創業者

会社を私物化する先代を持つ後継者の役割

同族企業といえば、会社を私物化する経営者というイメージが重なります。
これは、ある部分仕方のないことなのかもしれません。
なにしろ、会社に私財と人生をかけたのが創業社長です。
借入をすれば、会社と連帯して責任を負わされるし、逃げる場所もない。

こういった人にとっては、会社のお金と自分のお金は一体であり、分けることができないものです。
税理士なども、節税目的で、会社と自分の財布を上手く使い分けることを指南します。
つまり、創業社長は、そういった勘違いをせざるを得ない環境にいるのです。




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公私混同を免れない創業経営者

戦場のような時代を生き抜いた人たち

想像してみてください。
何かしらの想いをもって独立した創業経営者の事を。
当時は、株式会社であれば1千万円、有限会社であれば300万円の資本金が必要でした。

現金をかき集め、事務所や工場を開設し、人を雇い、仕入れを行い、ビジネスをスタートさせたわけです。
もちろん上手くいく確証などどこにもないはずです。
多額の借金を背負って事業を始める。
まさに背水の陣です。

会社が軌道に乗るまでは、休みなく朝から晩まで働き続ける。
家に帰ってからも、夜中まで翌日の資料を作ったり、調査をしたり。
睡眠時間は極限までに削り、身体はフラフラになりながらも、自らを律し、仕事に励むのです。
そうしなければ、家族は路頭に迷い、下手をすれば飢え死にです。
中には、借入金を返済できず首をくくる人もいる。
そんな戦場のような中を、何とか生き抜いてきて、やっと企業らしくなってきた時、ふと思うわけです。
これだけ頑張ってきたのだから、それに見合ったリターンがあってもいいじゃないか。

会社のものは俺のもの、俺のものも俺のもの・・・?

そんな創業経営者の心を、税理士はくすぐります。
せっかく頑張って作ったお金、税金に払うのはもったいない。だから、こんなふうに節税しましょう。
役員報酬は、労働や経営における対価から、戦略的な財務的な決定事項に変化していきます。
会社の財布にお金を残すか、個人の財布にお金を残すか。
こういった選択肢が提示され始めます。
会社のお金の使い方も、税法の絡みの中で決められていきます。

すべては、お金を残すため。

こうやって、形式上、「公私混同」の会社が出来上がります。
ひとたび何かの問題がおこると、この形式的な流れを見て人は言います。
同族企業は、私利私欲のためにビジネスをやっている。
親族間で富を配分している、悪の権化と化してしまうわけです。
もちろん、それは世間的なものの味方であり、当事者はその認識はありません。
それなりに善意をもって、経営に携わっているわけです。

企業は社会の公器である?

後継者は会社の犠牲者なのか?

これと対極の考え方として、「企業は社会の公器である」という考え方があります。
社長個人のものではなく、公のものである。
だから、会社は世の中をよくする活動をし、世の中のためにその富を分配しなければならない、という訳です。

しかし、それはにわかには受け入れられない部分があります。
先代に至っては、ここまで心血を注いできた会社です。
やっと育ってきた時に、公器であるから人のために尽くせ、と言われたところで納得できるものでもないでしょう。

それは後継者にとっても同様でしょう。
こんなに苦しい思いをしてまで、会社を発展させようと四苦八苦している。
会社の保証人になっていたり、時には役員貸し付けを行うことだってある。
会社を潰してしまえば自分に責任は降りかかる。

それでも、自分は身を削って、会社に人生を捧げなくてはならないのだろうか?
そんな意識にさいなまれることもあるのではないでしょうか。
一方、親である先代は、それなりに苦労はしたものの相応の財を成している。
苦労はあれど、良い時代も生きているわけです。
しかし、後継者は、ジリジリと減少する利益率に胃の痛い思いをし、先代との関係に心を痛め、何を手にできるのだろうか。
自分は、会社の、親の犠牲者なのかもしれない。
そんな風に考える事もあるのではないでしょうか。

恥ずかしながら、私自身、そんな思いを感じていた一人です。

社会のためにならない企業は生きていけない

日本全体が伸びていた時には、ただがむしゃらにがんばることが重要だったように思います。
それが多少方向がずれていたとしても、勢いだけで何とかなった部分があるように感じられます。
狙いを定めて打つ、というより数撃てば当たる方式。
しかし、今や、数を撃ったところで当たらない時代に入っています。

そうすると、企業が明確に人や社会の役に立つところにフォーカスしなければ持続する事さえ困難になりつつあります。
社会の役に立つ、というとどうも清貧のような言葉が一瞬頭をよぎります。
ある経営者は、「自分の報酬が少ない事」を自慢にしていました。
オレは、社員とお客さまのために、低い報酬で働いているのだ、と。

正直、私はそれはバカバカしい話だと思います。
自己犠牲でできる事には限界があります。
逆に、人を喜ばせることで、キチンとお金が回る仕組みを作らなければならないのが今の時代なのだと思います。

低報酬を自慢している社長の部下は、果たして次の経営者として立候補したいと考えるでしょか。
私はご免です。
しかし、この例は特殊かもしれませんが、自己犠牲で人の役に立つことが美徳とされている風潮があるのは事実でしょう。
そんな立場に、誰が好き好んでなるのでしょう。
努力は報われなければなりません。
そこに、清貧の考え方と、会社は公器という考え方が変な形で結びついた結果が、経営者の働きが報われない会社となってしまうのではないでしょうか。

やはりこの考え方においては、後継者は犠牲者になってしまいます。

「八方よし」という考え方

三方よしを一歩進めて

近江商人の心得として、三方よしという言葉はよく耳にされるかもしれません。
「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」という三者が満足してこその商いである、という考え方です。
これをさらに、現代の価値観に合わせて「八方よし」という考え方を新井和宏氏が提唱されているようです。

この八方よしの登場人物を、新井氏はこういっています。

①社員
②取引先・債権者
③株主
④顧客
⑤地域(住民・地方自治体など)
⑥社会(地球・環境など)
⑦国(政府・国際機関など)
⑧経営者
『持続可能な資本主義』新井和宏

この新井和宏氏は、鎌倉投信という会社の運用を担当されている方です。
氏は、従来の短期的なリターンをもとにした運用に疑問をいだき、”良い会社”を長期的に支援する仕組みとして鎌倉投信の立ち上げにかかわった人物です。

ここでしっくりきたのが、⑧経営者です。
会社が価値を共有する対象として、経営者を置くことで、会社を私物化することなく、その役割に報いることができるようになります。

もちろん、あくまで外から見たときの考え方であって、経営者への貢献を目的に会社を動かせばそれはまさに私物化です。
しかし、こういった8つのカテゴリーの登場人物の中でバランスを取っていく中で、経営者が報われることがあっても決して悪い事ではない、と考えられそうです。

後継者が考えたい事

中小企業においては、経営者ファミリーと会社が複雑に絡み合っています。
これを、私物化か、そうでないかという二元論で語るのはあまりに極端です。
そういった中で、この新井氏が提案するカテゴリーの中でバランスを取っていくのは後継者にとって一つの目指すべきところではないかと思います。
もちろんこの分類がすべてではないのですが、会社のために経営者がいるわけでもなく、経営者のために会社があるわけでもない。
会社は独立した生き物であり、それは社会の中で担った役割を果たす。
経営者は、その会社があるべき姿に向かうために尽力する。
当然それに見合ったリターンは、他のステークホルダーとのバランスの中で十分受け取ればいい。
そんな理解が、感覚としてはちょうど良いのではないかと思います。

しかし、創業経営者は、会社への思い入れが強すぎて、その考え方を受け入れるのは難しいでしょう。
そこをマネジメントするのは、やはり後継者でなければできない事でしょう。
親族だからこそ、突っ込んで意見することもできるし、親族だからこそ苦しい一面もあります。
それでもやらねばならぬのは、先代のためではありません。
世の中のためです。

なぜなら、会社は公器なのですから。

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