事業承継を冒険に変える、後継者の知恵

【2】事業承継 冒険化計画 ~ステイタスをチェックしよう~

事業承継を冒険になぞらえて考えてみよう。
それが、このコラムのテーマです。
その狙いの一つは、あなたに”部外者”の目を持っていただくこと。

後継者は、とても精神的にきつい状況を経験します。
その渦中にあっては、吐きそうなくらいのストレスをお持ちでしょう。
しかし、リスクもなく、外野として、お気楽に事業承継を眺めてみる。
それが、本コラムの目指すところです。

そもそも自分の能力は?

主人公のステイタスチェック

前回、私たちが進むべき、目的は明確にしました。
仮のものであれ、何かしらワクワクする目的があるわけです。

(詳しくは前回のコラムをご覧ください→【1】事業承継 冒険化計画 ~冒険の準備~

志を立てたら、行動です。
冒険の旅に出るには、何が必要でしょうか?
七つの海を渡る船?
武器?
飛行機?
車?
まあ何であれ、装備は必要です。

でもちょっと待ってください。
そもそも、あなた自身は何ができる人でしょうか?
そんなに難しく考える必要はありません。
たとえば、ポケモンなら、初めは炎属性、水属性、電気属性とか、
キャラクターを選びますよね。

リアルな冒険では、さすがにキャラクターは選べません。
主人公はあなた自身なのだから。
じゃあ、そのあなた。
あなた自身は、どんな特性を持っているのでしょうか?

誰しも得意分野はある

普通、装備も、キャラクターの属性に応じた装備が必要です。
人間の世界においても、自分の特性に応じたビジネススタイルがあるはずです。
書くのが得意な人、
営業が得意な人、
細かい作業が得意な人、
大枠を作るのが得意な人、
アイデアを出すのが得意な人、
などなど・・・。

なんでも全部できる人なんて、ふつういません。
だから、自分の特性に合わせた道を選択する必要があります。

自分の得意分野を明確にしましょう。
そして、その得意分野を生かして、冒険を始めるのです。
あれもこれもできるようになる、というのももちろん素晴らしいことです。
しかし、まずは自分の中に持っている、自分の強み。
これを活かすことを考えてみてください。

リアルな事業承継での”ステイタス”

現実世界では苦手な分野をやろうとしていないか?

現実の世界は、ゲームや冒険の世界と同じくらい理不尽です。
自分の特性いかんにかかわらず、やるべきことが押し寄せてきます。
営業が苦手な人も、営業を覚えなくてはならない。
不器用な人も、技術を覚えなくてはならない。
人が苦手な人も、人をまとめなくてはならない。

しかし、すべての人が、すべてにおいてスペシャルな成果を上げられるとは限りません。
そんなことで、肩を落としてしまう人、結構いるんじゃないでしょうか。
ま、現実は現実として、ちょっとだけそこから離れてみましょう。

そう、常識から離れてください。
この仕事をやる以上こんなスキルが必要とか、
この事業においてはこうでなくてはならないとか、
そんな常識はこれを読んでいる範囲においては一切忘れてください。

必要なスキルから考えるのではなく、
あなたが得意なことから考えるのです。

それは意味がないのではないか?

「それって、現実逃避じゃないですか?」
そんな風に考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、そうでもないのです。
なぜなら、現実世界もまた、天地がひっくり返るような変化が訪れているからです。

考えてもみてください。
ほんの20数年前、
病院の待合室や、会議室、家の応接も、
当たり前に喫煙できました。
むしろ、灰皿を出さないのは、失礼とさえ言われてました。

それだけではありません。
20年前といえば、携帯電話を持っているのはごく一部の人たち。
会社においても連絡手段はポケベルです。
インターネットだって、パソコン通信の時代ですよ。
突然東京に出張せよ、なんて言われれば、
地図を買い込んで事前に路線を調べなければなりませんでした。

さらに時間を巻き戻せば、私が子供のころ、スポーツ中の水分補給は悪でした。
根性なしの証であり、水を飲むことでバテるといわれていました。
いまなら水分補給させなければ、虐待です。
当時当たり前だった、廊下に立たされたり、先生に殴られたりという体罰。
そんなことも今の時代なら大問題。
しかし、当時は愛の鞭といわれ、親さえもが、「遠慮なくやってください」なんて言う時代でした。

私たちはその変化を少しずつ体験しているから気づきませんが、
身の回りの価値観は、恐ろしいほどに一変しているのです。

事業との整合性

これがビジネスとなれば、より顕著です。
松下幸之助氏の「水道哲学」という話を知っている人は多いと思います。
簡単に言えば、こんな感じの話です。

乞食が水道の水を飲んでも誰も咎めることはない。
なぜなら、水は価値あるものだが、大量にあふれているから。
水道のように物資を社会にあふれさせることができれば、貧困はなくなる。
だから、自分たちの使命は、より良い品をより安く大量に供給することである。
結果として、この社会は極楽となる。

これが松下幸之助氏が描いた未来の姿です。

そして、それは現実になりました。
パナソニックだけでなく、当時の偉大な経営者たちは、ついに日本中に物を溢れかえらせました。
食べるものがなく、着るものもボロなんていう貧困はほとんど目に見えるところにおいてはなくなりました。
つまり、松下幸之助世代の経営者たちは、自分たちの描く未来をすっかり実現してしまった。
そして、社会は次のフェーズに移り始めているのです。

では、家業はどうでしょうか?
20年前、30年前と何が変わったでしょうか?
おそらく、さまざまな改善はなされているとはいえ、本質的には変わっていない。
同じ商品を同じように売る。
今までは自分たちの商品をたくさん売り、広めることが社会貢献でした。
しかし、いまや、その時代は大雑把にみると終わったように思います。
あなたの商品を、大量に売り、広めるというフェーズは、もはや終わりつつあるのであはないでしょうか?

持ち味の違う後継者

このタイミングで、会社の中に同族の後継者が現れる。
これは中小企業における物語の必然だと私は思っています。
病院でタバコが吸えた時代のビジネスから、
禁煙が当たり前の時代のビジネスへ。
携帯電話がなかった時代のビジネスから、
スマホが当たり前の時代のビジネスへ。
時代を読み取り、そこへの修正を仕掛けていく必要があります。

つまり、ビジネスを再構築していく必要があるのではないかと思うのです。
今までの価値観の中で必要とされる分野が苦手であったとしても、自分の得意分野を生かした経営を行うことで組織を変えていくことは可能です。
足りない部分は、仲間を募ればいい。
過去のビジネスが求める能力をあなたが持ってないとすれば、それは朗報です。
あなたが、会社を、社会を、日本を、そして世界を変えていく候補なのかもしれません。
なぜなら、会社を今のステージから上昇させる差し迫った理由があるからです。

だからもう一度言います。
今必要とされる分野の鍛錬より、
自分の得意分野を生かした”冒険”を設計してください。

未来の経営者だからこそできるわがままです。

 

さて、そこでどうやって自分の持ち味を知るか。
一つ参考になりそうなのが、このコトバです。

任天堂の故・岩田聡元社長の「〝労力の割に周りが認めてくれること〟が、きっとあなたに向いていること。それが〝自分の強み〟を見つける分かりやすい方法だ」という名言があります。自分が楽にできてしまうことは、本人にとって当たり前すぎて価値を感じないために、なかなか気づけないものです。

モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書 (尾原和啓)

そしてもう一つは、自分が毛嫌いすること。
実はここに自分の持ち味の種が隠れていることがあります。
すぐにはぴんと来ないかもしれませんが、少し意識してみてください。

 

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