帝王学の持つイメージが生む危険な誤解

a0790_000666私が若いころ、よく耳にした言葉に「帝王学」といった言葉があります。

正確な意味を知らずに使われていることも多く、実際には、事業承継における後継者教育を指すこともあるようです。

 

ところで、後継者教育で必要なものはどんな能力でしょうか?

2012年11月に野村総合研究所が行った「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」によると、小規模事業者においては

  1. 税務・会計の知識
  2. 自社の事業・業界への精通
  3. 営業力・交渉力
  4. 次の経営者の自覚
  5. 技術力

と続きます。

 

一方、後継者に不足している能力等を伸ばすための効果的な取組として

ダントツの人気が、「社内で実務的な経験を積ませる」「社内で経営に関する経験を積ませる」

とあります。

さて、この調査結果の実質的効果はいかがなものなのでしょうか。

 

 

 

実務経験から生まれる知識、生まれない知識


中小企業の経営者は、後継者教育の主だったところをOJTで賄おうとしていることが先のアンケートで分かります。

古典芸能の世界でいう「守破離」という言葉にみられるように、まずは現状を知る事が重要だとすれば、

OJTの効果は非常に高いと予想されます。

 

しかし、事はそう簡単ではありません。

後継者に必要な能力として挙げられる「税務・会計知識」ですが、これ一つとっても処理の方法は根底に流れるポリシーで相当変わります。

例えば、創業社長は税金を支払う事が嫌いなケースが比較的多いように感じます。

過去の苦い体験もあり、節税に関して強い関心を示されることが多いようです。

当然のように、自身の財布と会社の会計をいっしょくたで考えて、支払う税額が最小限になるような会計を望みます。

そうしなければ、「もったいない」という感情が湧くのではないでしょうか。

 

一方で、後継者は会社の会計と、個人の財産を分離しようと考えます。

後継者のスタートは「二代目のボンボン」という評価からのスタートです。

だから、そこへのアンチテーゼとして、クリーンであることを心がけます。

 

こういった会計のポリシーからして根っこから違うケースがよくあるのです。

後継者は後継者で、一生懸命学んだ会計を生かそうとしても、そこには大きな壁が立ちはだかります。

恐らく、創業社長からすれば、後継者のお金の管理はルーズに見えるかもしれません。

きちんと個人と法人を分離しようとしているのになぜルーズに見えるか。

それは、税金にお金を垂れ流しているという印象を、先代から持たれるからかもしれません。

 

本来、時代に即している、

また、周囲から認められやすいのは後継者の考え方です。

しかし、海千山千の創業者からするとそれは青臭く見えるのでしょう。

 

 

とはいえ、問題の本質は別のところにもあります。

そもそも、後継者が税務会計知識に疎いのは、当たり前といえば当たり前です。

しかし、知識レベルのことは、勉強さえすれば追いつける話です。

そんななか、この分野が大きな関心ごととして先代が認識している状況の中では、

実は、後継者は「知らない」わけではなく、後継者の考えが理解できない、という方の回答も含まれているのではないかと思えてなりません。

 

 

さて、OJTでは、社内で行われる会計指針以外のことは知り得ません。

なぜなら、それがその会社のスタンダードだし、誰もそれを疑わないからです。

つまり、「守」は学べても、「破離」にはなかなか到達できない現実があります。

 

 

誰が後継者の能力を評するか?


こういったアンケートで、回答されるのはおそらく先代である創業社長でしょう。

つまり、創業社長のフィルターで見た後継者しか、あぶりだされないという欠点があります。

 

後継者が補強すべき能力として、「営業力」という項目があります。

ここも、衝突が発生しやすい部分です。

 

創業社長が言う営業力とは、一つ一つお客様と対面して販売することをおっしゃるのでしょう。

しかし、これでは販売力に限界が生じます。

会社全体で売り上げを上げようと考えた時、営業パースンの育成が最善か否かは検討が必要です。

恐らく、過去は営業の人間を増やすことしか売り上げを増やす手段を思いつかなかった現実があります。

今では、様々なマーケティング手法が出回っており、営業パースンを増やすよりより効率的な営業が可能となる事があります。

そんな場合、そもそも後継者に営業力が必要なのか?という疑問さえ出てきます。

(もちろん、一定レベルの営業力は必要であることが多いのですが)

 

先代の感覚では、「後継者には営業力が必須」とおもっても、実際は別の方法でより大きな形で実現できればよいのです。

しかし、過去の経験上、例えばホームページを作ってもどうせ売れやしない、という先代と、

この方法がこれから必要なんだ、と主張する後継者のぶつかり合いはよくある光景です。

 

先代が評価する後継者と、後継者が目指す自分の姿のずれがここに生じているわけです。

本来なら、話せばわかる部分なのかもしれませんが、まともな話し合いもできない事が少なからずあります。

先代は拙速な効果を求め、後継者は失敗が許されない。

そんな状況に追い込まれていきます。

 

考えて頂きたいのは、どんなことをやるにしても失敗はつきものだという事です。

自転車の乗り方を頭で知っていても、体で覚えなければ乗れるものではありません。

それと同じで、営業もマーケティングも失敗しながら覚える必要があります。

創業者であれば、失敗に対して怒鳴る人はいませんでした。

常に、自分と数字だけが、自身の管理者だったわけです。

しかし、後継者は常に怒鳴られる状況の中で、様々なテストをせざるを得ない環境にいることが多いのではないでしょうか。

 

 

帝王学の本来的意味は?


帝王学という言葉に対して、後継者という立場である私は嫌悪感を感じることがあります。

なぜなら、それは、創業者が常に正しいという前提で、それを後継者に押し付けるイメージがあるからです。

別の記事にも書きましたが、世代交代のタイミングは、会社のビジネスモデル転換のタイミングでもあります。

そこに、自由に動けない、古い慣習を若者に押し付けるのが帝王学だと私は感じていました。

 

しかし、さすがに古くからの叡智は、より広い視野を持っているようです。

 

以下、Wikipediaからの引用です。(太字は筆者によるもの)

王家や伝統ある家系・家柄などの特別な地位の跡継ぎに対する、幼少時から家督を継承するまでの特別教育を指す。学と名はついているが明確な定義のある学問ではなく、一般人における教育には該当しない。

解説

具体的には突き詰めたリーダーシップ論とでも言うべきものである。経営術や部下を統制する方法といった限定的なものではなく、様々な幅広い知識経験作法など、跡継ぎとしての人格や人間形成に到るまでをも含む全人的教育である。

また、いわゆる学校での教育という概念とは根本的に異なり、自分の家系を後世へ存続させ繁栄させる、という使命感を植えつけることを目的としている。

 

引用ここまで

つまり、代々の「やり方」を押し付けるものではなく、その根本に流れる精神を伝えるものだと私は理解しています。

となると、理念であるとか、創業精神であるとか、そういったところにフォーカスされるべきところではあるのですが、現実は、目の前の仕事にフォーカスされているように感じます。

 

こんな話をすると、「理念で飯が食えるか」というご意見も出るかもしれません。

それも確かに一理あります。

しかし、企業のコアを守らずして、事業承継の意味があるのか?という思いもあります。

そこがどうでもよいなら、てっとり早く売却した方が、お互いにとって楽です。

あえて、事業を継続させようとするとしたら、こういった部分を忘れずに考えて頂ければと思います。

 

 

後継者を育成する方法とは?


では、後継者をどのように教育していけばよいのでしょうか?

ここへの答えは、機会を改めて詳しく書きたいと思いますが、基本的には「数をこなす」という事が大事です。

 

税務会計においても、営業やマーケティングにおいても、社内のマネジメントにしても、

教育では頭で理解することは可能です。

しかし、実際にやってみるのとは全く違います。

だから、失敗をしなければならないのです。

 

上司たる先代は、失敗したことをほめることが重要になってきます。

そうすることで、後継者は転びながら自分なりの考え方を固めていくのです。

創業社長にとって、失敗を見守るというのは非常につらいことかもしれません。

しかし、多少なりとも失敗できるときに失敗を経験させなければ、残念ながら未来もまたないのです。

創業社長は、後継者が倒れそうになった時、そっと支えてあげて頂きたいのです。

 

子供が、補助輪なしの自転車を乗ることができるようになった、あの時のように。

 

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コメント

    • 大崎大造
    • 2017年 5月 06日

    確かに立ち位置が違うのでしょうね。
    難しい問題ですが、超えなくてはいけない壁。

    柔軟な対応や考え方が必要ですぬ。

    • 大崎大造 さま

      コメントありがとうございます。
      力強いお言葉、頼もしい限りです。
      何かしらの参考になれば幸いです。

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