後継者

2人の跡継ぎ

私の印象として、同族会社の跡継ぎというのは大きく分けて二つのタイプにわけられると思っています。
一つは、自分の置かれた境遇を受け入れ、そこに逆らわず生きていく人。
もう一つは、自分の置かれた境遇の殻を破り、自分の思いに従って生きていく人。

どちらが良いか悪いか、という問題ではありません。
それはあくまでその人自身の選択の問題です。

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割と長い付き合いをしているA君という人がいます。
彼は、親が会社を興し、15人くらいの会社を経営しています。
親は非常にアグレッシブな方で、70歳半ばを過ぎてなお、自分の力を社内で存分に発揮しています。

そんな状況の中、A君はどちらかと言えば、長い物には巻かれろ、タイプ。
お父さんの強いリーダーシップに逆らうこともなく、かといって与することなく、どこか他人事のように会社に関わっています。
以前話を聞いたときには、
「成功したいとも思わないし、たくさん稼ごうとも特には思わない。ただ、誰にも邪魔されず、普通の生活ができればそれでいい」。

とにかく、楽して、そこそこ悪くない暮らしができればそれでいい、と言います。

 

一方、B君はと言えば、常に何かが足りないと感じている人でした。
やはり親が興した会社を継ごうと奮闘しています。
親は非常に力のある経営者で、周囲からも尊敬されています。
そんな親に似たのか、B君自身も勉強熱心で、仕事に対しても割とストイック。
しかし、自分の考えを持っているから、親とは衝突を繰り返しているようです。

よく言えば、意識高い系なのかもしれませんが、見ようによっては何かに追い立てられているような苦しさを感じているようにも見えます。
向上心を感じるのですが、それはなんだか追い詰められた現状からの脱出を目指しているように見えなくもありません。

 

A君と、B君は、どちらも形は違えど、けっこう苦しそうです。
長いものに巻かれるA君も、
ストイックに自らの成長にコミットするB君も、
なぜかふと見せる表情に暗さを感じてしまいます。

 

 

 

 

 

 

さて、ここで長いものに巻かれるA君の未来を考えてみましょう。
これは私の眼から見た話ですが、この会社、今のままなら親が仕事ができ亡くなればかなり維持が難しいと考えられます。
長いものに巻かれるA君は、彼なりに頑張っているのですが、会社に対する責任を負おうとしていません。
親が元気で、采配を振るいたいのだから、やらせておけばいい、ということでその立場に安穏としてきました。

私は彼が、親が亡くなった後どうするかが不思議なのですが、彼はそのことを考えたこともないのでしょうか。
社員も、親の事しか見ていないし、顧客もその傾向が強い。
自分でも気づかないはずはないと思うのですが、「なんとななるでしょう」と余裕を見せます。

 

これはうがった見方かもしれませんが、A君はけっこう無理をして強がっているのかもしれません。
自分的には不安もあるのだけど、その不安を見せることなく「楽して生涯過ごせればそれでいい」とか言って自分を大きく見せようとしてるんじゃないかと思います。
けど残念ながら、わたしから見た彼は、いろんなことにおびえる小動物にしか見えません。
父76歳、本人48歳。
10年後、彼は「長いものに巻かれてきてよかった」と思えるのでしょうか。

 

一方、B君はもう今はもみくちゃです。
親とはケンカばかり。
社員とも今一つ上手くいっていません。
とにかくもう何をやるにも、目の前に何かが立ちはだかる。

それでも彼には、希望がありました。
こういった親子バトルを繰り返しながらでも、これを超えた先に彼が見る会社の理想の姿があったのです。
そこまでたどり着けたら、会社がこんな風に社会に影響を与えることが出来たら、
自分は金銭的な部分だけではなく、そこそこの満足感を得られるかもしれない、と。

彼にとっては、あるていど親が疲れを感じ始めてからが本番なのかもしれません。
父81歳、本人49歳。

 

本当は、親がつかれるのを待てと言いたいのではありません。
大事なのは、これから、という意味です。

長いものに巻かれると、流れがあるうちは、流れに乗っていると楽に移動できます。
けど、本当のところ、A君はそれで「楽ができていたのか」は疑問です。
収入とか、目に見える部分はそこそこ楽してたのかもしれませんが、彼はいつもオドオドしていました。
不安で自信がないんだと思います。
そして成長もない。
なにしろ流れに身を任せているのだから、体力は尽きません。
案の定、同業者はA君を小物扱いです。

B君は、今、サケの川登のように流れに逆らって、体力的にも精神的にも大変です。
けどたとえば、ある日会社から最強勢力の親がいなくなった時に発揮できる能力ってたぶんそれなりに鍛えられているんじゃないでしょうか。
そこで新たな会社となる種を産み落とし、新たな時代を作ることができたとすれば、それは価値あることじゃないかと思います。
こういうB君は、どこに行っても結構目立つ存在です。
能力がまだ十分発揮できる環境ではないけど、多くの人が彼の内にあるポテンシャルから目を逸らすことはできません。

Free-PhotosによるPixabayからの画像

 

 

 

 

 

ここで一つ誤解を受けたくないのは、たまたま親がいるからとかいなくなってからとかいう話をしていますが、それは話の中心ではありません。
B君のような人でも、親とともに自分の道を歩む方法はないわけではないと思います。
その方法をお伝えしようと書いたのが、拙著「親の会社を継ぐ技術」です。

そして、生き方として、A君もB君も正しいのだと思います。
それを決めるのはあくまで本人。
ただ、ちょっと気を付けたいのは、「本当にそれで幸せですか?」ということです。
自分で「これでいい」と信じ込ませようとしている人は意外と多くて、そのように自分をだまそうという行為はどこかにほころびが出てきます。

自己啓発などにハマっている人は、何か違うところに自分の道があるような気がしてならないのでしょう。
その感覚は、案外正しいのかもしれません。

 

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