後継者

エキセントリックな社長(親)をもった後継者が今すぐできること

今回は、親子経営のある事例を取り上げてみたいと思います。
社長:父(70歳)
専務:長男(40歳)
事務:長女(43歳)
事務:親族以外(68歳)
といった小規模の専門職の事務所です。

この社長(父)が相当な変わり者で、その方のパーソナリティが社内全体にどんな影響を及ぼしたかを考えてみたいと思います。

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超・個性的経営者

全てにおいて「疑問」を呈する創業社長

実在の企業ですが、特定できないように一部事実を少し脚色することをご了承ください。
この企業と私は、私の家業を通じて知り合いました。
私の家業は保険の代理店で、このお客様は火災保険をご契約いただいていた契約者、という関係でした。

さて、このお客様の所有する建物に、ある日、自動車が飛び込みました。
お客様は被害者です。
加害者である自動車の保険会社は、建物修理の業者と連絡を取りながら、建物の修理を全額支払うよう段取りを進めていました。
数週間後、建物はきれいに修理が出来上がり、自動車の保険会社はその修理代金を工事会社に支払えば、この話は終わる流れでした。
しかし、そこで、お客様社長が待ったをかけます。

「修理額が妥当という事はどういうかたちで確認したんだ?その妥当性を証明せよ」

と言い出したのです。

 

この手の話であれば、自分の所有する物件がキレイに治って、そのお金が相手から振り込まれれば、その金額についてあまり関心を持つ方はいません。
しかしこの社長、自分のこととは直接関係のないことにイチャモンをつけ始めます。

この事だけでなく、時折エキセントリックに他人を罵倒したり、なかなかに付き合うのが難しいお客様です。
私自身も、契約いただいている保険の改定があるたびに、「その根拠となる公式文書を出して説明せよ」と言われて困ったことがしばしばありました。

むずかしい社長が社内に及ぼした影響

私は、これまで恐らく1000人単位のお客様とお目にかかっているわけですが、その中でも特に印象深いそのお客様。
そのオフィスの状況はどうかというと、やはり「殺伐」という状況が良く似合います。
少なくとも、笑顔が見えた記憶はほとんどありません。

一般の事務の方は、ベテランなのでよくわかったもので、経営者のヒステリーをあまり気にも留めません。
たまに私に、「いつも迷惑かけるねー」と気遣いを見せる余裕があり、すごいなー、と思たものです。

長男である専務は、いつも社長の顔色を見ながらびくびくしています。
専務は社長が言うであろうことを、自分も言うようにしているようです。
なぜかというと、社外の取引先とのやり取りで、社長がするように振る舞わなければ、社長から何を言われるか分かったものではないからです。
いつも社長に対してビクビクしており、エキセントリックな社長のコピーなので専務自身も、ずいぶんと変わった人にうつります。
見ていると、「世の中はすべて敵」とでも思っているかのように息苦しい感じを受けます。

実はこの専務は、親の仕事を継ぐにあたって必要な国家試験をパスできなかったようです。
その頃が非常に自分自身の劣等感となっており、そこに加えて高圧的な父親のふるまいにビクついて、かなり卑屈な印象を受けます。
ちなみに彼は、独身です。

専務は時折、姉にも強く当たり、家族関係はぐちゃぐちゃ。
会社はまったく事業として前に進まず、社長が体調を崩したとき、その会社はこの世から消えてしまいました。
廃業を選択したのです。

この会社、存続させたかったのだろうか?

社長が見せた後継者への愛情

ところで、社長が体調を崩し始めたころ、社長の様子は少し変わっていました。
今まで自分の感情や考えで、ヒステリックに周囲に怒鳴り散らしていたのですが、ある年にご訪問した時は何となく振る舞いが変わっていたのです。
私との保険の手続きに関するやり取りは、これまで社長が前面に出てやっていたのですが、その年から息子である専務を前面に立てるようになりました。
そして、社長はそれを横で見ているのです。
ときおり社長は、「こういうことを確認しておかなくても大丈夫か?」「こういうことを見落とすとだまされるぞ?(失礼な話を私の前でする社長です苦笑)」などと、アドバイスを与えています。

第三者である私にとっては、それが社長が息子である専務にコーチをしているんだ、という雰囲気がつかめました。
契約一つとっても色んな注意事項があるから、ちゃんと確認しながら進めたほうがいいぞ。
そういうメッセージを感じていたのです。

しかし、後継者である専務にとってはもはやそれは、「命令」としか聞こえていなかったようです。
「こういうことを確認しておかなくても大丈夫か?」という社長のアドバイスは、
「これを確認しておかないとあかんやないか!」と聞こえていたように見えます。
それに、「はいはい」とうんざりした様子で従う息子。

この時、親は自分の体調のことを考えると、自分がいなくなった後のことを心配していたように思います。
だからまだ動けるうちに、息子に教えるべきことは教えておきたい。
そんな風に感じたのです。

しかし息子にとっては、いつもヒステリックに怒鳴られる連続を何十年も続けているのです。
今回のアドバイスも、「はいはい」と従う「命令」でしかない。
ちょっとその様子を見て、どことなくもの悲しさを感じざるを得ませんでした。

会社を続けるというよりも・・・

この時点で、息子である専務は国家資格は取ることができず、もはやそのつもりもない様子でした。
親としては、もはや今の会社を今の状態で存続する、というのはずいぶん前に諦めていたのでしょう。
この数年、親である社長は、後継者が生活に困らないよう伝えられることは伝えたい、という事を主に感じていたように思います。
しかし、前述の通り、長らく続いた主従の関係性を抜け出ることができず、それはかないませんでした。

そして数か月前。
親である社長はお亡くなりになられました。
皮肉なことに、後継者である専務は、ずいぶんと顔つきが柔らかくなりました。
そして今までは、自分の主張を押し通すことしかできなかった彼も、キチンと相手の話を聴くことができるようになりました。
直接彼には聞いていませんが恐らく、自分にとって最も恐ろしい父から責められることがなくなった今、やっと自分の人生を取り戻したように感じているのかもしれません。
そんな折、彼からは結婚の知らせを受けました。

経営者は「変わった人」が多い

親に怒られたくない

経営者というのは、日本の人口でいうと30人に一人くらいの確率で存在するそうです。
逆に言うと、30人に一人しかいない、そこそこ変わった人、と言えるかもしれません。
日本では学校を卒業すれば、どこかの企業に勤めるのが一般的な進路。
そんななかで、経営者をするなんて言うのは、やっぱり平均的なヒトからするとちょっと変わり者だと思います。

組織の中でやっていくのが難しい人だったり、それを窮屈と感じる人が多いのでしょう。
そして、そういう人を親に持った子供は、変わった人の影響を受け続けながら成長していきます。
たいていそういった経営者は、親族に対して厳しいことが多い。
すると、「また怒られるのがイヤ」という気持ちから、親が次にいうであろう言葉を想像して行動します。
その結果、親の縮小コピーのようなふるまいを行うことになりがちです。

前述の専務はまさにその典型で、これまで受けたあらゆる親からの”指導”を思い起こし、失敗のないよう周囲への要求が厳しくなります。
それは社外の取引先はもちろん、社内の事務員や親族に対してもかなり横柄な口のきき方をしていました。
今回のケースはほとんどが親族という小さな組織でしたが、これが10人、50人、100人という組織で行われると、後継者の立場は非常に厳しいところに追い込まれるのではないかと思います。

では、どうすればいいのか?

このケース、最後は親の死というところで、後継者(実際は会社はたたんだので後継者と言えないかもしれませんが)は自分の幸せを見つけた様子です。
しかしできれば、親が健在なうちに、そこそこの道はつけておきたいところ。
じゃあどうすればいいのでしょう。

これは私見ですが、親をうまくあしらう技術を体得していればよかったのかも、と思うのです。
後継者はまじめに親の言葉を真正面から受け止めているから、とにかくつらい。
そしてそのつらさを周囲にぶつけることで、自分を保っていたんじゃないかと思います。
上司から厳しくされて、自分も部下に同じように厳しくする中間管理職のような状況だったんじゃないでしょうか。
そうなると、この中間管理職、本当に必要なの?となってしまいます。

そうではなくて、ちゃんと社長の言葉を受け止めて、受け流すべきものは受け流し、受け取るべきメッセージは受け取る。
(実際には受け取るべきメッセージを受け流して、受け流していい感情を受け止めていた)
そんな技術が必要だったように思います。

そのためには、親と対峙した時に感じがちな劣等感を捨てて、対等な心理的状態に立つ(横柄になれ、という意味ではありません)ことが大事だと思うのです。
いつまでも、親より立場がしたな子どもで、厳しく言われることは仕方がなくって、それに従わなければならない、という思い込みから脱することが必要ではないでしょうか。
それは、今はやりの言葉でいうと、「自己肯定感」というものを自分の心の中に醸成していくことだと思っています。
親に劣る時分、という思いを捨て去る努力が必要だと思います。

その際にとても大事になるのは、「自分で決める」という事です。
親の言いなりになるのではなく、自分で決めるんです。
そして自分で決めたことに対して、自分で責任を取る覚悟をする。
そうすると、その思いは自然と周囲の人に伝わります。

エキセントリックな親の会社を継ぐ後継者の方は、身の回りのことを少しずつ「自分で決める」という事を強く意識してみてください。
それが、現状を抜け出すきっかけになると私は考えています。

 

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Andrew MartinによるPixabayからの画像

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