何も制約がないという状態。
私たちは、そんなことに淡い憧れを持ちます。
しかし、予算も、期限も、法的な問題でも、何ら制約がない状態があるとすれば、
果たして私たちに何ができるでしょうか?
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「逃走中」などの数々のヒットTV番組を送り出しているクリエイター高瀬敦也氏が、著書「人が動くコンテンツのつくり方」でこんなことをおっしゃっています。
「番組制作などのコンテンツ作りには、制約や予算、締め切りがあるから完成する。
しかし、それらがなければ、それは「芸術」だ、と」
予算の区切りもなく、締め切りもなく、ただただ自分が納得できる作品を作る芸術家。
例えば画家なら、鉛筆なのか、水彩なのか、油彩なのか、たくさんの選択肢があります。
その中から、自分を表現するのに最も適したものを選び、大きさを考え、構図を考え・・・
果てしなく続く選択の中から最良のものを創り出す。
多くの芸術家は、作品を絞り出すために、苦悩の日々を送っている話をよく耳にします。
実は、自由ほど大変なことはないのです。
これ、けっこう大変だし、途中で糸が切れてしまえば完成しません。
そして、完成することなく、世に出なかった作品は意味を成しません。
私たち、跡取り息子(娘)といわれる後継者は、その点簡単です。
すでに事業があり、すでに会社があり、すでに顧客があります。
それは私たちにとって、「制約」と見えることも確かにあります。
しかし、その制約があるからこそ、私たちはやっていけると思うことはないでしょうか?
一つ、残念なお話を共有させてください。
たとえば、サラリーマンが副業なり、起業なりを考えたとしましょう。
すでに得意分野が明確で、それが世の中で商品としての価値があるならいい。
しかしたいていは、そんなものはないし、自分では「持っているつもり」でも、世間の評価は得られないレベルのものが多い。
ある知人は、アパレルの大企業で人事の仕事をしていました。
多くのアルバイターを使ったことがあるので、退職後、人を使うスキルで起業しようとしました。
しかし残念ながら上手くはいきませんでした。
彼が何をやったかといえば、フランチャイズのパソコンスクールです。
ご自身は、たいしてパソコンが好きでもなければ、使いこなせるわけでもないのに、です。
やはりその会社はうまくいきませんでした。
そして最後、会社を閉めるときに彼が言っていたのは、
「人の問題は難しい・・・」
でした。
集客もうまくいっていなかった現実はあったのですが、それ以上に人の問題が大きかったといいます。
彼は、「人を使うのがうまい」つもりだったけど、それは組織の一部として動いていたからそれが成り立っていただけの話なのかもしれません。
彼のように60歳を過ぎた人でさえ、自分の能力をよくわかっていません。
今、30歳代、40歳代である後継者の方々が、自分の能力ややりたいことがわからないのは当たり前かもしれません。
もし、後継者・跡取りといわれるあなたが、
今どうしてもヤリタイ、ということがないとしたら、
自分をどう活かすかわからない、という状態なら、
「制約」の中で最善を尽くすのも一考かと思います。
制約がないということは、選択肢が無限大ということになります。
そして、選択肢が多ければ多いほど、私たちはタスクを完成させるのが困難になります。
これも、「人が動くコンテンツのつくり方」で紹介されている話ですが、ミュージシャンの話です。
彼らは、一曲を完成させるまでに、自分たちが作った曲を、何百回と聴きます。
聞いているうちに、良いのか悪いのかわからなくなってくる。
けっきょく飽きてしまって「これはボツだ」ということになる。
ということで、別の曲を手掛けては、同じ状況に陥る。
しかし、彼らには締め切りがあります。
締め切りが直前に迫り、それに間に合わせるため、一旦はボツにした曲を引っ張り出してきて何とかアルバム一枚に仕立てる。
本人的には、やっぱり良いのか悪いのかわからないんですが、ユーザーにとっては当然、初めて聞く曲ばかり。
そこで初めて評価が付く。
とにもかくにも、世に出さなければ価値はない、ということ。
そのためには、締め切りといった「制約」は、とても大事なことだといいます。
さて、後継者や跡継ぎの方によく「何の制約もないとしたら、何がやりたいですか?」と聞いたとき、「これこれこういうことがやりたいです!」と即答された記憶はほとんどありません。
つまり、なんとなく「制約」にプレッシャーを感じてはいるけど、「制約」が自分の何かを邪魔してるということでもなさそうです。
この「制約」を先代である親の主張とか、ふるまい、と読み替えたとき、「親の支配を受けるのは嫌だ」という思いはあるかもしれません。
しかし、じゃあそれがなければ、どうするのか?ということに思いを抱くことは意外と少ないようです。
逆に、邪魔が入る中で、やろうとしていることを実現する、という制約が実はあなたの推進力の源になりえるかもしれません。
私たちは、「制約」に息苦しい感覚を感じますが、ちょっと見方を変えてみると、その制約があってこそ進めることができるものもある。
そして、その制約があるからこそ生まれるものもあるのではないでしょうか。
家業があるという時点であなたにとって制約かもしれません。
しかし多くのテクノロジーが、大きさや重さの制約をクリアするために発展してきたように、あなた自身も、家業という制約をクリアすることで成長が促されるはずです。
制約があるからできないというないものねだりをやめて、
制約があるからできることを見つめてみませんか?
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