後継者

後継者が仕事と自分の生き方のミスマッチを感じた時

親子で事業承継する場合、後継者は親の会社の事業を選ぶことができません。
そもそも、後継者である自分の希望や適性とは関係なく親の会社は存在しています。
なんとなく親がやっている事業だからと言ってそれを継ごうと入社した時、どうしようもない違和感を感じる人も少なからずいらっしゃるでしょう。

ただ、その判断は、少し気を付けたほうがいいでしょう。

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後継者の資質はそう簡単には見えないもの

遅咲きだった後継者A氏の話

ある友人Aさんは、親が保険代理店を営んでいる家庭に生まれました。
Aさんの性格はどちらかというと控えめ。あまり目立つわけでもなく、いつも端っこの方で独りいるようなタイプ。
基本的にまじめでコツコツタイプ。
一人でいることが多いけど、嫌われ者というわけでもなく、みんな彼のことが心配になるようなタイプです。

彼は親の経営する保険代理店、つまり保険の販売店に入社しました。
新規開拓営業などを課せられますが、もともとの引っ込み思案な性格もあり、「この仕事は自分に合わない」と漏らしていました。
保険ですから、商品力で売れていくことはまずありません。
顧客を説得しなければならない、営業の中でもけっこう重い営業といえる仕事でした。

押しの弱いAさんは、はじめの1年はまったく成果が出ず、自分でもあきらめたくなっていたそうです。
しかし、3年目にはいってもうやめようかと思っていたころ、駆け出しのころに訪問していたお客様から電話があり大口契約が決まりました。
そのお客様は、「売り込み臭があまりなかったから安心できる人と思い、名刺を探して電話した」そうです。

これをきっかけに、Aさんの営業成績はぐんぐん伸びていきました。

正解は一つではない

この事例を見ていて興味深いのは、Aさんは何かを変えたわけではないのに、ひとつのきっかけでどんどん営業成績が上がっていったという事。
これはなぜだろう?と考えたとき、変わったのはご本人の気持ちだけなんですね。
きっと「ああ、これで良かったんだ」という自信を得られたからうまく行き始めたという事ではないか、と私は感じています。
元々彼は、お客様と接することは嫌いではなかったというベースはあったようですが、結果として営業という仕事をある程度できるようになりました。
そして自分が売れない時代を長く過ごしたことで、売れない営業社員の気持ちも分かるようになりました。
そこから営業会社としてはちょっと雰囲気の違う会社づくりができたと言います。

ありがちな従来の営業会社とは違うマネジメントが生まれ、Aさんの会社は事業承継も終わり、今も会社は発展し続けているとのことです。
先代や、古い業界の人たちは随分と心配するくらいに線が細く見えたAさんでしたが、今や押しも押される経営者です。

後継者が「社業が自分に合っているか」を判断するときに気をつけたい3つのポイント

①すぐに結果が出るとは限らない

親の会社のビジネスに対して、自分は適性があるとかないとか判断をするときって焦りを感じているときではないでしょうか。
うまく行っているときは、適性があるとかないとか、あまり深くは考えないと思います。
うまく行かないから、焦るし、あせるから適性を疑う。
ただ、その結果をすぐに出せるかというとそれはケース・バイ・ケース。
ある程度待たなければいけないことも少なからずあります。

そして、その状態はある意味、覚悟を持って没頭出来ていない可能性が高い。
これはすなわち、疑いを持ちながら仕事に接しているわけです。
こういった心構えが結果を出しにくい方向に流されている可能性は高い。

一度、もうこれしかない、という思いで没頭する期間を持って見てもいいかもしれません。

②うまく行かない時の逃げ道になっていないか?

事業承継の後継者となると、常に重い責任が双肩に乗っかかっています。
そこに来て日々の重要な決定が次々と押し寄せてくる地位に上がっていくわけです。
もうストレスフルでしょうがない。

そんな中で自分の活動がうまく行かなくなった時、それを自分の欠損をとして認めるのがツラい。
そこで「合わない」とすれば、自分の問題ではなく、マッチングの問題となります。
自分の足りなさと向き合わなくて済むんですね。

そうやって「合わない」という逃げ道に隠れてしまうことがあります。
そんな時には、そうやって逃げているんだな、という事に気付くことが大事です。

③業界の一般論に流されていないか?

ある異業種交流勉強会で最もよく聞いた言葉はこれです。

「●●さんの業界ではできるかもしれないけど、うちの業界ではむり…」

つまり、ハナから異業種の事例を取り入れる気持ちがないという事なんです。
異業種からの学びを自分の業界に取り入れるには、一旦は抽象度を上げて捉え、自分の業界に当てはめるとしたら…?という検討を行う必要があります。
それをせずして、異業種からの学びは難しいと思われます。

一方で、自分の業界の世界観にどっぷりつかりすぎて、業界の一般論に流されがちな後継者は多いと思います。
冒頭でご紹介したAさんが、保険営業の世界の一般論に流されていては、彼は自分の才能を見出すことは出来なかったと思います。
私たちは業界の一般論の中にいれば居心地が良いのですが、異業種からの学びをもとに違う世界に漕ぎ出すことで、自分の才能とのマッチングを見出す人は少なからずいらっしゃいます。
考え方としては、業界のしきたりに自分で合わせるという感覚から、自分の資質を活かすにはどうすればいいかを考えてみてはいかがでしょうか。

後継者の自己探求

即座に「会社を辞めたい」と考える前に

こういった仕事と自分の資質のミスマッチを意識し始めたとき、多くの場合「会社を辞めたい」という感情を抱くことが多いようです。
精神的に強く追い詰められた場合、会社を辞めるのも一つの選択肢ではあるとは思います。

ただその前に考えられること、できる事はあるのではないかと思います。

会社の発展に必要な事

どうしても後継者というと、先代から続く会社の中のしきたりの中に埋もれがちです。
自分を活かして仕事をするというより、仕事に合わせて自分を演じると言った形をとりがち。
それはつまり、自分の良い部分を使うのではないということ。
それってきき手を使わず闘うようなものではないでしょうか。
会社を発展させたいのであれば、やはり自分の強みを使いたいところ。
それは大掛かりな業種転換でなくともちょっとしたやり方の変化で対応できる場合も多いと思います。

そういった、自分の活かし方を考えてみるというのは、自分にとっても会社にとっても大事なことではないかと思います。
まずは自分にどんな資質があるのかを着目してみることから始めてはいかがでしょうか。

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