古い業種だからできること

親の仕事はもう斜陽産業だから、継ぎたくない。
家業を継いだものの、事業とてはすでに終わっている。
後継者の方にはそんな風に感じる方も多いと思います。
それはそれで正しい認識だと思います。

ただ、こんな話もあるのです。

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売上ゼロの会社を引き継いだ後継者

引き継いだ企業に顧客はいなかった!?

ある製造業を後継者として引き継いだAさん。
ここでは、プライバシーの関係もあり業種は伏せさせていただきますが、誰もが日常的に使うものを製造しています。
しかし、会社の引継ぎの際に、様々な問題が発生し、安定的に発注してくれていた取引先との関係が切れてしまいました。
その後継者Aさんは、売上ゼロ、顧客ゼロという状態で、その製造業を引き継ぐことになってしまいました。

それでも大掛かりの工場もあり、社員も結構な数がいます。
仕事がないにもかかわらず、毎月毎月出ていく固定費。
ほとんどたくわえのなかったその会社は、毎月数百万円単位の赤字を垂れ流していました。

その業界と言えば、消費者のニーズは「とりあえず安ければいい」というのが一般的な認識。
とうぜん、高品質な日本製より、海外からくる安価な製品が主流を占めていました。
顧客もなく、当然売り上げもない。
そんな状況に、後継者であるAさんは途方に暮れていました。

古い業界特有の仲間意識の壁

Aさんは、まずは業界の情報を知ろう、と業界団体に顔を出しました。
しかし、業界の方々にとってみれば、それまで他のビジネスを営んでいたAさんはよそ者。
業界のしきたりや、暗黙のルールを破壊する、脅威に感じられたのかもしれません。
業界団体の面々にとっては、異星人の襲来といえるほどのインパクトがあったのでしょう。
Aさんは、その業界団体から締め出されたといいます。
同じ製品を作る人たちからも受け入れられず、Aさんはまさに孤独。

そこでとる方法は、一つ。
自社ブランドを確立しよう。
そう決心したそうです。

OEMで成り立つ業界

差別化が難しい商品

Aさんが扱う商品は、コモディティ化の激しい商品です。
どの家庭にも一定の需要があるものの、すでに市場は成熟しています。
だからどの家庭でも、「安いものを使い捨てで」使う感覚が強い。
安さを競うと、やはり東南アジアなどで生産されているものが有利。
その結果、日本の製造業者は益々売り上げを落としていっていました。

そこでAさんは、とにかく商品開発に力を入れました。
今ある技術で、今までにない商品を。
そんな思いで、赤字まみれの状態に、さらに投資を行い次々と新商品を開発していきました。
そして自社ブランドを確立し、広告戦略を立て、今では独自のブランドを形成しつつあります。
それに呼応するように、売り上げはどんどん上を向き始めました。

Aさんがやったこと

Aさんは、業界団体からはじかれた時、あることを考えたといいます。
この方たちと仕事の奪い合いをするのはやめよう、と。
誰かと競い、仕事を奪い合えば、どうしても価格競争に陥りがちです。
また、既存事業者を押しのけてそこに自分の立ち位置を確保したところで、辛酸をなめる人が変わるだけの話。
だから、Aさんは、他の同業者が目をつけなかった販路を開拓し、そこにアピールできる商品を開発しました。

Aさんによると、その業界は売り上げの大半をOEMに負っているといいます。
企画を発注者がつくり、その指示に従ってただ作る。
逆に言うと、自社で商品開発を行っている企業はほとんどないそうです。
もちろん、商品開発にはお金と時間がかかります。
そうやって開発した商品も、上手くいくものは数パーセント。
そんなリスクをとって、新商品開発を行うより、OEMで製造に徹するほうが精神的には楽。
しかし当然、OEM業者は発注者からの値段を含めた厳しい要求に対応せざるを得ません。
そんな対応に右往左往している企業がほとんどであるなかで、果敢に新商品を開発し、新たな販路を開拓したこと。
これがAさんのやったことと言えそうです。

現在、Aさんのブランドはマスコミの注目するところにあり(もちろんそう仕掛けた結果ではあるようですが)、会社の業績も上を向き始めたといいます。
売上ゼロ、顧客ゼロで引き継いだ会社が、やっと健全に回り始めたといいます。
これまで累積した赤字を取り戻すのか?と聞けば、Aさんは、こう答えます。
「いえいえ、まだまだ商品開発をどんどんやっていきます。当面は、先行投資ですね」
良くも悪くも、彼の会社に「安定」はないのかもしれません。

安定を求めて苦労をする業界

誰かのルールで仕事をすること

さて、今回のAさんのケース。
こうやってあらすじだけなぞっていくと、キレイな成長物語に見えるかもしれません。
しかしその過程を見ていると、本当に血のにじむような努力があっての現在。

これは当初から意図していたことか、結果としてそうなったことかはわかりませんが、業界の常識ともいえる「OEM」を中心とした仕事を脱したことが象徴的なことのように感じられます。
業界全体としては、OEMの仕事はある意味安定しているのでしょう。
そのOEMの元となる企業とつながってさえいれば、言われた仕様で、言われた数を用意すれば一定数の売り上げが見込めるわけです。
安定的に仕事が入り、売り上げが立つ。
そう感じられる仕事のやりかたです。

一方、次々と新商品を開発し、世に問うというのは非常にリスキー。
在庫リスクを抱えたり、開発がうまくいくとも限らない。
いくつもの新商品のうち、当たるのはごくわずか。

しかし皮肉なことに、OEM中心の仕事とともに業界が衰退している状況があるようです。
それは、業界にイノベーション(技術革新)が起こらないからなのだと思います。
何十年も前のまま、前進しない製造業があるとすれば、今まさに前進し続ける海外の製品との差別化が難しくなってきているのでしょう。

そしてこれはOEMという話に限ったことではないと思います。
製造業においてはOEMというのはわかりやすい構図ですが、サービス業などにおいても全く同じじゃないでしょうか。
5年前、10年前、20年前、30年前・・・
その時の仕事と、今の仕事、大きく変わっていない業種があるとしたら、それはそろそろ大きな変化が起こるころだと思います。
言われたことを言われただけやるというのは、会社の安定につながるかもしれません。
しかし、その安定は、新たな価値を生み出していない、ということにも結び付きがちです。
そのことが、業界全体の推進力を奪っていってるのかもしれないな。
Aさんの話を聞いて、そんなことを感じてしまうのです。

業界に認められたAさん

最終的に、当初は業界からはじかれたAさんは、業界団体の面々から認められ始めたようです。
当初は、業界を破壊し、自分たちの仕事を奪う破壊者に見えたAさんも、その努力が認められ、業界を再興する注目の人物という認識がなされ始めているようです。
きっと、Aさんは業界のみならず、日本を引っ張っていくひとりとなるのではないかと思います。

すべてがこのようにうまくいくかどうかはわかりませんが、古い業界には古いビジネスモデルがあります。
それはこれまでの業界を引き上げる原動力だったのですが、だんだんと時代に合わなくなってきている可能性は高いと思います。
しかし、コアとなる技術や能力そのものが、使い物にならないものとは言い切れないと思います。
考えようによっては、それらに新しい価値観を加えるだけで、業界に新たな風を巻き起こすことができる可能性もあるのかもしれません。
もちろん、口で言うほど楽なことではないのはご想像の通り。

伸びてる業界は、すぐにライバルが増えて価格競争に陥ります。
頭のいい人が次々とやってきて、様々なアイデアを戦わせています。
しかし、価格競争をやりつくし、だれも見向きもしなくなった業界では、少し新しいことをやれば十分差別化ができる可能性がありそうです。
私は、Aさんの話を聞いて、そんなことを感じさせられました。

斜陽産業と言われる業界こそが面白いのかもしれません。

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