後継者

レジャー施設の組織から学ぶ後継者のリーダーシップ

先日家族サービスで訪れたあるレジャー施設。
この中で私たちはお客さんとしての側から、ある部門のリーダーが部下からまったく信頼されていないシーンを目の当たりにしました。
その部門のメンバーの一人が、私たちに耳打ちするのです。
「あのリーダー、最近、お客さんとのトラブルが多くて困ってるんです…」

この施設における組織にはいったい何が起こっているのでしょうか。
ここに、家業を継ぐ後継者のヒントはないのか。
少し考えてみたいと思います。

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あるレジャー施設で起こったトラブル

客にイライラをぶつける担当者!?

この連休、家族でアウトドアスポーツ系のレジャー施設に行ってきました。

このレジャー施設では、一か所、ワンデイパスポートの購入場所があります。
ここで私たちはパスポートを購入し、アトラクションに向かい、その日初めて利用するアトラクションの受付で「同意書」を書かされます。
同意書の内容は、「危険なスポーツもあるのでケガなどは自己責任で」的な内容だったと思います。
私達はそこにサインすることで、黄色いリボンをもらいます。
これを提示することで、アトラクションの受付の人には、「同意済み」であることがわかります。

その施設ではカヌーに乗ることができる池があります。
いくつかのアトラクションを楽しんだのち、家族とともにそこに向かいました。

たまたま親戚9人と訪れたそのアトラクションの受付で、うちの娘だけが黄色のリボンをつけていませんでした。
そこでアトラクションの担当者は、「なんでつけてないんですか!」とちょっと乱暴な感じで声をかけてきました。
こちらは「は?」です。

たまたま娘は午前中体調がすぐれずホテルで休んでいました
私達は午前中にほかのアトラクションで同意書を書きましたが、娘はこのアトラクションがこの日初めての施設利用でした。
だから彼女だけ黄色いリボンがない(つまり同意書を書く機会がなかった)のです。
それをアトラクションの受付の人は、失くしたとか、つけてないだけとでも思ったのでしょう。

その同意書は、ここの受付でも書くことは可能です。
お客としてきた娘が責められる理由は何一つありません。
ここで書いてください、と言えばいいだけの話です。
なのに、「なんでつけてないんだ!」と責めるようなイライラした態度に憤慨させられました。

そこで、抗議しました。
なんだ、その態度は、と。

実はそのレジャー施設は、口コミ評価は二分されていました。
そして評価の問題は、ほとんどが「社員教育がなっていない」ということでした。

派遣社員は見ていた

結局そのアトラクションは乗らず、帰ろうとしたときに、そこの女性従業員の1人がぽつりと言いました。
「せっかく楽しみにしてきてくれたのにごめんなさい。あの人、最近、お客さんからクレームが多いのです」
私達は、その告白にちょっとびっくりしました。

色々と話を聞いてみると、本来、同意書はチケット売り場で書いていただくルールだったと言います。
しかし、チケット売り場はホテルのフロントを兼務していて、朝の時間非常に混雑する。
ということで、フロントでは対応しきれず、アトラクション受付現場でサインをしてもらうような仕組みにかわったのだとか。

しかし現場は現場で、暑い中、行列に並ぶお客さんを捌くので大変です。
勘弁してくれよ、というのが本音でしょう。
それはわからないでもありません。

深々と頭を下げてくれた女性従業員はひとしきりお詫びをしたのち、こうおっしゃいました。
「実はこの現場のリーダーはあの人(イライラした対応をした人)なんです。最近お客様が気分を害されることが多くて気になっていたんですが、こうやって声を上げていただいたことで上にきちんと報告できます」
彼女はこの現場のリーダーの様子に不信感を感じていたのですが、派遣社員ということで上司である彼に話をしても取り合ってもらえなかったそうです。
一つの「クレーム案件」として明確になったから、事件として報告できると感謝を述べていました。
この組織では何が起こっていたのでしょうか?

Free-PhotosによるPixabayからの画像

社員教育の問題ではない!?

顧客への対応はマニュアルでは難しい

この問題、果たして「社員教育」の問題なのでしょうか?
私はそうではない、と思っています。

こんな報告があります。
アメリカのあるマクドナルドの店舗で、アルバイトの1人がこんな工夫を始めました。
お客様にお釣りを渡すとき、右手で小銭を渡すのですが、左手ではお客様が差し出した手の下を支える、というものです。
お渡しした小銭が落ちないように、という心遣いです。
コストも手間もほとんどゼロのこの行為がきっかけで、そのアルバイトのレジだけ、行列ができるようになったと言います。

それを見て、同店のアルバイトスタッフがそれを真似し始めたところ、そのお店の売上は目に見えて上がったそうです。

この話を聞いて、さすがはマクドナルド、マニュアルに盛り込んだそうです。
しかし残念ながら、売上げが上がったお店はほとんどなかったと言います。
結論は、思いが伴わない行動は、お客様には響かない、ということなのでしょう。
初めにこの左手支え運動がはじまった店舗では、みんなでお客様にいい気持ちでお食事をしてもらおうという気持ちが共有されました。
しかし、他の店舗には、動作のマニュアルしか伝わらなかったのです。

つまり、今回のレジャー施設の件では、「こういった場合にはお客様にこう対処せよ」というマニュアルがあっても防止は難しかったでしょう。
社員がイライラを募らせているとき、どんなに仕草や言葉を取り繕っても、お客様は敏感にそれを察知します。
表面的なトラブルが減ったとしても、そのお客様が次訪れることはないのではないでしょうか。

では何の問題なのか?

社員教育では改善しないなら、どうすればいいのでしょうか。

セクショナリズムというのでしょうか。
部門間での対立が見え隠れしています。
さらに言うなら、現場リーダーが部下にまったく信用されていない、という状況も感じられます。

つまり、コミュニケーションがうまくいっていないのです。

まず、現場の人間はフロントが現場に仕事を押し付けている(同意書の件)と考えています。
フロントは私のみた感じでは、どうも人不足に陥っているような気がします。
あるいは、経費節減のために、人を減らしているかのどちらかでしょう。

現場はこういった施設で必要とされるホスピタリティの精神はあまり感じられないスタッフが多かったように思います。
アトラクションへの整理券の配布に関する情報不足で、他のお客さんとのトラブルを招いていたのをチラ見するシーンもありました。

彼らの仕事の目的が、「手元の仕事をこなす」こととされていて、「お客様に楽しんでもらう」という感覚がほとんど感じられないのは残念でした。
きっと、組織として、そういった方針を持っていないか、幹部陣がそれを言葉だけのものとして軽く考えているのではないかと感じます。
施設のハード面はどんどん拡張しているので、アトラクションさえ面白いものを作ればいい、とハードウェアの事ばかりを考えている経営陣なのかもしれません。

私達がトラブったアトラクションのリーダーは、少し危険を伴うスポーツなだけに
「事故の責任を会社(ひいては自分)がかぶらないこと」
を中心に考えていたのでしょう。
組織人的にはアリかもしれませんが、それが高じるとお客さんに不快感を与えることもあるように思います。

信用を失ったリーダー

さて、ここには組織全体としての非常に深い闇がありそうな気はしましたが、こんかい対峙したリーダー個人の問題も見え隠れします。
私達が、彼の態度を抗議した時、普通は部下はリーダーを擁護する側に回るはずです。
それが、部下の1人の女性従業員が、「リーダーの考え方はおかしい、会社に報告します」と言い出す始末。
あの人がリーダーなので、私たちは何もできない、とさえ言うのです。

ここまで部下の信頼を損ねるリーダーって、いったい何が問題なのでしょうか。

リーダーは責任者として、「お客様の安全を守る」ということにはご自身として強い使命感を持っておられると思います。
そして、カヌーや水難救助にかんしては、チーム内では卓越した知識と経験を持っているのだと想像します。

これ、ありがちなパターンですね。
その現場で一番経験があって、仕事ができる人がリーダーになるというのは。
本来そういう仕事上のスキルが高いと、メンバーから尊敬されそうなものなのですが、どうもそうではないようです。

その上司をトラブルメーカーと感じている女性部下と、上司はたぶん違うところを見ているんだと思います。
だから直接対話をしても、うまくかみ合いません。

リーダーが考えているのは、安全が何より優先されるべき、という考え方です。
これ自体は、何も悪い話ではありません。
かのディズニーリゾートでも、最優先するのは安全です。
ちなみに、以下は東京ディスに―リゾートの行動基準です。

【 Safety 】 安全な場所、やすらぎを感じる空間を作りだすために、ゲストにとっても、キャストにとっても安全を最優先すること。
【Courtesy】 “すべてのゲストがVIP”との理念に基づき、言葉づかいや対応が丁寧なことはもちろん、相手の立場にたった、親しみやすく、心をこめたおもてなしをすること。
【 Show 】 あらゆるものがテーマショーという観点から考えられ、施設の点検や清掃などを行うほか、キャストも「毎日が初演」の気持ちを忘れず、ショーを演じること。
【Efficiency】 安全、礼儀正しさ、ショーを心がけ、さらにチームワークを発揮することで、効率を高めること。

行動規準「The Four Keys~4つの鍵~」(東京ディズニーリゾート)

たぶんですが、この四つをギリギリのところでバランスさせるよう、TDRの人たちは頑張っているように思います。

 

色々話が飛びましたが、この部門リーダーが社員に信用されない理由を列挙すると、
1.ガンコでお客様や部下の話を聞こうとしない(自分が常に正しいと信じている)
2.自分の保身を「お客様の安全」に転化している
3.本部への不満をお客さんにぶつけ、お客さんを楽しませるという使命を見失っている
ということで、すこし意固地な人間像が浮かび上がってきます。

Free-PhotosによるPixabayからの画像

後継者がリーダーシップを握るコツ

誤ったリーダー像

今回のカヌーリーダーは、リーダーのやり方に疑問を持つメンバーがいることに無頓着だったこと。
安全を重視している自分の方向性には間違いがない、と過信して人の意見を受け入れようとしない事。
自分は”お客さんのため”に安全確保に全霊をかけている、と思い込んでいるけど、自己保身であること。
自分達の仕事の目的を明確にできていないこと(目の前の仕事をこなすことが全て?)。
これらが、チームの実質的な崩壊状態を生み出していたように思います。

そして、これは家業を継いだ後継者が最も起こしやすい組織における問題ではないか、と私は考えています。

これらを解決する、最も有効な方法は、しっかりと「聴く」姿勢を持つ、という事です。
チームメンバーの声に耳を傾け、お客様の声に耳を傾ける。
ガンコな職人気質な人や、経験豊富な人の大きな問題は、
経験の浅い社員から学ぶことは何もなくて、常に自分のほうが正しい
と思い込んでいる事です。

いやいや、自分はそんな事…と思っている人がほとんど(私も含めて)なんですが、ふとした時に、部下や家族や友人のアドバイスを聞いて、検討もせず
「自分には効果がない」とか、「自分には合わない」とか「できっこない」とか反射的に返事をしていないでしょうか。

メンバーが納得できる「目的意識」

そうやって、コミュニケーションの土壌を作った後に行うのは、彼らとともにどんな未来を作りたいかを明確にすることです。
ミッションとかビジョンとか、言葉はいろいろですが、要はどんな価値を生み出したいかを明確にしてください。
レジャー施設なら恐らく基本は、その日の体験を生涯の思い出にしてもらえるような一日を作り上げる事でしょう。
そのためには確かに安全が大事です。
東京ディズニーリゾートが、安心安全な場を作ることを最優先するのは、どんなに楽しい一日も一度の事故で台無しになるからだ、と聞きます。
安全もまた、楽しい一日のためにあるのです。

決して保身のためではない、ということが大事だと思います。

いやいや、保身のためでも、楽しい一日のためにでも、「事故を起こさない」という意味ではおんなじでしょ?と思うかもしれません。
しかし、マクドナルドの話を思い出してください。
思いのこもらない行動は、相手に見抜かれます。
目の前のお客様の楽しみを最大限にする、という思いを持たずして維持する安全から感じ取るのは無機質な印象なのではないかと思います。

そして「人のため」というミッションは、メンバーを動かす原動力となります。

こんな実験があります。
ある高校で、一つ目のクラスでは何もつたえず、
二つ目のクラスでは、今やってる勉強がこんな風に世界の人を救う、ということを伝えて試験に臨ませました。

結果、後者のグループは、勉強時間が明らかに多かった(当然自主的に行った勉強です)といいます。
このことは、人は他人のためになる事なら頑張れる、ということを証明した実験と言われています。

その場しのぎのモチベーションアップの施策より、会社として、チームとして、人のためになる仕事をしているということを理解させるのがもっとも簡単なモチベーションアップと言えそうです。

組織がうまくいかないときはチェックしてみよう

もしも、後継者としてリーダーシップをとる際、うまくいかないとすれば、以下のことをチェックしてみてはいかがでしょうか?

□部下の話を聞く時間を設けていない
□部下の提案を受け入れていない
□会社やプロジェクトの目的がめいかくではない
□私利私欲のための目標設定になっている
□部下が仕事の意義を理解していない(リーダーが語っていない)
□自分の保身で物を言っている(自分に責任が及ばないように画策してないか)

模式になるところがあれば、見直してみると組織の風通しが格段に良くなることもあるのではないでしょうか。

 

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