後継者

後継者はどこまでやれば合格なのか?

何かと世間では、あまり評価されることのない跡継ぎ・後継者。
量的な成果であるなら、会社規模を3割増しにすればいいのでしょうか?
全国展開するとか、上場するとか、形になる変化があればいいのでしょうか?

ある後継者は、親の急死に伴い会社を継ぎました。
日々の苦労はあったものの、周囲の私から見ても立派に会社を引き継ぎ、親の代と比べても売り上げ規模で5倍くらいには増えています。
しかし、跡継ぎである彼は浮かない様子です。

まだまだです。もっとやれることがあるはず。
彼はそういうのですが、こう質問してみました。
「どこまでやれば合格なの?」
その質問に対して、彼は明確な答えを持っていませんでした。

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死別による事業承継は大変だけど意外とうまくいく理由

ある日突然社長になる人々

直接存じ上げている人の中で、何人かは親を病気や事故で亡くされ、親が経営していた会社を唐突に引き継いだ人がいます。
ある製造業の後継者は、自身はすでに大手電機メーカーに就職して5年ほどたったタイミング。仕事が面白くなり始めたときに、お父様が病気で亡くなられました。本人はその会社を継ぐつもりもなかったのですが、会社の従業員たちが相談した結果、その後継者に対して「会社の二代目として家業を継いでほしい」と懇願されたそうです。

父親の仕事のことや、その業界のことなんて知らない後継者はずいぶんと躊躇したようです。会社のほうは借り入れもかなり大きく、経営状態は決して良くはない。しかし、従業員たちの懇願にほだされ、サラリーマンをやめ、親の会社を継ぐことにしました。

しかし、会社のことなんて何一つわかりません。辛うじて、経理の一部を母親が知っていたくらいで、何から何まで手探り状態。しかも、借金の返済は多額で、ほとんどパニック状態だったようです。

そのような体験をしている二代目は当然彼だけではありません。世の中にはそんな話であふれています。

頼まれたからといって従順なわけではない

こういった場合では、従業員が頭を下げてお願いをしに来たので、じゃあ後継者の考えに全社員が従順か?といえばそうとも限らないようです。これまでのやり方では赤字を垂れ流してきたから、やり方を変えなければならないというのが後継者の考え。しかし、古株の従業員にしてみれば、後継者は業界のことを知らないひよっこ。そんな若造の言うことは聞けない、というわけです。

特に製造業や一部の専門職の場合、新しいアイデアよりも古い経験が重視される傾向が強いので、やりにくいことでしょう。そもそも、後継者としては、頼まれてこの場にいるのに、なぜ協力しないのか、という憤りもあるのではないかと思います。

後継者としては、そういった目の前の問題を一つ一つ解決していく根気が必要となることが多いようです。

それでもうまくいきやすい世代交代

そんな苦労があるものの、私の知る範囲では一定期間、後継者は苦しみぬきますが、そこを抜けたとき、大躍進を始めることが結構多いのです。その期間は一概には言えませんが、ざっと5年~10年くらいの間でしょうか。

そういうと、結構長い時間がかかる印象を受けるかもしれませんが、親が健在の場合はより深刻な状況がある事も多いのです。30年くらい親子バトルを続けることも稀ではありません。このバトルや親子の確執による精神的な重荷を抱えているということが一つ、親がいるから何か問題が起こった時には、親がいるから、という状況のせいにすることが一つ。こういった理由で、動けない後継者、独り立ちできない後継者の状態を数十年にわたって維持してしまいがちです。
親が健在な状態の事業承継は、一見、スムーズにできそうに見えて、いざ後継者がバトンを手にしたときにはすでに疲弊しきっており、会社に新しい風を入れるようなモチベーションをどこかに落としてきているようなことも多いのではないでしょうか。言ってみれば、バトンタッチをしそうでしない状態を、トラック何周も続けていた感じといえばイメージしやすいでしょうか。先代が力尽きてバトンを後継者に私たち期には、後継者も限界に近いところまで体力を使い切っていた、という笑い話にもならない状況をよく目にします。

逆に言うと、親がいない状態での事業承継は、後継者が覚悟をもって経営に当たらざるを得ないということになります。誰のせいにしたところで助けてはもらえませんから、すべてを自分の責任として物事をとらえます。だから、死別による事業承継は、思った以上に、一定期間の厳しい時期を乗り切りさえできれば、会社の運営はむしろ順調であることの方が多いように思います。

うまく経営を引き継いでも満たされない後継者

Daniel MielcarskiによるPixabayからの画像

どうなれば満足するのか?を考えてみよう

親との死別を機に会社を引き継いだ、という方の中には二つのタイプがいます。一つ目は、もう親とのかかわりは過去のものとして、会社経営を楽しんでいる人。もう一つのタイプは、義務や責任として会社を預かっている人。

私の印象としては、後者の人の数が圧倒的に多く、そして彼らは苦しそうです。客観的に見て、会社は順調そうだし、ここまで十分よくやってきた、と思うのです。しかし本人はそれでは満足できず、もっと良くしたい、もっと良くしたいと、貪欲です。経営にどん欲になるのはいいのですが、その源泉がどうも自分の意志ではないように感じられるのです。

そんな苦しそうな後継者に思わず発した質問が、冒頭の
「どこまでやれば合格なの?」
という言葉です。

向上心はとても大事なことなんですが、自分の成長を実感して喜びを感じることと、何かに急き立てられるように「成長しなければ××される」的な罰から逃げるかのように頑張っていることとはかなり違うと思います。
そしてこういう人はたいてい、「なくなった先代のために」とか「先代の思いを実現するために」とか言ったりされることが多いように思います。たしかに、親が果たせなかったことを、子が果たすというのはちょっとした美談に聞こえます。ただ、そんな美談を作るために、自分の人生を犠牲にしちゃっても大丈夫なのかな、とちょっと心配になってしまうことがあります。

人生の目的を考えてみる

どこまでも会社を大きくし、強くする。これを目指すことはとても素晴らしいことですが、ちょっと考えてみたいことがあります。私自身の考え方は、どんな職業を選ぶとか、どんな経営をするとかいうのは、一つの手段だと思っています。何の手段かというと、自分が幸せに人生を生きる手段です。

会社の成長は大事だと思うのですが、それと自分が人生を楽しむということを天秤にかけたとき、私にとっては後者のほうが大事です。逆に言うと、後者を満たす一つの要件として、会社が成長していることがあると嬉しいな、と思うのです。

私たちが日々行う行動も、趣味も、家族や友人とのコミュニケーションも、こういうと叱られるかもしれませんが、すべて手段じゃないかと思うのです。自分が幸せな人生を愉しむための。

逆に後継者として「どこまでやれば合格か?」というところの答えが思い浮かばないのは、他人指向だからだと思います。自分がこう思う、というよりここまでやれば世間は認めてくれるかな、ここまでやれば親はうなずいてくれるかな、という風に他人の顔色を見ている状態なんじゃないでしょうか。そうすると、自分の中に基準がなくて、どこか自分の外にある基準を探してしまうので、ゴールが見えなくなってしまうのではないでしょうか。

だから、今自分が持っている目標というか、目指すゴールがあるようなないような状態で、けどすごく苦しい、という状況があったとしたら、もしかしたら誰かの期待に応えよう、と必死になりすぎているのかもしれません。ここらでちょっと、自分の人生を充実させる、という基準で物事を見直してみれば、あなた独自のミッションが見えてくるのではないでしょうか。

 

 

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