後継者にたいして
●いつまでたっても半人前
●今一つ熱意を感じられない
●どこか不安がある
等といった不安をお持ちの創業社長は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
人が育たない原因は、経験をさせていない、という事が理由の一つとして挙げられます。
そういうと、創業者の方は、
「いやいや、そんなことはないよ。後継者には自由にやらせている。」
とおっしゃる方も多いようです。
恐らく、実際に、後継者に「あれはするな」「これはするな」と言葉にして否定をしたことがない、という創業者も多いと思います。
しかし、なぜか後継者が新たなチャレンジを行わない、という事実もあるようです。
果たして、そのギャップはなぜ生じるのでしょう?
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制限がないのに、制限があると信じてしまう状況
ある状況を想像してください。
重要な人とのアポイントに急いで自動車を運転している状況。
渋滞で、時間の余裕はないところで、道を間違えたことに気づきました。
本来なら、この場でUターンをすれば、すぐに正しい道に戻れます。
しかし、Uターンをしなければ、かなり遠回りをしなければならず、遅刻は必至です。
この道路はUターン禁止地区。
なんとか、Uターンしたい衝動を抑え、車を進めました。
こういうシーンで、なぜUターンしなかったのかを少し想像してみて頂きたいのです。
その理由としては、
- ルールを順守しなければならない、もしくは危険だから、という本来的な理由から。
- 周囲の目が気になるし、警察にみられていると大変だから。
のふたパターンが考えられるのではないでしょうか?
重大な違反や、罪悪感を感じるようなケースでは、当然1.の理由が行動のもととなることが多いと思います。
しかし、軽微なルール違反については、実は心の中に2.の理由がよぎって思いとどまる事も少なからずあるのではないでしょうか?
人は、実際に監視の目がなくとも、過去の経験で「監視されている」という経験やイメージを持つと、あたかも常に監視されているように感じる事があるそうです。
ごみのポイ捨てや、立ち入り禁止区域への侵入、ちょっと不安になる背景には、「誰かに見られているかもしれない」というもイメージを持っているからではないでしょうか。
後継者が自由にふるまえない理由は…
話を元に戻しましょう。
創業者は、後継者を押さえつけてるつもりはない。
むしろ、自由にやれ、と推奨している。
しかし、後継者は自ら考え、新たな行動をとる雰囲気が見て取れない。
こういった場合考えられるのは、
- 後継者に、改善・改革のアイデアが本当にない状態
- 後継者はやりたいことがあるのに、見えない「制約」にとらわれ、動きが取れない
といったパターンです。
前者の場合については、後述します。
後者の場合は、先にご紹介した「監視がないのに、監視されていると感じてしまう」状況に後継者が陥っている可能性があります。
後継者が感じている壁
親子間継承の場合、創業者と後継者の関係は後継者が会社に入った時に始まるといったものではありません。
後継者が、創業者の子として生まれた瞬間に始まるのです。
お子様が生まれた時からさかのぼって考えてみてください。
親御さんは、お子様に対してどれだけの「ダメだし」をされたでしょうか?
- こんなところで騒いではダメ
- ご飯を残さず食べなきゃダメ
- 勉強しなきゃダメ
- 礼儀正しくしなきゃダメ
- などなど
数え上げればきりがありませんね。
とくに第一子の場合は、参考にするお手本(兄や姉)がいないため、両親からのしつけを一手に受けます。
また、弟や妹ができると、奪われた親の愛を取り戻そうと、自分は親が求める人間にならなくてはならない、と思始めます。
そうしなければ、自分にこれまでのような愛情を注いでもらえない、と。
つまり、子どもは親が望んであるであろう自分を演じようと、無意識に努力をするのです。
そんな時、新しいアイデアを思いついても、心の奥深くに刻まれた「ダメ」という言葉が、一気に表出し、手も足も出なくなってしまうのです。
さらに、
「最近、売り上げが今一つだしなぁ」
「資金繰りが大変だなぁ」
「もったいないから、節約しなければ」
なんて言う言葉を創業者が社内で漏らしていたとしたら、後継者は新しいアイデアが頭に浮かんだとしても、
「ウチの会社は資金的に厳しいようだから、上手くいくかどうかも分からないプランにお金を出してくれとは言えないしな」
とそのアイデアを表に出さずに終わってしまいます。
これが、「制限していない」のに、「制限されてしまう」後継者の心理的メカニズムです。
この壁を打ち砕くシンプルな方法
企業は、常に新しいチャレンジをしなければ、衰退してしまいます。
大変な台所事情もあるかもしれませんが、今のチャレンジは、後継者自身の成長にとっても、会社の未来にとっても、とても重要なものです。
そこで、創業者からはこんな提案をしてみてはいかがでしょうか?
「○○万円の予算は、お前の授業料として捨ててもいいと思っている。
だから、○月○日までに会社の新たな戦略を生み出すために使い切れ。
それが、建設的なものである限り、結果は問わないし、急かしもしない。
わしの承認もいらないから、自由にできる事をやれ。
但し、定期的な進捗報告だけは行え」
もちろん、口出しや批判はしてはいけません。
途中でイライラして、中断してもいけません。
ただただ、報告を受けて、「じゃぁ、引き続き頑張って」と一声かけるだけ。
非常に、創業者にとっては苦しいことかもしれません。
しかし、そこを耐えなければ、後継者が自由に羽ばたくことは難しい事が多いのではないでしょうか。
後継者が道を見つけられずにいる場合
後継者が、具体的に「こうしたい」という思いを持っている場合は、前述のとおりです。
しかし、そこまで後継者が成長していない場合、自分の核心を持ちえていない場合にはもうワンステップ必要となります。
自らの道を見つけられずにいる状況で、「なんとかしろ」とか「がんばってやりきれ」といったところで、なかなか難しいかと思います。
また、腐ってしまっている場合は、そういった言葉はむしろ逆効果でしょう。
内的動機にどうやって火をつけるか?という部分ですので、簡単ではありません。
創業者と後継者が、心底腹を割って話せる関係であれば、お互いのコミュニケーションから新たな戦略を見出せばよいとは思います。
しかし、現実はそういったことは難しい事が多いようです。
そういった場合には、一つの手段として、やはり予算を決めて、キャッシュなりカードなりを渡してしまい、そのすべての額を一定期間までに、「自分に投資するよう」にしてみてはいかがでしょうか。
中小企業において、最も確実な投資先は、経営者の自己投資といいます。
もちろん、自分への投資といっても、いい車に乗るとか、いい時計を買うとかではありません。
自分より、レベルが上だと思える人たちの輪に飛び込むという事です。
それは、セミナーでもいいし、自己啓発や経営スキルの教材でもいい。
本を読むという事でもいいのです。
ただ、その自己投資のうち半分以上は、「人とのコミュニケーションが発生する場所」であった方が良いかと思います。
様々な人とのコミュニケーションにより、自身の人格や想いが磨かれます。
ステップとしては、本当に経営に関して初心者である場合は、まずは同業者が集まる場所でよいでしょう。
次のステップとしては、異業種の人たちがいる場所。
そこから、有名なコンサルタントの会員組織などにステップアップするとよいでしょう。
単なる並列の異業種交流でもよいのですが、一定のスキルやノウハウで高名となったコンサルタントの周囲には、そのノウハウを実際に使いこなしている人たちが集まることが多いのです。
そういった、周囲の方々から受ける刺激はかけがえのないものです。
本人としては、そういったレベルの高い人たちの中に入ることは、大いなるストレスだと思います。
しかし、そういった場所にいることで、今まで「自分にとっては高すぎるレベル」がいつしか「日常的なレベル」になる事に気づくでしょう。
こういった「アウェー」感のあるところに顔を出すよう上手に誘導してあげるとよいでしょう。
100%確実に成長を見込めるとは言いませんが、かなり効果のある方法だと思います。
まとめ
事業承継における、後継者の育成は、本人の自覚と、創業者の協力があって初めて成し遂げられます。
そして、それは何かを強制する、という事ではなく、後継者の心理的な部分への配慮が必要となります。
それを過保護、とおっしゃる節があるかもしれません。
しかし、考えようによっては、いつまでたっても実践を踏めずにもんもんとさせておくことは、双方にとっても、会社にとっても良い事とは思えません。
後継者が様々なことを学び、何かを実行しようとしたときには、必ずさまざまな障害が訪れます。こういった障害をクリアする中で人は成長します。
それを経験させない事こそ、過保護ではないでしょうか。
まずは、スムーズに、後継者が経営の練度を積む初めの助走のサポートを、創業者にはしていただきたいと思います。
それは、すなわち、後継者が持つ「見えない呪縛」から解き放つ作業なのです。
私の著書です。
関心を持っていただいた方は、画像をクリック。
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