「先代である親のやることが許せない」そんなことが頭の中を占めていたことがありました。具体的には、社内会議でいつもは「シーン」としていて社員からは意見がない。この状態を、意見が出るようにと心理的安全性を高め、自主性を育むような社風づくりのため結構苦労したつもりです。会議ではポツリ、ポツリ、と意見が出始めたころ、先代派「そんなこと、ごちゃごちゃ言ってないでこうすればいいじゃないか」と一喝。確かに経験豊かな経営者ならすぐに答えが出ることかもしれません。ただ、そういったパターンを脱し、さらに未来に向けて社員一人一人が考え、意見を出せる会社を目指していた中でそれですから、私もカッと頭に血が上りました。
いつまでもこちらが答えを出していたら、社員の自主性は育てられない!と先代である父にかみついた記憶があります。その時をきっかけに、私たちの親子関係は一気に悪化していきました。
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このエピソード、私は当時、「欲望の視点」で見ていたように思います。まあ、名称は何でもいいのですが、私の当時の心境は「先代である父に、自分の思いどおり動いてほしい」という思いがあったのだと思います。当時の私はどちらに正義があるかを考え、会社の未来を担うのは自分なんだから、親は自分に従うべきだと自分本位の判断を下していました。もちろんこの考えは、社会的にはそれなりに正しいと評価される可能性もありそうですが、現実の人間関係は、社会的な判断だけで成立するものでもありません。
そこには、先代の言葉に萎縮する社員がいて、それに批判的な私がいて、自分のやり方を条件反射的に表現する先代である父がいる、というだけのことです。良し悪しという判断を外してしまえば、誰もが自分の取れる行動をとった結果、と言えるのでしょう。
この時私がカッとなったのは、私が期待した動きを父がしなかったからです。しかし、物の道理として、人は一人一人が自分の判断で動くものですから、この父の行動を辞めさせようという私の考えは少し不自然になります。そもそも私は、「社員一人一人が、自分で考え、自分の意見を表明できる組織」を目指していたにもかかわらず、「先代が自分で考え、自分の意見を表明することを拒んでいた」という笑うに笑えない状態に陥っていました。
また、舞台設定をするためにこそこそと先代に「自分の意見を表明しないように」なんて耳打ちしてたりするならば、これはこれで何とも格好の悪い話です。
一方これを、「受容の視点」から見てみましょう。
社内会議で、社員はみな自分の意見をなかなか言いません。なぜなら、自分達の意見は過去に採用されたことは少なく、むしろ先代が決めたことを自分たちは聞く場であるという認識があるからです。ここで意見を言っても意味がない、むしろ、何も考えないことが自分にとっては安全だ、と見な考えている状況があります。しかし、そんな状況を一生懸命解きほぐし、意見が言える社風を作ってきたつもりです。やっとポツリポツリ意見が出始めた会議室で、「何をもたもたやってるんだ、そんな事こうすればいいじゃないか」と先代の一喝。あーあ、これまでの努力は水の泡だ・・・。
となる前に、ちょっと待ってください。一旦盛り上がった気持ちって、何かがあったからっていきなりゼロになるものでしょうか?たとえば先代の一喝が起こる前の状態が+10点だったとして、いきなり0点になるかという時ッとそんなことはない。私たち後継者が姿勢を変えない限りは、+2点くらいまでは下がるかもしれないけど、0点までは下がらないんじゃないでしょうか。逆に言うなら、一人の人間の一言で崩れるような社風だったら、その程度なのではないでしょうか。また、会社全体の会議では言えないことも、後継者との雑談の中では「あの時は先代があんな風におっしゃったので言えなかったのですが、私はこう思うんですけど」なんて言う風に意見が出てもおかしくないはずです。
複数の人間が常に足並みをそろえる事なんて、逆にありにくい話です。今回はそれがたまたま先代だっただけ。逆に、言葉にしてないだけで社員だって同じことを考えているかもしれません。まあ、たらればを幾ら言っても仕方ありませんが、「まあ、そういうモノだな」ということで受け入れると、そんなに目くじらを立てるものではないのではないかと思います。
つまり、起こったことは織り込み済み、という観点でみてみると腹が立つこともありませんし、逆に問題点が明らかになってきます。
大事なのは同じ出来事も、とらえ方でニュアンスが大きく変わること。
この物の見方の変化は、心の成長と言えるのではないかと思います。だからすぐにできるようになるとは言いませんが、そういった視点の変化を意識すると、世の中がとても自分に優しく見えてくるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
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