親子の確執というのは、親子で経営している場合だけでなくよく起こる話です。
これは振り返ると、子どもの頃の親子関係にさかのぼります。
つまり、親子で事業承継をするからとか、
親子で経営するからとかいう問題ではないのです。
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Contents
経営の現場で起きる親子の確執
親子の確執の原因はどこにあるのか?
少し話はそれますが、若い男女で理想の恋人像を語ってもらうとたいてい出てくるのが、「優しい人」。
なんとなく無難な回答ですが、やさしい人ってどういう人でしょうか?
世のため人のため、ボランティア活動に従事する人?
困ってる人を見かけたらすかさず手を差し伸べる人?
イジメられてる人をみたらすかさず助け出す人?
なんとなく優しい人のイメージがありますが、自分を放っておいてボランティア一筋になると嫌なわけですからちょっとズレがありそうです。
実は優しい人が好き、という本質的な意味は、
自分を尊重してくれる人
と言い切ってもよいのではないでしょうか。
自分のために時間やお金を使ってくれる人、
自分のために話に耳を傾けてくれる人、
自分のために気を使ってくれる人。
こう書いてしまうとワガママな人に見えますが、所詮人間は自分が一番大事なのです。
ところで、親子の確執は何が原因でおこるのでしょう?
会社経営においては方針の違いとか、
考え方の違いとか、
立場の違いとか、
いろんないい方はできると思います。
しかし、これも結論は一つです。
親子それぞれが、
自分を尊重してくれていない
と感じているからです。
毒親
少しエキセントリックな表現ですが、「毒親」という言葉があります。
簡単に意味を説明すると、
「子どもの人生を支配し、子どもに害悪を及ぼす親」
という事になります。
具体的には、精神科医斎藤学氏によると以下の4タイプに分類されるようです。
(1) 過干渉、統制型の親(最も訴えが多い)
(2) 無視親(ネグレクト)
(3) ケダモノのような親(激しい暴力や暴言・性的虐待など、心身の健康、時には生命にも関わるもの)
(4) 病気の親(周囲の適切な支援と保護が必要な精神障害の親、ごく少数であるが反社会性パーソナリティ障害のような親)
親子経営の現場で比較的散見されるのが、(3)と(1)です。
特に(1)の過干渉に関しては、双方で自覚がないことも多く、こういった背景が親子経営における確執に影響していると考える人は少ない。
だから、「論理的に、冷静に話し合えば分かり合える」という人もいますが、実際はそれがうまくいかない原因と言えるでしょう。
親子の事業承継における親子の衝突は、「経営方針の違い」に見えて、実は、親子の関係性の問題である、と私は考えています。
いつまでたっても経営継承できない親子
なぜ親はいつまでたっても会社を去れないのか?
こういった心の側面から親子の事業承継をとらえると、面白いほどそのからくりが見えてきます。
そもそも、親子経営で起こる確執の原因の「過干渉」がなぜ起こるかを考えたとき、親側の自己愛の問題に突き当たります。
元横浜国立大学保健管理センター准教授の堀之内高久先生によると、経営者はみな一般と比べて強い自己愛を持っていると言います。
それは、「自分は取るに足らない存在だ」という前提が心の奥底にあり、取るに足らない自分が世間に認められたいがために経営者になっている、という状況がほとんどだと言います。
こういった経営者は、自分が注目を浴びるのが大好きですし、自分が中心です。
すると、表向きは「子供に継がせないと」と思ってはいるものの、無意識の行動は「オレが一番」という行動になります。
ということは、自分と少しでも違うやり方を人がやると機嫌を損ないます。
後継者が、今まで自分が作ってきた会社を変えようなどとしようものなら、ついついそれを阻止してしまいます。
厄介なのは本人には悪気がないこと。
悪いと思っていたら、譲歩もできますが、無意識の行動だから考える前に、口も手も出ているのです。
影響力のある先代経営者の言葉や行動は、社内にあっという間にいきわたり、後継者はいくらもがいてもまったく会社を動かすことができない無力感にさいなまれます。
尊重されない後継者と親である経営者
先に「やさしさ=尊重してくれること」という話をしました。
そして、やさしさことが、人が人を好きになる、割と重要なファクターであることもお話ししました。
つまり、人と人がつきあう中で、とても重要なのが「この人は自分を尊重してくれる存在である」という事です。
じゃあ、たとえば、後継者にとって親である経営者は自分を尊重してくれる存在でしょうか?
後継者の一挙手一投足を監視し、
後継者がやろうとすることを阻止し、
「後継者はまだまだだから引退できない」と公言する。
どう見ても尊重されているようには見えません。
一方で、後継者は親である経営者を尊重しているでしょうか?
こちらもかなり怪しい。
親のやり方は古いと会社を変えようとし、
親を会社から追い出そうとし、
反抗的な態度をとる。
お互いが相手を尊重できない環境に陥ってしまってはいないでしょうか。
優しい人、尊重してくれる人と付き合いたい、という前提に対してみると、
一番付き合いたくない行動をしてるわけです。
そして、普通の親子なら距離を取ることも可能かもしれませんが、同じ会社で働くわけですから常に近い距離にいるわけです。
物理的にも、精神的にも。
これはまあ根の深い話になるわけです。
問題は「依存心」
問題所有の原則
では、どうすればいいのでしょうか。
まず、おこっていることを整理するならば、
「自分のことをもっと尊重してくれよ」
という話なわけです。
好きになれるよう、やさしくしてくれ、という主張をしたいわけです。
(恥ずかしくて口には出せないし、意識したくもないのですが)
しかし、現実はかなわない。
なにしろ、これを読んでるあなたは、親子の確執のメカニズムを理解したわけです。
しかし、相手に対して、「これを読んでお前も理解しろ!」といったって無理な話です。
もしかしたら、相手は完全に自分には何の問題もないと思っているかもしれません。
自分も変わらなきゃ、なんて謙虚な気持ちは持ち合わせてないことのほうが多いでしょう。
断言したいのは、
「相手を変えようとしてもうまくいかない」
という事です。
これを「不動の龍」と名付けた話は、拙著にあるのでよかったら手にとってください(笑)
『親の会社を継ぐ技術』田村薫
ここで一つ、知ってほしい言葉があります。
それが「問題所有の原則」という言葉です。
簡単に言うと、「なんか問題だなぁ、と感じている人がその問題を解決する責任を持っている」という事です。
逆に言うと、どんなに悪い状況であったとしても、本人が「問題」と感じていなければ、その人は解決に動き出さない、ってことです。
まあ当たり前っちゃ、当たり前ですね。
今回、相手のことはもとより、状況を解決したい(つまり問題を解決したい)と考えているのはこの文章を読んでいるあなたなわけです。
相手もそう思ってるかもしれませんが、相手は相手。
まずは、問題意識を持っているあなたが何かしらの働き掛けをする必要があるわけです。
相手は変わらないという原則
では、ここで考えてみてください。
相手が変わる、という可能性をすべて捨ててください。
その時にどうすれば、今の状況を解決できるか、ということを考える必要があります。
相手は横暴かもしれませんし、過干渉かもしれません。
そこでできることは、まずはあなたの相手に対する言動を変えることぐらいしかありません。
具体的にどうするかは、これまでの考察を振り返ってみるとわかりやすいと思います。
まずは、相手の信頼を得るところから始めます。
それは何かというと、相手にとって「優しい人」になればいいのです。
そう、ちゃんと相手を尊重する、という事です。
尊重するという事は、相手の言い分を聞く、という事ですし、
相手がやろうとすることに関心を持つ、という事です。
ここで一つ面白いことをお話しすると、実は、経営方針の違いはあるかもしれませんが、意外と、そんなものに固執していないことが多いと思うのです。
あくまで言っていることは方便で、本心からそうしたいわけじゃないと思います。
自分の言っていることを通したいだけです。
だからまずはその相手の意見を受け入れ、しっかりと耳を傾けます。
ただ、それをそのまま実行する必要はありません。
受け入れたうえで、そこに対して自分はこう思う、という考えをハッキリ述べればいいのです。
最終的には、どちらかの意見に偏るよりかは、それらの話をもとにした第三案が出せるとベストですが、まずはそこまでいかなくともOKです。
とにかく真剣に相手の意見や考えを聞く、というところから始めてみてください。
究極奥義は「依存しない」
さて、この問題の発端は「自分が尊重されない」という事に対する不満です。
このことはつまり、「もっと尊重してほしい」という自分の欲求が常に自分のなかに潜んでいるという事です。
どこか物足りないような感覚と言い換えられるかもしれません。
この物足りなさを満たすために、親であったり、後継者である子であったり、その他世間の称賛だったりを求めるわけです。
これは、自分の足りないものを他人に求める行為。
言い換えると、他人に依存してる状態です。
心理的な依存を親も子も持っているから、相手からの尊重を求めるわけです。
ならば、その依存をなくせばいい、という事になるわけです。
それは具体的に言うと、他人の評価ではなく自分自身がしっかりと自分を評価できる状況になれば、この「尊重されていない不満」はあまり出なくなります。
「ふーーん」という程度でスルー出来るようになるのです。
とどのつまりは、親子の確執が起こる背景には、親も子も自分自身を尊重できていない、と言えるわけです。
たとえば、親はそもそも社長をやっているのは、子どものころから満たされない感情を持ち続けたから、経営者となることで社会的地位や金銭的な豊かさを手にして、周囲に認めてもらおうとしました。
けど、周囲に別に認められなくていい、となれば、社長という座にこだわる必要はなくなります。
その時に初めて自分の人生を歩む状況、自分の本当の姿を現すことになるんじゃないかと思います。
一方で後継者は、たとえ社員が自分を尊重しなくとも、親が自分のことを認めてくれなくとも、自分が自分で納得できることをすればいいと割り切ることができたとしましょう。
すると親に認められる必要性など感じなくなります。
ついでに言えば、自分を信じることにつながるので、不安もなくなるでしょうし、前に進む力が湧いてくるはずです。
親子の確執の奥にある本質
自分を知ることができれば問題は半分解決している
こうしてみていくとわかるのですが、親子の確執がおこるのは親子双方に問題があるからです。
どんな問題かと言えば、お互いが誰かに「尊重されたい」と依存している状況であることです。
そうやって「尊重されることを」相手に求め続ける結果、相手から尊重されないとき、寂しさが怒りにかわり感情的になるのです。
それを回避するシンプルな方法は、相手の尊重を求めずとも自立できる心を持つこと。
つまり、双方が「人間として成長するキッカケ」として目の前に現れるのが、親子の確執という問題です。
同時にそのきっかけに気付くことができれば一番いいのですが、たいていはどちらかが先に気付きます。
先にそのきっかけに気付いた人は、「尊重されたい病」を克服すべく、自信の成長を企図してみてください。
その手順はシンプルです。
①自分の「尊重されたい病」の発作が出てるとき、そのことに気付く
②「尊重されたい病」発作が出ている原因を詳しく見てみる
③その原因に深いこだわりがある可能性があるので、そのこだわりを手放しても大丈夫であると自分を説得する
ざっくりいうとこんな感じです。
面倒くさいかもしれませんが、この問題に真剣に向き合わなければ、何度でもやってきます。
この機会にぜひ、撃退してみてください。
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