後継者

後継者と先代の関係が断ち切られる5つの対応

昨日は、メーカーさんとの打ち合わせでした。
実は過去、この手の打ち合わせに、私はよい感情をいだいたことがありません。
いつも憤慨するし、時間の無駄以外の何者でもないと思っていました。
しかし昨日に限っては、そうでもありませんでした。

話している内容はこれまでも昨日も同じにもかかわらず、です。
同じ内容でも感情をいらだたせるコミュニケーションと、
建設的に検討・譲歩できるコミュニケーションがあるとすれば、
後継者が先代とのコミュニケーションに役立てることができるのではないでしょうか。
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関係を切れさせてしまう対応

「保護者のためのハンドブック」より

ある無料の情報をご紹介します。
法務省が推奨する情報で、こちらからダウンロードできます。(2018年10月現在)

これは何かというと、非行少年を持つ親に対してその心理的構造と、対処法を説く小冊子です。

「バカにするな!自分はもう大人だし、非行なんてしてないし!」と怒り出す後継者の方もいるかもしれません。
しかし、少しだけ我慢して読み進めてみてください。
親子の関係性というのは、実は小さい時も、大きいくなってからもあまり変わらないことがわかるんじゃないかと思います。

関係を途切れさせる5つの対応

①自分の感情で相手を非難する

「なんでこんなこともできないんだ」と自分の期待に沿えない相手を批判し、責める対応です。
後継者に話を伺うと、先代からこのような対応を受けることが多いとききますし、私も経験があります。
逆に、後継者から親に対しては、「なんでわかってくれないんだ」という思いを持つこともあるのではないでしょうか。

②ものごとを否定的に関連付ける

「こんなことだから、ダメなんだ」と過去の失敗を持ち出したり、「また中途半端に投げ出すんだろ」と否定的な予測をされる対応。
これまた、親である先代から言われた後継者は多いと思います。
一方、後継者は、「どうせ何を言ってもダメなんだろ」といった風に親を評価していることは多いのではないでしょうか。

③本当の気持ちと反対のことを言う

「勝手にしろ!」「もう、知らない!」といった本当の想いとは逆の言動というのもありがちな対応ですね。
これを言われると、見捨てられたようなガッカリ感を感じてしまいます。

④説教

上から目線で説教をされると、聞く耳を持たなくなります。
もはや説教が始まった時点で、耳を塞いでしまう人は多いでしょう。

⑤命令・脅迫

「さっさと〇〇しろ」「××ができないなら、△△するぞ」といった命令や脅迫。
これもまた、関係性を壊す対応です。
上司と部下、という関係性においては、命令というのは避けて通れない道だと思います。
しかし、親子であってもロボットではありませんから、表現の工夫は必要だと思います。

参考資料:法務省『保護者のためのハンドブック』

関係が切れた人たちとの対話

なぜ私がメーカーの人とのコミュニケーションを拒否したか?

冒頭でお話ししたメーカーの方との対話。
過去には、上記「関係を途切れさせる5つの対応」をほとんど経験してきたことに気づきます。
さすがにビジネス上の取引関係なので、①の感情的な対応、③の本心と反対のことを言うというのははありませんでしたが、
たった二時間程度の中に、それ以外は全部盛り。

簡素化して再現してみましょう。

メーカー(以下【メ】):「田村社長、御社の経営を考えると、こうあるべきだと思うのですが・・・」(説教)
【私】:「ふーーん(コンサルタント気取りか。そもそもうちのことなんてわからないくせに)
【メ】:「こんなことを続けていくと、大変なことになりますよ」(物事を否定的に関連付ける)
【私】:「そりゃあ困ったな(ほっとけや)」
【メ】:「このままいけば、収入は激減しますよ!」(命令・脅迫)
【私】:「ああ、それは大変(お前に関係ないやろ)」

このやり取りに私は何ら建設的な意欲を持つこともなく、ただただ、彼らへの反抗心しか出てきませんでした。

逆に今回は、こういった形ではなく、フラットなコミュニケーションができました。
おかげで、かつてなら完全否定していたであろう、メーカーさんの提案についても、「自分の考えを曲げない範囲で採用できる部分があるかもしれない」と建設的に受け取ることができました。
その違いが、コミュニケーションの内容の違いだったのです。

「相手のため」を思う言葉が相手を追い詰めていく

たとえば、「このままいけば、大変なことになるぞ」という言葉。
これは純粋に、相手を心配してのことかもしれません。
だから親子の事業承継の中で、親はこの手の言葉を多用します。
今のままでは、ダメだ。
しっかりしないと、上手くいかない。
そんな事でどうする。
しかし、これは受け手にとっては、単なるプレッシャーでしかありません。
そこに信頼関係は生まれず、感情的に反発して終了。

よくある親子での経営におけるシーンではないでしょうか。

知らず知らずのうちに、関係を断ち切る会話をする。
私が、事業承継で、親子の対話を積極的にお勧めしない理由は、ここにあります。

聞く・話す・対立を解く

相手の自立を促す3つのステップ

件の小冊子では、相手の自立心をはぐくむ必要性を解いています。
権力者が強制するのではなく、相手が自分で考え、自分で決めることができる状態を作るべきだといいます。
その方法には3つのステップがあります。
まずは、「聞く」。
相手の言葉に耳を傾け、相手の気持ちを理解する事が始まりです。
そして、自分の考えを「話す」。
この際に、相手にプレッシャーを与えない話し方が大事です。
前出の関係を切る対応ではなく、相手の考えや行動を侵食することなく、自分自身の考え、自分の信じることは何かを語ります。
そのうえでお互いの考えが対立する場合には、それを解きほぐすためのアイデアを考えます。

聞き、話すことがうまくできれば、私のメーカーとのミーティングのように、建設的な合意点を探ろう、というモチベーションにつながるわけです。

相手に「期待」すると問題が起こりがち

上記の3つのステップは一見「当たり前じゃないか」と言われそうですが、そのあたりまえをうまくできる人は少ない。
なぜかというと、相手に期待してしまうから。
それは人としての成長を期待するという意味ではなく、自分の考え通りに動いてほしいという期待です。
そしてそれができない時、期待通りではなかったとガッカリしたり、怒りを覚えたりします。

親がいつも感情的に言葉を投げつけるとすれば、後継者は「もっと冷静に話をできないか?」と期待しています。
親が自分本位な言動をすれば、後継者は「もっと周囲に配慮してもらえないか」と期待します。
親が自分のことを理解してくれなけらば、後継者は「親がなぜ自分のことを理解してくれないのか」と憤ります。
いずれも、相手(親)に、自分の都合よく動いてもらえないことが不満なのです。

それを、親の考えは親の考えである、と受け入れて初めて人間関係が変わるのではないかと思うのです。

親から子へ 子から親へ

コミュニケーションの難しさ

対等な友達と接するとき、私たちは相手に何かを強要したりすることは少ないと思います。
しかし、上司と部下、親と子、そしてその両方が含まれる家族経営の先代と後継者は、誰かが誰かをコントロールしようとします。
上司は部下を思い通り動かしたいと考えます。
親は、子どもが自分の意にそぐわない行動をしないように教育しようとします。
その結果、強制したり、脅したり、恐怖感を植え付けて動かそうとする。
これ、普通の人間関係ではありえない話なのですが、権力者とその下の人間という関係では普通に行われています。
単なる上司と部下の関係なら、付き合いも数年レベル。
しかし、親子のしがらみがあれば、自分の年齢と同じ年数の付き合いがあるわけです。
そりゃあ、ウンザリもします。

だから、普通の親子は離れて暮らし、1年に1度か2度(下手をすれば何年も会わないことも・・・)のお付き合い。
それを親子で経営すれば、毎日顔をあわせます。
その際のコミュニケーションは、ほとんどが「関係を切れさせる対応」なわけですから、どんどん傷は深まっていきます。
結果、同じ社内にいても言葉を交わさなかったり、他の社員を伝書鳩のように使ってしかコミュニケーションをとらないケースもあるでしょう。
考えうる唯一の対策が、「関わらないこと」になっている後継者、けっこういるのではないでしょうか?

父の言動にいつもびくついていた私

最後に少しだけ、私の経験談をお話しさせていただきます。
親の会社に入って数年は、そこそこ親である社長とのコミュニケーションはあったように思います。
何かを聞かれることがあれば、自分なりの考えを述べていたように思います。
しかし、だんだんとそれがしんどくなります。

なぜなら、「そんなことを言ってるからダメなんだ」「このままでは、会社は大変なことになる」なんていう②と⑤のやり取りが多かったかもしれません。
結果として、私は、親と話をすることを避けるようになりました。
話しかけられないよう、常にバリアを張りましたし、何か言われそうになればその場を立ち去ったりもしました。
聞かれても「知らん」とバッサリ。
今から考えると、なんと子供じみた話か、と恥ずかしくなります。
しかし、その渦中にいる自分には、自分を守ることで精いっぱいだったのです。

権力を伴ったコミュニケーション

コミュニケーションには、さまざまな力学が働きます。
ここでお話しした対応も、権力を持つ側が意識するほうが効果は出やすいと思います。
しかし、親子の経営で親がふるまいを変えるのは難しいと思います。
そういったときには、子である後継者がこういったコミュニケーションスキルを学ぶことで関係を改善することは可能です。
なぜなら、後継者であるあなた自身も、関係を切るコミュニケーションで返している可能性があるからです。

お互いが関係を切るコミュニケーションをしても、あえて首の皮一枚つながっているのは、上司部下の関係なのか、親子の関係がそうさせるのかはわかりません。
しかし、自由な人間関係であれば、完全に切れてる2人。
辛うじてつながっているとすれば、そこから改善できる可能性はまだまだあるのではないでしょうか。

 

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