後継者

親の会社を継ぐのは目的ではなく手段!?

まず初めに申し上げておきます。
これからお話しすることはたぶん、後継者に自分の会社の未来を託したいと考える先代経営者が見られると激怒するかもしれません。また、そこにいらっしゃる社員さんも腹立たしい思いをされる可能性が高いと思っています。
さらに言うなら、後継者自身の良心がこの考えを受け入れることを激しく拒むかもしれません。

ですから誰にでも読んでもらいたい、という内容ではありません。
ただ、わずかばかりでも共感いただける方がいらっしゃればうれしいな、と思います。

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事業承継の目的とは?

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会社は本当にそんなに大事なものなのだろうか

今までの風潮から行くと、いったん始めた会社は長く続けることが大事だという印象が強いように思います。まあさすがに詐欺まがいの会社のように、ある場所で数年営業したと思ったら、名前を変えて別のところで営業してる・・・なんてことになれば論外です。とはいえ、続ければいいってものでもないのは言うまでもありません。

私はこの、「会社を始めた以上は続けなければ」という感覚にはサンクコスト効果(コンコルド効果)という心理的なゆがみがベースにあるのではないかと思っています。サンクコスト効果(コンコルド効果)というのは、かつて超音速旅客機のコンコルドという飛行機の開発に際して、途中でとんでもない赤字になることが分かったにもかかわらず、これまでかけた膨大な費用がもったいないから、ととりあえず完成させるまでお金をつぎ込んだという事実から名づけられたものです。

これまでの投資額をどぶに捨てるのが嫌で、さらに回収できるあてのない投資を増やしてしまうことです。

実は私は、バブル経済が崩壊したころ、そんな人をたくさん見ました。やればやるほど赤字と借金が増える事業を、辞める決断もできないまま赤字を垂れ流しながら続けて、結局借金で首が回らなくなる中小企業経営者の姿でした。おそらく会社を占めてしまえば、収入の当てがなくなるという事情もあったのでしょうが、客観的に見てどうなんだろう?と思っていたりもしました。

いつ頃からかわかりませんが、今やビジネスの世界では普通に使われる「スクラップ&ビルド」という言葉ですが、企業だってそうなってもいいんじゃないでしょうか。

生まれたときから数百人の人の人生に影響を及ぼす立場?

ある二代目経営者の方のSNSのコメントをたまたま見かけました。彼曰く、自分は生まれた瞬間から親の会社の従業員の人生に影響を及ぼす人間である、という認識をされているようです。たしかに、親の会社が300名の従業員がいて、その跡取り息子として生まれたとあらば、生まれたときから責任重大です。なにしろ、自分の今後の能力が、会社に勤める300人の社員の人生を左右するのですから。なるほど、後継者のおおくは、会社をこれまで支えてきてくれた社員さんの人生をもあずかっている、なんていうことをおっしゃいます。確かにそれは立派だな、と思いますが、一方でそれは思い上がりではないかと思うこともあります。

たとえば、自分の勤める会社が倒産するというのは、その人にとって悲劇でしょうか?一般的にはそれは悲劇だと思われがちですが、そういった環境の変化がきっかけとなって起業して成功する人もいれば、自分の能力を活かせる新たな勤め先を見つけることもあります。もちろん、路頭に迷い、貧しい暮らしをすることもあるでしょうが、その確率は五分五分でしょう。一方で、今の会社に今まで通り勤めている限りにおいては、一定程度の収入は保証されているかもしれませんが、劇的な改善は見込めなければ、自分の才能を今以上に生かす機会はそんなにはないでしょう。考えようによっては、雇用の安定はすなわち、社員の可能性を限定し続けていることにもなりかねません。

そんなのは屁理屈だ、という意見もあるでしょう。きっとそうなんですが、シンプルに言うなら「自分の人生の責任ぐらい、自分でとれよ」というのが一つの常識として考えられなくもないような気がします。世の中の経営者も、後継者も、自分の人生を生きることが精いっぱいの中で、他人の人生の責任まで取れると思うのはあまりにもおこがましい。考えてもみてください。会社側は、好き勝手に社員をクビにできない法律の中でやっていますが、社員側は一定程度の条件下において、好きに会社を去ることはできます。社員の皆さん、あなたたちは自由なんですよ。それでもあえてこの会社を選んでくれているのは、ありがたくもあるけれど、僕はその期待に応えられるかは未知数ですよ。そういう関係が前提にあるとかんがえるとすると、やっぱり社員の人生というせきにんを、後継者が無条件に握っているというのはおこがましい話だと思うのです。

信頼しあうからこそ別れられる

とはいえ、別に社員をないがしろにしていい、というつもりはありません。会社というチームでの成功は、社員一人一人との信頼関係が必要ですし、その背景には思いやりが不可欠です。しかし、無理して、自分を犠牲にして、会社を存続させ、社員に給与を支払い、自分一人が不幸になるということとはちょっと違う次元の話ではないかと思うのです。だから使い捨てとして考えるという意味ではなくて、会社として、後継者としてできることがあるとするならば、会社が仮に終わったとしても、彼らが次に仕事ができる場が見つかるような社員育成には励むことができたらいいな、と思います。あそこで働いてきた社員さんなら、ぜひうちに欲しい、という会社作りができているのは理想の形の一つだと思います。そう考えて行くと、社員の可能性を広げ、解き放つことが、後継者のみならず経営者の大事なミッションだと思います。そしてその能力は、自社の中でいるときに最大化されるとは限りません。となると、彼らは自分で自分の活躍する舞台を選ぶようになります。つまり、どちらからであったとしても、良い関係があるからこその別れは訪れるわけです。

経営者、後継者、社員一人一人が、自分の幸せのために自分の活躍の場所を選ぶ。この事に何の問題があるのでしょうか。私たちは協力し合うチームである前に、一人の人間として人生を全うするというミッションがあります。そういったお互いのことを分かりあえる関係であれば、人はわかれる選択もポジティブにできるように思います。

後継者が今だからこそ考えたいこと

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事業承継のゴールはどこにあるのか

いろんな後継者とお話ししてみて、また、私自身の体験を通して感じることがあります。それは後継者の多くは、「自分たちの幸せのために生きていないんじゃないか?」ということなんです。みんなそれぞれ、会社のために最善を尽くそうと頑張っています。そして、会社のためを思ってとった行動は、たいていは批判を受けたり、人を遠ざける原因になったりします。その挙句に、会社の内外で孤立したりして、苦しい思いをかみしめている人は結構多いと思います。そこでふと思うのです。「この先に自分の幸せってあるんだろうか?」と。

たとえば、会社の業績をすごく上げて見せたら、きっと周囲も親も自分のことを認めてくれて、自分にも幸せが訪れる。はじめのうち、私はそんな風に考えていました。しかしどうも違うような気がするんですね。何かしらの成果を上げて、それなりに認められたらその時は確かにうれしいのですが、それって一時的なものです。で、もっと、もっと、ということになって果てしない欲求というか、いつまでたっても満たされない思いがあるわけです。それをやり通して、会社を上場させたり、日本の経営者のビッグネームになるとかいう夢を持つ人もいるかもしれませんが、どうも私の場合そういうイメージがピンとこないのです。

そもそも事業承継に終わりはありません。形式的なバトンタッチは実はいつでもできます。私は父から会社を譲り受け、30歳代で代表取締役になりました。しかしそれは形式的なものであって、相変わらず父は会社の最高権力者として君臨していました。正直な話、今もまだ事業承継は終わっていません。今は父はほとんど会社のことに口を出すことはありませんが、私が父のことを気にしている以上、やっぱり完全なバトンタッチではないと思っています。じゃあ気にしなければいいじゃないか、という話なのですがそれができないのが私の弱さでしょう。それはそれとして、事業承継のゴールって何でしょうか。実はこの質問に自信をもって答えられる人はあまり見かけません。表面的に代表権を持った時か、それとも名実ともに社内外に後継者の存在感を示すようになった時か、あるいは先代が他界した時か。

そうなっても古くからの従業員が後継者に反抗的なら、事業承継の完遂とはいいがたいでしょう。また、そういった人間関係がすべて掌握できたとしても、業績が落ちてくればやはり事業承継が完成しているとはいいがたいかもしれません。なにしろ、親から子へのバトンタッチがあって20年たって倒産しても「この事業承継は失敗だった」といわれますからね。

たぶん、事業承継に終わりはないのです。ゴールがないから私たちはどこまでも空虚な気持ちと戦わなければならないのです。

後継者は会社へのいけにえではない

ところで、少し大きな話をします。みなさんは、何のために生きているのでしょうか?なんでこんな問いをするかというと、私は親の会社を継ぐ過程で、自分がここにいる意味はない、自分はこの世にいなくてもよかったんじゃないか、という思いを抱いたことが何度もあったからです。何のために生きているか。これを抽象化するとたぶん、ほとんどの人は「幸せになるために生きている」といって問題ないのではないでしょうか。

では、幸せって何でしょうか。これも実は、非常に難しい問いです。かつては、収入さえ上がれば幸せになると考えられていました。だから、国民の幸せを一人当たりのGDPで測っていました。しかし、さまざまな研究から、一定程度の収入までは、収入と幸せ度の変化に相関関係がありますが、一定を超えるとその関係が希薄になることがわかりました。そこで、今では、主観的な幸福(今自分は幸福と感じているか?という問いに答える)と、客観的な要件(健康や、物質的豊かさ、人間関係や、生活の便利さなど)を合わせて考えるようになりましたが、今一つしっくりいかないようです。

それもそのはずで、人によって価値観は様々ですから、一概に「幸せって何だろう?」と決めつけることは難しいことでしょう。私は一つの手がかりとして、「熱中することがある」というのが幸せのかなり重要な要件だと思っています。そして、一生懸命熱中することを探すには、それなりの負荷のかかる状態で頑張ればクリアできる目標を見つける必要があります。それは世の中にたくさんあるのですが、自分の感性に合うものを見つけるには、それなりにいろんなことを試していく必要があります。そういった経験を積むのに、「仕事」という環境はとても適しているわけです。

そこで感じたのが、仕事、後継者にあっては親の会社を継ぐというミッションは、一つの自分の幸せを探求するための手段ではないか、と思うのです。たまたま親が家業を営んでいただけの話なので、それをけって違う刺激を探すのもありですが、一方で、その「たまたま」を愉しむことも一つの幸せの探し方かな、と思っています。だから、本当に会わないと思えば、親の会社なんて投げ出せばいいし、そうでなければその場で頑張ってみればいい。

私たち後継者は、会社に差し出されたいけにえではなくて、私たちが幸せを探求する手段の一つなのです。だから、世の中でいわれるように重苦しく考える必要なんてないのです。誰かの人生を背負っているわけでも、何らかの責任を背負っているわけでもありません。楽しい人生の時間を過ごす一つのルート。当然それらのゲームg簡単すぎれば楽しくはありません。ところどころに障害物があるのはまさに、人生のエンターテイメントを彩る演出なのではないでしょうか。

私たちが進むべき方向

このあたりで結論めいた話をすると、私たち後継者といえど会社のために生まれ、会社に尽くして終える人生じゃなくてもいいんじゃないでしょうか。なぜならば、親の会社を継ぐという行為は、生きる目的である幸せ追及の手段の一つでしかないからです。目的を達するためには手段は択ばぬ、なんていう悪役のセリフがよくありますが、親の会社を継ぐことが幸せな人生のための手段になり得なければ、他の道をいつでも選べばいいのです。たしかに、それなりの責任を持つ必要があることもあるでしょうが、それだって、選択して持つもの、持たないものを決めればいいのです。

だからもし、親の会社を継ぐことに関して苦しい思いをしているとしたら、まずはじめに視点を変えてください。
家業を継ぐことが自分の人生の目的ではなく、それは手段の一つでしかない、と。
すると絶望的に見えた状況が、ずいぶん軽いものに見えてくるかもしれません。
これまで、未来にわたって続く長期的な問題だ、という思い気持ちが少し軽くなるかもしれません。
そうすると、今まで萎縮してきた脳が途端にフル回転を始めるでしょう。
その時にハッとひらめくのは、「ああ、こうすればいいだけだったんだ」とその問題があまりにちっぽけだったことに気付くかもしれません。それを、「一皮むける」といいます。

その後、本当に今のままだと自分の幸せは達成できない、となれば親の会社を辞めるのもいいですし、もうちょっとこの障害物ゲームを楽しもうと考えるのもいい。
なんにしても、あなたの人生の責任は、あなた以外に負うことはできないのですから。
それがたとえ、親や、上司だったとしても。

 

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