親の会社の跡継ぎとして、会社に入ったものの権限移譲は進まない。
それどころか、後継者にとっては親である社長が何をやっているかさえよくわからない。
親子での事業承継ではよく聞かれる話です。
そんな折、ある後継者の親である先代が病気で入院したそうです。
後継者は不安を隠しきれず、早く戻ってきてほしいとその思いを吐露します。
自分一人では会社を背負っていけない、と。
私はそんな後継者の言葉に少し驚きました。
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親子での事業承継。
ありがちな問題点の一つに、親は無意識に自分の仕事を子どもに見せないようにしがちです。
ある一部分をブラックボックスにしてしまうのです。
親としては表向きは会社を誰かに継がせたいと言っている半面、会社を去りたくないという本音があるからです。
その本音部分が無意識に、仕事の一部を外から見えなくして、自分がいなければ仕事が進まない状態を作り上げがちです。
後継者としては、とても大事な部分が見えていない、と、無意識レベルで感じ取っています。
だから、親は引退してくれて自分の時代が来てほしい、と思う一方で、いっそのことずっと会社の肝を握ってくれていればいいのに、という思いを持っている人も多いのではないでしょうか。
ハッキリ言えば、私がそうでした。
表向きはともかく、裏の部分でお互いの思いは一致しているので、割と長い間その状態は続きがちです。
親は口では、「早く譲りたい」と言いながら仕事をすべて任せず、
子は口では、「親に早く引退してもらいたい」といいながら一部の仕事から逃げます。
さて、この状態を続ける事は、常に後継者は不安を抱えた状態になります。
会社の仕事、社長の仕事の一部が、自分の目に見えないところにあるからです。
たとえば、リレーはバトンを渡されたらどこへ向かって、何をすればいいのかがわかっているから無心に全力を尽くして走ります。
しかし、事業承継においては、バトンを渡されてもたとえば「走るということは聞いているけど、どこに向かうかは聞いていない」という中途半端な状態であることは否めません。
たいてい、親が囲い込んでいる仕事はお金周りであることが多いと思われます。
とても大事なことだけに、いきなり引き継いで失敗するわけにもいきません。
そういったブラックボックスを前にして、後継者は非常に不安を強く感じます。
こういったこともやり始めれば次第に連度を高められるのですが、やらないから慣れもしない。
そういう状態では引き継ぎたくない、というのが後継者の心情。
後継者の多くが「うまく会社を引き継げるか心配」と不安を訴える原因の一つがこういったやり取りにあります。
それに気づいた後継者は、親のブラックボックスを暴こうと、そこに土足で上がり込もうとします。
これが親子の確執の直接的な引き金になることも少なからずあるのではないでしょうか。
親は自分の立場を守るため、秘密にしていた箱を後継者が奪おうとするのですから。
跡継ぎ・後継者としては、まだ先代が健在なうちにスムーズに代を承継したい。
誰もがそう思いたいところです。
しかし、そう思えば思うほど、親のブラックボックス化という行為は許しがたい行為に見えてきます。
じゃあ、これをどうすれば手放させることができるのでしょうか?
一つは、親の立場の安全確保です。
親の思いは、会社に関わり続けたい、という事が最も強いものだと思います。
であれば、どんなことがあっても、親は会社にとって大事な存在ですよ、という事を確信していただくことじゃないでしょうか。
それは、大事な役割を任せきるとか、いろんな方法があると思うのですが、口を出さないというのも大事な要素だと思います。
そしてまあ、生涯現役がお望みなら、そうしてもらうよう、いえ、むしろ鞭打つぐらいのところで先代を活躍してもらってください。
そのうえで、面倒な仕事はどんどん手放してもらう。
後継者としてはなんだか損してる気分になるかもしれませんが、それを含めて許せる度量を身に着ける必要は経営者としては大事なことだと思います。
経営者の役割の一つは、社員を含めた会社のリソースを有効活用することではないでしょうか。
そう考えたときに、親もまた、会社にとって非常に重要なリソースです。
それを最大限活用することに徹するのは、経営者としてとても大事なスキルの1つではないかと思います。
そうすることで、WIN-WINの関係の中で、ご自身の不安の解消と、親の人生のラストスパートのサポートができるとすれば、シナリオとしては悪くないものになるのではないでしょうか。
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