田村の頭の中

「親の会社を継ぐ技術」をまとめた技術

先日、拙著『親の会社を継ぐ技術』をもとにしたセミナーを開催しました。
そこにお越しいただいた参加者のお一人から、懇親会の席でこんなことを聞かれました。
「田村さんは、この知識体系をどう形にしたんですか?」
その時、私はそういう質問への準備をしていなかったので上手く答えられませんでしたが、ちょっと振り返ってみました。

本が出版されました!
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跡継ぎ・後継者の悩みの共通点

デジャヴのように繰り広げられる中小企業の跡継ぎの悩み

この「親の会社を継ぐ技術」の中で語られることは、
・私の経験
・周囲の後継者の体験談
・このブログなどから頂くお問い合わせへの回答
等で得た情報がもとになっています。

まず、本書やセミナーの前半で語られる内容の多くは、20年近く前にはほぼ固まっていました。
本書をお読みいただいた方や、セミナーに参加された方からは、

・共感の嵐
・自分の様子が監視されていたかと思うほどのリアリティ
・まったく同じパターンを経験している
・占い師よりあたっている

という言葉を良くいただきます。

 

実はこれ、私がすごいのではなくて、それだけ
世の中の中小企業の跡継ぎ・後継者はまったく同じ経験をしている(悩みを持っている)
という事です。

自分の事例だけを経験している人にしてみれば、まるで透視されているような現実が、
私のように何人もの話を聴いてきたものにしてみれば、デジャヴのように同じ話が繰り返されているのです。

そこに私が気づくことができたのは、自分の悩みを割と素直に話したから、周囲の人も素直に話してくれた、という事なのかもしれません。

解決策をたどる旅

共通点が多くの事業承継であることがわかれば、話のネタにはなります。
かつてブログでそんな「あるあるネタ」を書いていた時期はありました。
たまたま関心を持っていただいた雑誌に紹介されたりしたこともあります。

当時から、中小企業の世代交代はそれなりに大きな話題でしたが、誰も具体的な解決策を持っていませんでした。
そんな時、自分も身の回りの事を解決したいと思い、事業承継に絡む本を何冊か読んでみました。
そうすると・・・

①税金対策(つまり、事業の継承=相続対策 的なテイスト)の本
②自社株対策(会社の経営権をしっかりと後継者に渡し、やっぱり相続対策をしましょう的なテイスト)の本
③親世代経営者の訓戒 的な本
④親の会社を引き継いで頑張って大きくした後継者の体験談本

という感じのジャンル分けができるように思います。

まず①と②は税理士とか、弁護士とか、事業承継対策コンサルタント的な名乗りをしている人が書いています。
この人たちは言うまでもなく、「税の専門家」だったり、「法律の専門家」だったりします。
何が言いたいかというと、事業を存続させるというより、「会社という資産をどう引き継がせるか」という点に集約されます。

後継者が自分の能力を活かす参考になる記述は限りなくゼロに近い。
あったとしても、「親子で話し合いましょう」「経営理念を明確にしましょう」「後継者は外で経験を積みましょう」とかいう、素人でも言える事しか書いていません。

なぜ跡継ぎ・後継者が知るべき情報が存在しないのか?

なぜ事業承継の話では、財産の引継ぎという話ばかりがフォーカスされるのか?

少し大きい本屋さんに行って、「事業承継」なんて言うコーナーを見てみてください。
割と大きなサイズで、分厚い、まじめそうで難しそうな本がけっこう並んでいます。
それを開くと、だいたい税金の話と法律の話と、最近はM&Aの話ばかりです。
後継者にフォーカスした内容のものは肩身の狭い状態になっています。

それがなぜかというと、相続対策は金になるからです。
先日こんな話を耳にしました。
銀行なんかも事業承継を手掛けますが、もちろんその内容は相続対策です。
すると例えば、将来の相続税が1億円になるという資産をして、その相続税を5000万円に抑える方法を提案することができたとします。
その減額分5000万円は、明らかにクライアントに提供できた金銭的な価値となります。
すると、そこからフィーをとりやすい。

さらに、そういった対策においては、不動産を動かしたり、借り入れを起こさせたり、まあいろいろ儲けるネタが絡められるわけです。
あらためて一言で言うと、事業承継=相続対策という前提で話をすれば、事業者からみれば金になる、という事です。

エライ人しか本は書けない

では、③における親世代の経営者における訓戒はどうでしょうか。
出版社が例えば、事業承継における跡継ぎ・後継者に向けた本を出版するとしても、ある程度売れる確証がなければそんな仕事するわけがありません。
となると、売れるためには、有名な著者が書くのが一番です。
そこで出てくるのが、大物経営者です。

で、厄介なのが、この手の大物経営者は自慢話と、昭和的ニュアンスの道徳的な話が大好きなんです。
私たち後継者・跡継ぎからすれば、関係がうまくいかない親なら大好物っぽい根性物語だったりします。
自分のたどってきた人生と、その時いかに頑張ったかを書き連ねた半自伝的内容になりがち。

跡継ぎ・後継者としても、頑張らなければいい経営者になれない、という事を親から刷り込まれている一面もあります。
だからこういう本を読んで、なんだか自分もそんな風にならなきゃな、なんて素直に思う人も多いかもしれません。
けどたぶん、この手の本を読んで、状況が良くなった人というのはほとんどいないのではないでしょうか。

なぜなら跡継ぎ・後継者がこの手の話を聴いたとき、頭に浮かべるのは「〇〇しなければ」という思いです。
つまり、やりたいではない、という事。
強制というか、脅迫めいた思い込みを形成するようなことが多く、むしろ「本の通りできていない自分」の存在に気付き、気分はどんどん落ち込むばかり。
あまりいい効果はないのではないでしょうか。

それでも、エライ重鎮じゃないと本は売れない。
だからこういった本は、いまだに作られ続けています。

後継者の体験談の落とし穴

たまに出てくるのは、後継者による体験談です。
頑固おやじのもとに生まれた跡継ぎである私は、おやじともめたり、社員ともめたりしながら、一つ一つ問題を解決し、なんとか会社で生き生き仕事ができるところまでがんばってきました、というストーリーです。
わりと根性論の好きな日本人には受けそうな物語ですよね。
こういった話を読むと、同じ境遇の跡継ぎ・後継者のかたは、強い共感と、俺も頑張らなきゃ、という勇気をもらえたりもするかもしれません。
一方で、そんな大変な思いをしなきゃうまくいかないのか・・・とちょっとがっかりする人もいるかもしれません。

人によって受け取り方は様々ですが、こういった本はたいてい再現性が担保されていません。
たぶんほとんどが、後継者の根性物語として表現されているのと、世の中への影響を配慮して、かなりドロドロでぐちゃぐちゃな部分がクリーンにカットされていたりもします。
最大の問題は、この手の体験談の多くは「親のために」とか、「継ぐはずだったけど亡くなった兄のために」とか、非常に自己犠牲的な物語がけっこう多い点です。
これは私があまりお勧めしない、「誰かの縮小コピー」になろうという事を勧める文脈になりがちです。

そういうところが残念なことも結構多いのが、同じ境遇における後継者の体験談です。
もっと人間臭くというか、本音で、「自分のために生きよう」という人が出にくいのは、悲しいかな日本人の価値観なのかもしれません。

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

跡継ぎ・後継者がやるべきこととコツをまとめる

やるべきことを粛々とやる

ところで、モチベーションってどうやれば上がるかご存知ですか?
心理学的研究によると、最もシンプルなモチベーションのマネジメントは「やり始めてみる」ことです。
やり始めれば、それなりにモチベーションは上がる、というのです。
では、事業承継だって、やり始めればモチベーションも上がります。
ただ、やり方がわからないだけです。

そこを解明していく必要がある。
私はそう考えました。
そこからが研究の始まりです。

どういう状態になれば跡継ぎ・後継者の気持ちは晴れるか?

そこで考えたのが、自分を含めた跡継ぎ・後継者の気持ちが晴れ、充実感を感じるだろうか?と考えました。
まずは手っ取り早く、「会社の業績を上げればいい!」と考えました。

すると、セールススキルや、マーケティング、DMやキャッチコピーのつくり方、広告の出し方などなど、
売上を上げるためのスキルを次々と学んでいきました。
それはそれで役には立ちましたが、最近私のところに相談に来る跡継ぎ・後継者の方によると、
「自分が会社の売り上げアップにかなり貢献した」
「自分が入社して、会社の売り上げ規模は3倍くらいになった」
という人もいます。

なのに彼らは満たされていないし、みな同じように深い悩みというか、何か物足りなさを感じているようです。
実は、会社の売上を上げて、「どうだ!」と言える状態が、跡継ぎ・後継者のツラい現実を変えるわけではなさそうだ、
とわかりました。

親である先代を何とかしたい!?

実際に、相談を受ける中でほぼ全員が口にされるのが、「あの頑固な親を何とかしたい」
「いつまでも引退しない親を引退させたい」的な話です。
時に、相当な憎悪をこめてそういったことをおっしゃる方さえ結構いらっしゃいます。

じゃあ、そんな親の何がイヤなのでしょうか。
干渉だったり、いう事がころころ変わる事だったり、跡継ぎの行動を抑制するふるまいだったり。
内容はいろいろです。

それをどう解決するかを考えてみたのですが、これがなかなか難しい。
会社に張り付いて離れないのですから。
そこでふと考えたことがあります。
なぜそれほどまでに会社に執着するのだろうか?と。

そこでたどり着いたのが、起業家・社長の性格の特徴です。
それはある心理学の専門家に言わせると、自己愛性パーソナリティ障害といった性格の偏りをほぼ100%持っているということ。
初めて聞くその性格傾向について一時期どっぷりと勉強しました。
迷惑で、目の上のたん瘤のおやを帰るには、その自己愛性パーソナリティ障害を治せばいい。
しかし、調べれば調べるほどがっかりする内容しか出てきません。
そういった性格の癖は、外部から変化させることはまず不可能・・・っぽい様子です。

組織マネジメント手法に解は得られないか?

もう一つ考えたのは、組織マネジメント手法の中になにかヒントがないか、と考えていました。
組織をマネジメントするというのは、そもそもばらばらの個性を持った人たちを、一つのプロジェクトなり会社なりにまとめていくスキームです。
つまり、同じ方向を見させるという意味では、その一員としての先代である親という流れで考えられないかという思い付きです。

ロバート・キーガン博士の書籍や、U理論、最近のティール組織やホラクラシー経営など、いろんなジャンルのものを検討してみましたが、なんとなくですがそういった組織論を実践する前に親から待ったがかかりそうです。
即効性を求めればさらに難易度は上がり、ヒントはいくつかあるものの、そのまま使うことで親が配下に入るようなイメージではありませんでした。

 

ところで、よく、親子で「理念についてはなしあえ」という話があります。
これはもっともらしく見えますが、正直あまり効果はないと思います。
人は自己欺瞞の動物なので、ある程度心理学をつきつめていくと、人はそういった意識上のロジックよりむしろ、野性的な反応で動いていることが多いことがわかります。
そういった爬虫類脳の反応レベルで親は会社への執着を持っています。
だから、言葉で語り合う理念レベルの話では、表面上は合意できても、とっさの行動で本能が出てきます。

じゃあ、できる対策はないのか・・・と悶々としました。
そういったときに、人の「知覚」にかんする知識が目に留まりました。

たとえば、虹が出たとします。
これを「不幸の前兆」ととらえる民族もいるそうですが、日本のたいていの人は「なんだかラッキー」ととらえます。
それは言葉場だけでなくて、「虹を見た」という同じ刺激で不安のどん底に陥れられる人と、楽しくなる人がいることに気付きました。

となると、会社の経営だとか、親との付き合い方とかにおいても、実は大事なのは現実(つまり親のふるまい)そのものより、それをどうとらえるかではないか?という仮説が浮かびました。

 

さらに、ある心理学においては、「問題を持つ人がそれを解決すべき」という問題所有の原則というものがある事を知りました。
ここで「問題をもっている」のは、親ではなくて跡継ぎ・後継者です。
なぜなら、親のふるまいで困っている(つまり問題意識を持っている)のは跡継ぎ・後継者のほうだからです。

つまり、親を変えるのではなく、後継者が変わる必要があるのだ、という事に気付きました。

自己変容のメカニズム

先代が変わらないなら・・・

親が、先代を変えたい。
多くの跡継ぎ・後継者はそう考えています。
しかし、何か変化を求めているのは、跡継ぎ・後継者のほうで、親である先代はまったく変化を求めていない。
だとすれば、変わるべきは跡継ぎ・後期者です。

もう一つ大事なことは、本人が変わろうとしない限り、一切人は変わることはありません。
強制して、表向きの行動が変わっても、目を話せば元に戻るか、もっと悪い方向へ戻ります。

じゃあ自分はどう変わればいいのか、です。
そこで、他人の行動が自分に及ぼす影響を気にする、跡継ぎ・後継者のメンタリティを分析すると最近はやりの「自己肯定感」の低さにぶち当たります。
実はこれは、親の自己肯定感が低いと、その影響は子育てに出ます。
たいてい親は子を支配したいと思うため、干渉しすぎるのです。
そして、現在になって、親子での会社継承において跡継ぎ・後継者が親を疎ましく感じるのも、まさにその干渉です。
何も言わず自分の殻にこもってくれれば、親のことを疎ましく思うことはないでしょう。

そうなると、親子関係の心理学、自己肯定感に関する心理学が有効だと考えられそうです。
そういった書籍をずいぶんいろいろとあさってきました。

課題設定の誤り

そういた思考の中で、そもそもの事業承継における跡継ぎ・後継者の課題設定のまずさにも気付き始めます。
跡継ぎ・後継者は「親の事業を存続させるべき」という呪いにかけられていて、最終ゴールが親の会社を守ることに終始しがちです。
すると何が起こるかというと、問題ばかりが目に付くのです。
「なにもない状態」を目指そうとするわけです。

しかし悲しいかな、何もない状態というのは、進歩のない状態です。
当然、跡継ぎ後継者はそのジレンマを感覚的に悟っています。
そこで、進化させなくてはならないけど安定を求めるという、二重の思考に縛られてしまい身動きが取れなくなってしまいがちです。

その思考をどこへ向けるか。
そこが一つの考えどころと言えるでしょう。

これらの気づきを統合していくと・・・

最終的には、こうやって様々な寄り道の末、解明して言った事実を一つの流れにしたのが本書であり、本書をベースとしたセミナーです。
実は、セミナーに際しては、開催10日前に、10枚ほどスライドを追加するなど、今でも様々な検証を行っており、開催ごとに内容をリフレッシュしていく流れになっています。
とはいえ、コアの部分はほぼぶれないところまで来たんじゃないかと思います。

こういったセミナーを開催するにあたっては、加速学習の権威ポール・R・シーリイ博士が開発した学習メソッドを地味にセミナーの中に取り入れたりもしています。

だいたいここまでの期間が、3年間ほど。
膨大な書籍と、関連セミナーへの参加などいろいろと時間と経費はかけてきたつもりです。
ニーズはあるのでしょうが、ビジネスとしては成立しにくい(なにしろ税理士や銀行や弁護士や、その他各種コンサルタントが本気で参入しないジャンルなのですから)状況ではありますが、ボランティアでは続かないので、なんとかビジネスとして成立するところに育てたい今日この頃です。

Alexas_FotosによるPixabayからの画像

「親の会社と継ぐ技術」の内容を作った行動パターン

ということで、まとめというわけではありませんが、こういった先生も教科書もないジャンルの体系化に向かった私の行動パターンというか、不可欠だったものを少しまとめてみます。

●情熱(というか、しつこさ)
●仮説と検証とそれを疑い続ける気持ち(そのおかげで薄っぺらい理論が徐々に深みのあるものになる)
●学術ジャンルを超えた情報を集める好奇心
●時間(暇じゃないとできませんw)
●アウトプットの機会と実験によるフィードバック
●相談の場数

といったところかな、とおもいます。
あと、割と大事なことは、
●必ず求めた質問の解にたどり着くだろう
というどこか無責任な確信(笑)

もしよろしければ、跡継ぎ・後継者の方も、誰も踏み込んでいないところの知識を深く研究してみてはいかがでしょうか?
わりとしんどいですけど、充実感を感じることもできるかもしれませんよ(笑)

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