創業者

事業承継の目的は、先代と後継者で一致しないことが多い?

事業承継を進める中で、必ずと言っていいほど起こるのが、先代と後継者の対立です。
先代と後継者の対立は、一概に悪いものとは決めつけられません。
なぜなら、会社が変わろうとするとき、必ずと言っていいほど、古い価値観と新しい価値観の対立が起こるからです。

その根底にあるのは、「会社をよりよくしよう」とする思い。
このコアな部分さえ両者で合致していれば、その対立も有効でしょう。
しかし、残念ながらそこが一致していないことが意外に多いのです。
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なぜ事業承継を行うのか?

「なぜ、事業承継を行うのかだって?そんなの当り前じゃないか!」
そんなおしかりを受けそうな質問です。

良くある答えとしては、
・せっかくここまで育てた事業を長く継承したい
・お客様との関係があるので、事業を継続しなければならない
といったところが主流ではないかと思います。

確かに、創業者の言葉に嘘はないと思います。
とはいえ、創業者自身も気づかない事業承継の「真の目的」を知ることは、後継者にとっては非常に重要なことです。

創業者の行動の背景にある心理とは、いったいどんなものなんでしょうか?

見る方向が違えば、進む道も違う

企業経営において、「理念」が大事だ、とはよく耳にする話です。
経営理念といえば、簡単に言えば、会社の存在意義。
会社が追求する、目的と言い換えることもできるでしょう。

事業承継においても、その理念、目的を明確にする必要があります。
本来的には、事業をスムーズに承継し、新たな時代に即した企業としてお客様に貢献する、というのが一般的な目的でしょう。

しかし、オーナー企業においてはそういった話だけでは終わりません。
そのためには、今までの経営者のルーツにさかのぼらなければわからないことが多いのです。

一般的に、親子間継承において、子供は純粋に企業の継承を捉えていることが多いようです。
しかし実際には、親を筆頭として、親戚縁者や、顧客、取引先など、多くの監視の目があります。
単なるビジネスライクなドライな話ではない、というのが中小企業の事業承継です。

そんななか、後継者はなかなか無茶はできないものです。
親子であるならなおさら、のびのびと経営できていないことが多いように思います。
ズバリ言ってしまえば、後継者である子は、自分の強みが活かせない環境で仕事をすることになりがちです。

 

一方、創業者の方はいかがでしょうか。

この立場の方は、
・自分がここまで会社を育てたという自負
・会社が軌道に乗るまでは、かなりの私財を投じたという記憶
・会社の歴史と同じだけのトップであった歴史と経験
といった背景があります。

つまり、創業社長にとっての会社は、公器という認識は薄く、”私器”といってもいい感覚を持っておられることが多いように思います。

先代が、会社を公器とみているか”私器”とみているかを見分けるポイント

創業社長が、会社をどのような感覚でとらえているかを知るのはかなり難しいといえます。
親子間継承においても、親子関係で長い付き合いがあるとはいっても、対等な立場で付き合うには、親が65歳以上、下手をすると70歳を越えなければ実現しないことが多いからです。

そこで、一つのポイントを見てみると、大まかなイメージはつかみやすくなります。

それは、
●先代は、個人的な飲食や、ゴルフなどの交遊費を会社のお金で支払っているかいないか?
という部分になります。

 

個人事業主や、小規模企業の社長の場合、現実問題としてこういったシーンは普通に見かけます。
良し悪しは別として、常識化しているといえるでしょう。
場合によっては、それを指摘すると「税務上のこともあるから必要なことだ」と逆切れされるケースもあるかもしれません。

創業社長にとっては、会社の財布と自分の財布の境目は非常にあいまいなことが多いのです。

 

さて、この創業社長が事業承継を行い、次代に代を譲るとします。
しかし、会社のクレジットカードを会社に返上するでしょうか?
会社名義で買った自動車を、自分名義として買い取るでしょうか?
会社のお金でゴルフに行くのをやめるでしょうか?

もし、それができる先代であれば、事業承継はかなりスムーズに進むことでしょう。
残念ながら現実は、そういった創業者の方が少ないと感じます。

このような傾向が見て取れる時、危惧しなければいけない問題があります。

深層心理に潜む罠

先代にとって、会社とはいったい「何」なのでしょう?
公器と割り切っているケースはよいのですが、そうではない場合について考えてみたいと思います。

それをあぶりだすには、創業者の起業のきっかけを知ることが重要です。
しかし、それは至難の業で、そもそも自分の心中を言語化するのがあまり上手でないことが多い世代です。
直接質問して、納得できる答えが出ればよいのですが、それはレアケースといえるでしょう。

根気よく、具体化する質問を繰り返し、また、子供のころの環境などを考慮し、創業者の人物像に迫っていきます。
そうすると多くの場合、「満たされない自己重要感」というキーワードに行きつきます。

自己重要感というのは、「自分が、(世の中や自分の住む社会にとって)重要である」と感じられることを言います。
例えば、人に頼りにされたり、人が自分にとって気にかけてくれたりすることで、それが満たされる方向に向きます。
じつは、多くの起業家において、起業のきっかけがこの「自己重要感」を求めてだという説があります。

そう考えてみると、創業社長が育った背景としてよくあるケースは・・・

●厳しい親に育てられた
●貧しい家庭に育った
●農家の末子として育った
●優秀な兄弟と比較されて育った

といった背景がある事が多いようです。

 

幼少時代の問題でなくとも、

●サラリーマン時代に、厳しい上司に罵倒された
●厳しいセールスノルマの中で、お客様から厳しい断りを繰り返し受けた

などといった原体験が原因となる事もあるようです。

 

 

いずれにしても、周囲とのかかわりの中で、
「自分は取るに足りない存在だ」
という思いが心の奥深くに救うケースが多いのではないでしょうか。

この問題で厄介なのは、自分自身がそういった自己評価に気づいていないことも多いという事です。

 

こういったいわば心の傷を持った人は、
●お金を儲けて
●社会的地位を築き
●有名になる

といったことで、「取るに足らない自分」を強く見せようとする傾向があります。

 

 

創業社長が、こういった思いにとらわれていると、今ある地位や収入を失う事には、無意識に抵抗をしてしまう事があります。

 

口頭では、「もう仕事は後進に任せたい」といいながら、社内では、いつまでたっても陣頭指揮をとり続けます。
会社の権限は手放しません。
さらに、後継者にとってつらいのは責任だけは持たされるという事。
そうやって、修復不可能な創業者と後継者の軋轢が表出します。

社員は、親と子をそれぞれ頂点とする、2つの命令系統の中右往左往して、社内の雰囲気は最悪になります。

 

本来、会社を盛り立てるための事業承継であれば、こんなことが起こればすぐに軌道修正することでしょう。
しかし、自分たちではなかなかできない難しさがあります。
それこそまさに、「事業承継の目的」がずれているからです。

ここでズバリいいます。
創業者にとっての事業承継は、「自己重要感を満たし続ける」ことが目的となっていることがあるという事です。

特効薬はあるのだろうか?

さて、もし、ここでお話したことが実際の企業内で見つかった時、どう対処すればいいのでしょうか。

実は、後継者が子供の場合、後継者もまた自己重要感を求めていることが多いといえます。
なぜなら、親である創業社長は、子供に対して厳しいケースが多いからです。
それぞれが、心の奥底の渇望を満たすための攻防戦を会社という舞台で展開するリスクを大きくはらんでいるのです。

ここへの対応方法という意味では、正直なところ、すぐに、誰にでも効くような特効薬は今の私には思いつきません。
ヒントとしては、うまく、創業社長の自己重要感を満たす場所を確保する必要がありそうです。
それはケースバイケースでしょうが、会社のコアな部分とは別のところで、忙しく働く場所が見つかればベストでしょう。

例えば、お客様に創業者が得意とするゴルフスクールを開催するとか、様々なコミュニケーションを取れる企画をしてもらうとか…。

おそらく、こういった創業者は、「自分にできそう」と思う事を頼まれればいやとは言えない事が多いのではないでしょうか。

 

 

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