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豊田章男

私たちのように、同族企業の後継者・二代目社長をやっていると、自分達の立場ゆえの悩みを抱えることも多いと思います。
そしてそれはあたかも自分だけのような気もするのですが、もし、あの日本屈指の企業であるトヨタの御曹司が、「3度、真剣にやめようと思った」と言っていたとしたらいかがでしょうか?
きっと少なからず親近感を持たれるかもしれません。

考えてみれば、トヨタファミリーの御曹司と言えば、学校に行けばクラスメートの多くは自分のファミリーの会社の従業員や下請け企業につとめる親を持つ子供だったりするのではないかと思います。もうそれだけで窮屈。しかも、そんな彼が会社に入れば、これまたいろんな噂話も出てくるのでしょう。(逆に違う会社に入ればそれはそれでいろいろ言われそうです)
地場の同族企業の後継者と比べるとその注目度たるや半端じゃなさそうです。
そんな中で彼はどうやって今の状況まで進んできたのでしょうか?
本書はそんな歩みを確認できる一冊です。

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豊田章男氏は、若いころ、会社に居場所がなかったそうです。
社内で何かの仕事をしようとすれば、対応は二つ。ある人は、お客様扱いで仕事なんかさせてくれません。「坊っちゃんはそこで見ていてください」。そんな感じだったのでしょうか。
もう一つのパターンは、ろくすっぽ仕事も教えず「お手並み拝見」とばかりに遠巻きにニヤニヤ見ているパターン。御曹司に何ができるか、的なありがちなマウント取りと言えるかもしれません。
章男氏は自動車の設計・開発・製造・販売の部分ではなかなか自分の能力を発揮する場を見つけられず、少数の理解者を連れて中古車のネット販売を始めます。海のものとも山のものともわからないものにトヨタの冠は使わせないということで、トヨタとは全く独立した形でのスタートです。予算も十分にはなく、人員もわずかな中で、彼はそれを成功させます。
それでも会社は章男氏を認めなかった。
そんなビジネスを、御曹司のお遊びかのように評していたのかもしれません。

そんな中で、冒頭のように彼は三度、真剣にこの会社を辞めることを検討したと言います。それでも歯を食いしばった結果、今があります。
ただ、章男氏が社長就任して間もなく、アメリカでの大規模リコール問題が勃発します。対応が遅れたこともありますが、アメリカの政策的な部分もあったのか、トヨタいじめというようなヒドイ状況があったことは私もなんとなく記憶にあります。章男氏はそんな中、身柄を拘束されるかも、という恐怖の中渡米し、対応することになります。

そしてその問題がやっと火が消えかけたころに日本では、東日本大震災。トヨタの製造ネットワークも大打撃を受ける中、自らの生産のみならず、協力工場には他の自動車メーカーにもそれまでの受注規模をひれ配分するような形で仕事ができるようなマネジメントを行います。豊田家の家訓ともいえる「自分だけという狭い了見に囚われない」ように行動したようです。

まあ、きっと内容はトヨタ側が相当にチェックをしたうえでの出版でしょうから、ある程度美談として脚色されている部分もないとは言えないかもしれません。それでも世界的巨大企業の同族継承者として、豊田章男氏が何を考え、どうふるまったということを知ることは、中小企業の後継者においても学ぶべきところは多いのではないでしょうか。事業承継というと形ばかりが着目されますが、こう言った人としての生き方こそが実は大事なことではないかと私は考えています。

「自分は一人なんだ・・・」と肩を落とされている後継者の方がいらっしゃるとすれば、是非ご一読いただきたい一冊です。

豊田章男 
片山 修 (著)

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