ある時思い立って、父である先代といろいろ話をしたことがあります。
今後の会社をどうしていきたい、という話です。
たくさんのことを語り、たくさんの思いをつたえ、たくさんの未来の可能性を共有したつもりでした。
そんな状況の中で父はこう言いました。
「たしかに、お前の言う通りかもな」
ある寒い夜、人がいなくなった会社で社員がいないエリアの電気を消した、薄暗いオフィスでのこと。
その情景を今もはっきり覚えています。
しかし、その五分後に先代の口から出た言葉は。
「確かにそうだけど、今やらなきゃいけないことは……」
という出だしで、私の伝えたことと真逆のことを語り始めました。
ああ、やっぱり分かり合えないのか、という思いとともに怒りがふつふつ湧きあがってきたのを記憶しています。
もうだめかもしれない……。
そう感じた経験です。
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今から考えると、父である先代には彼の立場があり、彼にとっては未来も大事だけど、まずは現在のことなのです。
一方わたしは、現在のことに目をつぶりたくて、未来のことばかりを語りたがります。
未だから俯瞰してその行き違いに気付くことができますが、当時はまったくもって自分が正しいと思い込んでいたのでこう思っていました。
自分がこれだけの思いを伝えているのに、なぜか父である先代は私のことを聞こうともしない。
聞いたふりはするけど、いきなりそれを覆す言葉を返してくる。
結局自分なんて、誰からも信用されていないのか。
そんな孤独の暗闇の中に突き落とされたような気がしていました。
しかし、先にお話ししたとおり、父も私も悪意を持っているわけではなくて、単に自分の場所というか気持ちを守りたいだけ。
お互い違う立場にいるから、自分の立場を守る事を無意識に優先してしまった結果が、こういった話し合いの決裂に至るのではないかと思います。
親子の事業承継において、その親子の関係性は人それぞれとは思いますが、大なり小なり自分の立場を守りたいが故、相手を傷つけている一面はあるんじゃないでしょうか。
それが、本来の目的ではないことに気付くことができればいいのでしょうが、渦中にいるとなかなかそのようには思えない。
そこが親子での事業承継の難しいポイントではないかと思います。
ところで、私はけっこう不器用です。
初めてやることはたいていうまくできず、何度も繰り返し練習してやっと人並みになる。
そして練習は結構好きだから、ここまで続いたことは人並みよりちょっと上手くできるようになるまでやり続けることが多かったように思います。
だけどほんとに、最初に何かをやる時っていうのはホントヒドイです。よくぞここまで失敗できるな、というくらい。
けど自己認識は全く違いました。
自分では結構天才肌で、初めてのこともそこそこできて、人並みよりちょっと上には行けるから逆に飽きやすい。
自分が40歳過ぎるころまで、自分の事をそう評価していました。
キッカケがあって見直すまで、そう言う誤解をしていたのだから、様々な人生戦略を間違えていたかもしれません。
で、私は後者と思って父である先代と対話をしていたんだと思います。
一方で、父である先代から見た私は、前者だったかもしれません。
的確に私のことをとらえていたかどうかはわかりませんが、少なくとも後者よりであることは間違いないような気がします。
私は本当は後者なのに、なぜ前者のように思いこんでいたかというと、後者である自分が嫌いだったからです。
そういえば、「努力・根性」なんて言葉は嫌い、と公言していたように思います。
私は自分の本来の姿を見ないように人生をすすもうとし、親は本来の私の姿を見ながら関係を持ってきた。
まあこの時点で、ケンカもしそうですね。
自分で見ないようにしている自分の事を知っている人なんですから。
少し深読みすると、自分も知らない自分を、親は知っていて、その人格に対処していたのかもしれません。
話がずいぶん変なところに富んで行ってしまいましたが、自分には自分でもみたくない人格がある、というのが多くの人の前提だと思います。
しかし親はその「自分でも見たくない人格についてよく知っている」わけです。
そして親が対話しているのは、「自分でも見たくない私の人格」となのかもしれません。
まあ、こんな心の中のカラクリはともかくとして、どっちにしても人間同士はいろんな行き違いがあり、ボタンの掛け違いがあり、言葉の選択の誤りがある。
その結果、ハッキリ言って、「何でも自分の思いどおりになる」という風にはできていないということです。
逆に言うなら、何の摩擦もない人生に逆に生きる価値を感じられる人は少ないと思います。
何でもかんでも思い通りになるなら、むしろストレスでしょう。
ならば、人生がそこそこエキサイティングであるために、色んなトラブルが持ち込まれます。
私たちにとっては親とのコミュニケーションの中にそんなトラブルがちりばめられているように思います。
で、そのトラブルというのは、確実に私自身がバージョンアップできる種を持っています。
私のことを考えてみても、親とのこういった衝突があったから、そして親が自分の思いどおりに動かなかったから
「ならば自分の事を顧みるしかない」という結論に至ることができました。
そうやって、そのことに気付いてからの成長は、まあまあ頑張ってるんじゃないかと思います。
前に話した通り、初めてのことに対しては不器用な男ですので、「人のせい」から「自分に原因がある」という転換をし始めたころはずいぶん難しいこともありましたが、今はそこそこ人並みにはできるようになっているように思います。
その結果、自分はいい経験をさせてもらってるな、と思えるようになってきました。
不器用な私は50歳を過ぎてやっとそこに至りましたが、皆さんはもう少し早い気付きがあるのではないでしょうか。
ということで結論めいた話をすると、何か困ったことがあればそれは成長のチャンスです。
ぜひ、その困難を楽しむマインドを持ってみてください。
そんな風には思えないほどの困難もあろうかと思いますが、がんばって、「この困難は、どんなバージョンアップのための試練なのだろう?」と考えることで少しはエンジョイできるようになるのではないでしょうか。
困難を楽しむことができてはじめて、人生を100%楽しめるのかもしれません。
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