後継者

会社の強みを考え続けたら、忘れられていたリソースに気づいたという話

自社の強みって何だろう?
経営戦略やマーケティングを考えるとぶつかる問題です。
私自身、USP(Unique Selling Proposition)、つまり自社独自の売りを聞かれて、思わず頭を抱え込んでしまいました。

会社の後継者としては、ここをこたえられなければならないわけですが、何と答えますか?
「あなたの会社が、他と優れているところはどこですか?」
そう聞かれて、自分として納得のいく答えを出すことはできるでしょうか?

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自社の強みをお客様が言葉にできないとしたら・・・

自社の強みを知ろうとして突き付けられる現実

私が後継者として親の会社を継いだ時、会社をどう成長させるかをずいぶんと考えました。
決めていたのは、父のやり方をトレースするつもりはない、ということだけ。
つもりはない、と書きましたが実際は、そんなことはできないというのが自己評価です。

営業が得意な父を見返すには、営業せずに売り上げを上げること。
私自身が営業でつまずき、苦しみ、心を病んだ友人なども見てきた経緯もあったので、営業は悪だと私は考えていたということもあったのかもしれません。
営業せずに売り上げを上げるには、まずは自社のどこが優れているかを言語化しなくてはなりません。
そこで、世間で言われる方法を試してみたのですが、わかったことは衝撃的な「現実」でした。

それは、お客様が認識できる強みはない、ということだったのです。

お客様は私たちの良さを知ってくれている・・・?

USP(自社独自の優れた点)をあぶりだすのに、最も優れた方法は「お客様に聞く」ということです。
個別にインタビューできればベストですが、私はまず、お客様にアンケートを実施しました。
それは、こんな問いかけを行うアンケートです。

「数ある同業者から、私どもを選びつづけてくださる理由はどんなものですか?」
このたった一つの質問に、A4用紙1枚を使って書けるような枠だけを作ってお客様にお送りしました。
返信されてくる内容にはドキドキでしたが、おおむねこんな感じでした。

・いつも迅速な対応で安心できる
・電話対応が真心がこもっている
・専門的なアドバイスを頂ける
・いつもお任せしています

初めのうちは、このようなお声に、ホッとしてました。
ああ、私たちは、キチンとやっていると、お客様は認識してくださってるんだな、と。
しかし、「それは本当だろうか?」と考えたとき、これはまずい、と思ったわけです。

差別化になっていないUSP

さて、当時の私は暢気にも、自分達は、迅速な対応、真心のある対応、お任せいただける信頼感が自分たちの差別化ポイントだと思い込もうとしました。
しかし、です。
よくよく考えてみれば、これらは「企業としてなくてはならないもの」なはずです。
逆に、これらのことができていなければ、お客様から叱られるようなことばかり。
つまり、自分たちの強みではなく、ビジネスとしての常識がとりあえずできているというレベルの評価でしかないのです。

そうやって同業他社のホームページを見てみると、ありました。
どの会社も、「迅速な対応」「真心を大事にします」「信頼」「専門性」と、同じことをうたっています。
他社と同じことを謳って、「差別化ポイント」「USP」とはなんとおかしな話か!と顔から火が出る思いでした。
そこから私は、自分の会社の良さを知ろうと思えば思うほど、迷路にはまってしまったかのような感覚に陥るようになりました。

心理的に特殊な商品

なぜお客様は私たちのことを具体的に評価できないのか?

「社会人や企業として当たり前」のことしかお客様が評価しえない状態。
これについては二つの理由を思いつきます。
一つ目は、たしかにもう少し深い価値を感じているものの、抽象的で言語化しにくいということです。
例えば行きつけの料理店や、床屋さんで「いつもどおりで」といえば、すかさず料理が出たり散髪が始まるような居心地。
これはなかなか言語化しにくいもので、結局は、「おまかせしています」という評価になりやすいでしょう。

そしてもう一つは、それ以外に特段の価値は感じていない、ということです。
企業側は何かしらの価値を提供しているつもりでも、お客様にとっては価値として感じられない行き違いがある可能性がありそうです。
たとえば、早さと安さが自慢の定食屋さんに、「当店にはソムリエがいます」といっても価値を感じる人は少ないと思います。

じゃあ、当社の場合はどうなのでしょうか。
残念ながら、後者であったのではないかと思うのです。

本当のお客様の望みは何か?

私が父から引き継いだ会社は、保険の販売店です。
一般的には、この業界はプロフェッショナリズムを強調することで差別化できると信じている側面があります。
〇〇の資格保有者がいるとか、△△の専門分野に通じているとか。
これは、「安心感」を醸成する中でのアイテムではありますが、同業他社が同じことをアピールしている以上、そのことで差別化は難しい。
しかも、私たちの「商品」を「保険商品」と定義すると、作り手は保険会社です。
同じ保険会社が供給する以上、どの販売店でも同じ価格で同じ商品が提供できます。
となると、残念ながら商品における差別化はほぼ不可能です。

だから、加入時のコンサルティングなどで差別化をしよう、というのがこの業界のトレンドです。
確かにそれはまっとうな考えなのですが、ある問題があります。
お客様が本当にそれを求めているのか?という話になっていくのです。

お客様にとっての私たちへの期待

多くの方にとって、「保険」とはどんなものでしょうか?
ある程度認識できることとして、
・困った時に助けてもらえるもの
という部分が強いと思います。

その前提に「困ったことが起こるかもしれないし、起こらないかもしれない」という不確実性があります。
そう、お客様が買っている保険という商品は、役に立つかもしれないし、立たないかもしれないのです。

私は以前、amazon安い時計を買ったことがあります。
送られてきた商品は、数日でダメになってしまい、電池交換もできない機種でした。
次に、もう少し高い時計を買いました。
すると、3日間は快適に使えますが、電池がなくなってしまいます。
そこで電池交換をしたところ、次の3日間でまた使えなくなってしまいました。

それ以来、「使えるか使えないかわからないものを買うのは、安くてもうんざりだ」と思うようになりました。

きっと多くの人がそう思うでしょうが、保険という商品は、ある意味それに似ています。
事故は起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。
安物の時計レベルの話ではないから、仕方なく契約するけど、出来ることなら買わずに済ませたくはない買い物なのではないか?
というところに思い至りました。

客観的に見れば、世の中に必要な商品ではあるものの、個人や企業において、出来れば買いたくない(けど仕方なく買う)商品の1つであることが多いのではないか?ということに気づきました。

さらに言うなら、保険というのは事故がなければ、その商品の購入が正解だったかどうかがわかりません。
逆に言えば、その時点で間違いに気づいてももう遅いわけです。
その保険は役に立ちません。
そんな事の内容に、と業界側は「プロ」としての知識や技術の習得を課しているわけですが、残念ながら素人であるお客様にとって、プロかそうでないかを見分ける手段はないに等しいのです。

あけてみなければわからないおみくじのようなもので、お客様は保険屋さんの良し悪しを判断できない。
そもそも、前段のお客様アンケートの回答が、常識的な内容から出なかった理由にはたと思いつくことがありました。
特段お客様は、私たちにビジネス上の常識以上に何を求めていいのかわからない、という状況だったのではないでしょうか。

私たちの事業は何か?

自分の会社の仕事を抽象化してみる

自分の会社のUSPを考え始めた途端、すっかり行き詰まってしまいました(苦笑)

少し言い訳がましいことを言うと、後にあるマーケティングコンサルタントの佐藤昌弘先生がこんなことをおっしゃっていたことを共有しておきたいと思います。
「保険、シロアリ駆除、ホームセキュリティといった”予防商品”は一般のマーケティング理論が当てはまらないことがある」
考えてみれば、いろいろとマーケティングの勉強をしてもなかなかうまくいかないのは、そもそも本質的なお客様の心理構造がほかの業種とは別物なのかもしれません。

そこで私は少し、視点をかえてみました。
私たちの事業は何か、ということです。
たしか、ドラッカーが提示した質問の1つだったと思います。

表面的に見れば、「保険会社の委託を受けて、一般顧客に保険を販売し、管理し、事故時のサポートをする」というのが父から譲り受けた会社の事業です。
では、私たちの商品は何か?と考えてみました。
一般的には、保険代理店と言われる業種なので、私たちの商品は「保険」です、となるわけです。
しかし、保険は保険会社の商品です。
じゃあ私たちはどんな商品(どんな価値を)顧客に提供しているかを考えてみました。

ここで見落としてはいけないのは、私たちはお客様から仕事を受けているわけではない、ということです。
私たちは、保険会社から委託を受けて、商品をお客様に提供している。
手っ取り早く言うと、保険会社に販売力を提供しています。
失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、保険会社に販売力を提供するため、継続的な販売を行うために、顧客とのコミュニケーションやサービスを提供しています。

すると、私たちは、保険会社に「顧客とのコミュニケーション」を販売していることになります。
そして顧客にとっては、顔の見えない保険会社のだれかではなく、顔が見える私たちという人間がコミュニケーションをとることで安心して相談いただける環境を作っているのだと思います。

つまり、私たちの仕事は、実は顧客との関係を構築し、顧客に様々な情報をお届けすること、と定義できそうです。

数行で語っていますが、この話は業界内の常識をかなり逸脱してます。
それだけに、自分なりの結論をここに導くまでは、ずいぶんの年月と、自問自答が必要でした。

自分達の事業を定義したら見えたこと

保険という差別化のできないものを、自分たちの事業と考えていたときには全く見えなかったUSP。
これが、顧客とのコミュニケーションこそが我々の事業である、という定義が見えてくるといろんなことが見え始めてきます。
この事業を通じて何を成し遂げるのか?ということを考えたときに、様々な思いが浮かびます。

当社のある地域は、都市部の中では比較的高齢化が進んでいます。
女性や若者が起業などで社会に出ようと頑張っています。
中小企業は後継者問題を抱えています。

これらを解決するにおいて、自分たちの会社にも何かしらの出番があるかもしれない。
そう考え始めました。
そんな時にひらめいたのが、「ほとんど使われることのない会議室」の存在でした。
マーケティング的なUSPとはちょっと違うかもしれませんが、これそのものが強みになると感じ始めました。
人をつなぐにおいて、場所は必要です。
その場所が、タダで存在しているのですから、社内的にはこんなありがたいことはありません。

事実、この場所が縁でたくさんの人とつながることができたし、今も新しい縁を生み続けています。

なぜ後継者は会社の強みを探る必要があるのか?

USPをどう活かすか?

自分達のウリはなにか。
同業他社を出し抜き、圧倒的な差別化を・・・
そんな思いから始まった、自分の会社の”良かった探し”は、思わぬところに来てしまいました。
その原因は、きっと前に紹介した”予防商品”へのお客様の心理的な向き合い方でしょう。
上手くいかない経験を繰り返して、最終的には事業の在り方を検討するところまで来てしまいました。

一般的な企業であれば、明確になったUSPがあれば、まずはそれを前面に押し出したプロモーションをしたりするのでしょう。
たとえば、機械工業に強い〇〇屋さんとか、
飲食店に強い△△屋さんとか、
そんな顧客の偏りをもとに、自分の強みを伸ばしていくことが一般的だとおもいます。

しかし、親から引き継いだ会社の顧客は、あまり顧客に偏りがなかったのでそれもイメージしにくかったのです。
結果として、行くとこまで行っちゃって、まわりまわって認識できたUSPが「余ってる会議室」(苦笑)
あんまりにかっこ悪いので何とかならないか、と思うのですがこれを使ったら人がどんどん集まるのでやめられなくなりました。
当面は、この会議室を軸に、ビジネスモデルを組み立てていくことになりそうです。
そこでは、保険という保険会社の商品は、手段の一つ。
それを使うか使わないか、使うとすればどう使うかは、今後の課題です。

強みは自分にとっては「あたりまえ」だったりする

人であれ企業であれ、強みというものを自分で認識できることは少ないと思います。
なぜなら、それは人が苦労しなければできないことだけど、強みとしている人自身はたいていこともなげにやっているからです。
あたりまえにやっていることが、実は市場の中では割と価値のある事だったりします。

一方、親の会社を引き継ぐ後継者は、会社に対して厳しい見方をする方が多いと思います。
できていないことばかりが目に付いて、課題山積だと頭を抱えていることが多いのではないでしょうか?
当然、会社の良い部分というのは目に入りにくいですよね。
だからお客様に聞こうよ、ということなのですが自分の経験上は、それでは強みを発見できませんでした。
そこでどんどん深く突き詰めていったわけです。
しかし、改めてアンケートを見返してみれば、そこにヒントはあったように思います。

それは「気軽にいろんなことを聞ける」というお声でした。
私はそんなこと、たいした話ではない、と気にも留めていなかったのですが、一周廻って「顧客とのコミュニケーション」というところにやってきたとき、このお声の意味が急浮上してきました。
保険屋さんと顧客という関係の中では実現が難しいことですが、地域のコミュニティの中での関係性ではいくらでも実現できることです。
ここまできて感じるのは、やはり自分たちの事業が「保険を売る事」という定義を持っているうちは気が付かなかった点かもしれません。

後継者にとっての会社の強み

ここまでは私が、自分の会社を再認識するにいたった思考の道筋を文章にしてみたわけです。
きっとこの過程がなければ、親から引き継いだ会社について深く考えることもなかったかもしれません。
ただただ、なんとなく親や、業界で言われる「常識」の中で埋もれていたことでしょう。
そして会社がもっている強み、リソースを無駄に遊ばせているだけで終わっていたかもしれません。

まあ現在進行形の話なので、うまくいくとは約束できませんが、少なくとも自分にとって今の気づきはかなり大きなものだったと思います。
頭を切り替えないと見えてこない、自分の親の会社の強み。
これをじっくり継続的に考えてみてはいかがでしょうか。
そうすれば、会社の今だけではなく、未来のイメージが見えてくるのではないでしょうか。

 

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