後継者

二代目経営者の妻が置かれる状況

同族会社の経営の継承の背景には、あまり表に出ることはありませんが、その配偶者の微妙な立場があります。
歌舞伎俳優に嫁入りする妻を、”梨園の妻”と呼ぶようです。
どこか秘密めいたヴェールに包まれた世界に関心を寄せる人も少なからずいらっしゃるかもしれません。
そのような華やかな世界だけでなく、同族経営を引き継いだ息子の妻。(逆の場合もあるでしょう)

こういった方々もまた、様々な制約の中で生きているような気がしてなりません。


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私が結婚するとき、私の仲人は父のかつての上司でした。
元大手楽器メーカーで辣腕をふるい、当時鬼軍曹と呼ばれた人物です。
その後、サラリーマンをやめ、経営コンサルタントとして独立。
著書も数多く残しておられるカリスマコンサルタントでした。

もちろん、仲人をお願いするのに、他の選択肢はありません。
父の一存でその人以外にあり得なかったわけです。
最近はどうかはわかりませんが、私が結婚したころは、結婚式の登場人物は常に政治的判断。
特に後継者である私の意見をさしはさむ余地はありません。(といってもさしたる意見はありませんでしたが・・・)

 

さて、仲人の方のところへ事前にあいさつに行くと、仲人夫婦からはフィアンセへの説教が始まります。
経営者の妻たるもの、こうあるべき、的な感じですね。

仲人の方としては、もちろん良かれと思っての指導です。
しかし、妻にしてみると、その時の言葉がずっと頭に残っていたりします。その言葉を一生引きずることになります。

日々の付き合いでもきっと、義父母(夫の両親)のところでも、後継者の嫁であるからこうあるべき的な訓示もあるでしょうし、
親との確執の中で悩む夫を見て、その苦しみを共有する事もあるでしょう。

仲人の方も、義父母も、悪気があって言うわけでも、何かを強制するつもりもないのはよくわかっています。
しかし、まじめな妻ほどそれを真摯に受け取ってしまい、だんだんと苦しくなってくる。

 

私は、会社の事に妻がかかわることを固辞しました。
それは、もはや親と同居しろ、というのと同じくらいの重みがある事だと感じていたからです。
はじめのうちは上手くいくかもしれませんが、そこに私達にとっての悩みの種が生まれるのは間違いないと感じていました。
しかし、当時の周囲の常識からすると、中小企業の妻は会社で亭主の仕事を手伝うべし、というのが暗黙の了解だったようです。
会う人、会う人から、「奥様は?」と聞かれるわけです。
私の両親も、それを求めました。
しかし、両親が何を言おうと、一切聞き入れませんでした。

 

私の場合、前述の通り、会社にはかかわらせないと決めていましたから、取り立てて問題は起こりませんでした。
しかし、当時の”慣習”にならって、奥様に仕事を手伝ってもらう二代目経営者も友人関係の中には何人かいらっしゃいます。
そんな友人の奥様にコッソリ話をきくと、やはり二代目経営者の妻はそれなりの苦労があるようです。

もちろん、みな一様に、
「義父母は、良くしてくれています。」
といいますし、実際そうでしょう。

 

しかし、背負うものが一般のサラリーマンとは少し異質なものになるのは間違いありません。
義父母=夫の上司。
そして大抵は、夫は義父母との仲がだんだんと悪くなっていく。
その狭間に立つ奥様のご苦労は、想像に絶するものだと思います。

実際にネット検索をかけると

・2代目の妻は、耐えるべきでしょうか?
・自営業二代目の嫁って大変?
・自営業の嫁は手伝わないといけませんか?
・自営業の夫持つ妻の悩み

などなど、でるわでるわ。
場合によっては、二代目経営者以上の重い悩みを持っていそうです。
とくに女性(妻)という立場上、古い日本の慣習から夫の両親に対して意見することがはばかられる風潮もあります。
しかも、周囲を見回せば夫の親戚だらけ。
結局その思いは、心の中に閉じ込めざるを得ない状況にあるのかもしれません。

 

こういった場合、その妻の立場を理解していなければ、二代目経営者自身が妻を攻撃する事さえあります。夫が親に反抗できないから、親の意向を妻に強制する。
考えようによっては、妻の立場は、二代目経営者自身よりも孤独なのかもしれません。
梨園の妻と同様、後継者の妻にも特有の悩みがあることを、後継者自身は知っておいたほうが良いでしょう。
後継者のファミリーの中で孤立し、さらに夫さえも理解者でないとすれば、どこに居場所があるのでしょうか。

残念ながら、私はそういった二代目経営者の妻という立場の方の本心をじっくり聞くことはできません。
なぜなら、二代目経営者自身とのコミュニケーションがある以上、その奥様は心を開いて話をすることがないからです。
サンプルは、私の身内である妻のみ。
ですから、さしたるアドバイスもできません。

しかし、唯一言えるとすれば、孤独な妻の防波堤とまでは言わないまでも、理解者である必要はあるでしょう。妻には妻の人生があります。

ところで、昨日、まさに梨園の妻である小林麻央さんが、闘病の末お亡くなりになられたニュースが耳に入りました。
彼女は梨園の妻というより、病魔との闘いの中で、ある結論に至ったようです。
そんな小林麻央さんの手記が、2016年11月23日にBBCから公表されています。

彼女が戦った相手はガンです。しかし、そこまでに、梨園の妻という立場の中で苦しい場面もあったのは容易に想像できます。その彼女が至った結論は、一度きりの人生をありたい姿で生きることだったのでしょう。

2代目経営者の妻もまた、ありたい姿があるはずです。その理解者として、サポートする事は二代目経営者にとって重要な事なのではないでしょうか。

人の死は、病気であるかにかかわらず、

いつ訪れるか分かりません。

例えば、私が今死んだら、

人はどう思うでしょうか。

「まだ34歳の若さで、可哀想に」

「小さな子供を残して、可哀想に」

でしょうか??

私は、そんなふうには思われたくありません。

なぜなら、病気になったことが

私の人生を代表する出来事ではないからです。

私の人生は、夢を叶え、時に苦しみもがき、

愛する人に出会い、

2人の宝物を授かり、家族に愛され、

愛した、色どり豊かな人生だからです。

だから、

与えられた時間を、病気の色だけに

支配されることは、やめました。

なりたい自分になる。人生をより色どり豊かなものにするために。

だって、人生は一度きりだから。

がんと闘病の小林麻央さん、BBCに寄稿 「色どり豊かな人生」より

 

ご自身の病気を公表し、ブログで多くの人を勇気づけてきた小林麻央さんのご冥福をお祈りします。

 

 


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