後継者

二代目社長は問題に対処すべきか夢に向かうべきか

セミナーなどに集まっていただいた二代目社長や後継者にこんな質問をさせていただくことがあります。
「もしすべてが思った通りになるとしたらどんな状態を望みますか?」
ある後継者の方はこんな風に答えられました。
「社員や周囲の人間が自分の思いどおりに動いてほしい」

本人にとっては切実な話です。
しかし、自分や会社の可能性を問うたつもりが、そんな答えが返ってきてちょっと面食らったことがあります。

この時感じたのは、二代目社長や後継者は、会社の未来の夢というより、コントロールが十分できていないマイナス状態をせめてゼロにしたい、というベクトルを持っていることが多いのではないか、という事です。

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問題のもぐら叩きをしていても理想の状態は実現しない理由

いつから「問題」にフォーカスするようになったのだろう・・・

自分のことを思い出してみたとき、親の会社に入社した時はそれなりに希望に満ちていました。
確かに不安もあるけど、根拠もなくきっとうまくやっていけると思っていました。
まさに根拠がないのですが、強いて言うと「みんなできてるから」という思いもあります。
同業他社を見ても、代が変わって会社が傾いたという話はあまり聞きませんし、きっと人並みには何とかなるだろうとは思っていました。

しかし気負いすぎたのか、目の前の仕事もままならず、気持ちだけは「早く一人前にならなければ」と焦るばかり。
個人スキルはいつまでたっても足りないという思いが強いので、こんどはそれを組織でカバーしようと考えます。
すると組織への期待値は高まり、しかし、期待値に到達しない(というより先代好みの組織なので当たり前?)組織に対しての物足りなさや不満が募ります。

これを自分の納得がいくような形に変えようとすると、組織の抵抗にあったり、親の無頓着な行動でうまくいかなかったりします。
その結果、周囲に自分の味方はいないという孤独に陥り、会社を辞めようかと考え始めます。
辞めたいけどやめられない、という堂々巡りを繰り返しながらも前に進もうとしたとき、かつての「夢」はどこかへ忘れ去られ、とにもかくにもまずはフラットなところへ、という思いが強くなります。
感情グラフを描くとすれば、入社時にそこそこ高かった自分のモチベーションはいったんマイナス領域をさまよい、なんどもなんども、マイナスから抜け出そうと頑張ります。
目標は「ゼロ」地点なのですが、そこにはなかなか至らない。
そんな状態に陥っている二代目社長や後継者は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

問題解決は未来への希望を生みにくい

この状態の二代目社長・後継者の方は、視点はもはや未来の方向を見ていません。
逆に未来を見れば見るほど、現場のマイナス加減が痛々しすぎるのです。
あそこに行きたいのに、現状はこんな状態。
そこに対する自己嫌悪と、環境を呪う気持ちがグルグル回り、前にすすめない状態になっていることが多いと思われます。

さて、ここで確認したいのが、以前のブログでもご紹介したこの図。
フレデリック・ハーズバーグという方が紐解いた、動機付け・衛生理論と呼ばれるものを私なりに図にしたものです。
一般的な感覚として、人は不満を埋めていくとその先に、満足な状態があるというイメージを無意識に持っているケースが多いと思います。
不満と満足が同じベクトル上にあって、不満を取り除けば満足があるというイメージです。

しかし、ハーズバーグはそうではないと言います。
人が不満を感じるポイントと、満足を感じるポイントはまったく違うのだそうです。
だから、不満を幾ら解消したとしても、満足というか積極的な喜びには到達しない、という考え方になります。

たとえば、配偶者や恋人に対して、彼ら彼女たちの「イヤな部分」を改善してもらえれば愛は高まるでしょうか?
たぶんそれで居心地はよくなるかもしれませんが、愛の高まりを感じることはないんじゃないでしょか。
人は人を、「イヤなところがないから愛する」という風には考えていないように思います。
それと同じで、私たちは仕事や環境において、イヤな部分を取り除いたからといって、幸せでやりがいのある仕事や職場に様変わりするとは言えないと思うのです。

これが「問題解決」では理想はあらわれないことの理由です。

行き先を設定しよう!

sarahbernier3140によるPixabayからの画像

どこへ向かうかを指し示すことができますか?

マイナス状態を埋める状態というのは、船の航海に例えれば、沈まないように海に浮かんでいる状態といえるかもしれません。
やはり行き先が明確になるから人は頑張れるし、そこに共鳴する人が集い、団結するのではないかと思います。
ではその行先はどこでしょうか?

会社の売上を〇%アップさせるとか、
社員数を〇人にするとか、
会社を上場させるとか、
こんな表彰を受けるとか、

色んな希望はあると思います。極論をすれば、そこに対してそのことを考えるだけでわくわくするような方向であれば、それはどんなものでもいいと思います。
ただ私の場合は、こういった目的地を設定したものの、なんだかやる気がわいてこないのです。
なんでだろうなぁ、と思って考えてみると、どうも「自分が本当にやりたいことではない」ような気がし始めてきました。
周囲からの見栄えを気にして、それっぽい目的を考えてみたもののしっくりこないし、ワクワクもしない。
気付いたのは、他人の価値観に合わせた目的地設定だったんだと思います。

そこから自分の内省が始まるのですが、そもそも自分が本心からやりたいと思うことに人を巻き込むことなんてできません。
人や組織の問題ということにみえて、実は割と大きなことは、自分のことが本当はよくわかっていないという事と関係してい来るかもしれません。

自分は本当は何をやりたいのか?

親の会社を継がねばとか、
これを大きくしなければとか、
二代目社長・後継者は何かと肩に重い荷物を背負いがちです。
けどこれを「本当は自分としてはやりたくもないけど、立場上仕方なくやっている」という事になれば、周囲の人間はこれを割と敏感に察知したりします。

リーダーである二代目経営者・後継者はやりたくないのを仕方なくやっているから、仕事が楽しくないわけです。
ある二代目経営者(現在70歳代)が引退されるときに、こんなお話をされてました。
「やっと肩の荷が下りてよかった」
私は「まだまだ続けたいんじゃないんですか?」と少し意地悪な質問をすると彼は言いました。
「いや、私は初代ではないから。義務で二代目をやってきただけですよ。やっと事由になれたと思っています」
もう心からお疲れさまでした、と頭を下げました。

この二代目経営者は、うまく自分の義務と折り合いをつけ、いい組織を作られたと思います。
しかし、普通、義務で仕方なくやっているリーダーに、社員がついてくるかというとちょっと疑問符がつくかもしれません。
一方先代は、土日祝日など関係なしで、70歳になっても会社を離れたくないいわばワーカーホリック状態の人です。
単なる経験の差のみならず、社員が自分たちのリーダーとして先代から離れられない気持ちもわからなくもありません。

二代目社長・後継者は、社員を自由自在に操りたいという思いを持つ方が多いのですが、それがうまくいかない理由がここにあるのかもしれません。

やりたいことは「ゴールのイメージ」でなくてもいい

自分として成し遂げたいことは何だろう。
自分の使命っていったい何だろう。
そんな風に難しく考えると、これ、なかなか答えが出ません。
私なんて、30年くらい考えてますけど、これだ!って答えは見えません。

もちろん人によっては、ある日ある時、雷に打たれたように何かに目覚めた人もいるようです。
けどたぶん、大半の人はそんな風にはならないようです。
ならばどうすればいいかというと、私はこう考えています。
最終的な未来のイメージとして、売上がこうで、社員数がこうで、商品はこうなっていて、上場していて、という外形的なものや物理的な状態をイメージするとどこかピンとこない場合は、自分の状態や社員の状態を考えてみてはいかがでしょうか。

例えば今の仕事をする中で、何かストレスがあるとしたら、それのない会社にする。
なにかいびつな生活をしている感覚があるなら、そのいびつさのない会社にする。
家族とのコミュニケーションが足りないと感じているなら、それが満たされた会社にする。
会社がどうなるかというより、自分や社員一人一人の人生が充実するにはどうすればいいか、という方向感で考えていくと、自分なりにピンときやすいですし社員の共感も得やすい。
関わる人が幸せになるためにどうすればいいかをつきつめるのです。

たとえば、週休二日を週休三日にするために何かを頑張ってやろう、といえばたぶん多くの社員さんは「いいね!」ということで団結しやすいと思います。
これは社員に迎合するという意味ではなくて、短時間の労働で十分な利益を得る仕組みづくりが必要なので、実は一時的にはけっこうな負荷を生じることもあり得ると思います。
それでも、できたら楽しいよね、と思える方向に動けるといろいろな意味で社内は活性化されるのではないでしょうか。

会社の方向性なんて別に、大それたものとか、まじめ腐ったものでなくてもいいのではないかと私は思うのです。
そう考えると、今まで「ありえない」とあきらめてきたことでも、やってみたらすごいことになるかも、なんていうアイデアも浮かんでくるのではないでしょうか。

まじめに考えるとしんどいことが増えがちですが、
緩く考えると楽しいことが増えるように思うのですがいかがでしょうか。

 

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