創業者

30人以下の企業で、後継者を社内から登用してうまくいかない理由

a0001_016132時折うかがうのが、これまで苦労を共にした番頭さんや、若手で骨のある社員に、事業を継承しようというお話。

残念ながら、このパターンは5年と持たないケースが多いようです。
もちろん、上手くいくケースも少なからずあります。
しかし、残念ながら、私が見聞きしたケースではほとんどが失敗に終わっています。
それはなぜなのでしょうか。

これは、あくまで私の持っている仮説ですが、小規模の事業の社長には、ある、特殊な能力が必要なのです。

「子供を継がせるな」という安易な提案

先日、書店で「事業承継」にまつわる本を手に取りました。
内容は、事業を親子で承継してはいけない。そんなことをせずに、M&Aを、という構成でした。
確かに、親族間における継承は問題点は少なからずあります。

しかし、従業員数が数百名規模になれば別ですが、数十名の場合、それがベストである、という事が実際には多いのではないか、と私は考えています。

巷に存在する「事業承継本」の残念な部分は、バイアスがかかっていることです。
多くの場合、筆者はコンサルタントであったり、税理士だったりで、自分の得意分野に物事を誘導する傾向が見て取れます。
そこを割り引いて読む必要がありますので、ご注意ください。

ところで、中小企業のトップにはいくつかの能力が求められていると思います。
創業期においては、圧倒的な推進力。
小さなことにとらわれることなく、グイグイと前に進む推進力。
成長期においては、それをさらに加速しつつ、社内体制を整える能力。
そして、成熟期においては、より盤石な社内体制を作り上げ、仕組み化する能力。

当然のことながら、一人の人間にこういった相反する能力を期待するのは難しいといえるでしょう。
世の中には、全てを兼ね備えた器用な人もいますが、それは例外と考えておいた方が良いでしょう。

一般的には、強力な推進力を創業者は持っています。
しかし、残念ながらそれを整理し、仕組み化する、という所は苦手意識を持たれているケースが多いようです。
社員数30名までの企業となると、そういった体制整備が必要となる時期です。
その時に、次期社長を選出するとなると、普通に考えれば「管理者」が必要となりそうです。

しかし、実際に行われる選択は、「営業成績の良い社員」です。
また、時折、管理にたけた人材を登用する場合もあります。
残念ながら、結果として、いずれのパターンにおいても失敗例は枚挙にいとまがありません。
それはなぜなのでしょうか。

中小企業の後継者に必要な、もう一つの力

後継者へのバトンタッチのタイミングは、多くの場合企業が成熟期に入ったタイミングで行われます。
つまり、成長カーブが一段落し、次の新たなカーブを描かなければいけない時期です。
この時期、過去の延長線上に、会社の方向性を置いてしまうと、業績は良くて横ばい。
多くの場合は、悪化するか、悪化しなくとも、閉塞感を感じる時期に来ます。

となると、単なる管理者では務まりません。
管理者である人財は、現状維持が精神的なよりどころとなります。
営業タイプでしょうか?
実は、これも長期的にみるとうまくいく可能性が低いと思われます。
なぜなら、会社のステージは、「がんばればうまくいく」ところではないからです。
むしろ、このタイプは創業者のカリスマを身に着けていない分、非常に危険な事があります。

双方の能力をバランスよく持っていたとしても、成功といえる継承は非常に難しいと思います。
創業者が、そういった後継者の能力をうまく引き出せる緻密さを持っているケースは上手くいくかもしれませんが、どちらかといえば創業者は「背中を見て学べ」というタイプが多く、こういった人財を育てきれないことが多いようです。

さて、後継者には営業や、管理といった表面的な能力以外に、とても大切な力が必要となります。

それは、自分の価値を上げようとする、心の奥底から出てくるモチベーションです。
少しニュアンスが変わってしまいますが、一般的に近い言葉としてハングリー精神と呼ばれるものが近いかもしれません。

このハングリー精神は、持とうと思ってもてるか?といえば、なかなか難しいのです。
以前にもお伝えしましたが、起業家の多くは過去(特に幼少期の事が多い)、自分が無条件の愛を受けられなかったというトラウマを持っていた事が多いのです。
小さいころ、人から認めらたり、共感を得たりした経験が少ないという方が多い。
そうした自分が人に認められるために・・・と奮起するのが起業の奥底にあるきっかけである事が多いようです。

これから、継承した事業について、新たな成長カーブを描かせるというのはまさに第二創業。
そういったときには、起業家の資質を持っている必要があるのです。
そして、多くの場合、起業で苦労した創業者の子供は、
小さいころ親と接する機会が少なく、同じトラウマを持っていることが多いのです。

鋭い目つきを持っていなくても…

ハングリー精神というと、飢えたような目つきをイメージしがちです。
それに対して、多くの場合、現在40歳代~50歳代の子息は優しくておっとりしていることが多いようです。
そういった、見かけのイメージで後継者としてふさわしくない、という判断をすることもあるかもしれません。
しかし、表現方法が違うだけで、多くの場合は内に持っているものは、小さいころから備わっている起業家魂です。

その根源は、ネガティブなものかもしれませんが、企業を押し上げ、今まで積み上げたものを、一旦壊し、作り上げるには、その内にある衝動は欠かせないものです。

もちろん、一般社員の中にもそういった衝動を内に持っている事はもちろんあります。
しかし、それを発掘するのは表面に出にくい部分だけに、非常に骨が折れます。
一番いいのは、社員の方々の小さい頃の事をいろいろと聞いておくとよいかもしれません。
これは、上司としての社員とのコミュニケーションにも有効です。
但し、プライバシーが重視される昨今ですから、話の聞き方は気を付けなければなりませんが・・・。

中小企業の社長というものは、一社員が、出世の一環として就けるほど簡単なポジションではありません。
ナンバー2とは決定的な違いがある事を前提として、後継者を選び、育てていく必要がありますので、ご注意ください。

 


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