親の会社を継いだ後継者には、いろんな問題が付きまといます。
あれも、これも、と解決すべき課題はあるかと思いますが、それはいったん置いておいて将来どんな風に会社を扱っていくかを考えてみましょう。
もちろんこれが、模範解答というつもりもありません。
一案というか、空想の世界を出ません。
ただ、こんな考えもあるんだな、という程度で眺めていただくくらいがちょうどいいかもしれません。
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Contents
「達成型組織」の限界
目標が見えない時代
巷で話題になった「ティール組織」というものをご存知でしょうか。これは、フレデリック・ラル―という方が提唱した組織形態の一つです。ティール(進化型)組織というのは、一般的な組織がもつヒエラルキーを持たず、ノルマなども持たない組織。その組織を構成する一人一人が、自身の本来的な生き方を追求しつつ、組織構成相互における信頼関係を形成し、お互いの人間的成長を刺激しあいないながら成長していく、一つの生命体のような組織、という説明がなされたりします。
なんだかすごい感じですね。この世界観を理解するにはかなり深い洞察が必要だと思うのですが、その少し手前に「達成型組織(オレンジ)」と分類された組織形態があります。これが実は今の企業の多くが作る組織の形態と言われています。その名のとおり明確な目標があり、その目標を達成することが重大なミッション。そして、組織の目標達成のために、構成員はパーツの一部として働きます。
例えば大企業であれば、「株主の利益を最大化する」という目標達成のために組織全体が動きます。こういった組織の社内はたいてい、システマチックに作られているように思います。一定の評価基準に基づき、目標の達成度合いで評価されます。そしてピラミッド型のヒエラルキーの中で昇進が決まり、より多く稼ぐ、より出世すると言った価値観が支配的になる傾向があるようです。
この説明を読んで「まあ、普通の組織だよね」と思う方が圧倒的に多いと思うのですが、それほどまでに今の世の中に支配的に多いのがこの「達成型組織(オレンジ組織)」ということが言えそうです。こういった組織がつまずくことが最近多くなってきているような気がします。たとえば、これまでは株主に配慮して、「売上は昨年より高く」ということが絶対に死守すべきポイントでした。しかし、縮小する経済の中でそれを行うためには、新たな需要を生み出さなければなかなかできることではありません。今まではあまり深く考えることなく、目の前の仕事にまい進していればよかったのかもしれませんが、今の時代はそもそも「達成すべき目標はこれでいいのか?」という根幹が揺らぎ始めているように思います。もしそうだとしたら、これからのことはまた違った軸で考えて行く必要があるのではないでしょうか。
会社の在り方
さらに考えると、会社という形態の是非というものがこれからますます議論が高まってくるのではないかと思います。一つは副業解禁の流れです。会社に縛られて仕事をするのは、多くは「飢えないため」だと思うのです。人生の1/3近い時間を会社に献上し、その対価として給与を得ているとすれば、その拘束なしに何かしらの収入を得られるとすれば、それを求める人はきっと少なくはないのではないと思います。ある友人は、そこそこの規模の会社を経営しているのですが、コロナによる自粛期間中副業と投資で一月40万円くらいは稼いだと言います。そういうことが、誰でもとは言いませんが、気軽な遊び感覚でできてしまう時代と言えるのかもしれません。そうなると、よほどのことがなければ、会社という縛りの中で仕事をするのは稀有な存在になってくるかもしれません。
また、コロナ禍におけるテレワークによる気づきもありました。企業によっては本社のオフィス賃貸契約を解除し、出勤しないことを基本とした経営をされるところも出てきました。そうなった時に、会社と従業員を結ぶものはいったい何なのでしょうか。もちろん、会社が機会やリソースを提供してくれるから仕事ができるという側面もあるかもしれませんが、逆にある特定の業務のスペシャリストであれば、会社との雇用契約から委託契約に切り替えるところも出てくるかもしれません。会社としてもその方が身軽になるので、むしろ会社側からそんなオファーが出てくるかもしれません。
最近はよく「個の能力が試される時代」と言われますが、まさにそんな時代になる可能性もありそうです。
会社はなくなる・・・?
こういったことを合わせて考えて行くと、会社はなくなるかもしれません。実はそんな予測をしていた人は何人もいました。その当時はトンデモ話と思った人もいるかもしれませんが、今やそれはかなり現実的な話になってきたように思います。もう一つ考えると、今の社会問題の一つとして、労働人口の不足が挙げられています。今多くの会社は血眼になって、若い社員を雇うべく、リクルート活動に力を入れています。しかし、その若者のもてる才能を活かしきれない組織が、その若者を囲い込んでしまえば、社会的な損失といえるのではないかとさえ思います。逆に、その若者の強みを、複数の会社のために役立てる、ということを考えれば社会全体のリソースの有効活用と言えるのかもしれません。そうなると、雇用という概念は社会とのミスマッチを起こしかねないこともあるように思います。
未来の会社はどうなっていくのか?
二つの考え方
正直、この辺りは予測ゲームのようなものですので、当たるも八卦当たらぬも八卦の世界です。ただ、私の感覚でいうと、二つのパターンが併存するんじゃないかな、と思います。一つが、比較的今の会社組織に近いものです。言ってみれば、小単位のチームのようなものです。このチームは、それぞれが信頼関係で結びついていて、それぞれが得意技を持っています。その得意技を活かせる形のビジネスを創り出したり、受注したりという感じの活動を行います。チームありきで、そのチームを活かす仕事を選ぶということになるのかと思います。たとえが良いかどうかはわかりませんが、ハリウッド映画などででてくる最強チーム的なイメージです。
こういったチームにおいてはお互いが刺激を与えあい、お互いが常にスキルや人間性を磨く努力を怠らない。リーダー的なヒトはいるものの、彼が管理するわけでもなく、何かしら明確なミッション(仕事の成功)を共有しているのでそれぞれが、メンバーそれぞれを見ながら自分の行動を調整するようなチームワークがある状態。
もう一つは、日頃は個人が自分の能力を活かして個として活動しているものの、一人ではできないこと、チームが必要な仕事に接した時に、そのプロジェクトを運営するチームを作るというかたち。これはプロジェクトが完遂されるごとに解散されるため、個人のプレイヤーは常にどこかのチームに所属しているというわけではなく、時と場合によって必要な場所にいるという感じでしょうか。
こういった精鋭チーム型と、プロジェクト対応型の二つの組織がイノベーティブな分野で活躍すると同時に、一方で彼らが成し遂げたイノベーションを引き継ぎこれを実行していく組織が必要になります。そういう意味では、比較的変化の少ない仕事を継続的に行う組織もまた生き残っていく可能性は少なからずあるのかもしれません。ですから、「会社はなくなる」的なあおりでここまで書いてきましたが、現実的には「会社という概念を飛び越えて仕事をする層」と、これまでと比較的変わらない形で組織を運営する層に大きく分かれてくる可能性がありそうです。これは良い悪いというより、適性の問題で、同じ仕事を延々と続けたい層には後者が最適な職場になるのかもしれません。
いままでは、そういった層がごっちゃ混ぜに一つの企業にいたのですが、社会のなかでの「イノベーション」を担当するチームと、「維持」を担当するチームが分かれてくるような気がします。
後継者の立ち位置はどこにとるのか
何も考えないことの功罪
親の会社を事業承継し、引き継ぐ後継者・跡継ぎの心のなかは、どちらかというと「達成型組織(オレンジ組織)」があるべき姿、という刷り込みがなされているような気がします。親の代に「徹底的に会社を拡大せよ」という歴史があったので、それを止めることは難しいのです。それを止めるなんて言い始めれば、後継者・跡継ぎはその時点で失格の烙印を押されてしまいます。しかし、たとえばビジネス書でも、『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』なんていう本が大ヒットする時代です。従来の価値観のままですべてが解釈できる世の中ではなくなってきています。
ただ、私はここで売り上げ至上主義は悪だとか、価値観をすべて転換すべきだというつもりはありません。そんな結論はそれぞれが考えるべきことであると思っています。大事なのは「自分の頭で考えてみる」ということなのだと思っています。後継者が親の価値観を引き継ぐのはいいとしても、その価値観を引き継いでいいのか、自分はその価値観を支持するのか、社会にそれがマッチするのか、といったことを考えたうえで引き継ぐなら万事オッケーです。けど、何も考えず「親のいうことだから正しいに違いない」とか、「世間の常識だからこうあるべき」とか言うのは危険じゃないかと思います。
恐らくなのですが、惰性で親の会社を継ぐと、きっと後継者自身が苦しむことが多くなるんじゃないかと思うのです。これから、会社の在り方は上記ほどドラスティックではないにしても、何かしらの変化はあるんじゃないかと思います。その変化に応じて会社を動かしていくときに、誰かの後追いもいいのですが、自分なりの仮説を持つことは結構大事なのではないかと思います。
会社は今後どうなるか。そんな思考実験をほんの数分やってみてはいかがでしょうか。
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