後継者

心理的安全性を高める工夫あれこれ ~後継者が「自動」で動く組織を作る

昭和の時代の創業社長というのは、多くの場合、非常に自己主張の強い方が多いと思います。
とにかく自分が中心にいることが好きで、あれこれこまごましたことも、自分のやり方でないと気が済まないことが多いと思います。
そういった考えに反発心をもつ後継者も多いと思うのですが、そういった後継者が進みがちなのは「組織が自動で動き出す」という方向を模索するのではないでしょうか。
そういったときにできる工夫を少し考えてみたいと思います。

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まずは発言する習慣をつける

ワンマン経営の会議は「反省会」になりがち

会社の社長や、組織の長がワンマンな運営を目指しているとき、会議として召集される場は多くの場合「反省会」になりがちです。リーダーが一方的にしゃべり、メンバーは俯いてそれを聞く。ときおり「なぜこうなった?」と説明を求められ、そこに応じた回答を行う。だいたいがこんな感じですすめられるため、この雰囲気のなかでは恐らく誰一人建設的な意見を述べる人はいないでしょう。それを述べたとしても採用される可能性は低く、むしろ返り討ちに会うかのようなリスクが想定されるからです。

これをある日突然、「みんなを責めるつもりはないので、どんどん意見を言ってほしい」といったところで、メンバーは多くの場合だんまりだと思います。そして、シーンとなった空気は結構重く、さらに意見は言いにくくなります。こうなる理由の一つは、一つはこういった重い空気の中で発言することにリスクを感じている事と、もう一つは、そもそも建設的な意見を求められることがなかったので、そのような発言をする準備がないから、と言えるかもしれません。

ブレーン・ストーミングはどんな意見でも言いやすくなる仕掛け

ここでお勧めするのは、ブレーン・ストーミング。
今となっては使い古された手法なので、「なーんだ」と思われるかもしれませんが、これはけっこう巧妙な仕掛けなのです。何が巧妙化というと、ブレーン・ストーミングはまずは発言機会が全員に等しく与えられます。ある問いに対して、全員が順番に次々とアイデアを出していくことになりますから、誰かが一人で話すということがないのです。
もう一つは、ブレーン・ストーミングは基本的に、「意見出し」のフェーズでは意見の中身を精査せずに、バカげた内容も含めてまずは板書しますからどんなことでもいいから、会議の場で発言をするという習慣をつけます。これを何度かやっていくと、あまりにも浮世離れした意見が、その内容を検討していくにおいて何かのアイデアのヒントになる事もあるので、体験的に「どんな意見でも無駄ではない」ということが分かってくるのではないでしょうか。

後にお話ししますが、「失敗」に対する考え方も少し軽くなるかもしれません。

失敗を奨励する

失敗したらありがとう!?

実は色んな先進的な企業では、失敗を奨励する仕組みがあります。
むしろ、失敗のない仕事をしている人は、チャレンジをしていないということで低い評価を下されるといった文化を持つ企業もあるそうです。
もちろん単なるポカミスを奨励するわけではありませんが、何かしらのチャレンジと対になる失敗は、前に進んでいる証拠ということで例えば社内で称賛されたり(コンテストを開いてるケースも)、ちょっとした賞金を受けたりなんて言うこともあるそうです。

私はそこまでのことはやったことはありませんが、社内の文化として、失敗が決定的な悪ではなく、失敗を放置することが悪である、といった共通の価値観を持つことがとても大事なのだと思います。
実は前出の「ブレーン・ストーミング」では、何を言っても許されるということで、「完ぺきな発言をしなくてもいい」という許可につながってきます。社会人になると、すべての所作や言動がすべてちゃんとしていなければならない、という思いにとらわれがちですが不完全なままそれを口にしてもいい、やり始めてもいい、ということを許可することになります。

また、何かしらの失敗が起こるということは、そこに問題があるということで、それを改善するきっかけになると思います。そういったきっかけを発見した意味で、失敗した人に感謝の意を表す文化を作っていることもあるようです。誰かがつまずく石ころに、Aさんがたまたまつまずいてくれたから、他のみんなは対策をとれる、という考え方と言えるかもしれません。

優しさと厳しさ

心理的安全性は優しさだけではない

さて、心理的安全性と言えば、メンバーを包み込むような優しさばかりが取りざたされますが、実は優しいだけではないようです。当然仕事ですから厳しさもあるわけです。たとえば、メンバー同士でもいうべきことはいう、ということです。耳に痛いことでも、同僚が「おかしい」と思ったことはしっかり言うし、相手はそれを受け止めるという前提が大事になります。単なるなれ合いではないようです。
ただそうなると、注意する側も、それを受ける側も、一定の信頼関係が必要だと思います。人を注意するとなるとついつい責め心がそこになりがちです。逆に注意される側も、責められているという感情を抱くことがあるかもしれません。そもそも「注意というものは責めるものではない」という根本的な価値観を全従業員がしっかりと把握していることが大事になってきます。

そうなると、やる事というのはいわば道徳教育的なものになってくる可能性が高まってくるように思います。実は個人的には、従業員さんに対して「掃除の徹底」とか「お辞儀の練習」とかをやる会社のことがよくわからなかったのですが、そういったことは恐らく、会社のなかの価値観をある程度合わせているんだ、というのがいまさらながらわかった気がします。掃除をして会社が良くなる、と言われても昔はまったく意味不明でしたが今ならわかります。そうやって、社員の価値観を育てているんだと思います。

最も大事なことは……

このような流れでメンバーの意見を活発化させるという仮定の中で、実はリーダーはけっこう「我慢の連続」という部分があろうかと思います。たとえば、メンバーが意見を言い始めても、なかなか「ハッ」とするような意見は出てきません。発想としては面白くても、それをカタチにしていくにはけっこうな手間がかかります。これを発想だけゲットして自分でやってしまえば簡単なのですが、そうやって自分でやればメンバーはやっぱり育たないわけです。だから、自分では最短距離を歩めそうなアイデアでも、メンバーが行ったり来たりしながら結論を導き出すのを待つ必要が出てきたりします。ビジネスの現場は早いスピードで動いていますし、後継者である私たちも早く結果を出したいところです。しかし、メンバーがしっかり自分で動いて結果を出す過程を経験してもらわなければ、いつまでたっても仕事をこちらで抱え込むことになりがちです。組織を自動で動かしたいなら、自分達で解決していくプロセスを経験させる必要があります。そのためには、リーダーは待つことと(いい結果も悪い結果も)見届けるというけっこうな忍耐力が必要だと思います。あるいは忍耐力というより、許容力と言えるかもしれません。それはまさに、人間としての器を大きくすることではないかと思います。なかなかに大変ですが、意識してみてください。変な話ですが、組織が自動で動く過程では、リーダーの思いどおりに動いていない組織をいったん受け入れる必要があるように思いますがいかがでしょうか。

 

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