話をする機会をつくれば、社員たちは会社の理念を語るようになるのは当たり前の話です。
社員が経営者・後継者の言葉を語るにいたる3ステップ
結論はシンプル
いろいろ考えて試してみた結果、実はその状態を作る事は難しい事ではない、と感じました。
その方法は予想以上にシンプルです。
耳にタコができようと、嫌がられようと、煙たがられようと、
繰り返し経営者・後継者であるあなたの考えを伝え続ける
という事です。
ただこれだけです。
ヒントは、志村けんさんの言葉にありました。
私の世代は、子供のころ、ドリフの8時だよ全員集合に夢中でした。
毎回同じ事を繰り返している、マンネリの境地です。
そんな志村けんさんが言っていたのは、概ねこんな感じです。
「上手くいかない人は、お客さんが飽きる前にやってる本人が飽きるんだ。
だけど、お客さんが飽きてもずっとやり続けて初めて、定着し始める。」
水戸黄門などもそうですが、長く親しまれているエンターテイメントは、どれもワンパターンです。
確かに、私も、語っている本人が真っ先に飽きていたように思います。
しかし、聞く側はまだそれではしっかりと心に根付いていないんですね。
だからただひたすら同じことを語り続ける。
そのためだけに、毎週1回の会議を定例化しました。
とはいえ、それなりに聞く側にも準備が必要です。
土壌づくりとでも言いましょうか。
そんな目的をもって、私がとった3ステップを以下に解説します。
ステップ1.つじつまを合わせる
さすがに、いきなり「うちの理念はこうだ!」と言っても、これまでそんな話がなかったのにいきなり、というのでは唐突感があります。
まずはそれなりに、社員一人一人が納得できる物語を語る必要があります。
決して難しく考える必要はありません。
たとえば、私の家業の場合、保険屋をやってます。
ですからこんなステップで話をする機会を何度か持ちました。
①このままで大丈夫か?
業界や私たちの仕事がもつ問題点を、日常的に社員が感じている苦痛とつなぎ合わせて問題提起をします。
たとえば、営業でお客様に保険をすすめればすすめるほど関係は悪化する。
お客さまのために必要だからこそお伝えしたい情報なのに、お客さまはそれを受け取ることを拒否される。
毎年毎年、年度末には足りない成績にあえいでいる。
こんな感じです。
その原因は、世の中の変化にあったんです。
ということは、世の中の変化に対応しなくてはならない。
これが私の中での一つの結論です。
そんなお話を何度も繰り返すフェーズがありました。
②共感されやすいストーリー
ここで私の場合は、2つの実際の物語をお話ししています。
一つは、東北大震災でどれだけ保険を契約していても、救われなかった人、現実があった事。
もう一つは、がん保険を契約していても救われなかったお客さまのお話。
保険は必要なものではあるけど、万能ではない。
その不足部分を担うのは誰か、というお話を良くしています。
ステップ2.共通言語を作る
後継者が会社のありたい姿を語るときに、その時の話を想起できるようなキーワードを話の端々に埋め込んでおくといいでしょう。
たとえば、当社では、
「治療を売るか?予防を売るか?」
という話をすれば、売りにくい商品と売りやすい商品の仕分けであるとわかります。
「私たちはサービス業である」
という話をすれば、保険を販売することが私たちの仕事ではないことがわかります。
こういった形で、ちょっとした社内用語を定着させるよう意識します。
日々の会話の中で、常にこういった問いかけを行うことで、後継者であるあなたの考え方がしみこむ土壌が出来上がります。
ステップ3.会社のあるべき姿をわかりやすい言葉で伝え続ける
そしていよいよ、経営者の考え方を伝えるフェーズに入ります。
はじめのうちは、少し時間をとって丁寧に考え方を伝える機会をもちます。
ある程度理解が促せたら、あとは、長々と語るのではなく、文章にすると1行から、長くても3行程度。
社員が覚えられるくらい短く、コンパクトな標語に近いものを常に伝え続ける事です。
しっかりとした土壌づくりができていれば、数週間で社内に定着し始めます。
当社の場合、たとえば
「保険を売るのが仕事ではない。最終的には保険の必要性をなくすことが私たちのビジネス。」
「地域のつながりを取り戻すことでそれを実現する。」
といった形です。
これを繰り返し繰り返し伝えます。
社員がウンザリするほど伝えます。
「社長(専務)、また同じ事言ってる・・・」
とあきれられるくらいでないと、社員は自分から語ることはないでしょう。
社員が、会社の理念を自分の口から語るようにするためにできる事は、たったこれだけです。
いかがですか?
決して難しくないですね。
ちょっと待って!
この取り組みの副作用
なるほど、このくらいだったらできそうだ。
そう思って、実践してみるなら、その前に副作用の確認をしておいてください。
もっとも重要なのは、あなた自身が、言葉に背いた行動や判断をしないこと。
それをやってしまうと、あなたは社内からはじき出されます。
あいつは、口だけ男(女)だとさげすまれます。
この強力な副作用を知ってなお、やるかやらないかはあなた次第。
つまり、覚悟が試されます。
この方法は劇薬なのです。
なぜ繰り返し伝えるだけで社員が同じように語り始めるのか?
社員は、仕事の技術的な事を考える機会は多いですが、会社の方向性を考える事はあまりありません。
それは社長であったり、後継者の役目です。
つまり、社員の方にとって「会社の方向性」という記憶・思考スペースは白紙なわけです。
そこに、問題提起を行い、これまでの価値観を揺さぶり、アンバランスな状態を作ったうえに、物語を語ることでそこに土壌を作るわけです。
この物語は、「人として」納得感のあるものである必要があるわけですが、
「そうだよな・・・」
とある程度納得できれば、そこに親和性の高い情報は入りやすくなります。
そこで、標語のような短くて簡潔な言葉をインプットし、何度も繰り返し塗り重ねる。
すると、そこに関連した質問をされれば、他の答えを持っていない以上、あなたの言葉を自分の言葉のように語りはじめる。
そんなからくりがあるわけです。
実際に私が試して上手くいった方法ですから、効果は保証できます。
ただ、前にも言ったとおり、劇薬ですので使い方を誤らないようお気を付けください。
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