後継者

後継者が会社の中で明らかにすべきものとは?

時代は変わると言われます。
特に近年は一つの転換期ともいわれています。
しかし、いったい何が変わっていて、会社をどう変えるかを意識できている人は、意外と少ないのではないでしょうか。

私が考える変化は、自分たちの商品から見たお客さんの姿は、もはや本当のお客さんをうつしていないという事。
商品を起点にした経営では、これから難しい局面が出てくるのではないでしょうか。
後継者がもつ役割の一つは、そんな時代背景に沿って、会社の意識変革を行う事ではないかと思うのです。

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何度かお話ししていますが、私の家業は保険代理店です。
このビジネスは、保険会社がもっている商品を販売し、保険会社から販売手数料を受け取るものです。

この仕事が多く誤解されているのは、私たちの商品は「保険」である、という認識です。
その認識である以上、未来はないのです。

モノを売るだけのビジネスの行く末

私たちが提供している価値は?

社内のミーティングで、こんな問いかけを全社員に行いました。
私たちは、お客さんにどんな価値を提供してますか?と。
すると一人の営業社員が即座に答えます。
「安心です。」

具体的にそれはどういうことですか?とさらに問うてみます。
「万一の時の経済的損失を補てんして・・・」
なかなか教科書通りの回答です(笑)

しかし、
ブーーーー
です。

なぜならば、それを提供しているのは、彼でも私の会社でもありません。
保険会社、つまりメーカーです。

販売業が陥りがちな誤解

これがたとえば、BMWの販売店でのことだったとしましょう。
販売員はこういうかもしれません。
「私たちは、駆け抜ける悦びを提供しています。」

これも、
ブーーー
です。

それを提供しているのは、BMWの本体です。
BMWという商品そのものが提供している価値です。

何が言いたいかというと、あなたが販売しなくても、BMWであれ、保険であれ、お客さんはどこからでも購入できるのです。
そして、商品の価値を、販売店の価値と勘違いしているとすれば、非常に困ったことがおこります。
同じ商品を扱う業者との競争になるわけです。
その結果、最も安易な解決策が、価格競争に突入する、という事になります。

価格以外の価値を提供し、それを言語化できなければ、販売店はいつでもネットにとってかわられるのです。

コンサルティングセールスは価値として認められるか?

そのコンサルティングの値段は?

価格以外の価値を見出そうと、様々な販売店が工夫を凝らしました。
日用品の販売については利便性という価値を提供しました。
これがコンビニエンスストアという業態を生み出したわけです。

しかし、めったに買わないものや高級品に関しては、コンサルティングセールスなどという方向に行きました。
これはこれで、お客さんの一定の目を引いた一面はあったと思います。
さて、ここで考えたいのは、そのコンサルティングセールスに、お金を払う価値をお客さんに感じて頂けるかどうかが一つの視点でしょう。
他所で10万円で売っているものを、11万円でも満足して買っていただけるなら、1万円がコンサルティングフィーに相当してるといえるでしょう。

同じ値段でしか買いたくないけど、コンサルティングはあったほうが嬉しい。
このレベルであるとすると、そのサービスは、良くも悪くもプライスレスなわけです。

販売業の差別化

今までは、情報も少なく、市場も拡大してきたわけです。
自分たちがもっている便利な商品を、広く世の中に普及させることは、それだけで価値の提供となっていました。
しかし、これだけ情報にあふれ、市場が縮小傾向にある現代においては、それでは少し物足りない部分があるのでしょう。

ここでもう一度問いたいのですが、私たちは、いったいどんな価値をお客様に提供しているのでしょうか?
販売業においては、自分たちの提供する価値と、商品がもっている価値を混同しがちです。
これらを混同している以上、なかなか本質的な正解が見出しにくい、と考えられそうです。

そこで、自分たちは、自分たち販売業における「商品開発」を行うことが必要になってくるわけです。
そんな必要性を社員に認識してもらうために、私たちが提供している価値を問うたのです。

もちろん、商品開発と言っても、なにかモノをオリジナルで作る、という意味ではありません。
お客さんとのコミュニケーションの取り方、商品のラインナップ、情報提供の仕方などの組み合わせ、つまりサービスをどのように構築していくか、という意味です。

業界の垢を落とそう

保険屋から抜けきれない人

当社のケースで言うと、経験の長い社員ほど、保険屋という感覚から抜けられない傾向があります。
たとえば、冒頭のように「安心」というキーワードでビジネスを組むなら、事件や事故で起こったときだけに対応するのが安心ではありません。
それを起こさないために何ができるか、というのも安心に対する価値提供でしょう。
また、そもそも保険という商品は万能ではありません。
それを補完することを考える事も出来ますし、お客さんが抱える困り事なんて言うのはいくらでもあります。

長年保険を扱ってきたから、保険から見たあんしんだけを考える、というのはまさに視野狭窄といえるでしょう。

こういったときに、柔軟に思考を転換できるのは、若い社員であったり、女性社員であることの方が多いのは興味深いところです。
世の中の価値観が転換されたときに取り残されるのは、たいていは中年以上の男性のようです。
もちろん、私も含めてですが・・・汗

もちろん、保険屋をやめなさい、と言っているわけではありません。
しかし、その狭い視野しかない眼鏡を一度外して、お客さんが何を求めているのかを考えてみましょう、という事です。
私たちは多くの場合、自分たちの商品を通した視点でしかお客さんを見ていないのです。

社員の思考

実は、こういったミーティングは、少し嫌な言葉を使うと、「踏み絵」になります。
初めてこのような問いかけをすると、初めはみんな戸惑います。
しかし、何度も何度も、問い続ける事で、だんだんと新しい見方を覚えるようになります。
それでも最後まで抵抗する人間はいます。

もちろん、「そんなのわかりません!」とかいう反抗的な態度をとるわけではありません。
発言内容が、一向に変化しない人の事を言っています。
こういう人は、おそらく、これからの時代に即した変化が難しい人です。
そうなったとき、この人にどんな仕事を任せるか、という事は少し考えたほうが良いでしょう。

同じ思考から抜け出す工夫

今、中小企業に求められているのは、従来からあるアイデンティティを書き換える事ではないかと思います。
決して簡単な事ではありませんし、なによりお手本がないので考える事が必要です。
かつて「ピラミッド型」組織で上手くいったことが、近年はそういった組織では上手くいかなくなったと言われるのは、
社員のモチベーション云々といった話だけではありません。
方向性が十分見えない状態では、ピラミッド型で組織をけん引する方法では見えない時代への対応がリーダー一人の力量に負わざるを得ない脆弱さがあるからです。

私たちは、価値の対価としてお客さんからお金をいただきます。
その価値とは何か?それはお客さんがコストをかけるに沿うものか?
そんな事を突き詰めなければならない時代なのだと思います。

そういったときに、最も簡単な方法は、現在の常識を疑う事と、素人の意見に耳を傾ける事です。
この感性を社内にいきわたらせる工夫をするのが後継者の役割の一つではないかと思います。

商品に強い思い入れを盛った先代にはできない芸当なのです。

 

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