私は以前、セールスという仕事が苦手でした。
当時は、「セールス下手」が問題と思っていましたが、それから数十年して感じたのはまったく別の問題が原因でした。
問題の近くに必ずしも原因があるわけではなさそうです。
後継者・跡継ぎがもつ悩みもまた、その本質は別のところにあるのかもしれません。
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親の会社である保険販売会社を継ぐには、営業力は必須でした。
買いたい、と言ってお客様が集まってくれる商品ではありません。
そこそこお客様を誘導する強いセールスが必要になることも多いと思います。
しかし、私はそれが苦手でした。
理由はいくつかあります。
一つは、結果を保証できないこと。
事故があって保険が出ない、という事も実際にあり得ますし、その権限を自分たち販売店はもっていないという事です。
二つ目は、自信がないこと。
複雑な商品で、細かく書かれた「免責事項（保険の対象とならない事故）」は、専門家でも見落としそうなものがけっこうあります。
それは今も同じ思いですが、売れる人もたくさんいるのが現実です。
じゃあ、なぜ保険セールスが私にとって苦手科目なのでしょうか。
販売スキルなのか、
知識のレベルなのか、
やる気なのか、
自分でもよくわかりませんでした。
ただ、たぶんやる気以外は、同業者と比べてそこそこ悪くないところまで鍛錬していたつもりです。
30年近く、その問題の本質が見えずにいたのですが、今になってわかったことがあります。
私はお客さんに、本当の自分を見せないようにしてきたのです。
よくよく考えてみれば、お客さんどころか、社員にも、家族にさえも、本当の自分を見せていません。
20歳くらいのときには、「自分ってどんな奴だっけ？」というのをすでに忘れていました（苦笑）
たとえば、自分はソコソコ几帳面に事務的な作業をこなすほうだ（った）と思います。
時間には正確であまり遅刻はしません。
仕事に抜けはなく、速さも人並みかそれ以上だと思います。
文章も書けるし、人前で話すこともできないわけでもない。
頼まれごとはたいていそつなくこなすし、極端に機械音痴というわけでもない。
こうかくと出来すぎなわけです。
けどこれは、ぜーーーんぶ、自分の本性を知られたくないがために身に着けたスキルです。
地の自分は、
事務的な作業は大っ嫌いだし、
そもそもルーズな性格なので、物事を段取り良くやるなんて、苦痛でしかないのです。
そういうだらしない自分を他人に見せたくないから、スキルを身に着けてごまかした。
すると、他人から見ると能力的には信頼されるかもしれませんが、人間てきに信頼されるかどうかと言えばアヤシイ。
ここでなんとなく合点がいくのですが、アルバイト時代学習教材を売っていたときはそれでもうまくいったんです。
なぜなら、その時は商品そのものにお客さんは価値を感じてくれればそれでよかったからです。
しかし保険はお客さんは商品そのものに価値を感じる以前に、この人と付き合うべきか否かを判定されます。
その時点で、人格の見えないコイツとは付き合えない、と思われていたのかもしれません。
もう少し突っ込んで言うと、無色透明な私は、お客さんの視界に入っていなかったのかもしれません。
つまり、私が保険セールスが苦手だったのは、スキルとか、知識の問題ではなく、
自分の事をひた隠しにしてお客さんに近づこうとしたところに原因があるように思います。
たとえて言うなら、高い壁を作ってお客さんに近づこうというのですから滑稽な話です。
私の事例のように、問題の原因が問題の近くにあるとは限らない、というのはいろんなシーンで見受けられるかもしれません。
会社の売上が上がらないのが、営業社員の能力の問題ではなく、商品そのものやマーケティングプランにある事もあります。
社員の大量辞職の原因は、社員の感情ではなく会社のあり方にある事もあります。
社員の使い込みのような事件が発生した時、社員個人の問題だけでなく、会社の環境に原因がある事もあります。
もし目の前の問題の、一番目に付く原因を改善してもなお似たような問題が収まらないとき、そこから少し遠いところにある原因を考えてみてはいかがでしょうか。
すると、意外なつながりが見えてくるかもしれません。
そして、そのつながり、実は気付かないふりをしているだけで、後継者であるあなた自身がすでに気付いている問題なのかもしれません。
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Ivana DivišováによるPixabayからの画像
